閃劇のリベリオン過去ログ Ⅵ

ざわざわ…(照明が落とされた会場にて、多くの観客と選手が期待を胸に膨らませていた) 」


モララー「いよいよか~…『十刀剣武祭』の参加出場者が発表されるんだな。(マヨネーズたっぷりのたこ焼きを一口放り込む) 」


カッ カッ カッ (突如ライトアップされた証明が、ステージ中央に一点集中する。その先には、本大会の司会を務めるキリギリスの姿があった)


BGM♪



キリギリス「……さァ!長らくお待たせいたしました!ついに第三百刀剣武祭も幕引き…これでようやく、『十刀剣武祭』への参加資格が決まるゥッ!! 」

キリギリス「十刀剣武祭は、年に三回行われる百刀剣武祭で格付けされた序列10位以上の選手のみが参加を許される盛大な大会だ!!刀剣者たちにとっては聖域とも呼ばれ、優勝すればどんな望みも叶えられるほどの莫大な賞金、地位、名誉などが与えられるッ!! 」

キリギリス「2017年度百刀剣武祭を戦い抜き、より多くのポイントを得た選手…即ち、十刀剣武祭への参加資格を認められた栄誉ある十名を発表いたしまぁぁああああすッ!!!! 」


うおあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!!!(観客の大盛況が会場一帯に響き渡る)


キリギリス「それではみなさん!モニターをご覧ください!ただいまより、序列十位より順番に発表いたしますぞ!! 」


――――― 序列十位: 雪 桜 氷 冬 ―――――

キリギリス「序列十位、雪桜氷冬!!四刀流使いの麗しい女性剣士だ!!第二回百刀剣武祭には姿を現さなかったものの、第三回百刀剣武祭で怒涛の逆転勝利をおさめ、なんと序列入りを果たしたァーッ!!!! 」

フーナ「……!やった…氷冬、やったね…!(彼女の名を耳にした瞬間、この上ない喜びを味わったかのように笑顔が溢れだす) 」

スカーフィ「かぅ♪氷冬、これで本番の大会に臨めるんだね!やったー♪♪ 」

氷冬「………(フーナの言う通り、ギリギリだった…でも、序列入りを果たせた…!あとは…真っ直ぐ突き進むだけ…!)(心の中で、決意を胸に抱く) 」


――――― 序列九位:白 鷺 清 華 ―――――


キリギリス「序列九位、白鷺清華!!数多の剣豪を刀一本でいなし続けてきた驚異の実力者だァ!! 」


――――― 序列八位:全 力 者 ―――――


キリギリス「序列八位、全力者ァ!!すべてにおいて全力で挑む獣の如き猛者!!もはや誰も彼の全力を食い止めることはできないいいいぃぃぃーーーッ!!!! 」

全力者「俺、全力やめようと思ってんだよね。」

実力者「嘘だろお前。」


――――― 序列七位:オ リ ヴ ィ エ = リ ン ド ブ ル ム ―――――


キリギリス「序列七位、オリヴィエ=リンドブルム!!可憐に剣を振い桜吹雪を巻き起こす!!花紅柳緑な剣捌きで敵も観客も魅了するッ!!! 」


――――― 序列六位:エ ル キ ド ラ ―――――


キリギリス「序列六位、エルキドラァ!!本大会のダークホースとも呼ぶべき謎の男!!未だ本領を発揮することなく多くの猛者たちを沈めてきたこの男が、ベールを脱ぐ時はやってくるのだろうかァーー!!? 」

