決勝 現世 夜魔口工鬼&夜魔口断頭


名前 性別 魔人能力
戸次右近大夫統常 男性 母より受け継ぎし覚悟
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス

採用する幕間SS

なし

本文


◇◇◇断頭1◇◇◇
デュラハンとはアイルランドに伝わる首のない妖精。
女性の姿という説も存在する。

◆◆◆ヘイヘイホー 与作◆◆◆

◆◆◆戦場◆◆◆
殺!!
屍山血河。
荒野に累々と横たわる屍の山。
赤く染まる河。
地獄と何も変わりはせぬ。

「破ァァァァッ!!」
「ぎゃあああああァッ!!」

殺!!
武の呼吸と断末魔の悲鳴。
巨大な大身槍が竜巻の如く回転すると血風が巻き起こり血の雨が降った。

殺!!
手に華美な、実用性というより財宝といった武器ばかりを持った者共が四方から襲い来る。
槍の一突きは数人を貫きその体に風穴を開ける。

殺!!
槍の刃で薙ぎ払い、突き殺し、柄で殴り殺し、石突きで打ち砕く。
尋常ならざる武。

殺!!
戸次右近太夫統常。
戦国に生きた武将であり、黄泉へ堕ちた魔人であり、修羅である。
彼の通る跡に残るは屍山血河のみ!!

「はて、此処は何処であろうか、見たことのあるような。否、何処であろうと構いはせぬ。」

野風が血の匂い以外の何かを感じさせる。
人の気配はない。
死の気配のみだ。
迫り来るのは亡者。

「数にモノを言わせて圧殺しろ!!テメーらの意地を見せろッ!!ヤクザ魂見せたれやァ!!エンジョイ&エキサイティングだ!!」

遥か遠くから聞こえる女の声。
戦場に轟くその大音声による指揮は恫喝術に属するヤクザの発声法、ヤクザハウリングによる物である。

「ヤーッ!!ヘイ!!ヘイ!!ホーッ!!」

指示を受け、奇声を上げた亡者の軍団が統常に向かって猛進してくる。

「殺し尽くし候えば、戸次の名も上がり申そう」

「地獄の責苦に比べりゃあ、首はねなんぞ大したことねえ!!地獄に戻りゃ苦しいだけだぜ!!エンジョイ&エキサイティングだ、野郎共!!スクラムOK?!ヤーッ!!ヘイヘイホーッ!!」

軍団の先頭に立つアメフト亡者の号令でガッチリと肩を組む亡者達!!
死を恐れぬ鉄砲玉ヤクザゾンビの気概!!
一人を切り捨ててもガッチリと組み上げられた屍肉の壁は止まる事はない!!
シンプルゾンビーメソッド!!数で押し潰す構え!!

