オリキャラ登場させます。
兵卒の僕くんですと、ちょっと性格が優しすぎたので。
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兵卒の僕くんですと、ちょっと性格が優しすぎたので。
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――こともあろうに、元就様にあのような下卑た顔を近づけおって。
毛利軍の防衛隊ひとつを任される兵士は、今、長曾我部元親が心底憎くて堪らなかった。
それは、彼ほど激しい感情ではなくとも、彼の隊の兵はみな同じ気持ちである。
我らが清い元就様を、あからさまに卑しい目で見るなど許されぬ事。
さっきから見ていれば、総大将だというのに兵卒達と変わらぬ振る舞いをし、
ごそごそ話す事と言えばやれ腰がどうの脚が胸がとまったく無礼極まりない。
どうやら元就様のお耳には届いていないようだが、それでもいつ何時毒牙を向けるかわからぬ。
同盟など、ご破算になればいい。そうすればあの下品な男を討ち取れるというに。
毛利軍の防衛隊ひとつを任される兵士は、今、長曾我部元親が心底憎くて堪らなかった。
それは、彼ほど激しい感情ではなくとも、彼の隊の兵はみな同じ気持ちである。
我らが清い元就様を、あからさまに卑しい目で見るなど許されぬ事。
さっきから見ていれば、総大将だというのに兵卒達と変わらぬ振る舞いをし、
ごそごそ話す事と言えばやれ腰がどうの脚が胸がとまったく無礼極まりない。
どうやら元就様のお耳には届いていないようだが、それでもいつ何時毒牙を向けるかわからぬ。
同盟など、ご破算になればいい。そうすればあの下品な男を討ち取れるというに。
激しすぎる気性のこの男は、百姓の出であった。
ただ農作物を作り、戦に怯える日々で一生を終えるくらいなら、
戦場に身を投じて立身出世の夢を追いかける方がいい。屠られるより喰らう立場になりたい。
そうして、土地の支配者である毛利の軍に入ったのだが、そこでの生活は思っていたより平穏なものであった。
まず、国主の元就は、進んで他国を攻め入る性質ではなかった。
男が兵士になった頃には毛利はすでに中国全てを手中にしており、
後はほとんどを防衛戦に徹するばかりであったから。
たぎる血を抑えながらの、訓練するばかりの毎日が苦痛で、
いっそ織田にでも行こうかと思案するある日、男の考えを変える出来事があった。
ただ農作物を作り、戦に怯える日々で一生を終えるくらいなら、
戦場に身を投じて立身出世の夢を追いかける方がいい。屠られるより喰らう立場になりたい。
そうして、土地の支配者である毛利の軍に入ったのだが、そこでの生活は思っていたより平穏なものであった。
まず、国主の元就は、進んで他国を攻め入る性質ではなかった。
男が兵士になった頃には毛利はすでに中国全てを手中にしており、
後はほとんどを防衛戦に徹するばかりであったから。
たぎる血を抑えながらの、訓練するばかりの毎日が苦痛で、
いっそ織田にでも行こうかと思案するある日、男の考えを変える出来事があった。
珍しく遠征に出た毛利軍は、これまた珍しく山中での総大将一騎打ちとなった。
それぞれの背後には僅かばかりの兵士がいるだけで、毛利の中には男もいた。
睨み合いがしばらく続く中、先に動いたのは敵大将であった。
焦れたように打って出る敵の動きを冷静に見て、元就は死角に入る。
そのまま輪刀で敵の喉を掻き切れば、敵は次の刹那、どう、と地に伏す。
残された敵兵士達は、勢いづいた毛利兵にあっけなく倒された。
いつもながら、勝利に喜ぶ顔一つ見せぬ己の大将を心のどこかで不甲斐なく感じていた男だったが、
この日は、少しだけ違った。
それぞれの背後には僅かばかりの兵士がいるだけで、毛利の中には男もいた。
睨み合いがしばらく続く中、先に動いたのは敵大将であった。
焦れたように打って出る敵の動きを冷静に見て、元就は死角に入る。
そのまま輪刀で敵の喉を掻き切れば、敵は次の刹那、どう、と地に伏す。
残された敵兵士達は、勢いづいた毛利兵にあっけなく倒された。
いつもながら、勝利に喜ぶ顔一つ見せぬ己の大将を心のどこかで不甲斐なく感じていた男だったが、