×××××→エルキドラ「……良し良し。(シュコー…)(漆黒の骸仮面から蒸気の様な吐息を噴き出す) 」


――――― 序列五位:ル ド ゥ ラ ・ ヤ マ ト ―――――


キリギリス「序列五位、ルドゥラ・ヤマト!剣士でありながら一風変わった術で相手選手を一網打尽してきたァッ!!! 」

ルドゥラ「…… ……(目を伏せながらも耳を傾けている) 」


――――― 序列四位:八 頭 身 ギ コ 侍 ―――――


キリギリス「序列四位、八頭身ギコ侍!!武士道を重んじる侍の中の侍!!かつてかの大剣豪『ゼブリス』とも刃を交えたという伝説の侍だ!! 」

八頭身ギコ侍「ふむ…上には上がいるということでござるか。驚嘆!故に次の偉大なる試合、心弾むでござるよ。 」


――――― 序列三位:A S ―――――


キリギリス「序列三位、AS!!刀剣武祭初出場でありながらここまで登り詰めてきた超新星!!幻影の様に消えては現れる類稀なる太刀筋に、勝利は現実となるのかァーーッ!!?

AS「―――さて。(氷冬にのみ、その視線は向けられる。仮面の向こうに闘志を揺らがせながら。) 」


――――― 序列二位:翡 翠 雛 菊 ―――――


キリギリス「序列二位、翡翠雛菊!!前・十刀剣武祭序列二位だった凄腕の剣聖!!"華蝶風月"の名は未だ衰えることを知らずゥーッ!!」

雛菊「……(モニターに映る結果を黙視する)」


――――― 序列一位:柊 木 雪 ―――――


キリギリス「そして序列一位は…柊木雪だあああぁぁぁーーーッ!!!雛菊同様、前・十刀剣武祭から不動を貫く最強の剣士だあああぁぁぁーーーッ!!! 」

キリギリス「以上ッ、十刀剣武祭出場者を発表いたしましたァッ!!!十刀剣武祭は四か月後…即ち!来年2月に開催を予定しております!!四か月後、多くの刀剣者たちが待ち望んだ大いなる激戦が繰り広げられるだろう…ッ!!!

キリギリス「名誉を勝ち取るのは誰か!?最強を極めた者に与えられる最強の剣『クロリアー』は一体誰の手にィーーッ!!?それではみなさんッ!!十刀剣武祭にて再びお会いいたしましょおおおおおぉぉぉーーーーーッ!!!!! 」



第三回百刀剣武祭が終了したその日の夜、某所にて…――――


シグス「……俺たち全員…序列入りを果たせなかった…だと…っ…(青ざめた表情で項垂れている)」

【フォウ】&〖ファイ〗:【…不可解だ…】〖不条理です…〗【こんな結果は…】〖納得いくわけがありません…〗

スリーズ「ギュフフ……失恋した以来落ち込んでるわぁ……フ、フフフ…フ……」

トゥエル「何故…何故、せめて十位に入っていても可笑しくはないはず…!この私が…!(ガンガンと地面を踏みつけながら金切り声を上げる)」

ワンス「………(憤怒を含んだ厳かな表情で腕を束ねたまま、虚空を睨み続けている)…我々ファミリーは、これまでの大会で序列入りを果たし続けてきた。それは世界に対する俺たちの威厳を知らしめるためにもあった。だが、今回ほど俺たちの醜態が、世間に知らされたことは今までなかった…ッ…!(ガァンッ ! ! !)(付近の壁を強く蹴りつける)……このままでは示しはつかん。…ならば、我々が取るべき方法は一つだ。」

シグス「ククク…流石兄上。そうだ、試合には負けたが…真の勝利は俺たちが掴み取るもの…!(活気づいた様に立ち上がる)」

【フォウ】&〖ファイ〗:【十刀剣武祭出場者全員を試合外で抹殺さえすれば…】〖我々を侮辱した者たちへの報復も満たされる。〗

スリーズ「ギュフフフ…!そうよ…もういっそ、なにもかも、壊してしまえばいいのよ……フフフフッ!!」

トゥエル「私たちをこけにしたあの愚かな雑種共に制裁を与えるのよ!」

ワンス「…行くぞ。選手はまだホテルで休息を取っている。試合直後で衰弱しきっている今こそ、処刑実行に移すべきだ。(ブワサァ… ! )(マントを靡かせ、殺意を込めた眼を向きだす)」


