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#divid(ss_area){ *第一回戦【時計塔】SSその2 俺は隣にぶら下がった大きな鐘を眺めるのをやめる。 この鐘は毎正時に鳴るらしいがこのデカさじゃとんでもない音が鳴るのだろう。 俺は鐘から離れると塔の縁から下を覗き込む。 ここはザ・キングオブトワイライト1回戦が行われる時計塔。 時刻は試合開始のちょっと前。 最上部に設けられた鐘楼はざっと地上32、3メートル。 屋根のてっぺんは40メートルには届かないってところだろう。 見下ろしたすぐそこには大きな時計の文字盤がある。4方向全部にだ。 塔自体が10メートル四方ってとこだったから時計は6メートル程度か。 その下、壁は地上まで大したでっぱりもないデザインで、素材はこれはコンクリか? 外の地面に触れたら場外、壁に張り付くのはOKってことらしいが俺には難しそうだ。 俺は外の確認を終えて1階下の機械室に戻る。 部屋の中央には歯車やらが組み合わさった時計の本体が鎮座している。 歩幅で測ると約2メートル四方。身近な時計と比べればはるかに大きいけど、 昔見た、泥棒が主役のアニメ映画の時計塔と比べると相当に小さくてシンプルだ。 たぶんあれは秘密の仕掛けの方が大掛かりだったんだろうな。 それとも水門からの動力伝達の仕掛けかな? まあ想像より小さいとは言っても部屋の半ばの高さで、 文字盤にシャフトが伸びていたりもするしで大いに邪魔だ。 ちなみに本体中央あたりの床には穴が開いていて下の階に振り子をぶら下げている。 その下の階には片道2秒で往復する巨大な振り子以外は何も無かった。 この機械室よりは暴れまわりやすいだろう。 で、それより下の階には何もない。 はるか1階の床までズドンと吹きぬけで、 目算で高さ3メートルごとに手すりの簡素な、ふたりで並べるぐらいの廊下が7層、 ぐるりと壁に張り付いていて、北側の壁に階段が設置されている。 1階の床から数えて3メートル×8=24メートルの吹き抜けってのは震えがくる。 もちろん武者震いだ。 入り口は南にある両開きの大扉がひとつだけ。 転送を使わずに来て入り口で鉢合わせってのは気まずいだろうな。 オホン 俺の肩口で誰かが咳払いをする。 誰かってこいつだ。我が肩に担がれし親愛なる相棒、知性ある槍のガングニル。 俺思いのいいやつだがちょっと口うるさくて浪漫を解さないのが玉に瑕。 どうやら今回もそうらしい。 「もう時間だが敵は姿を見せない。ふたりとも下にいるようだ。 この部屋の出入り口を封鎖すれば下で潰し合いになるだろう。 漁夫の利を得るべきだ」 なるほどいい考えだガングニル。だけどそれは男のやり方じゃないぜ。 それにまだ試合は始まってないんだ。 「それはなしだ。封鎖後にここに直接転送してこられたら逆に厄介だろ」 真野はバイクを持ってたはずだから転送は選ばないだろうけどな。 ガングニルに言ったりはしないけど。 とその時だ。部屋中央の機械からガチッと何かが噛み合う音がして、 天井に伸びたシャフトが動き出し、上からリンゴーンと鐘の音が鳴り響く。 試合の始まりだ。 「入り口を封鎖しろ」 すかさずガングニルが指示を出す。 結局対戦相手はふたりとも下からスタートしたってわけだ。 「まあ待てよガングニル。 敵さんはステルス系の技術とか能力を持ってるかもしれないぜ」 心にも思ってないが封鎖する気はないから言い訳は必要だ。 「そういえば相手はともに探偵だったか。ならば……いやしかし……」 ガングニルがぶつくさ言ってるけど知ったこっちゃない。 振り子の部屋へ降りる。居ない。耳を澄ます。下の方で音がする。 それはだんだん大きくなって戦闘音だと分かってくる。 じれったくなって階段を駆け下りる。 吹き抜けの最上部。8階北壁東端に飛び出した俺は辺りを見回し、 ……居た!逆サイドにある下り口からエプロンドレスの女の子が駆け上がってくる。 女にしては背は高め。