朝を待って、幸村は政宗を城に迎えた。佐助は何も言わなかった。
政宗は熱を出し、生死の境を十日ほど彷徨った。その間に、幸村は甲府に使いを出し、
政宗の無事を伝え、動けぬことも伝えたという。
「shit……小十郎にだって、見せたことねぇのに……」
「はい?」
幸村はのん気そうな返事をすると、大根の入った粥を政宗の枕元に置いた。
城の離れで、政宗は養生をしていた。幸村は、離れには自分以外の人は近づかないように
取り計らい、政宗の身の回りのことは幸村が一手に引き受けていた。
まさか料理も、と青ざめたが、幸村が持ってくる粥は佐助が作ったものだという。
それなら安心だというと、幸村はむすっと膨れた。
体を起こし、椀を受けとる。腕の力も大分戻った。二月も世話になったら、当然か。
「夫以外の人の前で横になるな、って言われて育ったんだよ俺は」
「ほう」
「あーくそ……戦場で横になったこともねぇし、小十郎にだって、十二になってからは
夜着すら見せたことねぇんだよ」
「左様にござるか。しかし、休まねば養生の意味はありませぬ」
座ってうとうとしていたら褥の上に運ばれてしまう、ということを何度もやって諦めた。
奥州にいた頃は、どんな高熱でも絶対に横にならず、柱や脇息にもたれて話を聞いた。
途中で何度も意識を飛ばしたが、横になりたくない、という信念だけでなんとかやり過ごしていた。
病など得たくないものだ、としみじみしながら粥を啜る。最初に出されたものと比べると、
味も硬さも大分しっかりしてきた。
ゆっくりと冷まし、少しずつ頬張った。幸村は政宗が粥を食べる様子を静かに見つめる。
どこかで鳥が鳴く。もう春が近い。
政宗は椀を置いた。懐紙で口許を拭き、幸村から白湯を貰う。
「……幸村。お館様は、なんて言ってる」
「何も」
「何も?」
「伝えておりませぬゆえ、何かを仰るはずはない」
「……お前、正気か」
「正気にござる。――西に、向かうのでしょう?」
「あんなの、jokeに決まってるだろ! 俺はもう大丈夫だ。躑躅が崎に戻る」
幸村は首を振った。腕を伸ばして抱きしめてくる。
――もう、戻れない。
ただ想っていた頃と違う。互いの肌の温もりを知ってしまった。髪の感触を覚えてしまった。
もっと、と緩やかに死に向かう体が、幸村を求めている。
よくない熱が、体の中に溜まっている。明日明後日に息絶えることはないだろうが、
このまま昔のような体に戻るとは思えない。
一年か、二年。もう少しくらいは持つだろうか。
「離さぬ」
「――ばか」
「はい、幸村はばかにござる。奥州より、上田より、お館様より、政宗殿の方が大事でござる」
「ばかだ。ほんとに……ばかだ……」
背に手を回した。目を閉じて涙を落とす。
弱っている。大したことでもないのに、涙が零れ落ちる。
頭を撫でられ、幸村の手に頭を預ける。見詰め合うとおかしくて、くすくす笑い合った。
まだ下手な鶯の鳴き声がする。桃はどうだろう。もう少し先だろうか。
ゆるりと時が流れる。顔を近づけ、どちらからともなく唇を合わせる。
触れ合うだけの口付けでは足りないと、幸村は政宗の頭を抑え込んで唇を割ってきた。
舌を奪われ、たちまち息が上がる。
「―――はっ……」
頭がくらくらする。ぼんやりと幸村を見上げると、幸村は政宗の目尻を擦り、
そっと口付けを落としてきた。
じくじくと、熱が上がる。体内に残る熱とは違う。
震える唇に、幸村がまた唇を落とした。今度は積極的に応える。背に回した手に力を入れる。
ゆっくりと褥に身を横たえた。幸村は政宗の首筋に顔を埋め、懐に手を入れた。
痩せて骨の浮いた体に、幸村の手を感じる。静脈の浮いた胸の膨らみに手を置かれ、政宗は甘く啼く。