「応、思い出したぞ!!この風、血の匂い。この景色。此処は懐かしき戸次の地じゃ!!」

亡者の軍団の動きなど気にする事もなく。
会心の笑みを浮かべ、戸次右近太夫統常は紅き血の色の風となって亡者の群れの中を駆け抜ける。

今この時は天正十五年一月某日。
場所は戸次川戦場。

ダンゲロスSS2 冥界無情。
決勝戦。

◆◆◆回想 1◆◆◆
「…ンのかこらァ!!」

罵詈雑言や無秩序なざわめきは、怒号一喝で沈静化した。

「テメーらは、悪人だ!!しかも並外れた悪人だ!!」

ここは…。

「ああァ?そうだろう?そうでもなけりゃあ、こんな欲ボケした地獄に堕ちるものか!!」

ここは、貪欲者の地獄。

「だが、テメーらには見所がある。金に執着することは正しい!!」

欲深い亡者を財宝の雨で打ち据える地獄。

「偽善や、心情や、くだらねえ愛だの正義だので罪を重ねちゃいない。ただ欲望だ。そこを突き抜けなけりゃ、こんな所に堕ちる事はない。」

先程まで騒いでいた亡者達からぽつり、ぽつりと同調する呟きが上がる。

「テメーら、こんな所で。このまま過ごすつもりか?違うだろう?その身を焦がす欲望が、この程度で収まる訳はねえ!!」

同調の呟きは声に。

「どうせ、ここに居ても苦痛があるだけだ。私についてきても同じく苦痛だ。これらは同じものか?違う!!断じて違う!!」

声は叫びに。

「私に従えば無意味な苦痛とはお別れだ!!意味のある苦痛!!そして喜びがある!!」

叫びは賞賛に。

「約束してやる!!エンジョイ&エキサイティングだ。惨めな地獄暮らしか、地獄の祭りか。考えることか!?比べるまでもない!!」

賞賛は狂喜に。

「幸いにして主催者は祭りをお望みだ!!武器を取れ!!テメーらに似合いの金銀財宝の武器で敵を打ち破れ!!生き返ることができるとか根拠の無いことは言わねえ!!ただ楽しめばいい!!ヘイ!!ヘイ!!ホー!!だ!!進め!!付いてくる奴は私の所有物とみなす!!いいか舎弟ども!!」

「ヤーッ!!ヘイ!!ヘイ!!ホー!!」

貪欲なる亡者達は、魔人ヤクザの舎弟軍団として進撃を開始する。

◇◇◇断頭2◇◇◇
首無し馬の引く馬車に乗り、片手で手綱を、片手に自分の首をぶら下げているという。

◇◇◇工鬼1◇◇◇
「はァ?卑怯だってェ?」

金髪にサングラス、そしてアロハシャツというチンピラスタイルの男が相手を馬鹿にしたようにヘラヘラ笑った。
夜魔口工鬼。
ヤクザにして亡者。
機械を狂わせる子鬼を操る魔人。
ヤクザに対して3人の声がハモる。

「「「ルール違反だ!!」」」

「戦場で拾った所有物を持ち歩いて使っても構わない、亡者の群れを拾って使う。ルール通りでスよ?」

「「「そういう事じゃない!!」」」

何者かの声に、工鬼はヘラヘラとした笑みを返した。
手に持つ斧は相手に向けられている。

「それに…。あんたらがソレを言うんでスかァ?」

◆◆◆戦場◆◆◆
ドッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!

クズ肉と成り果てた亡者達の姿は大地に染み込むように消えていく。
ここにあるのは元々有った屍のみ。
戦場にこびりついた戦の残り香。

戦国の世にあろうはずのない大型ダンプの突進は更に集う死霊の群れの背後より亡者を踏み潰しながら爆走。
折り重なった屍肉の山に突撃する。

「押さえつけご苦労であります!!十分な勢いをつければ、一撃粉砕は確実でありますッ!!」

しかし。
亡者の山が爆発する。
血染めの竜巻が死肉の壁を粉砕したのだ。
槍を構える統常。

「それでも今更避けられないでありますッ!!」

「島津の絡繰兵に似たり!!」

螺旋を描く槍がクルマ星人を捉えようとした瞬間その姿が消える。

「こんにちは!!」

後ろからかけられる挨拶。
しかしそこには誰もいない。
だが統常は迷わず槍を回転させた。

「チェストォ!!」

「えッ?」「なッ?」「ああッ!!」

如何なる槍の絶技であろうか!!穂先が三つに分かれたかのような軌道を描き、何も無い空間を抉る!!
血が、オイルが吹き出す。

「この程度で伏兵と呼べようかッ!!島津の釣り野伏せに比べようもなし!!」

「ちょっと、コレ…」
「やばいでありますなー、このパワー…」
「出番ねーじゃねーか!!クソヤローがッ!!」

正面から突進するダンプが消えたところで位置は変わらない。
場所さえ知れれば突き破るのみ。
大型ダンプを一撃粉砕する力があるのならば。
あらゆる車に変形できるクルマ星人。

姿を消した状態で声をかけて気をそらす。
陽動であろうとも容赦はしない。
周囲の色を操る未知花

それらを囮にして横合いからの奇襲を目論んだ襲撃者。
戦場において伏兵の基本を読み切れば撃破は易い。
パワーとスピードを兼ね備えた天地信吾

異常なまでの魔人の膂力から繰り出される超絶の槍技は三者を容易く屠る。

「ギーヒヒヒーッ」

三者を粉砕した戸次統常の上空から襲い来る影!!
新たな亡者魔人のエントリーだ!!