――――― ガチャン… ガチャン… (金属音の様な鈍い足音が、ワンスたちの耳元に響き渡る)


ワンス「………(足音の方角を睥睨する)」

エルキドラ「シュコー…シュコー…(一家の前に姿を現したのは金属音の主。骸仮面から蒸気を吐きだしながら、ゆっくりと彼らのもとへ歩み寄っている)」

シグス「こいつは…確か、例の出場者の一人だったはずだ。わざわざ俺たちの前に来てくれるとは…なんて"ツイてる"奴なんだろう。(エルキドラに不気味な笑みを浮かべ、背にした大剣の柄に手を添える)」

【フォウ】&〖ファイ〗:【へぇ…そんな方がこんなところに迷い込んだのですかね…】〖何にしても、標的は一人残らず抹殺するだけです。〗(各々に二刀を抜き出す)

スリーズ「手間が省けたねぇ…ギュフ、ギュフフ…!(猫背の態勢から輪刀を頭上に構える)」

トゥエル「慈悲なんて与えないわ。貴方に与えるものは―――――「死」、ただそれだけよ。(レイピアの切っ先を突きつける)」

ワンス「貴様の実力は把握していないが、まさか一家全員を相手に勝てるどころか逃げきることもできないだろう。覚悟して最期を迎え入れるんだな。(西洋剣を引き抜き、エルキドラを見下す)」

エルキドラ「……データ解析。ゴルドニアファミリーのメンバーを捕捉。これよりデータの回収作業にシフトする。(プシュゥー…ッ… ! )(骸仮面より蒸気の様な吐息を噴き出す)充電完了。バトルフェーズ、スタンバイ。」

ワンス「――――――― 殺 れ ―――――――(自らを筆頭に、一家全員が牙を向いてエルキドラに襲いかかった)」

エルキドラ「…バチ…ッ…バチ…バチバチ…ッ… ! ! バリバリバリィ…ッ… ! !(全身に稲妻が迸る)良し良し…良し良し……―――――― 良 し 良 し 良 し ! ( ギ ュ オ ン ッ )(仮面の奥で赤い瞳が、歪に輝いた)」



―――――― バ ギ ャ ア ア ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン ッ  !   !   !   !   ! ――――――




シグマ「コッ…… コッ…… コッ―――――――――(1人、静かに歓声の響き渡る会場を後にして 」

カイ「スッ…(会場の入り口に現れ)よぉ……残念だったなぁ、最終選考落ちちまったんだって? 」

シグマ「(カイを前にし、歩みを止めて)………通ろうが通らまいが、どちらでも良い………”制約”を課した状態でどこまで行けるか、ただそれだけ分かれば良い………   ただ、人間に敗北するとは………我も未熟だという事を、改めて知らされた………。 」

カイ「はは、ありゃぁ驚いたぜ………まぁ、俺達の産まれた時代から、気の遠くなるほどの時間が流れてんだ……人間も進化してるって事だろうぜ………(水筒の中の液体をグイッと飲み)………で――――――――   例の件についても、何か分かったか? 」

シグマ「………残念ながら、手掛かりは得られなかった………予想以上に、厳重な警戒態勢が張られていた………。」

カイ「そっかぁ……  チィッ、意地でも”罪剣”とやらの入手経路は教えないってか――――(再び水筒の中の液体を口に運び 」

シグマ「……人間風情が、やってくれる……… だが、1つだけ朗報がある………我らの他にも、あの剣について探っている者がいる………その者は、”英雄”と称される者の1人………今、その者は選考に勝ち上がり、その剣をいち早く手に入れ、惨劇を未然に防ごうとしている―――― 」

