喜び勇んで我先にと部屋を飛び出していく家臣達に取り残されるような形で、
今やだだっ広い部屋には俺と毛利の二人だけ…。
ようやく解放された俺は胡坐を崩して足を伸ばすと、隣に座った毛利を感服の眼差しで見つめる。
今やだだっ広い部屋には俺と毛利の二人だけ…。
ようやく解放された俺は胡坐を崩して足を伸ばすと、隣に座った毛利を感服の眼差しで見つめる。
「なぁ、やっぱアンタ凄ぇな」
「あの程度の揉め事など、我は幾度と無く乗り越えたわ。
それに我はただ貴様の策を実践したまでの事ぞ」
それに我はただ貴様の策を実践したまでの事ぞ」
「…俺の…策……?」
「貴様以前申したであろう、『二人で無理なら、皆の力を借りれば良い』と…」
「っ、ちょっと待て!!?? それ策じゃねぇよっ!!!!!」
慌てふためく俺を見て、してやったりと毛利が少しだけ微笑んだ。
その顔を見て、ようやくからかわれたのだと気づいた俺も可笑しくなって笑っちまう。
その顔を見て、ようやくからかわれたのだと気づいた俺も可笑しくなって笑っちまう。
「…でも、アンタ随分変わったよな」
「…………?」
「なんつーかその…以前よか、色んな顔するようになった」
「それはただ貴様が我の顔を見慣れ、ゆえに我の感情を察する事にも長けてきただけであろう。
しかも、変わった…と言えば貴様もぞ」
しかも、変わった…と言えば貴様もぞ」
「…そうか? 俺は別に…」
「幾分か冷静になり、少しは人の話にも耳を傾けるようになった」
「あぁ…そりゃあすぐ頭に血が昇っちまってたら、アンタと上手くやってけねぇからな」
二人で笑い、そして思わず零れた言葉に顔を見合わせまた笑う。
いつの間にかどちらからともなく繋がれた手のぬくもりが、この上なく心地よい。
ああ…いっその事このまま毛利を抱きしめちまって、これこれこう…と行きてぇ所なんだが、
なんせおてんと様が見てる間の情事はご法度中のご法度なんで、断腸の思いで自重する。
まぁその分、今夜は…。
だが心ん中が甘酸っぱい気持ちで満たされた俺を尻目に、毛利はすっと立ち上がる。
いつの間にかどちらからともなく繋がれた手のぬくもりが、この上なく心地よい。
ああ…いっその事このまま毛利を抱きしめちまって、これこれこう…と行きてぇ所なんだが、
なんせおてんと様が見てる間の情事はご法度中のご法度なんで、断腸の思いで自重する。
まぁその分、今夜は…。
だが心ん中が甘酸っぱい気持ちで満たされた俺を尻目に、毛利はすっと立ち上がる。
「では、我はそろそろ出かける」
「あぁ、そう言やぁさっき、出航の準備がどうのって言ってたよな。
もちろん俺も連れてってくれるんだろ?」
もちろん俺も連れてってくれるんだろ?」
「貴様は留守番ぞ。
ザビー様からお声がかかったので、久方ぶりにザビー城に行く事になった」
ザビー様からお声がかかったので、久方ぶりにザビー城に行く事になった」
「はぁっ!?? あっ…アンタ、まだザビー教に…?」
「当たり前であろう。
たとえザビー様が我の事を愛していまいが、ザビー教の素晴らしさには一遍の曇りも無い」
たとえザビー様が我の事を愛していまいが、ザビー教の素晴らしさには一遍の曇りも無い」
当然のように言い放ち、あまりに突然の事態に呆然とする俺を尻目に毛利は部屋を出ようとする。
俺は慌てて、目前で揺れた毛利の狩衣の裾を掴んだ。
俺は慌てて、目前で揺れた毛利の狩衣の裾を掴んだ。
「ちょっ、ちょっと待てよっ!!」
「黙れ長曾我部。
そもそもこうして我らが幸福な時間を享受出来るのも、全てはザビー様のおかげぞ」
そもそもこうして我らが幸福な時間を享受出来るのも、全てはザビー様のおかげぞ」
「………は?」
「貴様がザビー様の教えにより愛に目覚め、
その貴様が身をもってして我に愛を伝道したからこそであろう」
その貴様が身をもってして我に愛を伝道したからこそであろう」
「や……そう言われて、よくよく考えてみりゃ…確かにそれも一理有る…のか????
…だっ…だがなぁっ!!!」
…だっ…だがなぁっ!!!」
声を荒げた俺を見降ろし、毛利はふと表情を曇らせた。
そんな毛利の悲しげな顔にめっぽう弱い俺は、それ以上二の句が継げずに思わず口をつぐむ。
そんな毛利の悲しげな顔にめっぽう弱い俺は、それ以上二の句が継げずに思わず口をつぐむ。
「そうか………将来の伴侶が信じる物を、貴様は信じられぬと申すか…」
将来の…伴侶………?
その甘美な言葉の響きを前に、俺はあっけない程あっけなく陥落した。
その甘美な言葉の響きを前に、俺はあっけない程あっけなく陥落した。
「そっ!!そんな事ねぇよ!うんザビー教最高だよなっ!!特に『ザビー教教義第五十三節:
骨の髄まで冷え切ったタマネギ野郎は、ブッた斬っても涙が出ない』とか超痺れるぜ!」
骨の髄まで冷え切ったタマネギ野郎は、ブッた斬っても涙が出ない』とか超痺れるぜ!」
「………まことか…?
実は我も常日頃ザビー教教義第五十三節の奥深さには心底敬服していたのだ。
…気が会うな、長曾我部よ」
実は我も常日頃ザビー教教義第五十三節の奥深さには心底敬服していたのだ。
…気が会うな、長曾我部よ」
こうして俺は突如として瞳をきらきら輝かせた毛利と、苦し紛れについ口から出ちまった
ザビー教教義第五十三節ついて延々と語り合う羽目になった。
だが毛利のこんなにも嬉しそうな顔が見れるなら、告白の返事を待っていた時に
あのクソ面白くも何ともねぇ布教頁を延々と見続けて、不本意ながらザビー教教義が
全節頭に叩き込まれちまった甲斐も有ったってもんよ。
つまりたとえあのエセ教祖の胡散臭ぇ教義だろうと、この世に無駄なもんは何一つねぇ…。
こんな風に、俺は毛利とのふれあいによって今日もまた一つ新たな発見を得た。
ザビー教教義第五十三節ついて延々と語り合う羽目になった。
だが毛利のこんなにも嬉しそうな顔が見れるなら、告白の返事を待っていた時に
あのクソ面白くも何ともねぇ布教頁を延々と見続けて、不本意ながらザビー教教義が
全節頭に叩き込まれちまった甲斐も有ったってもんよ。
つまりたとえあのエセ教祖の胡散臭ぇ教義だろうと、この世に無駄なもんは何一つねぇ…。
こんな風に、俺は毛利とのふれあいによって今日もまた一つ新たな発見を得た。