◇◇◇断頭3◇◇◇
また「首なし騎士」と呼ばれ、首なし馬に跨った首なし騎士として描かれる事もある。

◇◇◇工鬼2◇◇◇
「「「敗北した魔人を所有物として持ち歩くことはできない」」」

「へえー?そうなんでスか?」

「「「故に君たちは失格だ」」」

「いやいやいや、それは違う。違うんでスよ。そりゃあ通常のルール上でしょう?」

「それに、ルール違反というのなら」

夜魔口工鬼の背後から女の声が響いた

◆◆◆戦場◆◆◆

「ギヒヒィー!!ヤクザの女幹部のオケケが報酬とあればァ。頑張っちゃいますよォ!!相手がムサイ男なのが気に入らないけれどね、ウィヒヒ!!アバッ!?」

怪しげな笑い声を上げた女の顔が引き攣る!!
上空から攻撃しようとしていたはずである。
地上10m。

「アー?なんで私の上にィ?」

棒高跳びの要領で槍を使って超人めいた跳躍!!
相手の更なる上空から猛禽の如く急降下して突き下ろされる槍。

「油断しすぎッスよ!!」

間一髪で空中を高速起動した少女が女を抱えて離脱する。
SMAAAAAAAAAAASH!!
その一瞬、空中の戸次統常に絡みつくネットワイヤー!!

「上には上がいるんだよ」
「油断大テキキキキ危機一発!!それじゃあ簡単タンタンタッターンには方向転換はできないでショ!!」

戸次統常よりも更なる上空にはゴーグルのメカニック少年!!
地上には自らの腕を生体ミサイルランチャー化した狂気の科学者が不定形の生命体とともに!!
BAMBAMBAMBAMBAM!!
アメーバの肉体を取り込み弾丸として射出する!!
改造科学と超生命のコンボ攻撃!!全てを溶かし喰らうアメーバ弾が統常に襲いかかる!!

鉋を生成し操る魔女、舘椅子神奈
どんな場所でも走り抜ける元気少女、早見歩
サイバーメカニック少年、二三一。
巨大なアメーバ生命体、キョスェ。
改造科学者、不破原拒

冥府魔道のマッドな魔人たち5人!!

◇◇◇断頭4◇◇◇
「死を予言するもの」「死を告げる者」であり人間の魂を刈り取る存在として認識される事もある。

◇◇◇工鬼3◇◇◇
「おかしいと…思わなかったか?一人だけ、時代が違う。戦う動機が無い。」

影のように黒い馬に乗った銀髪の女が告げた。

「「「失格する君達と話すことなど…」」」
「ンダコラァ!!ちょっと黙れよ!!先輩が話スんだ!!」

3人組の言葉をヤクザ恫喝が遮る。

「私はおかしいと思った。対戦相手の事を調べるのは当然の事だ。調べ上げ、弱みを握り、戦わずして勝てればそれが最上だ。私はヤクザだからなァ…。情報の報告を…お願いします。」

「流石先輩だ、ウキキッ」
「「「……」」」

銀髪の女の影から何者かが現れる。

「貴方の知っている事を、教えてもらおうか」

◆◆◆戦場◆◆◆
「ナ、ナンデェェェッ!?」

舘椅子神奈が吹き飛ぶ。
武器としての機能を突き詰めた大身槍と、工具としての槍鉋の差は大きかった。

5人目を撃破。

しかし無傷では無い。
鎧の一部は溶け、削り取られた跡もある。

「流石に5人。正面から挑む者は容易くは行かぬか。さて。」

戦場の修羅、戸次右近太夫の前には一人の少女が立っていた。
少女の周囲をゆっくりと舞う蛇が威嚇音を出す。

「行くよ、センセー。」

ナイフを構えて少女は突進する。
その動きは武に生きる者の動きではない。
容赦なく突き出される槍が少女を貫く。

「そんな攻撃ッ!!オフィオファガスッ!!」

少女の周囲で蛇が、クルクルと回る。
法帖 紅。
心を魔獣に変えて召喚する少女。
虚栄心と引き換えに蛇が脱皮するように攻撃を無効化する。

「これが私の計算!!」

タックルのように統常にしがみつく。
その間にも幾度とない攻撃が紅の体を貫くが、無効化!!
しがみついた腕を剥がそうとする、振りほどこうとする、それは超越した魔人の力によって腕がもげる様な行為にしかならない。
殺しに生きる統常に加減はできないのだ。
虚栄心がある限り攻撃は無効化される。
戦国魔人が、ひ弱な少女から逃れられない。