リュックを背負って右手に包丁、左手に鋏。 残念。おっぱいは控えめに言うと控えめだ。 あの子が三重人格のミツコちゃんか。えっとお料理上手は確か、 「ふむ、中華料理の象形拳使い。長姉の蜜子だな。油断するな武志!」 そうそうお料理上手は上の子だよな。俺だってそれぐらい覚えてるって。 もうちょっと信頼しろよと口を開き掛けるが階段からもう一人飛び出してくる。 それは男。それは派手な全身タイツ。股間もっこり、もっこり股間。 おおぅ予想外だぜ。何だアレ? 呆気にとられてお口ぽかーんな俺を見てミツコちゃんが振り返る。 怪しい男(消去法で真野だ)は拳を固め、 「でりゃあッ(delicious:「お口に合うと嬉しいです」という意味の英語)」 気合一発殴りつける。 クロスさせた包丁と鋏で受けるも吹っ飛ばされてきたミツコちゃんを受け止めて、 「待て、悪いやつ!お嬢さんボクが着たからにはもう安心です!」 ぴしりと真野を指差す。……決まった。腹が熱くなる。 いやいや腹はおかしいだろ。熱くなるのは胸と決まってる。 「アハー!ごめんねェ!キモイから思わず刺しちゃったァー!!」 俺から飛び離れたミツコちゃんがこっちに包丁、真野に鋏を向けて叫ぶ。 オヤオヤ、ハサミノサキガマッカデスヨ? 「いつものことだが君は女性に弱いな」 慰めありがとうガングニル。だけど女性を守るのは男の努めだ。 俺はまだ警戒しているミツコちゃんに笑顔を向ける。 「ははは急に抱きつかれたらビックリするよね! でも大丈夫。ボクはあんな変態タイツと違って安心出来る男だよ。 こんな傷は気にすることないよ!」 実際俺にとっては大したことはない。 「力を合わせて一緒に戦おう!」 「ハァ?!アタシたちがあんたなんかと手ェ組むとかキモくてありえなァーい!! それにさァー、ミツコちゃんが多勢に無勢とか嫌いだしねェ! だいたいお嬢さんってさァ。これミツゴ君の体だから男だしッ! アハハハハハハハハハハ」 何……だと……結構可愛いのに男!残念だがさすがにまだ男はハードルが高いぜ。 真野の方から視線を感じるが哀れみなんかじゃないだろう。絶対。 あ、目が合った。あ、逸らされた。あ、見えなくなった。 ミツコちゃん改めミツコが視界に被ってきている。 「ヤーハー!続きだ続きだァー!!」 「おおっ、掛かって来い!」 突き出された包丁を真野の右手が上に弾き、その手をミツコの鋏が挟み込む。 しかし鋏が閉じられる前に真野の左がミツコの前襟をとる。 真野は深く息を吸い、くるりと回り腰を入れると、 「ほッ(hot:「熱々ですよ」という意味の英語)」 弾かれた包丁につられ上体が浮き気味のミツコは踏ん張りが効かずに投げられる。 「よっしゃ、いっけーーーーーーーー!!」 チャンス到来、俺はガングニルの狙いを真野に合わせ射出する! しかし思わず叫んだのはマズかった。 真野は半分こちらへ振り返り、手すりの向こうへ後ろ向きに飛び降りる。 落下する真野は1層下の廊下の手すりをすれ違いざまに両手で掴むと、 体を折りたたみ手すり下の腰下ほどしかない隙間を鉄棒のようにくるっとすり抜けた。 その勢いのまま体を伸ばし手すりの上で倒立、 片手を離し180度回転すると再び両手に持ち替えて、 上半身は立てたまま、腰から下を折り曲げ両手の脇の手すりに足裏を付けると、 吹き抜け側へ、くるりくるりと2回転。 そのまま手を放し空中で丸まり独楽のように回転を決め はるか向かいの南側廊下へ華麗にY字で着地する。 「ブラーヴォー!」 気付けば私は腰の前で縦に拍手していた。 なんたるシルク。シルク・ドゥ・ラーメン! 思わず、沸き立つ寸胴の中で軽やかに舞うラーメンを幻視していた。 拍手はいつまでも鳴り止まない。 「……武志」 おっと?いつまでも感嘆している場合じゃなかった。 俺は手すりに飛び乗ると、こちらも負けじと思い切り跳ぶ! 廊下の間、吹き抜けの幅は約5メートル。 助走なしじゃちょっとばかしきついが1階下だし問題ない。着地! だが真野は入れ違いで東側、最上階へと華麗に舞い戻る。 