──こいつは、政宗様に良く似ている。
はじめて『西海の鬼』の姿を垣間見た瞬間、小十郎は無意識にそんな印象を抱いていた。
政宗とは対の隻眼(正確には違うが)を持つ、この大柄な女性が、どうした訳だかとても気になったのだ。
(……だが、あくまで『似ている』だけだ。コイツは、政宗様ではない)
己の中に仄かに芽生えていた得体の知れぬ感情を、多少手こずりながらも押し込めると、小十郎は、小憎らしいまでに不敵な面構えの元親を見据えた。
「アンタは、『竜の右目』を自負しているようだけれど…これだけは覚えときな。アンタの行動次第では、その竜の『左目』すら、濁らせるおそれがあるって事を」
「……ちっとオトコが出来たくらいで、いい気になってんじゃねえぞ。政宗様は、お前と違って相手を吟味してる最中なんだよ」
元親の指摘を否定しきれない事から、半ば八つ当たり紛いの言葉を口にした小十郎だったが、直後、明らかに顔色が悪くなった元親を見て、失言だったと僅かに後悔した。
「……やっぱり、アンタもそう思ってんのか?」
「こ、言葉のあやだ。今のは俺が言い過ぎた」
「──別にいいよ。アンタの言うとおり、俺は政宗と違って、男の選択肢は、本当
に狭いから」
寂しそうに笑った元親は、己の白い手首を擦り合わせる。
「それに……今度ここに来る時には、俺はきっと、アイツに捨てられてるだろうし」
「……?」
俯きながら言葉を続ける元親の姿が、小十郎の目には、何故かたおやかな姫君のように見えていた。
はじめて『西海の鬼』の姿を垣間見た瞬間、小十郎は無意識にそんな印象を抱いていた。
政宗とは対の隻眼(正確には違うが)を持つ、この大柄な女性が、どうした訳だかとても気になったのだ。
(……だが、あくまで『似ている』だけだ。コイツは、政宗様ではない)
己の中に仄かに芽生えていた得体の知れぬ感情を、多少手こずりながらも押し込めると、小十郎は、小憎らしいまでに不敵な面構えの元親を見据えた。
「アンタは、『竜の右目』を自負しているようだけれど…これだけは覚えときな。アンタの行動次第では、その竜の『左目』すら、濁らせるおそれがあるって事を」
「……ちっとオトコが出来たくらいで、いい気になってんじゃねえぞ。政宗様は、お前と違って相手を吟味してる最中なんだよ」
元親の指摘を否定しきれない事から、半ば八つ当たり紛いの言葉を口にした小十郎だったが、直後、明らかに顔色が悪くなった元親を見て、失言だったと僅かに後悔した。
「……やっぱり、アンタもそう思ってんのか?」
「こ、言葉のあやだ。今のは俺が言い過ぎた」
「──別にいいよ。アンタの言うとおり、俺は政宗と違って、男の選択肢は、本当
に狭いから」
寂しそうに笑った元親は、己の白い手首を擦り合わせる。
「それに……今度ここに来る時には、俺はきっと、アイツに捨てられてるだろうし」
「……?」
俯きながら言葉を続ける元親の姿が、小十郎の目には、何故かたおやかな姫君のように見えていた。
一方その頃。
残された政宗と幸村は、暫し呆然と元親たちの去った方角を眺めていたが、
「ま、政宗ど」
「ゆ、幸む」
互いを呼びかけようとする声が、見事に重なってしまい、ふたりは慌てふためいた。
「ももも申し訳ござらん!な、何用でござるか!?」
「い、い、いいから!お前が先に言えよ!」
ガクガクとお辞儀を繰り返す幸村に、政宗も壊れたカラクリのように、手をぶんぶんと振り続ける。
「そ、それでは…じ、実はそれがし、お館様から多めに使いの日数を頂戴しまして、この度暫くの間、奥州に滞在する事にしたのでござる」
「ほ…本当か?」
「はい」
嬉しそうに頷いた幸村に、政宗は自分の胸が期待に高鳴るのを覚えた。
「な、なら、ウチに来ればいいじゃないか。客間は余ってるし、遠慮なんかしなくてい
いぜ?」
「勿体無きお言葉にございます。ですが、もう滞在先の宿は確保いたしました故、お気
持ちだけ頂いておきます」
「cancelしろよ。こっちの方が設備も居心地も上等だぞ?」
「しかし…今、政宗殿は、元親殿という長曾我部の当主をお迎えしていらっしゃる。そのような場所に、それがし如き一介の武士が、割り込む道理はございませぬ」
「…オマエまで、『小姑郎(こじゅうろう)』みたいな事言いやがって」
