あれから元就が泣き止むまで、元親は甲板で黙って肩を抱いていた。
さすがに長居をすればまだ寒い。
元就が小さくくしゃみをすると、彼は苦笑しながら彼女を抱え上げた。
驚いたように切れ長の瞳が見開かれたが、何も言わずに首へと腕を回して掴まると、元親の肩へと顔を埋めた。
「…もう、あんなことするんじゃねぇぞ?」
「うむ…」
お前がやると冗談にならねえからな、と苦笑する彼の声に、しおらしく答える。
「何かあったら俺に言え」
「……言えぬ」
「こら」
溜め込んで何をするか分からないのに、と元親は心の中で毒づいた。
「………どのようにそなたに伝えれば良いのか分からぬ」
不安の込められた回答は彼女の心情をそのまま表している。
「…難しく考えるなよ、素直に言えば良いんだ」
頭の良い連中は物事を難しく考えすぎるからなぁ、と軽口を叩き、元親は笑った。
「では、そなたが好きだと言うたら信じてくれるか?」
「おい…いきなり告白かよ」
「…誰にも取られとうない……」
ぎゅっと腕に力がこもり、小さな顔が間近になる。
「俺だって、誰にもやりたくねえよ」
そんな事を言わせるな、と愚痴を零しながら、船室に戻った。
「落ち着いたら部屋に戻るか?」
そっと床に降ろすと、俯いたままの元就の頭を撫でながら、膝を付いて視線を合わせた。
戸惑いながら瞼を伏せ、元親にそっと抱きつくと、額を胸板にくっつけてぼそりと呟いた。
「ん、何だ?」
よく聞き取れないと再度促すと、今度は顔を上げた。
「…今宵は一緒に居てくれぬか」
「構わねえよ、アンタが飽きるまでな」
「阿呆…」
ふっと強張った表情が緩み、元就が艶やかな笑みを見せる。
元就が小さくくしゃみをすると、彼は苦笑しながら彼女を抱え上げた。
驚いたように切れ長の瞳が見開かれたが、何も言わずに首へと腕を回して掴まると、元親の肩へと顔を埋めた。
「…もう、あんなことするんじゃねぇぞ?」
「うむ…」
お前がやると冗談にならねえからな、と苦笑する彼の声に、しおらしく答える。
「何かあったら俺に言え」
「……言えぬ」
「こら」
溜め込んで何をするか分からないのに、と元親は心の中で毒づいた。
「………どのようにそなたに伝えれば良いのか分からぬ」
不安の込められた回答は彼女の心情をそのまま表している。
「…難しく考えるなよ、素直に言えば良いんだ」
頭の良い連中は物事を難しく考えすぎるからなぁ、と軽口を叩き、元親は笑った。
「では、そなたが好きだと言うたら信じてくれるか?」
「おい…いきなり告白かよ」
「…誰にも取られとうない……」
ぎゅっと腕に力がこもり、小さな顔が間近になる。
「俺だって、誰にもやりたくねえよ」
そんな事を言わせるな、と愚痴を零しながら、船室に戻った。
「落ち着いたら部屋に戻るか?」
そっと床に降ろすと、俯いたままの元就の頭を撫でながら、膝を付いて視線を合わせた。
戸惑いながら瞼を伏せ、元親にそっと抱きつくと、額を胸板にくっつけてぼそりと呟いた。
「ん、何だ?」
よく聞き取れないと再度促すと、今度は顔を上げた。
「…今宵は一緒に居てくれぬか」
「構わねえよ、アンタが飽きるまでな」
「阿呆…」
ふっと強張った表情が緩み、元就が艶やかな笑みを見せる。
ようやく氷の面という長い呪縛が解かれた。
その瞬間であった。
その瞬間であった。
船室に設けられた小さな窓から差し込んできた光に、元親は眩しそうに顔を顰めた。
「ああ、もう朝か」
まだ日が昇って間もない頃だろう、甲板を忙しく動き回る足音に再び瞼を閉じた。
もぞり、と腕の中で動く気配がしたので、肘を立てて体を起こすと、彼女の頬を撫でる。
そういえば何もせずに彼女と一晩を過ごしたのは初めてだな、と元親は笑みを零す。
「起きたか?」
耳元にそっと囁きかけ、その白い顔を覗き込む。
「…起きておる」
長い睫毛に縁取られた琥珀の瞳が見上げてくる。
「気分はどうだ、気持ち悪いとかねえか?」
「……最悪だ」
視線を避けるように、反対へと寝返りを打ってしまった元就の声は大層不機嫌である。
「それだけ口がきければ大丈夫だ」
ははっと快活に笑いながら、元親は寝床から起き上がった。
「食事はこっちに運ばせるから、もう少しだけ寝ていな」
「いや、戻…」
「一緒に食いたいんだ」
素直に待っていろよ、と言い残すと、元親は簡単に着替えるとそのまま部屋を出て行った。
一人残された元就はのろのろと体を起こすと、窓から差し込む御来光に静かに手を合わせる。
「…どのような顔をしてそなたを迎えれば良いのだ」
ちらりと彼が出ていった先を見遣り、溜め息をつきながらも、彼女の表情は穏やかであった。
「ああ、もう朝か」
まだ日が昇って間もない頃だろう、甲板を忙しく動き回る足音に再び瞼を閉じた。
もぞり、と腕の中で動く気配がしたので、肘を立てて体を起こすと、彼女の頬を撫でる。
そういえば何もせずに彼女と一晩を過ごしたのは初めてだな、と元親は笑みを零す。
「起きたか?」
耳元にそっと囁きかけ、その白い顔を覗き込む。
「…起きておる」
長い睫毛に縁取られた琥珀の瞳が見上げてくる。
「気分はどうだ、気持ち悪いとかねえか?」
「……最悪だ」
視線を避けるように、反対へと寝返りを打ってしまった元就の声は大層不機嫌である。
「それだけ口がきければ大丈夫だ」
ははっと快活に笑いながら、元親は寝床から起き上がった。
「食事はこっちに運ばせるから、もう少しだけ寝ていな」
「いや、戻…」
「一緒に食いたいんだ」
素直に待っていろよ、と言い残すと、元親は簡単に着替えるとそのまま部屋を出て行った。
一人残された元就はのろのろと体を起こすと、窓から差し込む御来光に静かに手を合わせる。
「…どのような顔をしてそなたを迎えれば良いのだ」
ちらりと彼が出ていった先を見遣り、溜め息をつきながらも、彼女の表情は穏やかであった。