曲がりなりにも心を許し安心していた相手のほんの一瞬前との激しい落差に、身体も頭も上手くついていかない。
己を目端の利く女だと思っていた愚かしさを、まつは身をもって感じていた。
己を目端の利く女だと思っていた愚かしさを、まつは身をもって感じていた。
「駄目だろ、オレみてぇな餓鬼相手にそんなに警戒なんてしちゃあ」
先程よりも少し掠れたように聞こえる元親の声が、笑いながら見透かすようにまつの耳元をさらう。
思わず身を硬くしたまつの肩から胸の柔らかい部分に、回された腕がじわじわと力を増して食い込んだ。
ざり、と元親の腕に巻かれた蒲葡の土佐木綿が、拍子にまつの襟元の合わせにひっかかり僅かにくつろげる。
少しだけ広がった襟元から、己の身体の匂いと焚き染めた甘い香が周りに広がる位に立ち上った時、身体に更に不自然な力が入る事をまつは止められなかった。
まな板に形ばかり置いていた両の手は、使いさしの杓子を落としながら宙を彷徨う。
元親の腕を剥がそうとして中途で止まったのは、じとりと汗ばみ始めた掌で触れる事が躊躇されたからだった。
何もかもが、得意の網に絡め取られていくような錯覚。
緊張で体温が上がったのか、それとも密着するもう一つの体温に当てられたのか、まつの脇の下から肋を通って汗の雫が流れていった。
思わず身を硬くしたまつの肩から胸の柔らかい部分に、回された腕がじわじわと力を増して食い込んだ。
ざり、と元親の腕に巻かれた蒲葡の土佐木綿が、拍子にまつの襟元の合わせにひっかかり僅かにくつろげる。
少しだけ広がった襟元から、己の身体の匂いと焚き染めた甘い香が周りに広がる位に立ち上った時、身体に更に不自然な力が入る事をまつは止められなかった。
まな板に形ばかり置いていた両の手は、使いさしの杓子を落としながら宙を彷徨う。
元親の腕を剥がそうとして中途で止まったのは、じとりと汗ばみ始めた掌で触れる事が躊躇されたからだった。
何もかもが、得意の網に絡め取られていくような錯覚。
緊張で体温が上がったのか、それとも密着するもう一つの体温に当てられたのか、まつの脇の下から肋を通って汗の雫が流れていった。