「真田幸村が婿取りしたァ?」
杯を傾けつつ、素っ頓狂な声を上げた主に、そのようですなと呟いて、小十郎は
持っていた文を差し出した。
奥州の冬は早い。暦の上ではまだ晩秋だが、ここ米沢城は、門も城壁も政宗自慢の庭も、
すっかり見事な雪化粧を施されていた。
自然の造詣を残しつつ、計算しつくされた美に整えられた庭先で、舞い散る雪花を
眺めながら酒を飲むのは、政宗の冬の楽しみの一つだ。今日も今日とて雪見酒を
洒落込む優雅な午後のひと時に、もたらされたその報告は、何故か奥羽の竜を
ひどく不機嫌にさせていた。
「婚礼にはまだ間があるようですが。武田屋敷に放った間者からそういう報告が」
「really?あの暑苦しいのが?婿取り?嫁取りじゃなくてか?」
「政宗様、あいつは一応女です」
「んなこたわかってる」
Jokeに決まってんだろ、と不機嫌に鼻を鳴らし、また庭へと向き直る。
杯に触れた口元から、妙に低いうなり声が漏れた。
「……勝負だなんだとうるさく絡んで、人をExcitさせといて、勝手に婿取りだ?
ふざけんのも大概にしやがれあの小娘。だいたいあんなのが人妻なんてJokeにしても性質が……」
ぶつぶつと呟きながら徳利を掴み、手酌で注いでは杯を空けていく。
先ほどよりずっと早い調子で繰り返されるその動作に、背後に控えたまま小十郎はそっと
肩をすくめた。
杯を傾けつつ、素っ頓狂な声を上げた主に、そのようですなと呟いて、小十郎は
持っていた文を差し出した。
奥州の冬は早い。暦の上ではまだ晩秋だが、ここ米沢城は、門も城壁も政宗自慢の庭も、
すっかり見事な雪化粧を施されていた。
自然の造詣を残しつつ、計算しつくされた美に整えられた庭先で、舞い散る雪花を
眺めながら酒を飲むのは、政宗の冬の楽しみの一つだ。今日も今日とて雪見酒を
洒落込む優雅な午後のひと時に、もたらされたその報告は、何故か奥羽の竜を
ひどく不機嫌にさせていた。
「婚礼にはまだ間があるようですが。武田屋敷に放った間者からそういう報告が」
「really?あの暑苦しいのが?婿取り?嫁取りじゃなくてか?」
「政宗様、あいつは一応女です」
「んなこたわかってる」
Jokeに決まってんだろ、と不機嫌に鼻を鳴らし、また庭へと向き直る。
杯に触れた口元から、妙に低いうなり声が漏れた。
「……勝負だなんだとうるさく絡んで、人をExcitさせといて、勝手に婿取りだ?
