しとしと振り続ける雨に濡れ、城の庭に植えられた桜が花弁を落とす。
下には既に散った薄紅の花弁で染まっている。
今日は冷えますねぇ、と暢気な事を思いながら、光秀は廊下の向こうから歩いてくる人物に気付くと足を止めた。
そして相手が彼に気付いて立ち止まるのを待つ。
「これは長政公、お久しゅうございます」
長い白銀の髪から覗くぬらりとした光秀の視線が長政を射抜いた。
くすくすと揶揄するように笑うその声に、長政はきりりと眉を上げた。
「…桜が散るまでには挨拶に伺う予定だったのだ」
領内で小競り合いがあり、それを平定するのに手間取ったらしい。
勿論、光秀はその情報を知っている。
「さあ、奥の座敷で信長公がお待ちですよ」
貴女の為に特別な席を設けましたから、と言いながら、光秀の視線が長政の襟元へと絡みつく。
「おや…」
骨張った指が彼女の首筋を示す。
「これはまた仲のよろしいことで」
青白い端整な顔立ちを歪めるようにして光秀が笑う。
長政の頭上には大きな疑問符が浮いたが、やがてその意味する所を悟り赤面する。
「こっこれはっ…」
おのれ市め、と物騒な声音で呟きながら、長政は指摘された所を手で隠す。
おっとりとした静かな印象のある市だが閨では人が変わる。
狂ったように抱かれた昨夜は散々と喘がされ、その情事の激しさをうかがわせるような痕が彼女の体のあちこちに残されている。
幸い、着物で隠れるものがほとんどであったので、首筋に残るそれの事は失念していたのだ。
「いえいえ…夫婦の仲がよろしい証拠で何よりです」
これならば予想よりも早く貴女達の子供が見られそうだと言い残し、光秀は目を細めて愉しげに笑った。
下には既に散った薄紅の花弁で染まっている。
今日は冷えますねぇ、と暢気な事を思いながら、光秀は廊下の向こうから歩いてくる人物に気付くと足を止めた。
そして相手が彼に気付いて立ち止まるのを待つ。
「これは長政公、お久しゅうございます」
長い白銀の髪から覗くぬらりとした光秀の視線が長政を射抜いた。
くすくすと揶揄するように笑うその声に、長政はきりりと眉を上げた。
「…桜が散るまでには挨拶に伺う予定だったのだ」
領内で小競り合いがあり、それを平定するのに手間取ったらしい。
勿論、光秀はその情報を知っている。
「さあ、奥の座敷で信長公がお待ちですよ」
貴女の為に特別な席を設けましたから、と言いながら、光秀の視線が長政の襟元へと絡みつく。
「おや…」
骨張った指が彼女の首筋を示す。
「これはまた仲のよろしいことで」
青白い端整な顔立ちを歪めるようにして光秀が笑う。
長政の頭上には大きな疑問符が浮いたが、やがてその意味する所を悟り赤面する。
「こっこれはっ…」
おのれ市め、と物騒な声音で呟きながら、長政は指摘された所を手で隠す。
おっとりとした静かな印象のある市だが閨では人が変わる。
狂ったように抱かれた昨夜は散々と喘がされ、その情事の激しさをうかがわせるような痕が彼女の体のあちこちに残されている。
幸い、着物で隠れるものがほとんどであったので、首筋に残るそれの事は失念していたのだ。
「いえいえ…夫婦の仲がよろしい証拠で何よりです」
これならば予想よりも早く貴女達の子供が見られそうだと言い残し、光秀は目を細めて愉しげに笑った。