穏やかな厳島が荒れたその日。
突如一人で侵攻してきた明智光秀に対し、毛利元就は万全の策と兵をつぎ込んでそれに構えたはずだった。
突如一人で侵攻してきた明智光秀に対し、毛利元就は万全の策と兵をつぎ込んでそれに構えたはずだった。
…負けた…?
戦の前の晴れ渡っていた瀬戸内海は容赦なく雨を降らし、意識の朦朧とした中で元就はただ事実をつきつけられるだけだった。
万全だった。伏兵も、火矢も、水軍も…全てが…手筈どおりに動いていた。
油断などしていたわけではない。甘く見ていたわけでもなかった。
万全だった。伏兵も、火矢も、水軍も…全てが…手筈どおりに動いていた。
油断などしていたわけではない。甘く見ていたわけでもなかった。
…馬鹿な…我の策が…!!
それなのに今こうして横たわり、立ち上がることもできず、あとは死を待つだけの状態なのは他ならぬ自分。
それが元就には信じられないことであり、同時にやっと解放された…と心のどこかで安堵していた。
それが元就には信じられないことであり、同時にやっと解放された…と心のどこかで安堵していた。
先日も厳島に鬼が進撃して来て…我の心を掻き乱すだけ掻き乱して散っていった。
その頃から抱いていた…どこか兵たちに対する今までとは違う感情から、ようやく解放される。
もうあのようにただ淡々と駒を進めるだけの日々を送らなくてもいい。
容赦なく降る雨は確実に元就の体温を奪い、深く抉られたような腹の傷に突き刺さる。
もうあのようにただ淡々と駒を進めるだけの日々を送らなくてもいい。
容赦なく降る雨は確実に元就の体温を奪い、深く抉られたような腹の傷に突き刺さる。
死が怖いとは、思わない。
人の命を手駒にとっていた自分に恐怖を感じる資格があるなど思わない。
ただ…
人の命を手駒にとっていた自分に恐怖を感じる資格があるなど思わない。
ただ…
「…すまぬ…」
自分は決して良い将ではなかったと思う。
元就自身、驚いていた。
あれほど非情に振舞っていた自分が、最後に抱く感情が…
まさか『駒』に対し申し訳ないと思うだなんて。
元就自身、驚いていた。
あれほど非情に振舞っていた自分が、最後に抱く感情が…
まさか『駒』に対し申し訳ないと思うだなんて。
ドクドクと流れる血をどれだけ失っただろう?
雨さえも温かいと感じ始めた体温は、どれほど低くなっただろう?
もう…死さえも…あと、少―――
雨さえも温かいと感じ始めた体温は、どれほど低くなっただろう?
もう…死さえも…あと、少―――
元就の記憶はそこで途切れた。
意識を失った元就の傍に人影が現れたのは、そのすぐ後のことになる。
意識を失った元就の傍に人影が現れたのは、そのすぐ後のことになる。