あれから、樽に入った自分が何処に運ばれたのかまでは判らないが、ふたりの声
が聞こえるという事は、先程よりも目的地に近付いた証拠である。
(…アラ、新たなラウンドに突入しちゃったのデスネ?イヤン、ダメよサンシ
ャイン。初夜のブライドに、ソンナ無体ナコトをシタラ!)
様々な障害物越しという不明瞭さではあるが、パシン、パシンという乾いた音と、
元親の悲鳴が交互に聞こえてくる。
やがて、その悲鳴が段々と情欲に溺れる甘さを帯びてくると、今度は元就による
言葉攻めが、地獄耳の如くザビーの聴覚を刺激してきた。
(…アナタ、典型的なイジメっ子デスネ…マア、オヤビンも満更じゃナサソウだ
し、合意の上ならノープロブレムでショウ……)
濃厚な新婚さん(一応)の営みに、早々に出血多量で脱落した別の樽にいる部下
を捨て置いて、ザビーは、ふたりへ突撃する機会を窺っていた。
ひと際高い嬌声が、情事の終わりを告げた後で、いわゆる「ピロートーク」が聞
こえてくる。
通常の彼らならともかく、今の彼らなら体力その他も衰えているだろうし、特に
元親は、元就の愛撫によって相当疲れている筈である。
「チャンスデース!今こそ呼ばレテ飛び出テ、ジャジャジャジャーン!…って、
アレ?さっきマデは簡単に開けられたフタが、閉まっテル!?」
樽に閉じ込められた状態で、ザビーがジタバタともがいていると、次の瞬間凄ま
じい衝撃が、足元から全身を襲って来た。
が聞こえるという事は、先程よりも目的地に近付いた証拠である。
(…アラ、新たなラウンドに突入しちゃったのデスネ?イヤン、ダメよサンシ
ャイン。初夜のブライドに、ソンナ無体ナコトをシタラ!)
様々な障害物越しという不明瞭さではあるが、パシン、パシンという乾いた音と、
元親の悲鳴が交互に聞こえてくる。
やがて、その悲鳴が段々と情欲に溺れる甘さを帯びてくると、今度は元就による
言葉攻めが、地獄耳の如くザビーの聴覚を刺激してきた。
(…アナタ、典型的なイジメっ子デスネ…マア、オヤビンも満更じゃナサソウだ
し、合意の上ならノープロブレムでショウ……)
濃厚な新婚さん(一応)の営みに、早々に出血多量で脱落した別の樽にいる部下
を捨て置いて、ザビーは、ふたりへ突撃する機会を窺っていた。
ひと際高い嬌声が、情事の終わりを告げた後で、いわゆる「ピロートーク」が聞
こえてくる。
通常の彼らならともかく、今の彼らなら体力その他も衰えているだろうし、特に
元親は、元就の愛撫によって相当疲れている筈である。
「チャンスデース!今こそ呼ばレテ飛び出テ、ジャジャジャジャーン!…って、
アレ?さっきマデは簡単に開けられたフタが、閉まっテル!?」
樽に閉じ込められた状態で、ザビーがジタバタともがいていると、次の瞬間凄ま
じい衝撃が、足元から全身を襲って来た。
元就は、全身で呼吸を繰り返す元親に手を伸ばすと、彼女の両手首に結ばれた襦
袢の紐を解いてやった。
結び目もかなり緩く、所詮形ばかりの戒めではあったが、大人しくそれに甘んじ
ていた元親を見ている内に、己の中の嗜虐心が妙に昂揚してしまい、その結果か
なりの無茶をさせてしまった。
元就の雄を受け入れた元親のふたつの秘所からは、未だ白濁の粘液が零れ続けて
いるし、それ以外にも、彼が日頃から携帯している折り畳み式の采配による戯れ
の痕が、元親の弾力の良い尻や白い背中にうっすらと残っている。
名前を呼ぶと、何処かとろんとした目つきが、返事の代わりに元就に向けられた。
「すまぬ、夢中になり過ぎた…」
「……平気…でも、随分激しかったね……まさかあんなコトまで…その……」
先程の情事を思い出したのか、元親は言い淀むと、真っ赤になった顔を両手で
覆う。
「恥ずかしがる事はない。それだけ、我と『お前』の身体の相性が良いという
事だ」
「ん…」
自分の手を取る元就に頷くと、元親は近付いてきた唇を、軽く触れ合わせる。
暫く元就の胸に顔を寄せていた元親だったが、不意に窓の外へ視線を移すと、夜
空を彩る星を眩しそうに見上げた。
「眠れない時…良くこうして、窓の外を眺めるんだ」
「元親?」
「道標となる星や、輝く月や、波の音…それらすべてが、私やみんなを守ってく
れているみたいで…見つめ過ぎて気が付くと夜明けだった、なんて事もあったん
だよ」
「……」
「…でも、これで見納めだね」
「──時々なら、構わぬぞ」
思わぬ科白を耳にした元親は、上体を起こすと元就を見る。
「どうせ、陸(おか)で大人しく居座り続ける事など、お前には出来ぬだろう?
