吉野(よしの)は、日本における代表的な地名の一つで、主に奈良県南部を指す広域的な呼称である。
概要
古代から文献に登場する歴史ある名称で、『古事記』や『日本書紀』に吉野の狩猟地としての記述が見られ、「よい野」「美しい野」「吉(よい)なる野」といった美称に由来するとされる。吉野の語源は狩猟に適した豊かな自然環境を表すもので、吉(よい・めでたい)の意が込められた地名として、古来より多くの和歌や文学に詠まれてきた。狭義には奈良県吉野郡吉野町を中心とする吉野山一帯を指し、特に金峯山寺(きんぷせんじ)を中心とした山岳地帯が有名である。この地域は桜の名所として全国的に知られ、春になると約3万本ともいわれる山桜が一斉に咲き乱れ、日本三大桜名所の一つに数えられる。
吉野山は修験道の霊場としても重要で、後醍醐天皇の南朝ゆかりの地として歴史的に位置づけられ、吉野朝(南朝)の時代には政治・文化の中心となった。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部にも登録されており、金峯山寺、吉水神社、吉野水分神社などの社寺が点在する。広義では奈良県南部の吉野郡全域(大淀町、下市町、吉野町、上北山村、川上村、黒滝村、下北山村、天川村、十津川村、野迫川村、東吉野村など)および周辺地域を包含し、吉野杉の産地として林業が盛んな山間部である。吉野川が流れ、多峰山脈や大峰山脈が連なる険しい地形は、古くから山岳信仰の場として発展し、修験者や巡礼者が往来した。現代でも自然観光や歴史散策の人気エリアで、四季折々の風景、特に桜・新緑・紅葉・雪景色が楽しめる。吉野という地名は全国に点在するが、最も象徴的なのはこの奈良県の吉野であり、日本史・文化・自然の象徴として、詩歌や物語に繰り返し登場する存在となっている。