この日は、少しだけ違った。
禍々しく赤い落陽の空の下、元就は、ずれた兜を厭うように外す。
汗で張り付く髪を、神経質な指で左頬から掻きあげると、そこに切り傷を見つけた。
日差しと補色の衣装は、妖しく元就の身を周囲から際立たせる。
――まるで、内から光を放つ、人ならぬ者のように。
不意に訪れた異質の光景に、男たちはただ目を奪われてる。
「何を呆けておるか」
元就がそう口にすると、兵達は現実に戻される。
「も、元就様、お顔に…傷が」
男が近づいて、震える声でそう言えば、元就は今それで気付いたという風に、ああ、と応える。
胸元に敵の返り血を浴び、真白な頬は元就自身の血で染まっている。
汗と混じり立ち昇る血潮の匂いは、どんな女の香よりも男の鼻に心地よく広がる。
人は、――今の今まで自分自身もそうであったのだが、この毛利の総大将を人形と揶揄する。
冷徹で、血の通わぬ作り物、。
その認識がいかに愚かな事であったか、今、男は知る。
元就の唇に、頬を動かした拍子に溢れる血がたどり着く。
その味に不快そうに柳眉を寄せ、――夕日と同じ、赤い舌を覗かせ舐めとった。
男は、ぐらりと眩暈を覚えた。
元就の手に握られた刃にもまた鮮血。細い指には似つかわしくない無骨な血濡れの刃物。
たった今失われたばかりの敵大将の命は、元就の命になる。
(人形だと?これが?こんなにも、輝いて生きている女が?)
男は、学のない自分を恥じる。
この美しい主をどうやって讃えたらいい?
故郷の村や、城で働く女たちとは違う。
ただ男を待つばかりの女などとは。他国にも戦女はいるというが、
聞く話はどれも夫を支える為、だという。それでは駄目なのだ。
男がいなくては咲けない花など、既に惰弱の蜜で汚れている。
「落日には間に合ったな」
そう言って元就は陣地へ戻り始める。兵の姿になぞ目もくれずに。
男の心は決まった。
主が、人の手には決して届かぬ太陽を崇めるのと同じように、
自らもこの孤高の花に命を捧げよう。
誰にも心を寄せぬ、だからこそ清らかなままでいる、
白く柔い肌の下に甘く匂い立つ血潮を隠して刃を振るう戦巫女。
我らが元就様――。
汗で張り付く髪を、神経質な指で左頬から掻きあげると、そこに切り傷を見つけた。
日差しと補色の衣装は、妖しく元就の身を周囲から際立たせる。
――まるで、内から光を放つ、人ならぬ者のように。
不意に訪れた異質の光景に、男たちはただ目を奪われてる。
「何を呆けておるか」
元就がそう口にすると、兵達は現実に戻される。
「も、元就様、お顔に…傷が」
男が近づいて、震える声でそう言えば、元就は今それで気付いたという風に、ああ、と応える。
胸元に敵の返り血を浴び、真白な頬は元就自身の血で染まっている。
汗と混じり立ち昇る血潮の匂いは、どんな女の香よりも男の鼻に心地よく広がる。
人は、――今の今まで自分自身もそうであったのだが、この毛利の総大将を人形と揶揄する。
冷徹で、血の通わぬ作り物、。
その認識がいかに愚かな事であったか、今、男は知る。
元就の唇に、頬を動かした拍子に溢れる血がたどり着く。
その味に不快そうに柳眉を寄せ、――夕日と同じ、赤い舌を覗かせ舐めとった。
男は、ぐらりと眩暈を覚えた。
元就の手に握られた刃にもまた鮮血。細い指には似つかわしくない無骨な血濡れの刃物。
たった今失われたばかりの敵大将の命は、元就の命になる。
(人形だと?これが?こんなにも、輝いて生きている女が?)
男は、学のない自分を恥じる。
この美しい主をどうやって讃えたらいい?
故郷の村や、城で働く女たちとは違う。
ただ男を待つばかりの女などとは。他国にも戦女はいるというが、
聞く話はどれも夫を支える為、だという。それでは駄目なのだ。
男がいなくては咲けない花など、既に惰弱の蜜で汚れている。
「落日には間に合ったな」
そう言って元就は陣地へ戻り始める。兵の姿になぞ目もくれずに。
男の心は決まった。
主が、人の手には決して届かぬ太陽を崇めるのと同じように、
自らもこの孤高の花に命を捧げよう。
誰にも心を寄せぬ、だからこそ清らかなままでいる、
白く柔い肌の下に甘く匂い立つ血潮を隠して刃を振るう戦巫女。
我らが元就様――。