政宗は熱を出し、生死の境を十日ほど彷徨った。その間に、幸村は甲府に使いを出し、
政宗の無事を伝え、動けぬことも伝えたという。
「shit……小十郎にだって、見せたことねぇのに……」
「はい?」
幸村はのん気そうな返事をすると、大根の入った粥を政宗の枕元に置いた。
城の離れで、政宗は養生をしていた。幸村は、離れには自分以外の人は近づかないように
取り計らい、政宗の身の回りのことは幸村が一手に引き受けていた。
まさか料理も、と青ざめたが、幸村が持ってくる粥は佐助が作ったものだという。
それなら安心だというと、幸村はむすっと膨れた。
体を起こし、椀を受けとる。腕の力も大分戻った。二月も世話になったら、当然か。
「夫以外の人の前で横になるな、って言われて育ったんだよ俺は」
「ほう」
「あーくそ……戦場で横になったこともねぇし、小十郎にだって、十二になってからは
夜着すら見せたことねぇんだよ」
「左様にござるか。しかし、休まねば養生の意味はありませぬ」
座ってうとうとしていたら褥の上に運ばれてしまう、ということを何度もやって諦めた。
奥州にいた頃は、どんな高熱でも絶対に横にならず、柱や脇息にもたれて話を聞いた。
途中で何度も意識を飛ばしたが、横になりたくない、という信念だけでなんとかやり過ごしていた。
病など得たくないものだ、としみじみしながら粥を啜る。最初に出されたものと比べると、
味も硬さも大分しっかりしてきた。
ゆっくりと冷まし、少しずつ頬張った。幸村は政宗が粥を食べる様子を静かに見つめる。
どこかで鳥が鳴く。もう春が近い。
政宗は椀を置いた。懐紙で口許を拭き、幸村から白湯を貰う。
「……幸村。お館様は、なんて言ってる」
「何も」
「何も?」
「伝えておりませぬゆえ、何かを仰るはずはない」
「……お前、正気か」
「正気にござる。――西に、向かうのでしょう?」
「あんなの、jokeに決まってるだろ! 俺はもう大丈夫だ。躑躅が崎に戻る」
幸村は首を振った。腕を伸ばして抱きしめてくる。
――もう、戻れない。
ただ想っていた頃と違う。互いの肌の温もりを知ってしまった。髪の感触を覚えてしまった。
もっと、と緩やかに死に向かう体が、幸村を求めている。
よくない熱が、体の中に溜まっている。明日明後日に息絶えることはないだろうが、
このまま昔のような体に戻るとは思えない。
一年か、二年。もう少しくらいは持つだろうか。
「離さぬ」
「――ばか」
「はい、幸村はばかにござる。奥州より、上田より、お館様より、政宗殿の方が大事でござる」
「ばかだ。ほんとに……ばかだ……」
背に手を回した。目を閉じて涙を落とす。
弱っている。大したことでもないのに、涙が零れ落ちる。
頭を撫でられ、幸村の手に頭を預ける。見詰め合うとおかしくて、くすくす笑い合った。
まだ下手な鶯の鳴き声がする。桃はどうだろう。もう少し先だろうか。
ゆるりと時が流れる。顔を近づけ、どちらからともなく唇を合わせる。
触れ合うだけの口付けでは足りないと、幸村は政宗の頭を抑え込んで唇を割ってきた。
舌を奪われ、たちまち息が上がる。
「―――はっ……」
頭がくらくらする。ぼんやりと幸村を見上げると、幸村は政宗の目尻を擦り、
そっと口付けを落としてきた。
じくじくと、熱が上がる。体内に残る熱とは違う。
震える唇に、幸村がまた唇を落とした。今度は積極的に応える。背に回した手に力を入れる。
ゆっくりと褥に身を横たえた。幸村は政宗の首筋に顔を埋め、懐に手を入れた。
痩せて骨の浮いた体に、幸村の手を感じる。静脈の浮いた胸の膨らみに手を置かれ、政宗は甘く啼く。




