「まったく、この程度の腕でお館様の寝首を掻こうだなんてね」
冷たく澄んだ夜気はその静寂を保ち、ただその場にあるのは濃い血の臭いと動かない肉の塊。
生も死もすべては一瞬、日常の裏にある、それが忍びの定めだ。
生も死もすべては一瞬、日常の裏にある、それが忍びの定めだ。
「長」
身を細くした月が殺戮が終わるのを待っていたかのように顔を覗かせると、長と呼ばれた人物の橙の髪やほっそりとした身体が照らし出された。名を猿飛佐助といい、若くして名高い真田忍隊の長に就いた手錬れの忍びである。
「…後始末は任せたよ」
血に濡れた苦無を仕舞いこむと、佐助はぱっくりと喉を裂かれた死体を見下ろした。
「長は」
「俺はお館様に報告。…まあ、お取り込む中じゃなかったらね」
「俺はお館様に報告。…まあ、お取り込む中じゃなかったらね」
へらりと笑いながら肩を竦めたその様は忍びには不似合いな軽薄さだ。
だが、信玄の歳に合わぬ好色さを揶揄する佐助に笑い返すものも侮るものもいない。
忍びらしからぬ情に溢れた言葉をかけ、忍びらしからぬほど表情豊かな佐助であるが、その心身は忍びそのもの。
軽く言いつけた『後始末』も、部下を試しているのだ。
だが、信玄の歳に合わぬ好色さを揶揄する佐助に笑い返すものも侮るものもいない。
忍びらしからぬ情に溢れた言葉をかけ、忍びらしからぬほど表情豊かな佐助であるが、その心身は忍びそのもの。
軽く言いつけた『後始末』も、部下を試しているのだ。
「それじゃ、後はよろしく」
にこりと人好きのする笑みを浮かべ、次の瞬間には佐助の姿はもうなかった。
にこりと人好きのする笑みを浮かべ、次の瞬間には佐助の姿はもうなかった。