カイ「Σブーーーーッッ(飲んでいた液体を吹き出し)そ、そりゃ本当か!?………英雄……ってこたぁ、もしかして――――――」

シグマ「あぁ、そうだ………  剣士として、奴と相まみえる事は出来なかったが………奴の実力は目を見張るものがある………  奴なら、あの剣を”荒れ狂う者”に渡すことなく、その手に収められるのではないかと、我自身も微かな希望を抱いている――――」

カイ「Σき…… はぁ~、お、お前さんが希望を抱く人間って……… そりゃぁ、確実にイケるなぁ、うん……絶対、イケるわ………よし、俺絶対そいつ応援しに行くわ! 」

シグマ「応援、だと……(微かに驚いたような様子で、カイを見て)……正気か、隊長………。」

カイ「なっ……正気に決まってんだろ!失礼な野郎だなぁ…… お前、強がり言ってっけどよぉ……本当は、自分が選考通って、そんで優勝して、あの剣を取ってやりたかったんだろ?………その希望、そいつに託そうじゃねえか。 」

シグマ「!…………隊長には、敵わぬよ………。(呟く 」



第三回百刀剣武祭が終わり、闘技場の運営本部では…


キリギリス「おつかれやまです~、サビスケさん!」

サビスケ「ああ、君か。司会実況を兼任する君のお陰で、大会は今までにない大盛況だよ。」

キリギリス「またまたぁ~(照れくさそうに笑いながら手を振る)実行委員長のサビスケさんいてこその成果っすよ!この調子で、十刀剣武祭も成功させちゃいましょう。ほんじゃま、先に上がらせていただきます~。」

サビスケ「ああ、お疲れ様。(キリギリスが出ていくのを確認し、懐からスマホを取り出し誰かに電話をかける)………ああ、どうも。サビスケです。たった今、無事に第三回百刀剣武祭が終了いたしました。十刀剣武祭参加出場者も決まりましたので、後日そちらの方に出場選手のデータを送ります。」


BGM♪



×××「―――――ありがとうございます、サビスケさん。(電話越しから、幼い少年の様な声が聞こえる)」

サビスケ「これで恐らく、貴方が探し求めていた『人材』が見つかるかと… …ところで、例の『クロリアー』の件についてですが…大丈夫でしょうか…(恐縮したように尻すぼみになっていく)」

×××「問題ない。本物の『クロリアー』はこちらで厳重に保管している。そっちの会場に政府の役人が何人か偵察をしに来ていたようだが、誰も我々のことに気づく者はいない。」

サビスケ「……!(えっ!?政府の役人が…いつの間に…)そ、そうですか… ……しかし本当に、大丈夫、なんでしょうか…」

×××「…何をそんなに懸念しているんだい。」

サビスケ「いえ…貴方様の提案があってこそ、刀剣武祭はかつてない大盛況を得ています。行く行くは世界政府にも認められ、公式化を望むもの… ですが……あの剣、『クロリアー』を知る者にとっては、あの剣を賞品としたことに反感を買うのではないかと思いまして…政府が偵察に来ていたのも、そのためかと…」

×××「  黙  れ  (機会音の様な冷たい声が、サビスケの耳に突き刺さる)」

サビスケ「ひっ…!も、申し訳ありません…(人のものとは思えないその無機質な声に悪寒が走る)」

×××「他人がどう思おうと関係ない。貴方はビジネスの為、私は『研究』の為に、今は互いの利害が一致しているがために共に協力し合い、大会を進行している。互いに互いの目的を目指していればいい。」

サビスケ「はぁ…確かに、そうですね……」

×××「安心してください。仮に我々の目的を阻む者が現れたのなら、それが政府であろうと、私の力で消し去って差し上げます。何故なら私も政府に通じる者…その気になれば、組織を利用し、刀剣武祭を例の世界大会以上に偉大な大会に仕立て上げることもできるのですから。…貴方にとっては、それ以上の望みはないでしょう?サビスケさん。」

