「……ここ、は…?」
「ここは上田の城だ。そなたの仲間達も別室で手当てを受けている」
「ここは上田の城だ。そなたの仲間達も別室で手当てを受けている」
気がつけば、布団に寝かされていた。意識が戻ると同時に、刀傷と火傷の痛みが身に走る。
傍らでいつきを見下ろしている男の顔は、いつきが知っている顔だ。
甘味処や戦場で見た赤い戦装束ではなく、小袖に袴という出で立ちで彼はそこに居た。
傍らでいつきを見下ろしている男の顔は、いつきが知っている顔だ。
甘味処や戦場で見た赤い戦装束ではなく、小袖に袴という出で立ちで彼はそこに居た。
一揆衆を率いて武田の領地へ攻め入ったいつきは、そこで彼と再会し一対一で戦ったのだ。
いつきも仲間の農民たちも深手を負い敗北したが、止めは刺されず生かされた。
その時の記憶を必死にたどりながら身を起こそうとしたが、傷の痛みが激しくて起き上がることはできなかった。
いつきも仲間の農民たちも深手を負い敗北したが、止めは刺されず生かされた。
その時の記憶を必死にたどりながら身を起こそうとしたが、傷の痛みが激しくて起き上がることはできなかった。
「うっ…」
「傷は深い。無理に起き上がるな」
戦場で雄叫びを上げていた声とは似ても似つかぬ静かな口調で、彼はそれだけを言う。
言葉は少ないが、怪我人のいつきをいたわろうとしているのだろうか。
「傷は深い。無理に起き上がるな」
戦場で雄叫びを上げていた声とは似ても似つかぬ静かな口調で、彼はそれだけを言う。
言葉は少ないが、怪我人のいつきをいたわろうとしているのだろうか。
いつきは名のある武将ではない。仲間たちもただの農民。
首を取ったところで何の武勲も得られないし、捕虜にしても役には立たぬ。
ならばあのまま捨て置けば良いのに何故、と、横になったままいつきは思う。
首を取ったところで何の武勲も得られないし、捕虜にしても役には立たぬ。
ならばあのまま捨て置けば良いのに何故、と、横になったままいつきは思う。
強い武将だが、無意味な殺生をする者ではないと、いつきは彼との戦いで感じ取っていた。
しかしそれでも、わざわざ城まで運んで手当てをしてくれたことには驚いてしまう。
しかしそれでも、わざわざ城まで運んで手当てをしてくれたことには驚いてしまう。
「傷が癒えるまで、この城で休んで行かれよ」
「…本当に、いいだか?」
「お館様の命でもあるゆえ」
「…本当に、いいだか?」
「お館様の命でもあるゆえ」
お館様とは、戦場で彼の傍にいた大将のことだろう。主君の命で仕方無く、とも取れる彼の言葉だったが、その響きには、いつきに対する温かさも確かに宿っていた。