目の前で「お揃いだったのになぁ」と、わざとらしいくらい残念がる佐助を睨みつけ
た。
佐助は笑って肩をすくめる。目的が同じであるため、彼らは前田軍が陣を敷く賤ヶ岳へ
いっしょに向かっていた。
「つれないねえ。忍び同士、仲良くしない?」
仲良く、という佐助の言葉に、かすがは色々なことを反射的に思い出してしまった。
謙信の『めをと』という言葉。
脳裏に佐助が浮かんでいた日々。
しまい込んだ輪宝。
そしてなにより、連日彼のことを考え込んでしまってひとりで悶々としていたことを強く
思い出してしまい、かすがは思わず叫んでいた。
「誰がお前なんかと! めっ、夫婦になどならないからな!」
言ったあとに後悔した。こんなところでいきなり『夫婦』という単語が出てきて、
おかしくないわけがない。案の定、佐助も呆気にとられて「夫婦?」と小首を傾げ、
かすがを見ている。
かすがは自分が発した言葉が急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にした。
なにを言っているんだ、私は、と頭のなかで何度叱咤しても、言ってしまった言葉が
無かったことになるはずもない。
「と、とにかくっ! 賤ヶ岳に急ぐぞ!」
慌てて佐助から視線を逸らした。これ以上佐助を見ていると、自分がおかしくなって
しまいそうで恐かった。
愛だの恋だのと言っている教祖と傾奇者の目に、自分はどう映っていたのだろうか。考えるだけでも
おぞましいが、しかし『忍同士の恋』と言われて悪い気はしなかった己がおかしく思える。
――ばかばかしい。
かすがは心のなかで舌打ちした。
佐助は笑って肩をすくめる。目的が同じであるため、彼らは前田軍が陣を敷く賤ヶ岳へ
いっしょに向かっていた。
「つれないねえ。忍び同士、仲良くしない?」
仲良く、という佐助の言葉に、かすがは色々なことを反射的に思い出してしまった。
謙信の『めをと』という言葉。
脳裏に佐助が浮かんでいた日々。
しまい込んだ輪宝。
そしてなにより、連日彼のことを考え込んでしまってひとりで悶々としていたことを強く
思い出してしまい、かすがは思わず叫んでいた。
「誰がお前なんかと! めっ、夫婦になどならないからな!」
言ったあとに後悔した。こんなところでいきなり『夫婦』という単語が出てきて、
おかしくないわけがない。案の定、佐助も呆気にとられて「夫婦?」と小首を傾げ、
かすがを見ている。
かすがは自分が発した言葉が急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にした。
なにを言っているんだ、私は、と頭のなかで何度叱咤しても、言ってしまった言葉が
無かったことになるはずもない。
「と、とにかくっ! 賤ヶ岳に急ぐぞ!」
慌てて佐助から視線を逸らした。これ以上佐助を見ていると、自分がおかしくなって
しまいそうで恐かった。
愛だの恋だのと言っている教祖と傾奇者の目に、自分はどう映っていたのだろうか。考えるだけでも
おぞましいが、しかし『忍同士の恋』と言われて悪い気はしなかった己がおかしく思える。
――ばかばかしい。
かすがは心のなかで舌打ちした。
もうだいぶ離れたと思ったのに、燃えさかる本能寺は暗い原始林のなかからでも見えていた。
夜空の下、紅蓮の炎が目立っている。耳を澄ませば燃える音まで聞こえてきそうだ。
かすがは自分がやったことが未だに信じられなかった。奇襲の阻止とはいえ、今し方この手で
あの魔王を――思い返すだけで手が震える。
「さて、と。これで任務完了、ってな」
暗闇のなか、のん気な佐助の声が響いた。かすがと違い、彼は指先も震えていない。
「ん? どうしたかすが、震えてんの?」
震える手を握っておさえるかすがの顔を、佐助が覗き込んだ。突然至近距離にあらわれた顔に
驚き、かすがは飛び退いて首を横に振る。
「そんな訳ないだろう!」
まだ小さく震える左右の手を背後にまわして隠し、佐助を睨みつけた。
「ふーん……」
かすがを見る佐助の細められた目は、彼女のなにもかもを見透かしているようだった。手が震えて
いることも、魔王を討ったことを信じられないことも、ここ最近のかすがが佐助のことを気にしているということも。
夜空の下、紅蓮の炎が目立っている。耳を澄ませば燃える音まで聞こえてきそうだ。
かすがは自分がやったことが未だに信じられなかった。奇襲の阻止とはいえ、今し方この手で
あの魔王を――思い返すだけで手が震える。
「さて、と。これで任務完了、ってな」
暗闇のなか、のん気な佐助の声が響いた。かすがと違い、彼は指先も震えていない。
「ん? どうしたかすが、震えてんの?」
震える手を握っておさえるかすがの顔を、佐助が覗き込んだ。突然至近距離にあらわれた顔に
驚き、かすがは飛び退いて首を横に振る。
「そんな訳ないだろう!」
まだ小さく震える左右の手を背後にまわして隠し、佐助を睨みつけた。
「ふーん……」
かすがを見る佐助の細められた目は、彼女のなにもかもを見透かしているようだった。手が震えて
いることも、魔王を討ったことを信じられないことも、ここ最近のかすがが佐助のことを気にしているということも。




