「長曾我部殿は、何を食ろうてそんなに大きゅうなれたのか、と話しておった。」
真顔で、しれっと嘘をつく元就。
当然元親は、そうじゃねぇだろ、と気付いていたが突っ込んでも詮無い事と無視した。
かわりに、にやりと笑って答える。
「はは、そうだな」と、元就の小さな顎をついと摘まみ、
「何でも美味しく頂くぜ?」
持ち上げられた元就の目は、一瞬きょと、と丸くなったが、すぐに不愉快気に細められる。
足元に置いていた采配で元親の腕は叩かれた。
元就は、今の元親の態度に顔には出さず憤慨した。
お互い小国を自分の代で大きくした者同士であるから、ただ厭うばかりの人物ではないとも評価する。
しかし、国主としての威厳が全く無い。無いどころか子供のように誰彼構わずじゃれ合う始末。
そして今、元就も同じように扱われた。兵卒共にするのと同じように気安く触れられた。
腹立たしいこと極まりない。元就の整った眉根が寄る。
それを見た元親は、腕の痛みに怒りを覚えるどころかむしろますます楽しくなってきた。
(ちゃんと表情が動く。…人形なんかじゃなくて、こんなに可愛い、生きた女だ)
悪かったなぁ、と言いながら、元親は構わず砂に手を突き片膝を立てて座った。
元就は采配で口を隠し、尚も不機嫌さを隠さず元親を睨み付ける。
その様子すら猫が臆病さゆえに過度に威嚇するのと同じに見えて、元親は笑みを深めた。
「人に触られるのは嫌いか。」
「不要な馴れ合いは良しとはせぬ。」元就は目を逸らして、暗い砂の作る影を見る。
空から柔らかく落ちる光は今はない。代わりにあるのは篝火の立てる耳障りな音だけ。
「不要って、…楽しいじゃねぇか、じゃれ合うのは。」
元親はもう一度手を伸ばして、今度は元就の頭をぽんぽんと撫でてみる。
「いらぬ…っ」
またもや采配が風を切る音がして、元親目掛けて飛んできたが、彼はひょいとかわした。
冷たい口調も荒れてきた。(いいねぇ)本当は笑って欲しいのだけれども、今は更に怒らせてみよう。
「そぉかー?俺は好きだけどな。仲良くすんのも戦も、人と触れ合うのは良いモンだ」
「戦が、楽しいと申すか」
「ん?ああ」
少し、元就の声に含まれる色が変わった。かすかに驚きを含んでいるのを元親は聞いた。
「わからぬ。命を屠るのが楽しいと申すか。そなたは真の鬼か」
おや、と元親はまた別の一面を見た気がした。
(こう言うって事は、話に聞く『人の命を何とも思わぬ冷酷な智将』ってのは…)
「ああー…そういうのじゃなくてな、こう、エモノ振り回して、広い戦場を思うまま駆けてったり…」
「戦は児戯ではない」元親の言い分を強い語調で遮って言う。
「貴様は、己の楽しみの為に戦をするのか。兵も、大地も無駄に焼き払うとぬかすか!」
元就は一度ふるりと震えて、采配に顔を埋めた。
「…幼い男だ、長曾我部元親…」
搾り出すような声がうつむいて砂に染み、消える。
(しくじったか…?)
「毛利、」予想外の反応が見れたのは喜ばしいが、雲行きは悪くなってしまったようだ。
こうなれば何としてもこの女を抱きたい。意地かそれとも別の何かか。
元親は、がりりと頭を掻いて次の手を思案する。
真顔で、しれっと嘘をつく元就。
当然元親は、そうじゃねぇだろ、と気付いていたが突っ込んでも詮無い事と無視した。
かわりに、にやりと笑って答える。
「はは、そうだな」と、元就の小さな顎をついと摘まみ、
「何でも美味しく頂くぜ?」
持ち上げられた元就の目は、一瞬きょと、と丸くなったが、すぐに不愉快気に細められる。
足元に置いていた采配で元親の腕は叩かれた。
元就は、今の元親の態度に顔には出さず憤慨した。
お互い小国を自分の代で大きくした者同士であるから、ただ厭うばかりの人物ではないとも評価する。
しかし、国主としての威厳が全く無い。無いどころか子供のように誰彼構わずじゃれ合う始末。
そして今、元就も同じように扱われた。兵卒共にするのと同じように気安く触れられた。
腹立たしいこと極まりない。元就の整った眉根が寄る。
それを見た元親は、腕の痛みに怒りを覚えるどころかむしろますます楽しくなってきた。
(ちゃんと表情が動く。…人形なんかじゃなくて、こんなに可愛い、生きた女だ)
悪かったなぁ、と言いながら、元親は構わず砂に手を突き片膝を立てて座った。
元就は采配で口を隠し、尚も不機嫌さを隠さず元親を睨み付ける。
その様子すら猫が臆病さゆえに過度に威嚇するのと同じに見えて、元親は笑みを深めた。
「人に触られるのは嫌いか。」
「不要な馴れ合いは良しとはせぬ。」元就は目を逸らして、暗い砂の作る影を見る。
空から柔らかく落ちる光は今はない。代わりにあるのは篝火の立てる耳障りな音だけ。
「不要って、…楽しいじゃねぇか、じゃれ合うのは。」
元親はもう一度手を伸ばして、今度は元就の頭をぽんぽんと撫でてみる。
「いらぬ…っ」
またもや采配が風を切る音がして、元親目掛けて飛んできたが、彼はひょいとかわした。
冷たい口調も荒れてきた。(いいねぇ)本当は笑って欲しいのだけれども、今は更に怒らせてみよう。
「そぉかー?俺は好きだけどな。仲良くすんのも戦も、人と触れ合うのは良いモンだ」
「戦が、楽しいと申すか」
「ん?ああ」
少し、元就の声に含まれる色が変わった。かすかに驚きを含んでいるのを元親は聞いた。
「わからぬ。命を屠るのが楽しいと申すか。そなたは真の鬼か」
おや、と元親はまた別の一面を見た気がした。
(こう言うって事は、話に聞く『人の命を何とも思わぬ冷酷な智将』ってのは…)
「ああー…そういうのじゃなくてな、こう、エモノ振り回して、広い戦場を思うまま駆けてったり…」
「戦は児戯ではない」元親の言い分を強い語調で遮って言う。
「貴様は、己の楽しみの為に戦をするのか。兵も、大地も無駄に焼き払うとぬかすか!」
元就は一度ふるりと震えて、采配に顔を埋めた。
「…幼い男だ、長曾我部元親…」
搾り出すような声がうつむいて砂に染み、消える。
(しくじったか…?)
「毛利、」予想外の反応が見れたのは喜ばしいが、雲行きは悪くなってしまったようだ。
こうなれば何としてもこの女を抱きたい。意地かそれとも別の何かか。
元親は、がりりと頭を掻いて次の手を思案する。