「武志、後ろ!」 ぐあっ!背中に衝撃。振り返ると俺を踏み台にしたミツコが真野を追って空中にいる。 どうやらミツコも一歩遅れてここへ跳び込んでいたようだ。 しかし硬い廊下や手すりと違って人体は踏み台には不向きだ。 残念ながらミツコは廊下の手前で放物線の頂点に達した。 キュルルッ 何かが高速で擦れる音がしてミツコの手元から手すりへと糸が伸びる。 ミツコは振り子みたいに揺れると、左回りで廊下を走る真野へ向かって糸を切り離す。 糸使いは末っ子ミツゴだったっけ? こうしちゃいられない。俺もふたりを先回りしようと向かい、北側廊下へ跳ぶ。 今度は1階上だから助走を付ける。1歩2歩、手すりを踏んで全力跳躍! なんとか届いたが着地は失敗。 壁際まで転がり込む俺の背後を真野とミツゴ?が攻撃を交し合い駆け抜ける。 立ち上がった俺もすぐに追いつく。 真野は英語による精密動作というやつなのか器用にも後ろ走りで、 2本のアイアンロッドを繰り出すミツゴと渡り合っている。 俺はミツゴを背後から襲うのもなんとなくアレなので横から真野に突きを繰り出す。 廊下の幅は槍を振り回せるだけあるがミツゴが邪魔だ。 「俺にやらせろよ。 突き 「多勢に 突き 「無勢は嫌なんだろ?」 「いや、その、先に戦ってたのは僕ですよ!?」 右のロッドを上から突き出し、左のロッドを下から振り上げミツゴが抗議する。 真野が立てた平手でこちらを招く。 さすがに無傷じゃないがクリーンヒットさせてくれない。 形の上では2対1とはいっても連携してなければこんなものか。あるいは 「探偵だからだ。 私は構わん(come-one:「1名様ご来店」という意味の英語) ふたりまとめて掛かって来い!」 「私は、お姉さまとみっちゃん以外の誰とも!組んだりしません!」 いつの間にか人格入れ替わってたミツコが激高。 懐から取り出した何か(マスクっぽいぞ)を顔に当てるやいなや、 ブシュッと音がしてもう一方の手元から白い煙が吹き出す! 近すぎて避ける間もなく煙に包まれる。 「グアァァァァ!」 途端に目鼻に強烈な刺激が加わり、涙と鼻水が止まらずとても目が開けていられない。 くっそ、なんかクスリ撒きやがった。何でもありだな! 「前へ!」 の声に一歩前へ出た俺の背中で風切り音と灼熱感。 「左へ!しゃがめ!4時へ突き!全力前進!……振り返って構え!」 ガングニルの指示で誰かの攻撃をなんとかやり過ごして、やっとこさ目を開く。 誰もいないじゃないか。おいガングニルさん? 「君を襲うミツコを真野が襲った。ミツコが逃げて真野が追った。下だ」 手すりから覗き込むとふたりはかなり下にいる。 2階から4階、はたまたいっきに1階。北西東北南。異様な身軽さで飛び回っている。 ミツコはまたミツゴに変わったらしく糸をうまく繰り、 そして真野は姿が変わっている。 上下黒尽くめに頭部を白いタオルで覆って、 口元は左右に「独」「立」と刻まれた面頬で隠れている。 ああイエス。ニンジャなんですね…… 流石はニンジャ、常識が通用しない変態機動で文字通り飛び回ってやがる。 ミツゴが移動に紛れて糸を張り巡らせれば、真野の手裏剣が切断し、 真野の手裏剣が飛べば、ミツゴの網が柔らかく受ける。 まずいな。すっかり蚊帳の外だ。 俺は一気に2階分を飛び降り手すりを掴む。慣性を殺してさらに2階降下。 空中でやり合っていた二人が弾け、 ミツゴは俺の向かいの廊下に着地。 真野は俺の3階下の手すりに腕を組んですっくと立つ。 突然ミツゴの手元から巨大な龍神が出現。身を縮めると真野に向かって開放! 手裏剣が飛び龍神を切り裂くがバラバラに解けたように見えた龍神は、 9体の小龍に変わって9方位から真野に殺到する! 龍が右上から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!  龍が左から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!   