「今すぐお前と夫婦になることは、できない……」
驚きも憤りもせず、佐助はただ「うん……」と相槌をうつように返事をした。
実のところ予想通りだったのだ、彼女が断ることは。
「私は――私は、あのお方の『つるぎ』だ……」
声音は、とまどいを含んでいた。言いながらも思い悩んでいる風だ。言葉は少ないが、
それだけでも彼女が言わんとするところは分かる。かすがは次第にうつむいて、
背をちいさく震わせた。なかなか佐助のほうを見ようとはしない。
自分の言ったことが、かすがにとって重荷となってしまうかもしれないという自覚が、
佐助にはあった。お互い、身軽な立場にいるわけではないのだ。
正直なところ、佐助はかすがをどうしたいのか自分でもよく分からずにいた。自分のもとへ
来てくれれば嬉しいのだが、果たしてそれはかすがにとって一番の幸せなのかどうか。
人を殺めることが苦でも、軍神のもとに居たほうが彼女にとって幸福なのではないだろうか。
そのようなことを考えると、佐助はかすがに対してあと一歩のところまでしか
歩み寄ることができなかった。だが今回、そのあと一歩のところまで進んでしまった。
佐助は口を開いた。一言謝って、それから、言ったことは忘れてくれ、と。
そう告げようとしたのだが、眼前にいるくのいちに先に沈黙をやぶられてしまった。
「でも」
やっと振り返ったかすがの睫毛は、水分をふくんでいるように見える。
「乱世が終わったら。安定した世になったら」
顔が触れそうになるくらいのところまで近づき、かすがは佐助の顔を見上げて、つづきを言った。
「――――――」
童の内緒話のように告げられた言葉に、佐助は目を見開いた。
すぐ近くにある形のいい唇がつむいだ言葉をすぐには理解できず、素っ頓狂な声をだして
驚いてしまった。その様を見たかすがが、おかしそうに微笑んで男の手をにぎる。
「お互いがちゃんと生きていたらの話だ。死んでしまったら意味がない。
お前も言っていただろう? だから……死んだら、私がゆるさない」
佐助の手を握るかすがの指に、力がはいった。
「ああ。……かすがも、生きろよ」
この時世、相手に「死ぬな」などと言ったところでほとんど意味がないということを
二人は承知している。忍であるかぎり、死と隣り合わせが常であるといっても過言ではない。
そもそも敵対している佐助とかすがが、戦場で対峙しないとは言い切れない。
不安定すぎる約束だった。
しかしそれでも約束しあったのは、そうすること自体に意味があるように思えたからだ。
童の口約束のようだとも、約束することで死から逃れられるわけではないというのも、
重々承知している。
驚きも憤りもせず、佐助はただ「うん……」と相槌をうつように返事をした。
実のところ予想通りだったのだ、彼女が断ることは。
「私は――私は、あのお方の『つるぎ』だ……」
声音は、とまどいを含んでいた。言いながらも思い悩んでいる風だ。言葉は少ないが、
それだけでも彼女が言わんとするところは分かる。かすがは次第にうつむいて、
背をちいさく震わせた。なかなか佐助のほうを見ようとはしない。
自分の言ったことが、かすがにとって重荷となってしまうかもしれないという自覚が、
佐助にはあった。お互い、身軽な立場にいるわけではないのだ。
正直なところ、佐助はかすがをどうしたいのか自分でもよく分からずにいた。自分のもとへ
来てくれれば嬉しいのだが、果たしてそれはかすがにとって一番の幸せなのかどうか。
人を殺めることが苦でも、軍神のもとに居たほうが彼女にとって幸福なのではないだろうか。
そのようなことを考えると、佐助はかすがに対してあと一歩のところまでしか
歩み寄ることができなかった。だが今回、そのあと一歩のところまで進んでしまった。
佐助は口を開いた。一言謝って、それから、言ったことは忘れてくれ、と。
そう告げようとしたのだが、眼前にいるくのいちに先に沈黙をやぶられてしまった。
「でも」
やっと振り返ったかすがの睫毛は、水分をふくんでいるように見える。
「乱世が終わったら。安定した世になったら」
顔が触れそうになるくらいのところまで近づき、かすがは佐助の顔を見上げて、つづきを言った。
「――――――」
童の内緒話のように告げられた言葉に、佐助は目を見開いた。
すぐ近くにある形のいい唇がつむいだ言葉をすぐには理解できず、素っ頓狂な声をだして
驚いてしまった。その様を見たかすがが、おかしそうに微笑んで男の手をにぎる。
「お互いがちゃんと生きていたらの話だ。死んでしまったら意味がない。
お前も言っていただろう? だから……死んだら、私がゆるさない」
佐助の手を握るかすがの指に、力がはいった。
「ああ。……かすがも、生きろよ」
この時世、相手に「死ぬな」などと言ったところでほとんど意味がないということを
二人は承知している。忍であるかぎり、死と隣り合わせが常であるといっても過言ではない。
そもそも敵対している佐助とかすがが、戦場で対峙しないとは言い切れない。
不安定すぎる約束だった。
しかしそれでも約束しあったのは、そうすること自体に意味があるように思えたからだ。
童の口約束のようだとも、約束することで死から逃れられるわけではないというのも、
重々承知している。




