船は三河に近い港に寄って、家康一行を降ろすことになっていた。
彼女を出迎える家臣一同で溢れ返り、大変な騒ぎとなっているのは遠くからも良く見えた。
彼女を出迎える家臣一同で溢れ返り、大変な騒ぎとなっているのは遠くからも良く見えた。
「忘れ物はないか、家康」
身支度を整えて着岸を待つ船内で、元親は声を掛けた。
「うむ、大丈夫だ」
脇に控えていた側近が慌しく荷物を甲板へと運ぶ手筈を整える。
近くなった陸地へと目を向け、家康は家臣たちに向かって手を大きく振り応えてやる。
「達者でな」
「おう、お前もな、元親」
互いの拳を軽くぶつけ、まるで男同士のように別れを交わす。
「徳川」
元親の後ろに控えていた元就の声に、家康は振り向いた。
「…何だ、わしに用か?」
あれからまともに顔を見る事も出来ず、今日に至っている。
心では分かっていても、体は震えてしまうのだ。
その反応に一瞬哀しげな表情を見せたが、ふわりと華が綻ぶような艶やかな笑みを浮かべた。
「そなたの先に日輪の加護を」
不意に近付いた端整な顔に思わず目を閉じてしまったが、ちょん、と額に触れるような接吻を施されたのだと気付いた。
「…許してもらおうとは思わぬ」
耳元で囁く細い声に家康は目を瞠る。
「我を恨めばよい、そなたの気が済むまでな」
くくっと笑いを零しながら、静かに佇むその姿は、どこか浮世離れしていると思った。
「……お前を恨んだら呪い殺されそうで怖いからな、やめておくぞ」
「そうか」
寂しくなったらいつでも抱いてやる、そう言いながら家康の柔らかな唇を掠めるように奪う。
「お、お、お前!」
顔を赤くしたり青くしたり、落ち着きの無い家康の様子に元親は首を傾げる。
「何ぞあるか?」
「…今に天罰が下るぞ!」
精々元親に愛想を尽かされないようにしろよ、と付け加え、腕を振り回して嫌味を返す。
その言葉を聞いた元就は唇の端を軽く上げるように笑みを浮かべた。
「愛、とは良きものなるぞ」
今度じっくりと教えてやろうか、という元就の言葉に、家康は謹んで辞退する旨を伝え、船を降りた。
身支度を整えて着岸を待つ船内で、元親は声を掛けた。
「うむ、大丈夫だ」
脇に控えていた側近が慌しく荷物を甲板へと運ぶ手筈を整える。
近くなった陸地へと目を向け、家康は家臣たちに向かって手を大きく振り応えてやる。
「達者でな」
「おう、お前もな、元親」
互いの拳を軽くぶつけ、まるで男同士のように別れを交わす。
「徳川」
元親の後ろに控えていた元就の声に、家康は振り向いた。
「…何だ、わしに用か?」
あれからまともに顔を見る事も出来ず、今日に至っている。
心では分かっていても、体は震えてしまうのだ。
その反応に一瞬哀しげな表情を見せたが、ふわりと華が綻ぶような艶やかな笑みを浮かべた。
「そなたの先に日輪の加護を」
不意に近付いた端整な顔に思わず目を閉じてしまったが、ちょん、と額に触れるような接吻を施されたのだと気付いた。
「…許してもらおうとは思わぬ」
耳元で囁く細い声に家康は目を瞠る。
「我を恨めばよい、そなたの気が済むまでな」
くくっと笑いを零しながら、静かに佇むその姿は、どこか浮世離れしていると思った。
「……お前を恨んだら呪い殺されそうで怖いからな、やめておくぞ」
「そうか」
寂しくなったらいつでも抱いてやる、そう言いながら家康の柔らかな唇を掠めるように奪う。
「お、お、お前!」
顔を赤くしたり青くしたり、落ち着きの無い家康の様子に元親は首を傾げる。
「何ぞあるか?」
「…今に天罰が下るぞ!」
精々元親に愛想を尽かされないようにしろよ、と付け加え、腕を振り回して嫌味を返す。
その言葉を聞いた元就は唇の端を軽く上げるように笑みを浮かべた。
「愛、とは良きものなるぞ」
今度じっくりと教えてやろうか、という元就の言葉に、家康は謹んで辞退する旨を伝え、船を降りた。
船は一路奥州を目指して北へと向かった。
春先とはいえ冷たい風が吹き抜けていく。
春先とはいえ冷たい風が吹き抜けていく。
空高く甲高い声を上げて飛んでいく鳥を見上げながら。
いずれ戦場で再会する事も知らずに。
(了)