長曾我部とは今後も交流が続いていくのだし、交渉次第によっては、お前が出向
いた方が、都合良く事が運ぶ場合もある」
「……いいの?」
「ただし、これだけは忘れるな。お前が戻る場所は我の隣だ。たとえ海を渡り、
中国を離れる事はあっても、必ず我の下へ戻って来い。…良いな」
「うん…うん!有難う元就!」
心の底から嬉しそうに笑った元親は、勢い良く元就に抱き付いた。
やや慌てた動作で元親を受け止めた元就は、押し付けられた胸の弾力に少しだけ
咳き込むと、ぎこちなくだが口元を綻ばせる。
滑りの良い銀髪に指を絡めながら、元就もまた窓の外に広がる星々を眺めた。
袢の紐を解いてやった。
結び目もかなり緩く、所詮形ばかりの戒めではあったが、大人しくそれに甘んじ
ていた元親を見ている内に、己の中の嗜虐心が妙に昂揚してしまい、その結果か
なりの無茶をさせてしまった。
元就の雄を受け入れた元親のふたつの秘所からは、未だ白濁の粘液が零れ続けて
いるし、それ以外にも、彼が日頃から携帯している折り畳み式の采配による戯れ
の痕が、元親の弾力の良い尻や白い背中にうっすらと残っている。
名前を呼ぶと、何処かとろんとした目つきが、返事の代わりに元就に向けられた。
「すまぬ、夢中になり過ぎた…」
「……平気…でも、随分激しかったね……まさかあんなコトまで…その……」
先程の情事を思い出したのか、元親は言い淀むと、真っ赤になった顔を両手で
覆う。
「恥ずかしがる事はない。それだけ、我と『お前』の身体の相性が良いという
事だ」
「ん…」
自分の手を取る元就に頷くと、元親は近付いてきた唇を、軽く触れ合わせる。
暫く元就の胸に顔を寄せていた元親だったが、不意に窓の外へ視線を移すと、夜
空を彩る星を眩しそうに見上げた。
「眠れない時…良くこうして、窓の外を眺めるんだ」
「元親?」
「道標となる星や、輝く月や、波の音…それらすべてが、私やみんなを守ってく
れているみたいで…見つめ過ぎて気が付くと夜明けだった、なんて事もあったん
だよ」
「……」
「…でも、これで見納めだね」
「──時々なら、構わぬぞ」
思わぬ科白を耳にした元親は、上体を起こすと元就を見る。
「どうせ、陸(おか)で大人しく居座り続ける事など、お前には出来ぬだろう?
長曾我部とは今後も交流が続いていくのだし、交渉次第によっては、お前が出向
いた方が、都合良く事が運ぶ場合もある」
「……いいの?」
「ただし、これだけは忘れるな。お前が戻る場所は我の隣だ。たとえ海を渡り、
中国を離れる事はあっても、必ず我の下へ戻って来い。…良いな」
「うん…うん!有難う元就!」
心の底から嬉しそうに笑った元親は、勢い良く元就に抱き付いた。
やや慌てた動作で元親を受け止めた元就は、押し付けられた胸の弾力に少しだけ
咳き込むと、ぎこちなくだが口元を綻ばせる。
滑りの良い銀髪に指を絡めながら、元就もまた窓の外に広がる星々を眺めた。
かつて、夜はろくに空どころか満足に外出する事のなかった元就だったが、こう
して数多(あまた)の小さな光の粒を眺めていると、日輪とは違った美しさもあ
るのだな、とほんの少し認識を改めていた。
否、今ではその日輪と同等、あるいはそれにも勝る輝きが、自分のすぐ近くにあ
る。
少々癪なので本人の前では絶対に言わないが、長年自分が被り続けていた「氷の
面」を、いとも簡単に溶かし、叩き割ってしまったこの『姫』は、心の何処かで
人の温もりを渇望していた自分の為に、神か仏が遣わせたのかも知れない。
神仏の使いにしては、少々大柄であけすけだが、元就はこの『鬼』の姿を借りた
純粋な『姫』が、本当に気に入っているのだ。
して数多(あまた)の小さな光の粒を眺めていると、日輪とは違った美しさもあ
るのだな、とほんの少し認識を改めていた。
否、今ではその日輪と同等、あるいはそれにも勝る輝きが、自分のすぐ近くにあ
る。
少々癪なので本人の前では絶対に言わないが、長年自分が被り続けていた「氷の
面」を、いとも簡単に溶かし、叩き割ってしまったこの『姫』は、心の何処かで
人の温もりを渇望していた自分の為に、神か仏が遣わせたのかも知れない。
神仏の使いにしては、少々大柄であけすけだが、元就はこの『鬼』の姿を借りた
純粋な『姫』が、本当に気に入っているのだ。




