「白夜の乙女は勝利を知らない」
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cielenica
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ネームレス時代のイムカは「勝利」したことがなかったんじゃないかな、という話。
復讐のために生きてきた時期と、生きる理由が見つからなかった時期。そこからもしかしたら、やりたいことがあったのかもしれないけれど。
地獄を作り出したことを思い出したイムカには、まだ曇っていて何も見えなそうだったのだ。
復讐のために生きてきた時期と、生きる理由が見つからなかった時期。そこからもしかしたら、やりたいことがあったのかもしれないけれど。
地獄を作り出したことを思い出したイムカには、まだ曇っていて何も見えなそうだったのだ。
ずっと復讐に生きていた自分に、生きる理由はもうないと思っていた。
それを違うと言ってくれる人がいて、私は少しだけ世界を見渡せた。
それを違うと言ってくれる人がいて、私は少しだけ世界を見渡せた。
誰かが死ねば、誰かが悲しむ。そんな当たり前の話をようやく知れた時、私は今までこの手にかけてきた多くの命を思った。
老若男女を問わない兵士たち。家族、友人、そういった繋がりを持っていたはずの、私とまるで変わらない人々の人生を、私は私のために焼却した。
それによってどれほどの悲しみが、怒りが、憎しみが生まれるのかも考えないで。
ただ復讐を果たせればいいとばかり考えて走ってきた、私という人生に振り向いた。そこにあったのは、もう顔も思い出せない屍の山。
ほんの一瞬だけ、私は苦しいと思った。その瞬間だけ、この屍たちのために命を投げ打とうとも迷ったけど、それが無意味なことを私は理解していたからやめた。
命をもって払えるような、犠牲の数じゃない。いや、たったひとりだけだとしても、誰かのことを踏みにじった現実からきっと逃げてはいけない。
私は私一人の命だけで生きているんじゃない。復讐を誓う前にずっと一緒にいてくれた、私だけの家族。微笑みだけが記憶に残る両親と唯一の弟。苦楽を共にした仲間、友達、他者。あの日焼き払われたティルカ村でのすべて。
そして復讐を誓い、生き延び続けてきた私のいる場所。誰とも関わることを自分に許さなかった私に、取引と称して手を差し伸べてきたあの人。
たくさんの理不尽に身を覆われながら、それでも誰かを守る力に昇華したあの子。
同胞であると気にかけてくれた、強い信念の末に道を違えてしまった彼のこと。
私を憧れだと言ってくれた人。私を案じてくれた人。私を評価してくれた人。
色々いた。あの場所には、ネームレスという決して安らかでない部隊では、それでもどこか温かなものがあったように思う。
だから、私はもう人生で一番のやり残しを遂げられないことを受け容れた。
あの日の夜、私から何もかもを奪ったあいつはこの世のどこにもいない。地獄に落ちない限り出会えない彼女への憎しみと、それでも決闘を申し込んだ私に呪いを与えてくれたことにある種の敬意を払いながら、これからも私は生きていくのだ。ゆえにこれは知るべきことで、痛くても認めること、いつか誰かに咎められようとも自分の罪として背負っていくと誓った。
老若男女を問わない兵士たち。家族、友人、そういった繋がりを持っていたはずの、私とまるで変わらない人々の人生を、私は私のために焼却した。
それによってどれほどの悲しみが、怒りが、憎しみが生まれるのかも考えないで。
ただ復讐を果たせればいいとばかり考えて走ってきた、私という人生に振り向いた。そこにあったのは、もう顔も思い出せない屍の山。
ほんの一瞬だけ、私は苦しいと思った。その瞬間だけ、この屍たちのために命を投げ打とうとも迷ったけど、それが無意味なことを私は理解していたからやめた。
命をもって払えるような、犠牲の数じゃない。いや、たったひとりだけだとしても、誰かのことを踏みにじった現実からきっと逃げてはいけない。
私は私一人の命だけで生きているんじゃない。復讐を誓う前にずっと一緒にいてくれた、私だけの家族。微笑みだけが記憶に残る両親と唯一の弟。苦楽を共にした仲間、友達、他者。あの日焼き払われたティルカ村でのすべて。
そして復讐を誓い、生き延び続けてきた私のいる場所。誰とも関わることを自分に許さなかった私に、取引と称して手を差し伸べてきたあの人。
たくさんの理不尽に身を覆われながら、それでも誰かを守る力に昇華したあの子。
