武田と上杉が覇を競う川中島。なかなかに複雑で、時に奇襲をかけ合うことも可能な地形。
一番駆けを務めた幸村は、敵と切り結ぶうちに奥へ奥へと進んでいく。
戦の熱気に酔ううちに、人気のない森にまで出てしまっていた。
ずいぶんと遠くから響く怒号を耳にして、幸村は己の位置にようやく気づいた。
一番駆けを務めた幸村は、敵と切り結ぶうちに奥へ奥へと進んでいく。
戦の熱気に酔ううちに、人気のない森にまで出てしまっていた。
ずいぶんと遠くから響く怒号を耳にして、幸村は己の位置にようやく気づいた。
何の気なしに顔を持ち上げ、――そして。
幽鬼かと思った。漆黒の髪に、深い蒼の着流し姿。
腰に刀を佩いているのを差し引いても、戦場に立つには軽装に過ぎる。深淵に沈みこむような立ち姿。
腰に刀を佩いているのを差し引いても、戦場に立つには軽装に過ぎる。深淵に沈みこむような立ち姿。
右側の瞳が眼帯で覆われている。よく見れば、腰の刀は左右に六振り。
それらに気づいたのと視線が絡み合ったのとではどちらが先か。
それらに気づいたのと視線が絡み合ったのとではどちらが先か。
冷めかけた戦の熱が、幸村の身体を駆け巡った。
猿飛佐助から聞いて知っていた。奥州を平らげた伊達家の独眼竜のことを。
しかしそんなことを考えるより先に、自然と声に出していた。
しかしそんなことを考えるより先に、自然と声に出していた。
「武田家家臣、真田幸村と申す!」
相手側からの名乗りはない。
そう、ここは武田と上杉の戦場で、漁夫の利を狙うにしても大将が単騎で現れるなどあり得ないことだ。
どこぞの忍が姿を借りているだけなのかもしれない。
幸村は、槍を構え駆け出した。
そう、ここは武田と上杉の戦場で、漁夫の利を狙うにしても大将が単騎で現れるなどあり得ないことだ。
どこぞの忍が姿を借りているだけなのかもしれない。
幸村は、槍を構え駆け出した。
衝撃と、鈍い金属音。
二槍が受け止められた――六爪に。
二槍が受け止められた――六爪に。
……当然ではあるが、武器は多ければいいというような性質のものではない。
幸村の二槍であっても、曲芸だと眉をひそめられたこともあった。
両手に得物を持って、どちらも活かすというのは並大抵のことではない。
幸村の二槍であっても、曲芸だと眉をひそめられたこともあった。
両手に得物を持って、どちらも活かすというのは並大抵のことではない。
二槍でもそうなのだから、まして片手に三振りずつ強引に六振りの刀を構える目の前の人物が、影武者であるはずない。
忍であるはずない。
そんな常識では考えられぬ戦い方をする武将など、日の本広しといえどただひとりしかいない。
忍であるはずない。
そんな常識では考えられぬ戦い方をする武将など、日の本広しといえどただひとりしかいない。
――奥州筆頭・伊達政宗。
その名が浮かんだときにはすでに、頭から雷に打たれたような感覚だった。
片目を隠していてもなお端正な顔が、獰猛な獣のように笑ったのを見た。
その唇がなにごとかをつぶやく。しかし、幸村の耳にまで届かない。
片目を隠していてもなお端正な顔が、獰猛な獣のように笑ったのを見た。
その唇がなにごとかをつぶやく。しかし、幸村の耳にまで届かない。
そして、