「百点満点だ!!数学の基本を知れば応用問題で自分の能力の使い方がわかる!!応用は自信に繋がる!!虚栄心は自信だと思えッ!!レッスン3は完璧だな!!」
「ぬううッ!?」
「センセーッ!!」

背後から現れたのは破壊的数学魔人、鬼屋敷凉

「ハッハーッ!!テメーをバラバラに因数分解してやるぜ!!」

◇◇◇断頭5◇◇◇
「死者を導く女の騎士」として北欧神話のワルキューレと同一視される。
ワルキューレは戦士の魂を最後の戦いのために導くという。

◇◇◇夜魔口組1◇◇◇
「まあ、あの方に不利益になるのは、私の本意じゃないんだけれどね」
ニューハーフの奪衣婆、肉皮リーディング
地獄の比良坂三兄弟が憤る。

「「「お前ッ」」」

「怒んないでよう。これも能力なんだからさ。理由もなく敗北した魔人を使うことはできない、でも能力なら?グレーゾーンよね、まあ」

「そう、私の能力だ。」
銀髪の女、夜魔口断頭が力強く告げる。

「「「お前の能力は影の馬を召喚…、召喚?」

「工鬼の能力は角のあるサルを召喚する能力ではないだろう?法帖 紅の魔獣も、有村のラーメンも同じ。私の愛馬「しゃど丸」の能力『ハローワークオブザデッド』もそうだ。」

「「「それは…」」」

「現世では浮遊霊や地縛霊と契約して心霊現象で地上げするとか、情報集とか、野良ゾンビをスカウトする程度の力しかない、が。ここでは死者の力はそのまま戦力だ。正直決勝で力が戻って幸運だった。」

「報酬と引換の契約って事。私の場合生き返ったら、あの女の子の面倒を見て欲しいってトコね。」
「失格か?」
「「「ぐ、ぐぐッ」」」
「即時の判断はできないだろう、もし失格となるならば。それが私達の負けなのだ。」

問答に決着はつかない。

「なら話を続けよう。報告をお願いします。仮組員の肉皮リーディング。」

断頭は肉皮に話を促した。

◆◆◆戦場◆◆◆
「へッ!!こいつはヤバイな!!」

鬼屋敷の数学とクラブマガを組み合わせた数学格闘秘術。
そして、そこに能力『ナンバーズオブデス』を重ねた威力は想像を絶する。
その一撃が戸次統常に突き刺さる。
統常の体中から血が流れている。
普通なら爆発四散してもおかしくはない衝撃。
が!!

統常は倒れない。
そして鬼屋敷と法帖の体には無数の槍が突き刺さっていた。
血の中から無数の槍が!!
手が!!
顔が!!
目が!!
口が!!
獰猛に嗤った…。
死を恐れない、狂気の嗤い声が戦場に木霊する。

「センセー…」
「ははッ!!契約通りだ、生徒一号。俺たちの働きとしては完璧だぜ?」
「はい」
「ま、このまま倒せんじゃねーかと思ったのは。流石に計算が甘かったぜ。」

◇◇◇夜魔口組2◇◇◇
「奪衣婆データベースを調べたんだけれど。ぶっちゃけ、地獄に戸次統常の母親は居なかったわ。天国に?とも思ったけれどそんな訳ないわよね?」

戸次統常の母親は一族の汚名を晴らす為に息子を死地に送った。
それだけではない、戸次統常の弟を殺し、自らも死を選んだのである。
戻るべき場所を無くすことで統常に必死の覚悟を伝えたのだ。
それに応えた統常と戸次一族は家宝を焼き捨て屋敷を焼き払い戻る場所を捨てた死の行軍を開始したのだ。

