「家康、入るぞ?」
戸を叩いて声を掛けると、中から慌てた声がした。
「ま、まだ入っちゃならねぇ、ちょっと待て!」
「おう、別にいいけどよ…」
元親は開けようとした手を止め、軽く咳払いをした。
「…入って良いぞ」
小さな声が返ってきたので、一息吸って気持ちを落ち着ける。
「すまねぇ、まだ寝ていたか?」
朝餉を持ってきたんだが、と手にしていた盆を枕元へと置く。
「そ、そ、そんな事はねぇ!」
手を振って否定すると、家康の腹の虫が盛大に鳴った。
「とりあえず食っておけよ」
腹を抱えて笑いを堪える元親の様子に、家康はふっくらとした頬を膨らませてみせた。
「…そんなに笑う事はねえだろ!」
「いや、もう、何と言うかさ…緊張がいっぺんで解けたな」
「ひどい奴だな、お前は!」
未だ笑っている元親を怒鳴りながら、家康は置かれた盆へと目を移す。
炊き上げた飯と湯気を立てる汁碗に数切れの漬物が添えられている。
簡素なものだが、ほぼ丸一日何も食べていない事を思い出すと、その匂いにそそられる。
あっという間にそれを平らげた家康の食欲に驚きながら、元親は空になった盆を避けた。
「まだ食うか?」
「いや…今は大丈夫だ」
手が触れようとした時、吃驚したように家康は自分の手を引っ込めた。
「…どうした」
彼女の反応に元親の顔が僅かに曇る。
「あ、ああ、何でもねぇ…その…ちょっと」
後ろに手を隠しながら、家康はもじもじと言葉を続けようとする。
「しょうがねぇなぁ」
「元親!」
じりじりと壁際に寄って後ずさる家康の腕を取ると、元親は真っ赤になって瞼を固く閉じる彼女を抱きすくめた。
「何でもないだろ、ん?」
ぽん、と頭に手を置き、優しく語り掛ける。
彼の胸に耳を押し当てる格好となっているため、とくとくと鼓動の音が良く聞こえる。
「……ああ」
ささくれ立っていた心がすぅっと穏やかになっていく。
彼の優しさを感じながら、体を凭れ掛けるように預けた。
戸を叩いて声を掛けると、中から慌てた声がした。
「ま、まだ入っちゃならねぇ、ちょっと待て!」
「おう、別にいいけどよ…」
元親は開けようとした手を止め、軽く咳払いをした。
「…入って良いぞ」
小さな声が返ってきたので、一息吸って気持ちを落ち着ける。
「すまねぇ、まだ寝ていたか?」
朝餉を持ってきたんだが、と手にしていた盆を枕元へと置く。
「そ、そ、そんな事はねぇ!」
手を振って否定すると、家康の腹の虫が盛大に鳴った。
「とりあえず食っておけよ」
腹を抱えて笑いを堪える元親の様子に、家康はふっくらとした頬を膨らませてみせた。
「…そんなに笑う事はねえだろ!」
「いや、もう、何と言うかさ…緊張がいっぺんで解けたな」
「ひどい奴だな、お前は!」
未だ笑っている元親を怒鳴りながら、家康は置かれた盆へと目を移す。
炊き上げた飯と湯気を立てる汁碗に数切れの漬物が添えられている。
簡素なものだが、ほぼ丸一日何も食べていない事を思い出すと、その匂いにそそられる。
あっという間にそれを平らげた家康の食欲に驚きながら、元親は空になった盆を避けた。
「まだ食うか?」
「いや…今は大丈夫だ」
手が触れようとした時、吃驚したように家康は自分の手を引っ込めた。
「…どうした」
彼女の反応に元親の顔が僅かに曇る。
「あ、ああ、何でもねぇ…その…ちょっと」
後ろに手を隠しながら、家康はもじもじと言葉を続けようとする。
「しょうがねぇなぁ」
「元親!」
じりじりと壁際に寄って後ずさる家康の腕を取ると、元親は真っ赤になって瞼を固く閉じる彼女を抱きすくめた。
「何でもないだろ、ん?」
ぽん、と頭に手を置き、優しく語り掛ける。
彼の胸に耳を押し当てる格好となっているため、とくとくと鼓動の音が良く聞こえる。
「……ああ」
ささくれ立っていた心がすぅっと穏やかになっていく。
彼の優しさを感じながら、体を凭れ掛けるように預けた。
自分はこの腕を望んでいたのか。
温かく包み込むような元親の腕は心地よい。
もう少し抱きしめて居て欲しい、いっそこのまま溶け合えれば。
だが、元親の体に残る香が彼女のものだと気付き、途端に表情が暗くなった。
もう少し抱きしめて居て欲しい、いっそこのまま溶け合えれば。
だが、元親の体に残る香が彼女のものだと気付き、途端に表情が暗くなった。
…望むのであれば、あれが抱くように貴様を抱いてやろう。
耳元で囁かれた元就の言葉を思い出し、ぞくりと背が震える。
泣き叫びながら、次第に快楽へと目覚めていく己の体を厭わしく感じた。
丁寧で執拗な愛撫に喉を鳴らし、身悶えした挙句、その手で果てたのだ。
泣き叫びながら、次第に快楽へと目覚めていく己の体を厭わしく感じた。
丁寧で執拗な愛撫に喉を鳴らし、身悶えした挙句、その手で果てたのだ。
求めてはならない人へと思いを寄せた報いか。
意識が堕ちていく瞬間に聞いたもの。
それは切なげに彼の名を呼ぶ元就の声であった。
それは切なげに彼の名を呼ぶ元就の声であった。