龍が左下から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!    龍が上から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!     龍が右下から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!      龍が右から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!       龍が左上から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!        龍が下から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く!         龍が中央から襲い掛かり、真野の手裏剣が切り裂く! 龍をすべて糸くずに変えた真野は蹴りの構えを取るって跳び上がると、 紐で釣られたように重力に逆らいスーっとミツゴのところへ飛んでいく。 半歩ずれて避けたミツコは包丁を構えると、 「――喝(cut:「まずは具材を切ってください」という意味の英語)」 気合とともに切り込むと、真野が光に包まれシルエットになり何かがほどけていく。 光がおさまると真野は、探偵服に探偵帽をかぶりオカモチを持った姿になっている。 「ヒャッハー!アタシだってねェ、料理用の英語ぐらい使えるのよォー!」 うーむ、他の料理人の干渉でLa Amenの精妙なレシピが乱されたってとこか? 現在のラーメン発祥元ともされる中華の料理人ってのと、 浸透力のある英語を使ったのも効いてるか。 ガキンッ と金属音が響き包丁がオカモチに防がれる。 「料理を生み出すべき包丁が、料理を護るべきオカモチを破壊しては本末転倒だ。 ……しかし英語のグローバル力を知っていながら、 英検士が自分だけだと思い込んだのは私の不覚だ」 「アタシ英検なんて受けてないしィ。英語なんて喋れりゃいいのよッ!」 「確かにネイティブは産声から英語だ。それが言葉というものの本質! 英検など力の数値化の手段に過ぎないのを忘れていた。 次は油断しない。one sentenceお声合わせいただけるかな?」 「O.K.牧場!ヒーハー!!」 ふたりが深く息を吸い 真野がオカモチを頭上に振り上げ、 ミツコが包丁を箸に持ち替え腰溜めに構える。 「喰らいなッ!(cook-like-nurse:「愛を込めて調理します」という意味の英語)」 「ほっ!(hot:「辛いので入れすぎに注意しましょう」という意味の英語)」 ふたりの英語が激突し、膨れ上がった力が台湾島の形を取り、爆発する! 閃光の中から真野が吹き飛ばされ落下。 1階に叩きつけられ体があらぬ方向に折れ曲がる。 かすかに動いてまだ生きているようだがいくらなんでも戦闘不能だろ? そして俺の前。向かいの廊下にはミツコだけが立っていた。 「何故だ?純粋な英語力では真野の方が上回っていたはずだ。」 ガングニルの問いの答えはミツコの足元にある。 ミツコの足はいつの間にか生えた蔦によって手すりの支柱と繋がれていたのだ。 だが吹き飛ばされなかった分まともに威力を受けたふしがある。チャンスだ。 俺は向かいの廊下へ向かって跳び出し、ミツコに向かってガングニルを射出。 半歩ずれて避けたミツコは鋏を構える。 このままじゃ俺がお終いなので槍の柄を横向きに構えなおす。 顔面直撃予定の柄を避けるためミツコはバックステップ。 ミツコの着地とほぼ同時に俺も廊下に着地。再度ガングニルを射出する。 さっき避けられた時点で巻き取り始めていたのだ。 さすがにこれは当たるだろ?という願いも虚しく、 ミツコは着地の勢いそのままに深く沈みこみ間一髪で刃を避ける。 「ただいま武志。褒めてくれてもかまわないぞ」 もう一度巻き取られ再接合されたガングニルが何やらほざく。 