統常がそうだったように地獄に堕ちぬ道理がない。

「戸次一族の主だった者達も地獄にいる形跡がないわ。お勤めを終えたのかとも思ったけれど、そういう事もない。答えはどうなのかしらヤクザさん?」
「答えは出たようだな工鬼?」
「アー、予想通り?何か戦国武者軍団みたいでスよコレ」

小悪魔を使って戦場を監視している工鬼が答える。
夜魔口工鬼の使役する小悪魔は偵察に長けているのだ。

「魔人、戸次右近太夫統常は個人を指すのではない。あれは戸次一族そのもの。戦場に倒れた戸次一族の魂の塊が一つの形を成した物だ。魂の形として最も相応しい姿が戸次右近太夫統常だったのだろう。無数の死兵の魂をその身に抱えるならば、あの能力も納得できる。」

◆◆◆戦場◆◆◆
「統常殿!!」
「おお、鎮時殿、鎮直殿!!」
「遅くなり申した。何年ぶりでありましょう、また共に。」
「何も言うてくれるな。我ら戸次一族。総力戦は数百年ぶりぞ。」
「統常殿の戦いっぷり、いつも見ており申した」
「母上も弟達も」
「はい」
「ならば逝くぞ、我ら戸次の進軍は永遠に止まる事はない!!」
「「応!!」」
魔人と化した戦国武将『戸次右近太夫統常』、そして魔人軍団『戸次一族100余名』。

死兵が戦場に返り咲いた。

◇◇◇夜魔口組3◇◇◇
「「「馬鹿なッ!!あの術式が破られるなんて!!」」」
「ああ、そういう事だったんだ。」

眼を赤く光らせた少女が笑った。

「狂気が強化された所にあの一撃、押し込めていた力の源が術の枠から溢れ出たんだね、面白い。恐怖を見せてもらえる代わりに敵を強化して欲しいとかァ。博打じゃない。もう止まらないんじゃない?アレ。」

「構わない、ヤツの強さの秘密。即ちシークレット能力を暴く事、それが重要だ。」
「その反応はつまらないね。ま、あとは見学させてもおうかな。あっちが勝てば世界が恐怖に染まるんだろうし。」

赤鹿うるふ、負のコミュ力を持ち魔人の能力を強化する少女。

「報告をお願いしようか」
「「「…」」」

三兄弟の沈黙を無視するように断頭の影から更なる人影が現れる。

◆◆◆戦場◆◆◆
亡者軍団が駆逐されるのは時間の問題であった。
数千にも及ぶ貪欲者の地獄の亡者達が100人程度の魔人軍団に蹂躙されている。
当然といえば当然の結果。

「アー。ゾクゾクするぜ。俺は一体どうなっちまうんだろうなァ。」
ドクン!!
魔人、蝦魯夷にゐとの体が鳴動する。

蝦魯夷にゐとの能力は『俺が敵だ(ワン・ターゲット)』。
敵対者の想定する最終強敵になることができる能力。

体が無数に別れるのを感じる。

「軍団に対して、それを上回る軍団になれるなんて…最高だ!!」

戸次一族を皆殺した島津の軍勢が、最強の状態で降臨する。

◇◇◇夜魔口組4◇◇◇
「まあ、アタシは地獄生まれだからさあ。厳密に言うと死者じゃなかったんだけど。負けたから?」
「この大会は、ずっと続いているのだな?」
「うん、そうだよ」
「彼女を参加者としたのは間違いだったな」

曼珠沙華深奈、地獄生まれの少女。

「まあ、最初っから知ってるわけじゃないよ?でも、知ってる限り優勝者は同じだよ。」
「戸次右近太夫統常」
「そう」

断頭は比良坂三兄弟を見る。

「言いたいことは?」
「「「ないね。優勝者がどうしようが勝手だろ?」」」
「つまり、生き返るつもりが無い者をコマにして、生への妄執を持つ罪人の希望を打ち砕く。そういう事に間違いはないという事だな?」

