元就の質問に、元親は口を尖らせながら答える。
女性の平均を通り越えて、元親の身長は、男の元就ですら僅かに上回っている。
そんな元親に、小柄な女性の着物など着れる筈がなかったのだ。
うっかりその事を失念していた元就は、思わず元親から視線を反らせた。
無言の元就を他所に、元親は畳の上に正座をすると、羽織のように肩に掛けた着
物の、細やかな刺繍に目を細めた。
「でも、この着物とっても綺麗だな。持ち主の趣味の良さが、あらわれてる」
「……母が着ていたものだ」
「そうなんだ?…きっと、素敵な女性(ヒト)だったんだろうな」
さらり、と元親の口から出た科白(せりふ)に、元就は訝しげな表情をする。
「何故、貴様にそのような事が判る」
「え?何でって…そんなの、この着物見れば判るじゃねぇか」
「我の母を見た事もないヤツが、偉そうな口をきくな」
「おい…!」
「それと、」
元親に口を挟ませないようにして、元就は言葉を続ける。
「我の母の着物に袖を通しているのなら、その汚い言葉遣いをどうにかしろ。仮に
も貴様、女であろう」
取り付く島もない元就の態度に、元親は彼にこれ以上言う気が失せていくのを覚
えた。
「……この判らず屋」
「何か言ったか」
「別に。『ただの独り言にございますわ、毛利殿』」
まるで、珍妙なものでも見るかのような元就の視線に構わず、元親はフン、と鼻
を鳴らせた。
瀬戸内のカイとゲルダ12
女性の平均を通り越えて、元親の身長は、男の元就ですら僅かに上回っている。
そんな元親に、小柄な女性の着物など着れる筈がなかったのだ。
うっかりその事を失念していた元就は、思わず元親から視線を反らせた。
無言の元就を他所に、元親は畳の上に正座をすると、羽織のように肩に掛けた着
物の、細やかな刺繍に目を細めた。
「でも、この着物とっても綺麗だな。持ち主の趣味の良さが、あらわれてる」
「……母が着ていたものだ」
「そうなんだ?…きっと、素敵な女性(ヒト)だったんだろうな」
さらり、と元親の口から出た科白(せりふ)に、元就は訝しげな表情をする。
「何故、貴様にそのような事が判る」
「え?何でって…そんなの、この着物見れば判るじゃねぇか」
「我の母を見た事もないヤツが、偉そうな口をきくな」
「おい…!」
「それと、」
元親に口を挟ませないようにして、元就は言葉を続ける。
「我の母の着物に袖を通しているのなら、その汚い言葉遣いをどうにかしろ。仮に
も貴様、女であろう」
取り付く島もない元就の態度に、元親は彼にこれ以上言う気が失せていくのを覚
えた。
「……この判らず屋」
「何か言ったか」
「別に。『ただの独り言にございますわ、毛利殿』」
まるで、珍妙なものでも見るかのような元就の視線に構わず、元親はフン、と鼻
を鳴らせた。
瀬戸内のカイとゲルダ12