同胞であると気にかけてくれた、強い信念の末に道を違えてしまった彼のこと。
私を憧れだと言ってくれた人。私を案じてくれた人。私を評価してくれた人。
色々いた。あの場所には、ネームレスという決して安らかでない部隊では、それでもどこか温かなものがあったように思う。
だから、私はもう人生で一番のやり残しを遂げられないことを受け容れた。
あの日の夜、私から何もかもを奪ったあいつはこの世のどこにもいない。地獄に落ちない限り出会えない彼女への憎しみと、それでも決闘を申し込んだ私に呪いを与えてくれたことにある種の敬意を払いながら、これからも私は生きていくのだ。ゆえにこれは知るべきことで、痛くても認めること、いつか誰かに咎められようとも自分の罪として背負っていくと誓った。
戦いが終われば、もう武器を取る必要はない。その先のことはまだ分からない。それでもいい、構いやしない。
私が血肉を削いで捧げてきた時間の全て、結局は無駄だったとしても。
戦場に身を投じたあの日より、私に正しく勝利はなかったのだとしても。
生きる意味を知らなくても。あの人から与えられなくても。大丈夫なんだと言うことが事実。
ひとは、生まれたときからずっと、そうであるべきなのだから当然だ。
だから私は生きていく。それがあの日、心にそう誓っていたことだった。
私が血肉を削いで捧げてきた時間の全て、結局は無駄だったとしても。
戦場に身を投じたあの日より、私に正しく勝利はなかったのだとしても。
生きる意味を知らなくても。あの人から与えられなくても。大丈夫なんだと言うことが事実。
ひとは、生まれたときからずっと、そうであるべきなのだから当然だ。
だから私は生きていく。それがあの日、心にそう誓っていたことだった。
――だというのに、私はそんな大事なことを忘れていたという。
事故に遭った私の身体を弄んだ輩のせいだとしても、これだけは揺るがない。
あの日の戦乱は、私の手で引き起こされたものだ。
もう二度と武器は取らないとしていたこの手が、蒼白く灯る剣を握りしめてすべてを台無しにしたのだから。
平和を享受すべき人々を薙いで、適任だとした少女たちを戦場へと巻き込んでいった。多くの命を飲み干して、なおも乾くのだというように焼き払い続けたことは人の身に余るほどの大罪だ。
あぁそうだ。記憶が確かなら私は、大量虐殺を行なったのだ。
詳細はよく覚えていない。だけども、私はどうも少しだけ、特別だった。私でも知らない私という存在の抱えてきた秘密は、世界を波立たせる一石たり得たらしい。
だから私は一度死んで、大罪人として生まれ変わり、幼い頃から戒めとして聞かされてきた『ダルクスの災厄』を、まるで現代に成し遂げんばかりに暴れたのだ。
事故に遭った私の身体を弄んだ輩のせいだとしても、これだけは揺るがない。
あの日の戦乱は、私の手で引き起こされたものだ。
もう二度と武器は取らないとしていたこの手が、蒼白く灯る剣を握りしめてすべてを台無しにしたのだから。
平和を享受すべき人々を薙いで、適任だとした少女たちを戦場へと巻き込んでいった。多くの命を飲み干して、なおも乾くのだというように焼き払い続けたことは人の身に余るほどの大罪だ。
あぁそうだ。記憶が確かなら私は、大量虐殺を行なったのだ。
詳細はよく覚えていない。だけども、私はどうも少しだけ、特別だった。私でも知らない私という存在の抱えてきた秘密は、世界を波立たせる一石たり得たらしい。
だから私は一度死んで、大罪人として生まれ変わり、幼い頃から戒めとして聞かされてきた『ダルクスの災厄』を、まるで現代に成し遂げんばかりに暴れたのだ。
吐き気がしていた。考えれば考えるほど眩暈が止まらない。
そんなわけがあるかと叫びたいのに、それ以前の、事故に遭うまでの記憶だけしかなかったことに疑問を抱かなかった自分の不可解さにも納得がいってしまって、言葉が上手く出てこない。今にも叫んでしまいそうだった。
私は、……私はあの日、小さな子を守るために庇って死んだと思ってたから。
転生、という少し不思議な概念の通りに従って、私は違う世界に生まれ変わったのだと。そうだとばかり思っていたのに違うだなんて言われても、私にいったい何ができるというのだろう。
償い、贖うことがこの世界における私の使命だというのか。
……ふつふつと怒りがこみ上げる。あぁふざけるな、冗談じゃない。それを押し付けてきた奴が元凶でしょう?あの時の私に自我なんてなかった、徹底的に潰されたんだ!!
