今のかすがは、上杉謙信が倒れる前と同じではなかった。もっとも、戦場で遠目に姿を見たことがあっただけの幸村にはそれがどれほどの違いなのかはわからない。
だが、以前から彼女を知っていた佐助の話を聞くに、もともとあった彼女の危うさがさらに増したのは紛れもない事実のようであった。凛とした鋭さが影を潜め、水面にゆれる月のような儚さが漂っている。
それはそれで美しいが、幸村はそんな彼女を見るたびにやり場のない感情が込み上げてくるのだった。
「――以上で……」
「か、かすが殿!よろしければ、少しお時間頂戴できますか!?」
「……は?」
「先日、かすが殿が気に入られた団子、また手に入りましたゆえ、是非ご一緒に――ああ、佐助も…」
「あいつは任務中だ。ここにはいない」
「む…そうであった……。で、では、その……ふ、ふ、二人で…」
どうにも落ち着きなく、顔を赤らめる幸村を見て、かすがの表情がわずかに緩んだ。
「ああ」
短く返答すれば、子供のように顔を明るくし、それでは用意をと間もおかずに走り去っていく。まぶしい、と、ぼんやりとその背を眺めた。
だが、以前から彼女を知っていた佐助の話を聞くに、もともとあった彼女の危うさがさらに増したのは紛れもない事実のようであった。凛とした鋭さが影を潜め、水面にゆれる月のような儚さが漂っている。
それはそれで美しいが、幸村はそんな彼女を見るたびにやり場のない感情が込み上げてくるのだった。
「――以上で……」
「か、かすが殿!よろしければ、少しお時間頂戴できますか!?」
「……は?」
「先日、かすが殿が気に入られた団子、また手に入りましたゆえ、是非ご一緒に――ああ、佐助も…」
「あいつは任務中だ。ここにはいない」
「む…そうであった……。で、では、その……ふ、ふ、二人で…」
どうにも落ち着きなく、顔を赤らめる幸村を見て、かすがの表情がわずかに緩んだ。
「ああ」
短く返答すれば、子供のように顔を明るくし、それでは用意をと間もおかずに走り去っていく。まぶしい、と、ぼんやりとその背を眺めた。
「……うまい」
「某もここの団子が一番好きでござる!」
二人並んで、というには少々距離が開いているが、穏やかな日差しの中、舌鼓を打っていた。さわやかな春風が空を踊り、ツバメの影が地をよぎる。
「こうしておまえと二人で話すのは、初めてかもしれんな」
何気なくかすががそう呟くと、幸村は咽喉に団子を詰まらせそうになった。あわてて茶を流し込む。かすがは半ば呆れたように、空になった湯飲みに茶を注いでやる。
「……か、かたじけない。かすが殿は……やはり、佐助がいたほうがよかったでござるか」
「なぜ?」
「いや、その……」
「あいつがおまえに何を吹き込んでいるかは知らんが、私とあの男の間にはたいしたものなどない。今は、上司と部下。それだけだ」
「だが、佐助の奴はかすが殿のことを…」
「ここにいない奴の話など、わざわざする必要もあるまい」
これでこの話は終わりだというように、かすがは茶をすすった。これ以上話を続ければ、彼女が席を立ってしまいそうな勢いだったので、幸村は口を閉ざした。
「某もここの団子が一番好きでござる!」
二人並んで、というには少々距離が開いているが、穏やかな日差しの中、舌鼓を打っていた。さわやかな春風が空を踊り、ツバメの影が地をよぎる。
「こうしておまえと二人で話すのは、初めてかもしれんな」
何気なくかすががそう呟くと、幸村は咽喉に団子を詰まらせそうになった。あわてて茶を流し込む。かすがは半ば呆れたように、空になった湯飲みに茶を注いでやる。
「……か、かたじけない。かすが殿は……やはり、佐助がいたほうがよかったでござるか」
「なぜ?」
「いや、その……」
「あいつがおまえに何を吹き込んでいるかは知らんが、私とあの男の間にはたいしたものなどない。今は、上司と部下。それだけだ」
「だが、佐助の奴はかすが殿のことを…」
「ここにいない奴の話など、わざわざする必要もあるまい」
これでこの話は終わりだというように、かすがは茶をすすった。これ以上話を続ければ、彼女が席を立ってしまいそうな勢いだったので、幸村は口を閉ざした。