断頭の声には怒りがある。

「「「アッハッハァ。絶望した?だって地獄に堕ちるような奴の希望なんてどうでもいいじゃん。死ねばいいのに!!アッハハハ、もう死んでるんだっけ?」」」

「だって、」
と比良坂 弑が見下したように笑う。

「これが、」
比良坂 葬が馬鹿にしたように笑う。

「君達の為の、」
比良坂 沈が下らなさそうに笑う。

「「「冥界無情地獄なんだから!!」」」
哄笑のハーモニー。

◆◆◆戦場◆◆◆
「これは、コピーしようがないな」
花咲雷鳴は考える。
一丸となって進撃していた軍勢が分散しつつある。
なんらかの能力が敵軍に作用しているのだろう。
向かってくるものを撃破あるいは足止めして欲しい。
それが自分への契約内容だ。
向かってくる死兵の能力は唯々高い戦闘能力。
極地の死線であった戦国に生きた者共が魔人化したという戦闘の極限存在。
そんなのは魔人能力でもなんでもない。

「そんな事言っても関係ないでしょう?」
千坂ちずなが言う。
「そんなの無くても兄ちゃん普通に強いんだしさー」
千坂きずなが言う。

この三人、いや二人は、共に異能殺人者集団・裸繰埜一族に属する者達。
高い戦闘能力を持ち、他人の能力をコピーできる石版を持つ少年、花咲雷鳴。
二重人格をもつ殺し屋の少女、千坂ちずな/きずな
「さて、来ましたね」
「契約の報酬は必ず貰うから」

死兵の群れが殺到した。

◇◇◇夜魔口組5◇◇◇
比良坂三兄弟は笑いながら姿を消した

「いい趣味だぜ、アホンダラァ。」
断頭は不敵に笑う。

「ウキキ。そんじゃあ、続けまスか?」
工鬼はヘラヘラと笑う。

「ああ、最強の玩具で遊んでいるボケ共に希望崎持込の魔人魂を」
「斧部魂も忘れずに~、ウキキ」
「夜魔口のヤクザ魂を」
「ちょうど相手の数もそろった事でスし?」
「ダンゲロスハルマゲドンは盤面を見通さねば勝てねェって事を教えてやらァ!!いくぜェ!!野郎共ォ!!」
「「「「ウッキィー!!」」」」

◆◆◆戦場 ???ターン目先手◆◆◆
迷宮に硝子の雨が降り注ぐ。
雨が!!

「…自分の死因もわからないのに他人に協力するなんてね。ちゃんと探してもらうわよ」
静間千景
触れた物をガラス化する能力『グラスコフィン』。
空から振るガラスの雨。

「茶番に付き合わされたお礼はさせてもらわないと!!」
雨竜院 雨雫。
物体の落下速度を操る能力『遅速降る(ちはやふる)』。

「ザケんな……生き返らせる気もねえだと?!クソッ!殺してやる!」
利根アリア
三次元迷宮を創りだす能力『兇徒迷宮案内』

「ひでェ話だな、ったく。まあ、殺せばいいんだろお、ころせばよお」
神無月狂輔
自分の周囲50mにいるものを肉体的に無力化する『神のご加護』。

広範囲に及ぶ強力な能力のコンボが。
戸次一族を迷わせ誘い込み強烈な攻撃で切り刻む。
迷宮を抜けても彼らに近づく事はできない。
近づけば、無力となり果てるのみ。
迷宮に硝子の雨が降る!!