私の罪は、復讐のために無辜の命を奪ってきたことにある。それは認めよう。ほかでもない私が望んで行なってきたことだから。
だけど私が、決して私の意思で行なったわけでもない罪にまで面倒を見切れるものか!!だって私じゃない、それは私だけが悪いわけじゃない!!私がしたくてしたかったことじゃないのに!!
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!――私を使って全てを壊したお前たちが憎い、許せない、殺してやりたい。だけどもできない、だってもう死んでいるんだから。死者には、生きている人たちには何もできなくて当然だ。
だと、したのなら。
私は?今、この何もかもが異なりながら、どこか既視感を宿す世界で間違いなく息づいている、私という人間はどうすればいい?何のために、何を行なえばいいの?
私 はまず、生きてて許されるようなものなのか?
……分からない。
分からない、というよりは知らない。そんなことまで聞いた覚えがない、理解だってできない。
私が何をすれば許されるのかなんて、理解しきれない。
分からない。
でも、嫌だ。このままでいるのは嫌なんだ。……だから私は、どうすればいいんだろう。
貴女なら答えられたのかな。生まれつき兵器だった貴女から返事をしてほしい、ねえ答えてよ、応えてよわたし ――――それでも、胸の奥から自分と似て異なる意思が顕れるわけもなくて、少し頭の冷えた心地で私は天を仰ぐ。
そんなわけがあるかと叫びたいのに、それ以前の、事故に遭うまでの記憶だけしかなかったことに疑問を抱かなかった自分の不可解さにも納得がいってしまって、言葉が上手く出てこない。今にも叫んでしまいそうだった。
私は、……私はあの日、小さな子を守るために庇って死んだと思ってたから。
転生、という少し不思議な概念の通りに従って、私は違う世界に生まれ変わったのだと。そうだとばかり思っていたのに違うだなんて言われても、私にいったい何ができるというのだろう。
償い、贖うことがこの世界における私の使命だというのか。
……ふつふつと怒りがこみ上げる。あぁふざけるな、冗談じゃない。それを押し付けてきた奴が元凶でしょう?あの時の私に自我なんてなかった、徹底的に潰されたんだ!!
私の罪は、復讐のために無辜の命を奪ってきたことにある。それは認めよう。ほかでもない私が望んで行なってきたことだから。
だけど私が、決して私の意思で行なったわけでもない罪にまで面倒を見切れるものか!!だって私じゃない、それは私だけが悪いわけじゃない!!私がしたくてしたかったことじゃないのに!!
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!――私を使って全てを壊したお前たちが憎い、許せない、殺してやりたい。だけどもできない、だってもう死んでいるんだから。死者には、生きている人たちには何もできなくて当然だ。
だと、したのなら。
私は?今、この何もかもが異なりながら、どこか既視感を宿す世界で間違いなく息づいている、私という人間はどうすればいい?何のために、何を行なえばいいの?
……分からない。
分からない、というよりは知らない。そんなことまで聞いた覚えがない、理解だってできない。
私が何をすれば許されるのかなんて、理解しきれない。
分からない。
でも、嫌だ。このままでいるのは嫌なんだ。……だから私は、どうすればいいんだろう。
貴女なら答えられたのかな。生まれつき兵器だった貴女から返事をしてほしい、ねえ答えてよ、応えてよ
イムカ=フリスト・エンゲルス。
それがこの世界に生まれたと思った、私の名前。
きっと、向こうでは二度と呼ばれない一節を含んだ本名を、なぞるように呟いて私は俯いた。そうしてまた口を開けば、出てきたそれは懺悔のようだった。信ずる神なんていないものだと思っていたのに。
「……助けられたい、な」
こんなの嘘、夢なんだって、そこまでは言わなくてもいいからせめて。
「助けてほしいよ、ハル」
どんなときでも隣り合っていた親友の不在が、こうなった今ではあまりにも耐えがたい。
それがこの世界に生まれたと思った、私の名前。
きっと、向こうでは二度と呼ばれない一節を含んだ本名を、なぞるように呟いて私は俯いた。そうしてまた口を開けば、出てきたそれは懺悔のようだった。信ずる神なんていないものだと思っていたのに。
「……助けられたい、な」
こんなの嘘、夢なんだって、そこまでは言わなくてもいいからせめて。
「助けてほしいよ、ハル」
どんなときでも隣り合っていた親友の不在が、こうなった今ではあまりにも耐えがたい。