ふざけんのも大概にしやがれあの小娘。だいたいあんなのが人妻なんてJokeにしても性質が……」
ぶつぶつと呟きながら徳利を掴み、手酌で注いでは杯を空けていく。
先ほどよりずっと早い調子で繰り返されるその動作に、背後に控えたまま小十郎はそっと
肩をすくめた。
徳利の傍ら、朱塗りの膳に並ぶは、膾に干し魚、焼き蟹と、味噌田楽。
背後の火鉢には、灰の中で膨らみかけた餅。
今朝から煮込んだ、政宗の大好物の大根の煮物も、暖かな湯気を上げながら
鍋ごと鎮座している。
背後の火鉢には、灰の中で膨らみかけた餅。
今朝から煮込んだ、政宗の大好物の大根の煮物も、暖かな湯気を上げながら
鍋ごと鎮座している。
文を投げ出し、愛用の段平をつかむ。
粉雪の吹き込む桟敷に座り込んだ主の隣に、小十郎はゆっくりと腰を下ろした。
「今日はなにやら、随分ご機嫌斜めですな」
控えめながら遠慮のないその物言いに、隻眼がじろりと隣を睨みつけた。
鍋から煮物を取り分ける小十郎は、静かに目を伏せたままだ。
その手元をまた睨み、政宗はふんと鼻を鳴らして目線を戻した。
「AH?なぁんの話だ?」
「杯が少々、過ぎるかと。そんな勢いではまた、日暮れの前に布団行きですぞ」
「いちいちうるっせえよ。大きなお世話だ」
「やれやれ。まるで自棄酒ですな」
いらうような、それでいて慰めるようなその言葉に、細くなった隻眼が、再び隣を振り返る。
だがそこには、怒りではなく大きな困惑と不審が浮かんでいた。
「……は?なんで俺が、自棄酒なんかしなきゃならねえんだ」
「ははは。ですが今の政宗様のご様子、まるで振られ男のような……」
粉雪の吹き込む桟敷に座り込んだ主の隣に、小十郎はゆっくりと腰を下ろした。
「今日はなにやら、随分ご機嫌斜めですな」
控えめながら遠慮のないその物言いに、隻眼がじろりと隣を睨みつけた。
鍋から煮物を取り分ける小十郎は、静かに目を伏せたままだ。
その手元をまた睨み、政宗はふんと鼻を鳴らして目線を戻した。
「AH?なぁんの話だ?」
「杯が少々、過ぎるかと。そんな勢いではまた、日暮れの前に布団行きですぞ」
「いちいちうるっせえよ。大きなお世話だ」
「やれやれ。まるで自棄酒ですな」
いらうような、それでいて慰めるようなその言葉に、細くなった隻眼が、再び隣を振り返る。
だがそこには、怒りではなく大きな困惑と不審が浮かんでいた。
「……は?なんで俺が、自棄酒なんかしなきゃならねえんだ」
「ははは。ですが今の政宗様のご様子、まるで振られ男のような……」
肴代わりの漬物に、粉雪が降り積もる。
煮物を盛った小皿を掲げたまましばし主を見つめ、やがて小十郎は、細く鋭い目を
ほんの少しだけ、見開いた。
煮物を盛った小皿を掲げたまましばし主を見つめ、やがて小十郎は、細く鋭い目を
ほんの少しだけ、見開いた。
「……ああ。そういえば政宗様は、女性であられましたな」
雪花に乱れる髪が不審そうに傾いた。隻眼がさらに細くなり、忠臣を見つめる。
だが次の瞬間、あっと小さな声とともに、それは慌てたように数回瞬いた。
「……it's natural!当たり前だろ!hey小十郎!てめえまた忘れてやがったな!」
ことさら大げさに声を張り上げ、杯を振り回して自分をなじる主を見つめ、
小十郎の肩が、呆れたように下がった。
「お言葉ですがそういう政宗様こそ、今の今までお忘れでしたな?」
「バ……自分のSEX忘れるやつがどこにいる?俺は女だ、決まってんだろ!」
言葉の勢いに反して、逸らされる目の動きはわざとらしく、徳利から酒を注ぐ動作も
ぎこちない。
煮物の皿を手前に置き、今度はカニの身をほじりながら、小十郎はやれやれと小さな
ため息をついた。
北部戦線異状なし2
だが次の瞬間、あっと小さな声とともに、それは慌てたように数回瞬いた。
「……it's natural!当たり前だろ!hey小十郎!てめえまた忘れてやがったな!」
ことさら大げさに声を張り上げ、杯を振り回して自分をなじる主を見つめ、
小十郎の肩が、呆れたように下がった。
「お言葉ですがそういう政宗様こそ、今の今までお忘れでしたな?」
「バ……自分のSEX忘れるやつがどこにいる?俺は女だ、決まってんだろ!」
言葉の勢いに反して、逸らされる目の動きはわざとらしく、徳利から酒を注ぐ動作も
ぎこちない。
煮物の皿を手前に置き、今度はカニの身をほじりながら、小十郎はやれやれと小さな
ため息をついた。
北部戦線異状なし2