サビスケ「…っ……――――――」



―― 数ヶ月前 ――

ゼンサイ「サビスケ、近う寄れ。(甚平を着こなした厳かな老男。刀剣武祭代表取締役会長を務める男が、弟子の男を呼び寄せた)」

サビスケ「はっ。(機敏な動きで歩み寄って跪く)」

ゼンサイ「お前の功績は耳にしておる。刀剣武祭の為に精を出すお前に、是非とも実行委員長を任せたい。」

サビスケ「……!!ぜ、ゼンサイ様…それは……!」

ゼンサイ「期待しておるぞ。(ふふっと男前な笑みを零し、踵を返し去っていく)」



サビスケ「……(そうだ…私は、ゼンサイ様から大任を仰せつかっている身…あの方の為に伝統ある刀剣武祭を、世間から認められた正式なものにすることこそが、あの方への大きな恩返しとなる…!そのために、これまで様々な催しを絞り出して実行に移し、着実に成功を収めてきた…そして今回、『クロリアー』によって、その悲願は達成されるのだ…!)」

×××「そう、貴方は今回の大会を是が非でも成功に導き、政府に認められる為に私と手を組んだ。…私の望みは、かつての研究材料だった『クロリアー』の力を最大限に引き出す為の『人材』を探し出すことです。それ即ち、十刀剣武祭を勝ち抜いた優勝者…その者に"私の"クロリアーを提供し、研究することこそが目的。…サビスケさん、共に成功へと導きましょう。」

サビスケ「(この方の言うことに従っていれば、私は…大会は…きっと…!)―――――――――…はいっ、『 ア ウ シ ュ ビ ッ ツ 』さん。(その後、通話は途切れる)」

×××→アウシュビッツ「(薄暗い密室の中で、真っ暗な天井を仰いでいる)…凡人は凡人であるが故に、失敗を恐れる。天才は失敗を喰らい、それを成功に仕上げるからこそ天才なのだ。」


――― そう、私の"永い人生"に失敗はつきものだった。 ―――


――― 『アウシュビッツ』という人間が生まれ、そのオリジナルは自らのバックアップを幾つも造り出してきた。今から数億年以上も前の出来事だ。そうして、永い時を越えて、脈々と受け継がれてきたのが、この『アウシュビッツ』だった。 ―――


――― 『私』は更にまた別の『私』を生み出す… そうして『アウシュビッツ』という人間のアイデンティティーを永続に確立することで、『私』は"永遠なる生命"を手にしている。 ―――


――― 各々に蓄積されたデータを共有し合い、一つに集約し、そして新たな『私』にそれらを移行することで、際限なき研究を行い続けてきた。 ―――


――― 混沌の女神の件…あれはもう"答え"を見出せた。だからもう、いい。今は、ただ今は、かつての研究材料の一つだった『クロリアー』への研究意欲を取り戻しているがために、それにしか眼中がない。 ―――


――― 現場調査で赴いていたマイテイ神殿で、偶然にも罪剣との再会を果たした私は、それを使いこなしたある英雄のデータから、罪剣の呪いに耐えうるであろう「不屈の精神」を持つことで剣に秘められた力を引き出せるかもしれないと推測した。 ―――


――― 以来その強い精神の持ち主となり得る人材を探していたところに、刀剣武祭の存在を知った。不屈の精神の持ち主…即ち大会優勝者にクロリアーを所持させることで、謎は解明されるだろう。 ―――


――― 故に大会運営陣であるあの男との接触を図り、クロリアーを提供した。そう、全ては研究のためだ。私にとってみれば、この世界のすべて、"森羅万象そのものが"、研究対象。それが私、『アウシュビッツ』の人生そのものだ。 ―――


アウシュビッツ「ああ…また一つ"答"が増えていく喜び…この快感を味わえるのは科学者たる醍醐味と言えよう。(クククと狡猾な笑みを浮かべると、血のように真っ赤に染まった眼球が歪な輝きを帯びる)」


