「何故、ここまで帰還が遅れた。一体何処で油を売っていた」
案の定、眉間に皺を寄せながら、船に乗り込んできた元就は、憮然とした表情
で元親に詰問した。
「毛利の旦那。そんな言い方はねぇでしょうが」
「そうですよ、元就様。元親様は、貴方の名代として本当に良く…」
「貴様らのたわ言など聞いてはおらぬ。我は、元親に尋ねておるのだ」
元親を庇おうとする部下すら腹立たしく、元就は更に厳しい口調で元親に言葉
をぶつける。
「わ、悪ぃ元就。向こうにいた時に悪天候に見舞われて、帰りの出航が遅…」
「言い訳は無用だ。他に我に言う事はないのか」
「……心配かけて、本当にごめんなさい」
「──フン」
うな垂れた様子で謝罪する元親を見て、無表情のままではあるが、元就は漸く
溜飲を下げた。
「あ、元就。交渉先の人から色々お土産とか貰ったんだけど……」
「いらぬ。それよりさっさと屋敷に戻り、着替えて来い。我は戦や遠征を除い
ては、お前にその姿に戻る事を許した覚えはない」
「…はい」
力なく返した元親は、とぼとぼと船を下りる。
だが、陸地に一歩足を踏み入れた途端、元親はガクリと態勢を崩すと、地面に
へたり込んでしまった。
「お嬢!」
「元親様!?」
ざわつく周囲につられて、元就も僅かに顔色を変えたが、厳しい事を言った手
前近付く事が出来ず、元親を見下ろしたままでいる。
「へ…へへ。久々の陸だから、ちょっと感覚が狂っちゃったかな?」
照れ隠しに笑いながら、元親は立ち上がろうとしたが、思うように力が入らな
い。
自分は一体どうしてしまったのだろう、と途方に暮れていると、それまで帆柱
の頂で羽を休めていた元親のオウムが、小気味良い羽音を立てながら舞い下り
て来た。
案の定、眉間に皺を寄せながら、船に乗り込んできた元就は、憮然とした表情
で元親に詰問した。
「毛利の旦那。そんな言い方はねぇでしょうが」
「そうですよ、元就様。元親様は、貴方の名代として本当に良く…」
「貴様らのたわ言など聞いてはおらぬ。我は、元親に尋ねておるのだ」
元親を庇おうとする部下すら腹立たしく、元就は更に厳しい口調で元親に言葉
をぶつける。
「わ、悪ぃ元就。向こうにいた時に悪天候に見舞われて、帰りの出航が遅…」
「言い訳は無用だ。他に我に言う事はないのか」
「……心配かけて、本当にごめんなさい」
「──フン」
うな垂れた様子で謝罪する元親を見て、無表情のままではあるが、元就は漸く
溜飲を下げた。
「あ、元就。交渉先の人から色々お土産とか貰ったんだけど……」
「いらぬ。それよりさっさと屋敷に戻り、着替えて来い。我は戦や遠征を除い
ては、お前にその姿に戻る事を許した覚えはない」
「…はい」
力なく返した元親は、とぼとぼと船を下りる。
だが、陸地に一歩足を踏み入れた途端、元親はガクリと態勢を崩すと、地面に
へたり込んでしまった。
「お嬢!」
「元親様!?」
ざわつく周囲につられて、元就も僅かに顔色を変えたが、厳しい事を言った手
前近付く事が出来ず、元親を見下ろしたままでいる。
「へ…へへ。久々の陸だから、ちょっと感覚が狂っちゃったかな?」
照れ隠しに笑いながら、元親は立ち上がろうとしたが、思うように力が入らな
い。
自分は一体どうしてしまったのだろう、と途方に暮れていると、それまで帆柱
の頂で羽を休めていた元親のオウムが、小気味良い羽音を立てながら舞い下り
て来た。
「モトチカ」
変わらぬ声色で自分の名を呼ぶ愛鳥に、元親は幾分か気持ちを落ち着かせると、
肩越しにオウムを見た。
「モトチカ。オタカラ」
「オタカラ?…ああ、船に沢山積んであったろ。それがどうかしたのか?」
「モトチカ、オタカラ、オタカラ」
ところが元親の返事にも構わず、オウムは元親の周りをパタパタと飛び回るだ
けである。
不審に思っている飼い主を余所に、オウムは更に言葉を続けてきた。
「モトチカ、モトナリ」
「こやつ、いつの間に我の名を…?」
「モトチカ、モトナリ。──オタカラ」
「…え?」
オウムは、更に近付くと、坐り込んでいる元親の下腹の辺りで止まった。
「オタカラ。モトチカ、モトナリ、オタカラ」と何度も繰り返し呟きながら、
彼女の腹に頬擦りをする。
「うそ…まさか……」
そういえば、遠征に出掛けてからずっと、月のものが遅れている事に気付いた
元親は、思わず両手で腹を押さえた。
とにかく、身体を休める為にも屋敷に戻らなくては、と思い直し、愛用の武器
を杖代わりに立ち上がろうとする。
変わらぬ声色で自分の名を呼ぶ愛鳥に、元親は幾分か気持ちを落ち着かせると、
肩越しにオウムを見た。
「モトチカ。オタカラ」
「オタカラ?…ああ、船に沢山積んであったろ。それがどうかしたのか?」
「モトチカ、オタカラ、オタカラ」
ところが元親の返事にも構わず、オウムは元親の周りをパタパタと飛び回るだ
けである。
不審に思っている飼い主を余所に、オウムは更に言葉を続けてきた。
「モトチカ、モトナリ」
「こやつ、いつの間に我の名を…?」
「モトチカ、モトナリ。──オタカラ」
「…え?」
オウムは、更に近付くと、坐り込んでいる元親の下腹の辺りで止まった。
「オタカラ。モトチカ、モトナリ、オタカラ」と何度も繰り返し呟きながら、
彼女の腹に頬擦りをする。
「うそ…まさか……」
そういえば、遠征に出掛けてからずっと、月のものが遅れている事に気付いた
元親は、思わず両手で腹を押さえた。
とにかく、身体を休める為にも屋敷に戻らなくては、と思い直し、愛用の武器
を杖代わりに立ち上がろうとする。