◆◆◆戦場 ???ターン目後手◆◆◆
乱戦の中に二人男女が悠然と歩みを勧めていた。
一人は女子高生のような姿。
腰には刀。

もう一人はサラリーマン風の男
刀の鞘でぽんぽんと自分の肩を叩く。

「まいったな、『禁止句域』が通じないとは。ビックリだ。」
「…何それ」

彼らの足元には無残にも斬り捨てられた戸次兵が転がっている。

「数百年前の戦国時代の、しかも九州の武士が語る言葉なんて殆ど外国語だからなァ」
「…国際ビジネスにも通じてるんじゃなかったの?」

ヒュッ!!
少女が剣を振るうと目の前にあった大木がバラバラに切り刻まれた。
その向こうに死兵の一団が見える。

「そりゃ、英語やフランス語はな。でもこれはビジネスには使えん。」
ゆらり。
男が奇妙な歩き方をすると死兵達の首が落ちる。

「その動き、島津の示現流か?」
前方に立つ武将風の男が何かを問うた。

「すまないが何を言っているのか。」
「解らないわ」
男が剣を振るう。少女も剣を振るう。
それで終わるはずであった。

キィン!!
無数の槍の穂先が彼らの剣を止める。

「なるほど、一撃虐殺か。ならば我らの戸次無限流槍術で相手をするに足る」

「今のは判ったわ。ベッキムゲンリュウ。戸次無限流?かな」
「ヒアリングはできるじゃないか。あー、少数で多数を鏖す集団槍術とかいう話を聞いたことがあるな」

「言葉通じぬ異人よ、いざ参る!!」

「やっぱり…何言ってるのか…わかんない」
「なら、剣で語るとしよう」

「鬼無瀬時限流...四囲敷応」
使い手は右手首の怨念
「活心流・ニ刀路プラス白蘭”」
使い手は安全院綾鷹
「戸次無限流…虎威電徒」
使い手は戸次一族、戸次鎮時率いる死兵軍団。

技が激突する。

◆◆◆戦場 ???ターン目先手◆◆◆
「……ィィァラッスァァァッセェェェェェイイイィィィィッ!」
「う、うるせェ!!うるせーよ!!死ね!!」
「気合の入ったいい声じゃないですか」
「これは基本だ。アイサツは大事だ。」
「ハァー?アイサツぅ?大体ラーメンってなんだよ!?何様?」
「さて、敵がきましたよ」
「あー、うぜえ!!契約とかよォ!!」
「来客か」

ラーメンを操るラーメン野郎、有村大樹。
喧嘩殺法を操るDQN、月読茎五
正統派ボクシングスタイルを操る、ロダン

彼らは全く共通点がなく。
彼らは全く性格が合わず。
彼らの道が本来交差することは無いはずである。

だが。
彼らから発せられる殺気の本質は同じものである。
まだ生き残っていた貪欲の亡者達はこの気に当てられただけで失禁し気絶した。

「 絶 対 独 立 ! 」
有村は自分の頭部に銃口を当て引き金を引いた。

「ヒャハハ!!おーいいね!!クレイジー!!」

有村の体が捻れ解け異形と化す!!
それはラーメンという存在を現す化物「襤褸王 有村大樹」。

姿は変らないだがロダンから発せられる気は異質であった。
格闘大会ホーリーランドを最終ラウンドまで生き抜いた者だけに得られる実力。
そして死してなお戦いに望む格闘魔人の執念。
これらが合わさった時にだけ発せられる凄みがある。

「カァァァァァッ!!」
暴力!!恨み!!破壊!!殺戮!!
負の衝動が体を駆け巡る。
「殺す!!ぶっ殺す!!アー!!恨みを忘れねえ!!」
Kei-5と呼ばれ暴霊と呼ばれた男は、既に魔人の領域を超えようとしている。

彼らのことを人はこう表現する。

転校生、と!!

しかし、また彼らと対する者達も転校生と呼ぶにふさわしい魔人達。

「おお、化物を打倒してこそ戸次の名が上がるというもの!!しかしこの敵は大将首ではござらぬ、故に戸次鎮直が当主戸次 右近大夫 統常に代わりお相手致そう」

転校生達は静かに吠える。
「戸次無限流、軍愚似」

◆◆◆戸次右近太夫統常◆◆◆
戸次の軍勢はもういない。
戸次 右近大夫 統常は一人。
目の前に相対する馬上の女も一人。

「お主が大将首か」

◇◇◇夜魔口断頭◇◇◇
凄まじい槍の一撃は馬を貫く。
しかし影の馬はそれでは倒れない。
実体が希薄なのだ。

JARARARARARARARARA!!
夜魔口断頭の武器はギロチンを加工した武器である。
刃についた鎖と歯車が回転しながら襲いかかる!!

「これだけ準備して盤面を動かして招待したんだ、1対1と言うのも悪くねェだろう?」

◆◆◆戸次右近太夫統常◆◆◆
戸次無限流は自らを捨て死地に無限の敵を殺す集団槍術。
虎威電徒(とらいでんと)!!
軍愚似(ぐんぐにる)!!
武龍哭(ぶりゅーなく)!!
鯨墓留仇(げいぼるぐ)!!
乱疑盗(ろんぎぬす)!!