ポ ワ ン … (アウシュビッツの背後に横たわったクロリアーの中央に埋め込まれた深紅の宝玉が、目玉の様にぎょろりと動き出す様に、不気味な光放った…)


サビスケ「………さて、四ヶ月後の大会に向けて準備を進めなければ… これからもっと忙しくなるぞ…!(書類をまとめ、その場を後にする)」

メタナイト「……(陰に潜み、話の一部始終を聞いていた)」





―― 闘技場前 ――


BGM♪



フーナ「おめでとう、氷冬!これで十刀剣武祭に出場できるね!」

スカーフィ「かぅ~♪すごいよ氷冬!ものすごーく強くなって帰って来た時も驚いちゃったけど、本当に出場するなんてね…!とにかくおめでとう♪」

氷冬「二人とも…ええ、ありがとう。二人が支えてくれたから、ここまで登れたんだもの。感謝しているわ。(ふふっと微笑む)」

フーナ「そういえば、本番の大会まで四ヶ月の期間があるけど…また修行に励むの?」

氷冬「ええ、そのつもりよ。さっきの試合を通じて…まだ私には足りないものがあると気付いたから。それに…(ASや雛菊、彼らの他にも控えている剣豪たちの像を思い浮かべる)…今の実力では、まだ『世界』に辿り着けないからね。」

スカーフィ「かぅ~、氷冬はがんばり屋さんなんだね!えらいっ!(氷冬の頭をなでなで)」

フーナ「そっか…わかった。何かあったら連絡してね。こっちも連絡するから。…それと、クロリアーのことは私たちに任せておいて。氷冬には大事な大会があるんだから、できればそっちに専念してほしいからね。」

氷冬「ぅ…(撫でられてデフォ顔)助かるわ…本当は私も協力しなければいけないんだけど…ここはフーナたちに任せるわ。」

スカーフィ「うんっ、ボクたちが何とかするからねー!クロリアーを取り戻して、氷冬が優勝すれば、これ以上ハッピーなことはないよっ♪」

フーナ「しーっ!(慌ててスカーフィの口を手で塞ぐ)クロリアーのことは人前で大声で言わないのっ。」

スカーフィ「もぎゅ…!?しゅ、しゅみません…(しょんぼり)」

氷冬「ふふっ…(そんな二人のやりとりを微笑ましく見つめている)」

メタナイト「そこにいたか。(闘技場から姿を現し、三人のもとへ歩み寄る)…氷冬、十刀剣武祭への出場おめでとう。実にめでたいことだ。」

氷冬「あら、メタナイト。…ええ、ありがとう。二人の協力あってこそよ。」

スカーフィ「えっへへ…照れてなんか、ないんだよー?(てれてれ)」

メタナイト「ははは、そうか。……さて、喜んでいるところ水を差すようですまないが、君たちの耳に入れておきたいことが二つある。一つは…百刀剣武祭でも猛威を振ったあのゴルドニアファミリーが、昨夜―――― 一家全員が何者かに殺害された。」


BGM♪



氷冬「……っ…!?(あの嫌な気を放つ一家のことね…)…戦い方こそは気に入らなかったけど、相当な実力者であることは確かだった。…そんな奴らが全員ですって……(聞き返すようにメタナイトに)」

メタナイト「ああ、死因は全員…「感電死」だった。だがこれは、ゴルドニアファミリーに限った話ではない。敗退した大会出場者のほとんどが失踪したり、死体が発見される事件が相次いでいた…」

フーナ「それって、まさか政府が絡んでいるんじゃ…例のバトルロワイヤル世界大会でも似たことがあったじゃない…?」

メタナイトいや、もしも政府の者の仕業だとしても、死体や痕跡などは跡方もなく処理するはずだ。それに、犠牲者の中には政府の偵察部隊も含まれていたからな。おそらく快楽殺人者か…何らかの目的があって殺人を犯している者が、会場内に潜んでいたということだ。幸いにも観客には被害は及ばなかったようだが…」

