「入口低いから、頭打たないように気を付けて」
先に部屋に入った元親は、行灯を点すと元就を招き入れる。
船内にある元親の部屋は、こじんまりとした中にも、本人の特徴が良く醸し出さ
れた空間が広がっていた。
南蛮渡来と見られる刺繍がふんだんに施された敷物に、日の本と、元就には良く
判らない異国の地図が、壁に飾られている。
その他、兵器の部品や欠片が無造作に棚の上に並べられている一方で、段差の付
いた場所にある寝床の傍には、多少色褪せてしまってはいるが、子供の頃に愛用
していたと思しき手鞠や人形が、ひっそりと鎮座していた。
元親は、寝床の脇にある木枠の窓を開けると、そこから差し込んできた光に目を
細める。
月の光に照らされた元親は、衣装も手伝ってか、まるで異国の姫君そのものに見
えた。
「この部屋に誰かを通したのは、元就が最初だよ」
「そうなのか」
「みんなは、私に用がある時は扉の前で声を掛けてくるけど、決して入って来な
かったから。私も…部屋の中見られるの恥ずかしかったし、掃除も手入れもすべ
て、自分でやって来たの。でも…」
一旦言葉を切った元親は、視線を床に落とす。
「もう…この部屋も無くなるのかな」
「……」
「勘違いしないでね。元就と結婚出来たのは、勿論嬉しいよ。ただ、ちょっと寂
しいだけ…」
元就に出会わなければ、こうして誰かに嫁ぐどころか、女としての生き方など見
込める筈もなかった。
たとえ何かの気紛れだとしても、こんな自分を求めてくれた彼に、元親は本当に
感謝しているのだ。
寝床の段差を下りて、自分に近付いてきた元親の身体を抱き寄せると、元就は、
何度も何度も彼女の銀糸を梳いてやる。
こんな時、気の利いた言葉のひとつでも聞かせてやる事が出来ればいいのに、不
器用な自分がもどかしくてならない。
だが、元親はそんな元就の想いを判っているのか、嬉しそうに微笑んだ。
抱き合う事で、互いの鼓動が時を刻む毎に速度を増しているのを感じる。
逸る心を抑えつつ、元就は元親の耳元や首筋に口付けを落としながら、元親の衣
服に手をかける。
しかし、何故か元親はその手をやんわりと押し戻すと、元就から僅かに離れた。
訝しげに見つめ返していると、元親は自らの手で服を脱ぎ始めた。
「元親…?」
「ずっと、決めてたんだ。初めての夜はこうしようって。前みたいに、強制され
て脱ぐんじゃなくて、自分で元就の前で裸になろうって」
元就の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。
今にして思えば、稚拙な感情に振り回された挙げ句、敵だったとはいえ元親を必
要以上に辱めた事実が、自責の念となって元就の胸にちくり、と刺さる。
だが、あの時とは違い、服を脱ぎ続ける元親の表情は穏やかだった。
時折、少しだけ恥ずかしそうに横を向く事はあっても、決して手を止めたりはせ
ず、やがて一糸纏わぬ姿になった元親は、再び元就の前へと歩み寄った。
まるで、周囲に爽やかな風でも吹いているのか、仄かに銀髪を揺らせながら、全
裸の元親は、ゆっくりと元就を見つめてきた。
先に部屋に入った元親は、行灯を点すと元就を招き入れる。
船内にある元親の部屋は、こじんまりとした中にも、本人の特徴が良く醸し出さ
れた空間が広がっていた。
南蛮渡来と見られる刺繍がふんだんに施された敷物に、日の本と、元就には良く
判らない異国の地図が、壁に飾られている。
その他、兵器の部品や欠片が無造作に棚の上に並べられている一方で、段差の付
いた場所にある寝床の傍には、多少色褪せてしまってはいるが、子供の頃に愛用
していたと思しき手鞠や人形が、ひっそりと鎮座していた。
元親は、寝床の脇にある木枠の窓を開けると、そこから差し込んできた光に目を
細める。
月の光に照らされた元親は、衣装も手伝ってか、まるで異国の姫君そのものに見
えた。
「この部屋に誰かを通したのは、元就が最初だよ」
「そうなのか」
「みんなは、私に用がある時は扉の前で声を掛けてくるけど、決して入って来な
かったから。私も…部屋の中見られるの恥ずかしかったし、掃除も手入れもすべ
て、自分でやって来たの。でも…」
一旦言葉を切った元親は、視線を床に落とす。
「もう…この部屋も無くなるのかな」
「……」
「勘違いしないでね。元就と結婚出来たのは、勿論嬉しいよ。ただ、ちょっと寂