「……何だか、字面が違いませぬか?」
「いいんだよ、あんなヤツ『小姑郎』で!」
そう言って拗ねてしまった政宗に、幸村は少しだけ困ったように眉根を寄せた。
残された政宗と幸村は、暫し呆然と元親たちの去った方角を眺めていたが、
「ま、政宗ど」
「ゆ、幸む」
互いを呼びかけようとする声が、見事に重なってしまい、ふたりは慌てふためいた。
「ももも申し訳ござらん!な、何用でござるか!?」
「い、い、いいから!お前が先に言えよ!」
ガクガクとお辞儀を繰り返す幸村に、政宗も壊れたカラクリのように、手をぶんぶんと振り続ける。
「そ、それでは…じ、実はそれがし、お館様から多めに使いの日数を頂戴しまして、この度暫くの間、奥州に滞在する事にしたのでござる」
「ほ…本当か?」
「はい」
嬉しそうに頷いた幸村に、政宗は自分の胸が期待に高鳴るのを覚えた。
「な、なら、ウチに来ればいいじゃないか。客間は余ってるし、遠慮なんかしなくてい
いぜ?」
「勿体無きお言葉にございます。ですが、もう滞在先の宿は確保いたしました故、お気
持ちだけ頂いておきます」
「cancelしろよ。こっちの方が設備も居心地も上等だぞ?」
「しかし…今、政宗殿は、元親殿という長曾我部の当主をお迎えしていらっしゃる。そのような場所に、それがし如き一介の武士が、割り込む道理はございませぬ」
「…オマエまで、『小姑郎(こじゅうろう)』みたいな事言いやがって」
「……何だか、字面が違いませぬか?」
「いいんだよ、あんなヤツ『小姑郎』で!」
そう言って拗ねてしまった政宗に、幸村は少しだけ困ったように眉根を寄せた。
「……そのオトコとは、話し合ったのか?」
疎ましい、と思っていた筈の元親が元気をなくしているのを、どうしても捨て置け
ず、小十郎は僅かに口調を和らげると、元親に問い掛けた。
「アイツにとって、俺との会話なんて何の意味もねぇよ。アイツは、色恋沙汰とい
う名の盤上を、俺という駒が上手に動けば、それで満足なんだから」
「戦じゃあるめぇし、んな訳ねえだろうが。お前だって、ソイツを憎からず思って
るから、そういう仲になったんだろう?」
「……判んない」
「判んねぇって…仮にも、契った相手じゃねぇのかよ」
「だって…契ったって言っても……俺、アイツに強姦されたから」
疎ましい、と思っていた筈の元親が元気をなくしているのを、どうしても捨て置け
ず、小十郎は僅かに口調を和らげると、元親に問い掛けた。
「アイツにとって、俺との会話なんて何の意味もねぇよ。アイツは、色恋沙汰とい
う名の盤上を、俺という駒が上手に動けば、それで満足なんだから」
「戦じゃあるめぇし、んな訳ねえだろうが。お前だって、ソイツを憎からず思って
るから、そういう仲になったんだろう?」
「……判んない」
「判んねぇって…仮にも、契った相手じゃねぇのかよ」
「だって…契ったって言っても……俺、アイツに強姦されたから」
瀬戸内近隣の諸国同士の会合、という名目で、他国の大名達と共に四国に訪れた彼
は、長曾我部の所有する船や重機に興味を示してきた。
彼の家と同盟が組めれば、こちらにも有利に働くと考えた長曾我部の一族は、重機
に詳しい事もあり、当主の元親を案内役に、彼を重機その他の眠る倉庫へと連れて
行ったのだった。
そんな矢先に起こった、突然の出来事。
それまで元親の説明に耳を傾けていた筈の彼は、不意に元親に近付くと、彼女の首
筋に手刀を当てて来た。
思いもよらぬ一撃を受けた元親は、意識を失い、その場に崩れ落ちた。
そして気が付くと、元親は、両手を愛用の武器『八流』によって拘束され、倉庫の
壁際に張り付けられていたのだ。
は、長曾我部の所有する船や重機に興味を示してきた。
彼の家と同盟が組めれば、こちらにも有利に働くと考えた長曾我部の一族は、重機
に詳しい事もあり、当主の元親を案内役に、彼を重機その他の眠る倉庫へと連れて
行ったのだった。
そんな矢先に起こった、突然の出来事。
それまで元親の説明に耳を傾けていた筈の彼は、不意に元親に近付くと、彼女の首
筋に手刀を当てて来た。
思いもよらぬ一撃を受けた元親は、意識を失い、その場に崩れ落ちた。
そして気が付くと、元親は、両手を愛用の武器『八流』によって拘束され、倉庫の
壁際に張り付けられていたのだ。




