昔から、母親によく注意された。よくないことは言ってはいけない。言えば本当になってしまうから、と。
佐助も同じ事を言った。
――言葉には魂があるから、悪い言葉には悪い魂がついてしまう。だから、
いいことばかり言うようにしないとね。俺様? 俺様が言うのは事実だもん。
悪いこともなんにもないよ。そのままの魂がつくだけだよ。
「食えばよい。粥でも、木の実でも、肉でも、なんでも食われればよい」
「馬を食えってか? できるかよ」
「ならば、俺を食え」
「HA! お前なんか食ったって、筋ばっかだろうが。それに、お前が死ぬだろ」
「構わない」
体の間に腕が入った。突き飛ばされる。藁くずが舞う。馬の臭いが濃いものになる。
「何……何言ってやがる! お前は、なんにも悪いところなんかないだろ!?」
「政宗殿がいない世など、未練はない」
「上田はどうすんだよ。武田は。甲斐は!」
「政宗殿も同じであろう!」
喉が裂けるのを感じた。政宗が息を飲む。一度咳き込んで喉の中の血をやり過ごす。
「伊達と武田の血を引いた御子を、お産みになられるのではないのか。
その子に、奥州を任せるのであろう!」
政宗は顔を伏せた。雫が床に染みを作った。
どおどおと雨が勢いを増す。誰も来ない。この雨では、誰も動けないのだろう。
緩く首を振った。
「生きてくだされ」
「……もう、無理だ」
「それでも、生きてくだされ」
「嫌だ。もう、戻りたくない。信玄になんか、抱かれたくない」
「政宗殿」
政宗は膝を立て、自分の体を抱きしめた。痛ましいほど細い体。どうやって上田まで
歩いてきたのだろう。足はぼろぼろだった。また歩けるようになるのは、いつになるだろう。
「……奥州は、小十郎が武田の家中としてうまく治めてる。俺の子供なんかいらねぇよ。
子を孕んで、産んで、元服するまで何年かかると思ってるんだよ」
「伊達の家はどうされるおつもりか」
ゆっくりと近づいた。髪をかき上げてやると、政宗は幸村の胸に顔を寄せた。
上に何もつけていないことを今更思い出した。
「……もう、滅んだ。俺が滅ぼした。側室に入ったって、復活させたって、それは奥州の名門じゃねぇ」
髪を何度も梳いた。
濡れて、黒々と輝いた髪。病み衰えても、髪の美しさだけは損なわれない。それは、
蝋燭が最後に強く輝くのを連想させる。
「政宗殿。それがしには兄がおります。真田の家は、それがしが継いだわけではありませぬ」
「……上田は」
「先祖に謝ればよいのです」
政宗は目を見張った。ぱちぱちと何度も瞬き、手を持ち上げて幸村の頬を挟んだ。
「お前、何言ってるか分かってんのか?」
「真田家中は、武田が保護するでしょう。佐助は里に帰れば、別の仕事を請けます」
「俺は、永くないぜ?」
「最期の瞬間まで、生きてくだされ」
政宗は笑った。大輪の花のように艶やかで華やかだと思った。
「西に、行こう。……近江……京……堺もいいな」
「それがしが養います。政宗殿は、体を休めればよい」
「どうやって稼ぐんだよ」
「体は頑丈にござる。なんでもできます」
「rope作ればいいだろ。それなら、俺でもできる」
政宗はくすくす笑って幸村に体を預けた。何度か赴いた堺の町を思い出しながら、
ぽつぽつと語る。夜が更ける頃には、十年後の暮らし向きまで計画できた。
佐助も同じ事を言った。
――言葉には魂があるから、悪い言葉には悪い魂がついてしまう。だから、
いいことばかり言うようにしないとね。俺様? 俺様が言うのは事実だもん。
悪いこともなんにもないよ。そのままの魂がつくだけだよ。
「食えばよい。粥でも、木の実でも、肉でも、なんでも食われればよい」
「馬を食えってか? できるかよ」
「ならば、俺を食え」
「HA! お前なんか食ったって、筋ばっかだろうが。それに、お前が死ぬだろ」
「構わない」
体の間に腕が入った。突き飛ばされる。藁くずが舞う。馬の臭いが濃いものになる。
「何……何言ってやがる! お前は、なんにも悪いところなんかないだろ!?」
「政宗殿がいない世など、未練はない」
「上田はどうすんだよ。武田は。甲斐は!」
「政宗殿も同じであろう!」
喉が裂けるのを感じた。政宗が息を飲む。一度咳き込んで喉の中の血をやり過ごす。
「伊達と武田の血を引いた御子を、お産みになられるのではないのか。
その子に、奥州を任せるのであろう!」
政宗は顔を伏せた。雫が床に染みを作った。
どおどおと雨が勢いを増す。誰も来ない。この雨では、誰も動けないのだろう。
緩く首を振った。
「生きてくだされ」
「……もう、無理だ」
「それでも、生きてくだされ」
「嫌だ。もう、戻りたくない。信玄になんか、抱かれたくない」
「政宗殿」
政宗は膝を立て、自分の体を抱きしめた。痛ましいほど細い体。どうやって上田まで
歩いてきたのだろう。足はぼろぼろだった。また歩けるようになるのは、いつになるだろう。
「……奥州は、小十郎が武田の家中としてうまく治めてる。俺の子供なんかいらねぇよ。
子を孕んで、産んで、元服するまで何年かかると思ってるんだよ」
「伊達の家はどうされるおつもりか」
ゆっくりと近づいた。髪をかき上げてやると、政宗は幸村の胸に顔を寄せた。
上に何もつけていないことを今更思い出した。
「……もう、滅んだ。俺が滅ぼした。側室に入ったって、復活させたって、それは奥州の名門じゃねぇ」
髪を何度も梳いた。
濡れて、黒々と輝いた髪。病み衰えても、髪の美しさだけは損なわれない。それは、
蝋燭が最後に強く輝くのを連想させる。
「政宗殿。それがしには兄がおります。真田の家は、それがしが継いだわけではありませぬ」
「……上田は」
「先祖に謝ればよいのです」
政宗は目を見張った。ぱちぱちと何度も瞬き、手を持ち上げて幸村の頬を挟んだ。
「お前、何言ってるか分かってんのか?」
「真田家中は、武田が保護するでしょう。佐助は里に帰れば、別の仕事を請けます」
「俺は、永くないぜ?」
「最期の瞬間まで、生きてくだされ」
政宗は笑った。大輪の花のように艶やかで華やかだと思った。
「西に、行こう。……近江……京……堺もいいな」
「それがしが養います。政宗殿は、体を休めればよい」
「どうやって稼ぐんだよ」
「体は頑丈にござる。なんでもできます」
「rope作ればいいだろ。それなら、俺でもできる」
政宗はくすくす笑って幸村に体を預けた。何度か赴いた堺の町を思い出しながら、
ぽつぽつと語る。夜が更ける頃には、十年後の暮らし向きまで計画できた。