それらをただ一人で成し遂げるは武の極地か狂気の果てか。

◇◇◇夜魔口断頭◇◇◇
なぜ戦場において騎兵が強いのか。
機動力、そして頭上を取れることが大きい。
馬上から振り下ろされる一撃が重い!!
馬に踏み潰される者も多い。

しかし満身創痍の統常に断頭は押される

「流石に強い!!」

◆◆◆戸次右近太夫統常◆◆◆
殺!!
槍を構え。

殺!!
唯々前に。

殺!!
敵を殺す!!
たとえ一族が自分が死に絶えても!!
戸次に生は要らぬ!!
戻るべき場所はなく必要もない!!
殺すのみ!!

◇◇◇夜魔口断頭◇◇◇
心臓を貫かれた。
死は免れない。
だがそれでも。
死兵には死しかないのだ。

(アホンダラァ!!生きる事を諦めるなど!!)

「死兵の王よ。王の首を落とすのは断頭の刃。」

◆◆◆戸次右近太夫統常◆◆◆
戸次の武は捨て身の武。
生きる事を念頭に置いた武に劣ることはない。
必殺必死。
捨て身で相手を殺し。
返しにギロチンの刃で首を刎ねられても。
相手を殺せば戸次の名は上がる。

『母上、兄弟・・・某は立派に戦えたでござろうか・・・?』

◇◇◇夜魔口組6◇◇◇
「せっ、せんぱーい。おっぱーい!!」
「死ね!!ボケ!!」

自分に抱きついていた工鬼を殴り飛ばす。
感覚はある。

「はッ。どうやら勝ったようだな。」
「先輩ィ。俺達、ちゃんと『お座り』してましたからね!!」
「マジかよ。キモイ。本当にアホだな。死ね。」
「えー?『お座り』して『待て』って。」
「「「うっきー?」」」
「そういうプレイかと?」

夜魔口工鬼と使い魔のサル達は一斉に首をかしげた。

「私が死んでもしばらく隠れて耐えろという意味だ。」
「やだなあ、解ってまスよォ、ジョーク、ジョーク。」
「じゃあ言ってみろ」

夜魔口断頭は葉巻に火をつけながら工鬼に促す、勝利の理由を。

「戸次右近太夫統常は相手の情報を知ろうとしない。だから地獄の主に選ばれた。」
「そうだな。」
「知ろうとしない人間は状況の改善を計れない。いつも同じ所をグルグル回る。ウキキ。」
「最強のハムスターだったわけだ、その執念は凄まじいがな。あいつは戦っているだけだ、勝っているという感覚も薄い。敵を殺して自分が死んで次の戦いが始まる。自分の能力も理解していないだろう。ましてや相手の能力や編成も。」
「こちらが二人組とは知らなかった訳でスね。相討ちで勝つ事ができなかったというだけ。」
「上出来だ、やるじゃないか。撫でてやろう。」
「わーい、ってもっといい感じのご褒美は?」
「ねーよ、死ね!!」

ゲシゲシとしゃど丸に蹴られる工鬼。

「せっ、せめて先輩に蹴って欲しい…」
「だが汚された名を回復する為に戦う、それは尊敬すべき事だ。」
「あ、スルー?でもあれですね。夜魔口の名を汚すやつは皆殺しってヤツと同じ。」
「ああ、その点で奴に邪はなく尊敬できる相手だった。」

葉巻を地面に捨てグリグリと踏みにじる。

「まあ、それはそれとして。私が死んでもよく耐えたな。」
「そりゃあ、相手が起き上がったら容赦しませんけどね。まあ放置プレイもタマには…」
「…アー、頭かち割って死んで下さいマジで」
「えー?一度はキスまでしたのにィ」

ふと断頭は振り返る。
工鬼もそれに習う。

「さて、約束が本当なら我々は生き返るわけだが」
「あんたら、どうしまス?」

ダンゲロスSS2 冥界無情 決勝戦 了


最終更新:2012年09月22日 00:00