フーナ「そう、なんだ…(観客以外の人物が標的になっている…快楽殺人者にしては違和感のある行動だね。力のある人物だけを狙う…明らかな目的があると踏んで良さそう…)」

メタナイト「ひとまず百刀剣武祭が終わったわけだが、例の殺人犯が次の十刀剣武祭でも事件を起こす可能性はある。くれぐれも気を付けたまえ…特に、氷冬。相手は、あのゴルドニアファミリーでさえも殺した、得体の知れない存在だ。」

氷冬「…肝に銘じておくわ。(鋭く目を細めて頷く)」

スカーフィ「かぅ…なんだかこわいね… …あ、そうそうメタナイト、もう一つの話は…?」

メタナイト「ああ、そうだな。これが我々にとって最も大事なことだ。……本物のクロリアーの在処が判明した。」

スカーフィ「ふぇ!?ほ、本当…!!?……ぁ…(思わず大声を出した自分を制するように自ら口元を両手で覆う)」

メタナイト「やはり睨んだ通りだった…この大会の運営陣のバックに、強大な『何か』が潜んでいる。『その者』がクロリアーを運営に提供したことが、事の発端だったということだ…」

フーナ「そうなんだ…ますますあの世界大会の面影を感じるね。クロリアーを何処で入手したのかはともかく、どうしてその剣を大会に提供したんだろう…」

メタナイト「それは…私にもよく分からない。『研究』がどうの、と…言っていたが…現状が情報不足な為、いまいち理解しづらいところではある。だが、大会優勝者にクロリアーを所持させて何かを企んでいることは概ね予想できる。先日君たちにも話したように、あの剣を手にすれば呪いによって精神を蝕まれてしまう。おそらく、そのクロリアーを制御し、剣の真の力を発揮することで…クロリアーの本当の姿を研究したいのかもしれないな。」

氷冬「何にしても、思い通りにするわけにはいかないわ。剣を取り戻さないと、惨劇は必ず生まれるのだから。」

メタナイト「その通りだ。罪剣は何としても、我々が取り戻さなければならん。…そして、その在処なのだが…十刀剣武祭の会場に指定されている、West・D・Landにある巨大闘技場だ。今は厳重に警備が施されていて中へ入ることは困難を極めるだろう。故に、会場内への潜入は、来年開催される十刀剣武祭の当日に実行する。」

フーナ「わかった。じゃあ、それまで外部で情報収集しないとだね。」

メタナイト「幸いにも、我々以外に、我々と同じ志で罪剣奪還を試みている同志たちがいるようだ。近々彼らともコンタクトを取り、人数を増やして奪還計画に臨もう。」

氷冬「……(表情が徐々に陰っていく)」

スカーフィ「かぅー!なんだかやる気出てきたよー!!……?どうしたの、氷冬…?なんだか、元気ないよ…?」

氷冬「…?ぁ…ううん、気にしないで。……はじめは、自分の実力を確かめる為に大会に臨んだ…でも、その裏で剣や刀が絡んだ様々な事件が巻き起こっていて、少し、気が動転していて…(額に手を添えて)」

メタナイト「……剣士として、分からなくもない。人は大いなる力を求める。その力で個々の野望を成し遂げようと目論む者もいよう。力を得るために他人を傷つけ、欺き、いつしかそれが繰り返され…混沌とした惨劇が生まれる。だがそれは、誰も止める者がいなかったからだ。」

氷冬「……?」

メタナイト「大いなる力に振り回される人々に、暴力ではなく他人を守るために力を振うこと…それを説く者がいなかったということだ。何故なら人の心は脆い。自らが傷つき崩れることを恐れるあまり、ただその混沌の中で、事が鎮まるのを待ち望んでいた…しかし、待つだけでは何も変えられない。誰かが行動に移さなければ、何も変えられない。…君たちは行動力がある、だからこそ…『英雄』と呼ばれるだけの資質がある。」

