以前から月に数度、政宗は小十郎を伴って城下の町へと足を運んでいた。
昔は物珍しさと好奇心と悪戯心と息抜きのため。
長じた今は視察と、やはり息抜きも兼ねて。
民の暮らす場所で彼らと同じ物を見聞きし、時には彼らと同じ物を食しながら、政宗と小十郎は様々なものを共に見てきた。
前回の視察から約半月ぶりに見てまわった町は以前と変わりなく、民は平穏に日々の生活を営んでいた。
飢えて路上に蹲る者もなく、虐げられて泣く子供もおらず、暗い目で虚ろに立ち尽くす女もいない。
貧富に多少の差はあれど誰もが生気に満ちた目で己の仕事に励み、快活に笑い、その傍らを子供たちも楽しげに笑いながら駆けていた。
ありふれた、けれど何にも代え難い幸福な光景だった。
眩しいものを見るようにそれらを眺めていた政宗に、すっかり顔見知りとなった幼子らが寄ってきて、笑みと共に何かを差し出した。
小さな手に掴まれていたのは摘んだばかりと思しき野の花。
政宗は異国の言葉で短く礼を口にすると、子らの頭を撫でて一緒に笑った。
その時に受け取ったのが、今、政宗の髪を飾っている花だ。
昔は物珍しさと好奇心と悪戯心と息抜きのため。
長じた今は視察と、やはり息抜きも兼ねて。
民の暮らす場所で彼らと同じ物を見聞きし、時には彼らと同じ物を食しながら、政宗と小十郎は様々なものを共に見てきた。
前回の視察から約半月ぶりに見てまわった町は以前と変わりなく、民は平穏に日々の生活を営んでいた。
飢えて路上に蹲る者もなく、虐げられて泣く子供もおらず、暗い目で虚ろに立ち尽くす女もいない。
貧富に多少の差はあれど誰もが生気に満ちた目で己の仕事に励み、快活に笑い、その傍らを子供たちも楽しげに笑いながら駆けていた。
ありふれた、けれど何にも代え難い幸福な光景だった。
眩しいものを見るようにそれらを眺めていた政宗に、すっかり顔見知りとなった幼子らが寄ってきて、笑みと共に何かを差し出した。
小さな手に掴まれていたのは摘んだばかりと思しき野の花。
政宗は異国の言葉で短く礼を口にすると、子らの頭を撫でて一緒に笑った。
その時に受け取ったのが、今、政宗の髪を飾っている花だ。
派手好きで華やかなものを好む政宗には大振りで豪華な花が似合う。
けれど政宗の髪から垣間見える小さな花は、それらとはまた違う形で、政宗に良く似合っていた。
──それ以前に、この方に似合わない花などあるのだろうか?
ふとそんな疑問が湧き、小十郎は知っている限りの花々を思い浮かべ、脳裏で主に飾ってみた。
もし政宗に他人の心を読める力があって、今の小十郎の心が読めたなら、きっと呆れたように笑ったろう。
しかし小十郎にとってそれは至極真面目な疑問だった。真剣に考えるあまり、眉間の皺を深くするほどに。
小十郎がまさか自分のことで考え込んでいるとは思いもしない政宗は、まだ上機嫌に鼻歌を歌っている。飾られた花も髪の合間に可愛らしく咲いたままだ。
そんな政宗の後を、脳裏に浮かべる平和な絵面とは裏腹に普段の三割は剣呑さを増した顔の小十郎が従う。
それは見ている者がいないのが少し惜しいほど滑稽で、平和な、微笑ましい光景だった。
けれど政宗の髪から垣間見える小さな花は、それらとはまた違う形で、政宗に良く似合っていた。
──それ以前に、この方に似合わない花などあるのだろうか?
ふとそんな疑問が湧き、小十郎は知っている限りの花々を思い浮かべ、脳裏で主に飾ってみた。
もし政宗に他人の心を読める力があって、今の小十郎の心が読めたなら、きっと呆れたように笑ったろう。
しかし小十郎にとってそれは至極真面目な疑問だった。真剣に考えるあまり、眉間の皺を深くするほどに。
小十郎がまさか自分のことで考え込んでいるとは思いもしない政宗は、まだ上機嫌に鼻歌を歌っている。飾られた花も髪の合間に可愛らしく咲いたままだ。
そんな政宗の後を、脳裏に浮かべる平和な絵面とは裏腹に普段の三割は剣呑さを増した顔の小十郎が従う。
それは見ている者がいないのが少し惜しいほど滑稽で、平和な、微笑ましい光景だった。




