「・・・土佐の灘を知ってるか?」
腕の力を緩めぬまま、おもむろに元親が問うた。
吐息が頬を掠めるくすぐったさと、状況にそぐわないその唐突な問いにまつは少し困惑した様子で元親を目だけで見やった。
まつの挙動に気がついたかのようにゆるゆるとしろがねのこうべが持ち上がり、元親は木製の格子の嵌った窓の向こう、些か荒れた様子の海原に視線を投げた。
吐息が頬を掠めるくすぐったさと、状況にそぐわないその唐突な問いにまつは少し困惑した様子で元親を目だけで見やった。
まつの挙動に気がついたかのようにゆるゆるとしろがねのこうべが持ち上がり、元親は木製の格子の嵌った窓の向こう、些か荒れた様子の海原に視線を投げた。
「土佐の海はな、俺達人間の都合なんてお構い無しに、船も人も塵か芥みてぇに薙ぎ倒してく怖ぇ怖ぇバケモンだ。
だがな、時折気紛れに凪ぐ瞬間があって、そういう時ぁ、普段が嘘みてぇに穏やかで鏡みてぇに綺麗でな。僅かな波に揺られてる時ぁ観音様の腕の中にいるみてぇなんだぜ」
だがな、時折気紛れに凪ぐ瞬間があって、そういう時ぁ、普段が嘘みてぇに穏やかで鏡みてぇに綺麗でな。僅かな波に揺られてる時ぁ観音様の腕の中にいるみてぇなんだぜ」
故郷の海を語る低い声音は酷く優しい。
利家と似ているようで違うのは、例えばこういう時の表情だ、とまつは思う。
手の掛かる大きな子供が瞬きする間に成長を遂げ、
それまでの子供染みた挙動などまるで感じさせないような深みのあるまなざしを以って情熱を傾ける何かを語る。
文字通り子供を慈しむような心持ちで海賊達の世話をしながら、その些末な一点だけが、まつの微かなしこりとなっていた。
利家と似ているようで違うのは、例えばこういう時の表情だ、とまつは思う。
手の掛かる大きな子供が瞬きする間に成長を遂げ、
それまでの子供染みた挙動などまるで感じさせないような深みのあるまなざしを以って情熱を傾ける何かを語る。
文字通り子供を慈しむような心持ちで海賊達の世話をしながら、その些末な一点だけが、まつの微かなしこりとなっていた。