「…小十郎」
政宗が、ついに口を開いた。室に入ってから初めて視線が合う。いつもの強い眼光ではなく、政宗の今のそれは女の目であった。小十郎は何も言えずに、静かに政宗を見つめた。
「俺、を 、 」
抱いてくれないか。
最後の方は聞き取るのが難しいくらいに尻すぼみであったが、小十郎にははっきりと、鮮明に聞こえた。
政宗は羽織をぎゅっと握り再び俯いてしまった。
「………、…」
どういう意味か一瞬わからず、聞き返そうとした。が、小十郎には出来なかった。驚きのせいもあったが、それに加え冷静に感じる部分で咄嗟に、聞き返すことは政宗の気持ちを傷つけることになると思ったからだ。
「3日後、初陣…だろ?」
沈黙に耐えきれなかった政宗が、言葉をぽつりぽつりと紡ぐ。
「負けるつもりは、まったくねえよ。…伊達の軍勢は猛者揃いだ。父上も、成実も、お前だって居る」
ただ、と続けた声はあまりにも弱く。
「絶対なんて、ないだろ。…相手だって命懸けの、生きるか死ぬかの戦だ。討たれる可能性だって、ないわけじゃない」
小十郎は政宗から目を逸らさず、じっと見つめた。政宗は困ったような顔で小十郎を見返す。
「男だったら首をとられて終わり、かもしれないが………慰み者にされることもあるだろ」
俺は女だ、と。言った政宗の表情は複雑で。小十郎も、硬い表情で眉間にしわを寄せた。
男として戦場に出るという中で、それでも自分は女であるという弱みがあることを、自身で認めなければならないということはどういうことであろうか。
一人考え、そこに至るまでの政宗の気持ちを想うと、自分自身のしてきたことを責めても責めきれず、心苦しくなった。
「だから、…だから!初めてくらいは、好いた男と、と思ったんだよ!!」
最後の方はもう自棄になったのか口調を強め、政宗は後ろを向いてしまった。いったいどんな顔をしているのだろうか。
好いた男、とは…と自分のことと理解してからの小十郎の顔は見せられたものではなかったが。
自分の羽織を被るように着ている背中が、普段以上に小さく見えた。
政宗が、ついに口を開いた。室に入ってから初めて視線が合う。いつもの強い眼光ではなく、政宗の今のそれは女の目であった。小十郎は何も言えずに、静かに政宗を見つめた。
「俺、を 、 」
抱いてくれないか。
最後の方は聞き取るのが難しいくらいに尻すぼみであったが、小十郎にははっきりと、鮮明に聞こえた。
政宗は羽織をぎゅっと握り再び俯いてしまった。
「………、…」
どういう意味か一瞬わからず、聞き返そうとした。が、小十郎には出来なかった。驚きのせいもあったが、それに加え冷静に感じる部分で咄嗟に、聞き返すことは政宗の気持ちを傷つけることになると思ったからだ。
「3日後、初陣…だろ?」
沈黙に耐えきれなかった政宗が、言葉をぽつりぽつりと紡ぐ。
「負けるつもりは、まったくねえよ。…伊達の軍勢は猛者揃いだ。父上も、成実も、お前だって居る」
ただ、と続けた声はあまりにも弱く。
「絶対なんて、ないだろ。…相手だって命懸けの、生きるか死ぬかの戦だ。討たれる可能性だって、ないわけじゃない」
小十郎は政宗から目を逸らさず、じっと見つめた。政宗は困ったような顔で小十郎を見返す。
「男だったら首をとられて終わり、かもしれないが………慰み者にされることもあるだろ」
俺は女だ、と。言った政宗の表情は複雑で。小十郎も、硬い表情で眉間にしわを寄せた。
男として戦場に出るという中で、それでも自分は女であるという弱みがあることを、自身で認めなければならないということはどういうことであろうか。
一人考え、そこに至るまでの政宗の気持ちを想うと、自分自身のしてきたことを責めても責めきれず、心苦しくなった。
「だから、…だから!初めてくらいは、好いた男と、と思ったんだよ!!」
最後の方はもう自棄になったのか口調を強め、政宗は後ろを向いてしまった。いったいどんな顔をしているのだろうか。
好いた男、とは…と自分のことと理解してからの小十郎の顔は見せられたものではなかったが。
自分の羽織を被るように着ている背中が、普段以上に小さく見えた。