メタナイト「氷冬、今は…この混沌とした現実に翻弄されることもあるだろう。だが、迷うな!お前が進むべき道はたった一つだ。その為に仲間がいるのではないか。」

氷冬「……!(メタナイトの言葉に、フーナとスカーフィ、二人の顔を見つめる)」

フーナ「…大丈夫だよ。私は氷冬を信じてる…だから、氷冬も私たちを信じて。」

スカーフィ「今まで三人一緒に乗り越えてきたんだもん、大丈夫♪ボクたちがついてるよ!」

氷冬「…フーナ…スカーフィ… ……そうね、私ったら…何を考えているんだろう…(かけがえのない存在のありがたみを思い知り、込み上げてくる感情を抑え込む様に苦笑する)」

メタナイト「…それでいい。君は頂点へ行くのだろう?ならば振り向く暇はないだろう。…あとのことは、我々に任せろ。」

氷冬「ありがとう、みんな……―――――――」



――― そうだ、 はじめは…自分の生きている証が知りたくて、刀を手にした。―――


――― でも、大切な友達と出逢って…もう一つの生き方を知った。 ―――


――― 私は、この刀で、大切なものを守りたい。 ―――


――― その為に強く、今よりも強く、もっと強くなろうと決めたんだ。 ―――


氷冬「――― 私、もっと強くなるよ。 ―――」




――― とある丘 ―――


ヒ ュ ォ ォ … ッ … (冷たい秋風が吹きつける殺風景な丘の上… そこに、ひとつの墓があった)


氷冬「ザ…(冷たく吹き付ける風をその胸で受け止めながら、その墓の前に現れる)……久しぶりだね、『銀閣』。元気にしていたかしら。」


BGM♪



氷冬「…「鈍」、取り返してきたよ。(鞘に納まったままの斬刀「鈍」を墓の傍に添える)…うん、やっぱりその刀は貴方にお似合いね。(ふふっとほくそ笑む)…今でも思い出すよ、貴方と出逢った時のこと…刃を交えた時のこと…そして、互いの意思をかけた決闘の日のことを…」

氷冬「貴方の傍にはいつだって、その刀がいたよね…それが、「貴方の守りたかったもの」だから… そんな貴方の生き様がかっこよかったから、私も…何かを守るために刀を振うことにしたわ。……?……!(ふとその時、墓の傍に突き刺さっていたもう一本の刀を見つける。それは、鈍と共に供養した自分のかつての愛刀「冬空」だった…)」

氷冬「……そうか…(何かに気づいた様に納得し、静かにその冬空の柄を手に取った。突き刺さった刀を抜き取り、鞘に収まったままのその刀を両手に横たわらせて見つめる)……スチャ…(鞘から刀を抜き出す。中から姿を現したのは、半分の刀身を失った冬空… 傷だらけ、罅だらけのその刀を見つめて、静かに胸に添える)」

氷冬「…そうだよね…「鈍」が貴方のもとにあるように…「冬空」も私のもとにあるべきなんだ…(冷たい刀身をその肌身で感じ取り、静かに納刀する)…ごめん、銀閣。そういうことだから…やっぱり、この「冬空」は、私が持つよ。思えばこの刀が…私が初めて手にした刀だったから。(赤子を胸に抱く母親の様な温かい眼差しで、冬空を見つめる)」

氷冬「ありがとう…また、貴方から一つ、大切な事を教えてもらった気がするわ。……もう行くよ。行かなくちゃいけないところがあるんだ。この刀たちと一緒に…友達と一緒に…―――――― 大切なものを守りに。(「冬空」を手に、冷たい風に髪を靡かせながらその場を後にする)」

黒着物の剣豪「――――――― ああ、行って来い。 ―――――――(去りゆく彼女を見送る様に、墓の上に腰かけた亡霊が微笑みかけた―――――)」



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年05月13日 00:03