「初めから好いた男と情を通じる事が出来るのであれば、あやつも幸福であろう?」
くくっと押し殺した嗤い声に、春先だというのに氷のような冷たい刃を胸元に突きつけられた気分になる。
するりと差し伸べられた元就の白い指が愛おしげに元親の頬をなぞる。
見上げてくる琥珀の瞳に魅入られたように、その場を動けずに足が竦む。
「…元親……」
耳元で囁く掠れた低めの声で消え入るように名を呼ばれた。
ぎり、と唇を噛み、篭絡されそうになっていた意識を取り戻すと、元親は彼女の肩を掴んで身を引き離した。
「そんな辛い顔して煽られても、勃つモノも勃たねえよ」
今にも泣きそうに顔を歪めて見上げてくる元就の額へと己のそれをくっつけ、じっと瞳を覗きこむ。
「……俺にとって家康は大切な友人だ」
一息ついて、元就の目をまっすぐに見詰めながら話し掛ける。
「しかし、あやつはそう思っておらぬ」
不機嫌そうな声には苛立ちが含まれていた。
「お前が気にしすぎているだけだ」
掌で元就の頬を包むようにして軽く口付けると、元親は宥めるように言った。
「…我は何も持たぬ、あやつと違うてな」
静か過ぎる声に元親は訝しげに隻眼を細めて唸る。
「お前、何言って…」
元親の手を払い、一旦伏せた顔を上げると元就は薄笑いを浮かべた。
「ふ、ふふ……やはり心など要らぬ」
「元就!」
「そうすればこれほど狂わされる事などなかったものを…ふふ……ふふふ」
感情のない嗤い声が闇に響く。
「…知らぬ、このような感情など知らぬ」
琥珀の瞳から零れる涙は白い頬を濡らし続けた。
あらゆるものがその胸の中で渦巻いているが、それを吐き出す術も分からない。
元親は天を仰ぐと溜め息をついた。
「……なんて日だよ、今日は」
女を泣かせる趣味なんぞ持っていない筈なんだが、と呟くと、華奢な体を強引に抱き寄せた。
「離せ!貴様などっ!」
元就は細い手で彼の胸板を強く叩いて抵抗するが、更に力を込めて抱きすくめる。
「…離さねえよ」
「我に構うでない」
抵抗は止めたものの、冷たい声が返ってきた。
「……泣きたいならここで泣けよ、な?」
少し腕の力を緩めると、眦を濡らす涙を掬うように口付ける。
「…今更遅いわ」
「気が済むまで付き合ってやるよ」
おそるおそる背中へと回された細い手がゆっくりとしがみ付いた。
静かに声を押し殺して泣く肩を抱いてやると、素直に身を寄せてきた。
するりと差し伸べられた元就の白い指が愛おしげに元親の頬をなぞる。
見上げてくる琥珀の瞳に魅入られたように、その場を動けずに足が竦む。
「…元親……」
耳元で囁く掠れた低めの声で消え入るように名を呼ばれた。
ぎり、と唇を噛み、篭絡されそうになっていた意識を取り戻すと、元親は彼女の肩を掴んで身を引き離した。
「そんな辛い顔して煽られても、勃つモノも勃たねえよ」
今にも泣きそうに顔を歪めて見上げてくる元就の額へと己のそれをくっつけ、じっと瞳を覗きこむ。
「……俺にとって家康は大切な友人だ」
一息ついて、元就の目をまっすぐに見詰めながら話し掛ける。
「しかし、あやつはそう思っておらぬ」
不機嫌そうな声には苛立ちが含まれていた。
「お前が気にしすぎているだけだ」
掌で元就の頬を包むようにして軽く口付けると、元親は宥めるように言った。
「…我は何も持たぬ、あやつと違うてな」
静か過ぎる声に元親は訝しげに隻眼を細めて唸る。
「お前、何言って…」
元親の手を払い、一旦伏せた顔を上げると元就は薄笑いを浮かべた。
「ふ、ふふ……やはり心など要らぬ」
「元就!」
「そうすればこれほど狂わされる事などなかったものを…ふふ……ふふふ」
感情のない嗤い声が闇に響く。
「…知らぬ、このような感情など知らぬ」
琥珀の瞳から零れる涙は白い頬を濡らし続けた。
あらゆるものがその胸の中で渦巻いているが、それを吐き出す術も分からない。
元親は天を仰ぐと溜め息をついた。
「……なんて日だよ、今日は」
女を泣かせる趣味なんぞ持っていない筈なんだが、と呟くと、華奢な体を強引に抱き寄せた。
「離せ!貴様などっ!」
元就は細い手で彼の胸板を強く叩いて抵抗するが、更に力を込めて抱きすくめる。
「…離さねえよ」
「我に構うでない」
抵抗は止めたものの、冷たい声が返ってきた。
「……泣きたいならここで泣けよ、な?」
少し腕の力を緩めると、眦を濡らす涙を掬うように口付ける。
「…今更遅いわ」
「気が済むまで付き合ってやるよ」
おそるおそる背中へと回された細い手がゆっくりとしがみ付いた。
静かに声を押し殺して泣く肩を抱いてやると、素直に身を寄せてきた。