奥州に双竜あり。
微かな草擦れの音を立てて、猿飛佐助は森を駆けていた。
いつもの忍び装束ではないため動きづらく、しかも汚れが目立ってしまうが、それは気にしない。
恐らくこれから訪ねる相手も気にしない、と思う。
木々の間から奥州筆頭の住まう城が見えてくる。
このまま進めば城の裏手に出る事になる。
常の偵察や主の個人的な用事とは違い今日は武田からの正式な使いで来たのだから正門から入れるのだが。
(それじゃ、つまらないじゃない)
かさり、胸元に入れた文の感触に佐助は笑った。
わざわざ奥州まで駆けてきたのだ、それなりの報酬というものが欲しいじゃないか。
森の出口、光が射す場所へと身軽に飛び出し。
「うわっ…と…!!」
ちり、と頬に微かな痛みが走る。
咄嗟に横に飛んだおかげで被害はそれだけだったが、佐助の顔に浮かぶのは満面の笑みだった。
「ちっ…外したか」
「ちょっとちょっといきなり酷くなーい?」
先ほどまで自分の頭があった場所を凄まじい勢いで貫いた葱をつつきながら佐助は抗議した。
木の幹に深々と突き立つ立派な長葱に、葱って刺さるんだなあと奇妙な感慨にふける。
そんな佐助の目の前で土に汚れた腕が無造作に葱を木から引き抜いた。
「やあ、片倉さんこんにちは」
奥州に双竜あり。
戦国の世に名高い双竜の片割れは、子供が泣き叫びそうな凄まじい視線で佐助を睨んでいる。
手にしているのは葱だが。
そんな相手を上から下まで舐めるように見回して、佐助はしみじみと言った。
「ほんといい女だねぇ」
「死ね」
いっそ清々しいほど主以外への態度が違うのが片倉小十郎という女だ。
すらりとした長身で、佐助よりも背が高い。
いい女、という佐助の感想通り、涼やかな切れ長の瞳、頬に走る傷さえも飾りとなる『男前』な顔立ちだ。
きつく髪を後ろで結い上げ、後れ毛が実に艶めかしい。
いつもの忍び装束ではないため動きづらく、しかも汚れが目立ってしまうが、それは気にしない。
恐らくこれから訪ねる相手も気にしない、と思う。
木々の間から奥州筆頭の住まう城が見えてくる。
このまま進めば城の裏手に出る事になる。
常の偵察や主の個人的な用事とは違い今日は武田からの正式な使いで来たのだから正門から入れるのだが。
(それじゃ、つまらないじゃない)
かさり、胸元に入れた文の感触に佐助は笑った。
わざわざ奥州まで駆けてきたのだ、それなりの報酬というものが欲しいじゃないか。
森の出口、光が射す場所へと身軽に飛び出し。
「うわっ…と…!!」
ちり、と頬に微かな痛みが走る。
咄嗟に横に飛んだおかげで被害はそれだけだったが、佐助の顔に浮かぶのは満面の笑みだった。
「ちっ…外したか」
「ちょっとちょっといきなり酷くなーい?」
先ほどまで自分の頭があった場所を凄まじい勢いで貫いた葱をつつきながら佐助は抗議した。
木の幹に深々と突き立つ立派な長葱に、葱って刺さるんだなあと奇妙な感慨にふける。
そんな佐助の目の前で土に汚れた腕が無造作に葱を木から引き抜いた。
「やあ、片倉さんこんにちは」
奥州に双竜あり。
戦国の世に名高い双竜の片割れは、子供が泣き叫びそうな凄まじい視線で佐助を睨んでいる。
手にしているのは葱だが。
そんな相手を上から下まで舐めるように見回して、佐助はしみじみと言った。
「ほんといい女だねぇ」
「死ね」
いっそ清々しいほど主以外への態度が違うのが片倉小十郎という女だ。
すらりとした長身で、佐助よりも背が高い。
いい女、という佐助の感想通り、涼やかな切れ長の瞳、頬に走る傷さえも飾りとなる『男前』な顔立ちだ。
きつく髪を後ろで結い上げ、後れ毛が実に艶めかしい。




