無駄だとは思ったが、小太郎に問いかけた。
「…何故わしを助けた?」
「………」
やはり返事がない。
今度は何かの薬でも調合しているのだろうか、黙々とすりこぎで何かを潰している。
今度は何かの薬でも調合しているのだろうか、黙々とすりこぎで何かを潰している。
「…竹中半兵衛は、生きておるのか?」
今度は、頭をふるふると横に振った。
「お前が殺したのか?」
小太郎が、こくりと頷く。
「そうか…あの状況でも大将首を取って見せるとは…。お前は本当に優秀な忍じゃのう。」
「…わしとは大違いじゃ。」
小太郎の動作がぴたりと止まる。
…とても小さな声でポツリとつぶやいたつもりだったが、小太郎にはしっかりと聞こえていたようだった。
小太郎は、北条家の切り札だった。
他の追随も許さぬほどの力を発揮し、幾度となく北条家の窮地を救ってきた。
そんな小太郎を頼もしく思う反面、己の無力さ・脆弱さをまざまざと見せ付けられている気がして、苦しくもあった。
他の追随も許さぬほどの力を発揮し、幾度となく北条家の窮地を救ってきた。
そんな小太郎を頼もしく思う反面、己の無力さ・脆弱さをまざまざと見せ付けられている気がして、苦しくもあった。
わしには将器などない。力もない。……何もない…。
そもそも、わしが竹中半兵衛に止めを刺されなかったのも、寸での所で小太郎がわしの盾となってくれたからだ。
その時、あの鞭のような奇妙な剣で小太郎の鉢金が砕かれるのを確かに見た。
その時、あの鞭のような奇妙な剣で小太郎の鉢金が砕かれるのを確かに見た。
…ああ、素顔のままでいるのはそれでか。
断片的にだが、意識を手放す前の記憶が少しずつ思い出されてきた。
断片的にだが、意識を手放す前の記憶が少しずつ思い出されてきた。
氏政は、布団から起き上がり居住まいを正して、なるべく平静を保ちながら小太郎に告げた。
「どういう理由でお前がわしを生かしているのかわからんが…もうわしはお前の主ではない。…わしを殺して、何処へなりとも行くがいい。」
小太郎が、己の姿を知る雇い主以外の人間を須らく抹殺してきたのは知っていた。
氏政はそれを承知で雇い入れた。「伝説の忍」を雇うのだから、それ位のリスクがあっても当然だと思っていた。
…それに、北条が続く限り雇い続けるつもりだったから、問題はないと思っていたのだ。
氏政はそれを承知で雇い入れた。「伝説の忍」を雇うのだから、それ位のリスクがあっても当然だと思っていた。
…それに、北条が続く限り雇い続けるつもりだったから、問題はないと思っていたのだ。
けれども、北条は潰えた。
その時には、自らの命を絶つつもりだった。
…生きながらえた所で、死ぬより辛い目に遭うだけなのは目に見えていたから。
その時には、自らの命を絶つつもりだった。
…生きながらえた所で、死ぬより辛い目に遭うだけなのは目に見えていたから。
「わしの首を討って、豊臣への侘びとするか?
いや、さような事せんでも、お前が望めば仕官先など他に幾らでもあるじゃろう。
……お前の好きにしてよいのじゃぞ。」
いや、さような事せんでも、お前が望めば仕官先など他に幾らでもあるじゃろう。
……お前の好きにしてよいのじゃぞ。」
命乞いなど、今更する気はない。
もう醜態など晒したくない。ご先祖様の様な立派な武将にはなれなかったが、せめて誇りだけでも倣おう。
最期くらいは潔くありたい。臆病で脆弱な氏政のせいいっぱいの意地だった。
…いや、結局の所はより大きな恐怖や苦痛から逃れたいだけだ。
どうしようもなく怖い。…早く、この恐怖から逃れたい。
もう醜態など晒したくない。ご先祖様の様な立派な武将にはなれなかったが、せめて誇りだけでも倣おう。
最期くらいは潔くありたい。臆病で脆弱な氏政のせいいっぱいの意地だった。
…いや、結局の所はより大きな恐怖や苦痛から逃れたいだけだ。
どうしようもなく怖い。…早く、この恐怖から逃れたい。
いつもは鉢金に隠れている小太郎の双眸が、まっすぐ氏政を見据える。
小太郎がゆっくりと氏政に近寄ってきた。
小太郎がゆっくりと氏政に近寄ってきた。
氏政は、ぎゅっと瞳を閉じた。
小太郎ならば、ひとおもいに殺してくれるだろう。
痛みも苦しみも、そうとは感じないほどの一瞬で。
痛みも苦しみも、そうとは感じないほどの一瞬で。