しいだけ…」
元就に出会わなければ、こうして誰かに嫁ぐどころか、女としての生き方など見
込める筈もなかった。
たとえ何かの気紛れだとしても、こんな自分を求めてくれた彼に、元親は本当に
感謝しているのだ。
寝床の段差を下りて、自分に近付いてきた元親の身体を抱き寄せると、元就は、
何度も何度も彼女の銀糸を梳いてやる。
こんな時、気の利いた言葉のひとつでも聞かせてやる事が出来ればいいのに、不
器用な自分がもどかしくてならない。
だが、元親はそんな元就の想いを判っているのか、嬉しそうに微笑んだ。
抱き合う事で、互いの鼓動が時を刻む毎に速度を増しているのを感じる。
逸る心を抑えつつ、元就は元親の耳元や首筋に口付けを落としながら、元親の衣
服に手をかける。
しかし、何故か元親はその手をやんわりと押し戻すと、元就から僅かに離れた。
訝しげに見つめ返していると、元親は自らの手で服を脱ぎ始めた。
「元親…?」
「ずっと、決めてたんだ。初めての夜はこうしようって。前みたいに、強制され
て脱ぐんじゃなくて、自分で元就の前で裸になろうって」
元就の脳裏に、あの時の記憶が蘇る。
今にして思えば、稚拙な感情に振り回された挙げ句、敵だったとはいえ元親を必
要以上に辱めた事実が、自責の念となって元就の胸にちくり、と刺さる。
だが、あの時とは違い、服を脱ぎ続ける元親の表情は穏やかだった。
時折、少しだけ恥ずかしそうに横を向く事はあっても、決して手を止めたりはせ
ず、やがて一糸纏わぬ姿になった元親は、再び元就の前へと歩み寄った。
まるで、周囲に爽やかな風でも吹いているのか、仄かに銀髪を揺らせながら、全
裸の元親は、ゆっくりと元就を見つめてきた。
「毛利元就。貴方は、鬼ヶ島の鬼を…私のすべてを受け止めてくれる?」
「元親…」
「答えて。お願い」
左右異なる色を持つ元親の瞳が、ほんの少しだけ不安に揺らめく。
その美しい双眸と裸体に導かれるように、元就はゆっくりと言葉を綴った。
「……我は、独占欲が強いぞ。それこそ貴様がこの先『もうイヤだ』と言っても、
放す気などない。…海に愛されし鬼の名を持つ姫よ。それでも良いのか?」
「はい」
「元親…」
「答えて。お願い」
左右異なる色を持つ元親の瞳が、ほんの少しだけ不安に揺らめく。
その美しい双眸と裸体に導かれるように、元就はゆっくりと言葉を綴った。
「……我は、独占欲が強いぞ。それこそ貴様がこの先『もうイヤだ』と言っても、
放す気などない。…海に愛されし鬼の名を持つ姫よ。それでも良いのか?」
「はい」
迷いのない返事を聞いた元就は、押し寄せる衝動のままに、まるで噛み付くよう
な口付けをした。
そして、元親の膝裏と背に手を当てながら、その身体を抱き上げると、真っ直ぐ
寝所へと歩き始めた。
「わっ!も、元就!あ、危ないよ!重いから…!」
「重くなどない。花嫁ならば初夜の時くらい、大人しく男に任せていろ」
暴れる元親をそう言って黙らせると、「姫抱き」の状態で寝所へ進んだ元就は、彼
女の身体を褥の上に下ろし、自分も服を脱いで裸になる。
ぱさり、と布が落ちる音を聞きながら、元親は、これから自分に起こる少しだけ背
徳的な快楽に、その身を震わせていた。
褥の上で震える元親の、僅かに期待に満ちた表情を見て、元就はほの暗く醜い
欲望が、頭をもたげてくるのを覚えていた。
窓からの月の光と穏やかな海風が、優しくふたりを包んでくる。
視線を交したのを合図に、元親と元就は、深く深く互いを求め合った。
な口付けをした。
そして、元親の膝裏と背に手を当てながら、その身体を抱き上げると、真っ直ぐ
寝所へと歩き始めた。
「わっ!も、元就!あ、危ないよ!重いから…!」
「重くなどない。花嫁ならば初夜の時くらい、大人しく男に任せていろ」
暴れる元親をそう言って黙らせると、「姫抱き」の状態で寝所へ進んだ元就は、彼
女の身体を褥の上に下ろし、自分も服を脱いで裸になる。
ぱさり、と布が落ちる音を聞きながら、元親は、これから自分に起こる少しだけ背
徳的な快楽に、その身を震わせていた。
褥の上で震える元親の、僅かに期待に満ちた表情を見て、元就はほの暗く醜い
欲望が、頭をもたげてくるのを覚えていた。
窓からの月の光と穏やかな海風が、優しくふたりを包んでくる。
視線を交したのを合図に、元親と元就は、深く深く互いを求め合った。