と、立ち上がったミツコがバランスを崩す。 左の肩紐が切断されたリュックが右側にぶら下がっている。 それで重心がずれたわけだ。 なるほどなるほど完全には避けきれてなかったのか。 「ふっふふ、どうだガングニル俺の計算どおりだ!」 穂先に向かって片手をひらひら振ってやる。何か悪い? しかしミツコはあんなバランスの悪いものぶら下げて戦えるのか? ミツコの方へ視線を戻し、 「やあお嬢さん。お荷物はお預かりいたしましょうか?」 と言ったときにはミツコはリュックを捨ててさっさと逃げていた。 つれないお嬢さんだ。リュックはまた拾われても面倒だから下へ落としておこう。 そう思って近づきかけたときだ、 「戻れ武志!」 ガングニルの叫びを聞いた瞬間リュックが爆発! 咄嗟に吹き抜けに身を投げたが一瞬高熱に舐められる。 振り仰げばさっきまで居た空間に黄色や緑の炎が広がっている。 「こいつぁ……」 リュックに仕舞っていた薬品に火をつけたのか! だけど問題は火じゃなくて吹き抜けのど真ん中を落下中のこの有様だ。 絶体絶命大ピンチだけど、アドレナリン大量放出で加速した思考でまったり対応。 やあやあ壁がゆっくり昇っていくよ。色とりどりの炎も昇ってて花火みたいだ。 いいタイミングなのでガングニルを射出。廊下の裏に突き刺さる。 ガクンと衝撃を感じて一瞬落下が止まったけど穂が抜け落ちる。 幸いなことにその一瞬で横向きの力が働き3階ほど落ちて廊下にぶち込まれる。 ぐはっこれは死ぬ。あの一瞬は超重要だった。 あれでちょっととはいえ落下速度が弱まったわけでグゥァ全身が軋むぜ。 なんとか立ち上がって上を見上げるけどミツコの姿は見えない。 しかたない真野に止めでも刺すかと今やすぐ下の1階を見下ろす。 真野は、眩い光に包まれていた。 シルエットになりディテールは分からないけど、 体を覆っていたものがほどけて、代わりに新しい何かに包まれる。 折れ曲がっていた体もまっすぐになっていく。 そして光が晴れたとき、つなぎに身を包んだ真野が五体満足で立っていた。 「原子の転換再構成か。私のような人工生命の創造にも関わる力だな」 ラーメン野郎がラーメンに何を求めてるかは知らないけど、 そんなご大層なラーメンは俺はちょっと御免だなあ。 「や、元気?」 真野に一声掛けてガングニルに出撃命令。 病み上がりとは思えない動きで見事に回避。 代わりにスパナをプレゼントしてくれる。ありがたいね。 「残念。死んでくれたかと思ってたんだけどな」 「探偵は最後まで生き残るものだ。勝つのは私だ」 「なるほど一理あるけどどうだかな?」 俺は右手の人差し指を立て、 「第一に、探偵は死ぬことはなくても負けることはある」 あのホームズだって負けたことはある。 続けて中指を立て、 「第二に、最近じゃ探偵が死ぬことすら珍しくない」 セオリー外し自体がセオリーってことだ。 おまけで薬指も立てる。 「そして最後だ。これはミステリなんかじゃないんだぜ?」 うりゃっ、俺は手すりを飛び越え長く持ったガングニルを叩きつける! 横に避ける真野に薙ぎ払いで追撃。 今度はしゃがんで避けられたが1回転して低めにもう1撃。 一方的に攻撃出来るのが長物の良いところだぜ。 跳び上がってさらに避けやがるので、 慣性で流れるガングニルを強引に振り上げる。 さてさて足場のない空中でどう避けるって?! 答え:槍を足場にする。「私を踏み台にした!?」 でした。柄を踏んだ真野は俺の力を利用して3階へ跳躍。 「フハハハハ、さらばだ黒田君! 私は彼にラーメン(真実)を届けなければならないのだ!」 ばさりと存在しないマントを翻す勢いで、 むしろ怪盗っぽいセリフを吐いて階段へ駆けていく。 ノリがいいなあ。俺もああ在りたいものだ。 と感心しながらも追いかける。ぼっちは御免だ。 ぐんぐん登っていった真野に遅れること数秒、振り子部屋の前で追いついた。 真野はしゃがみ込んでノブの辺りをを調べている。 無防備さらしちゃって、俺って舐められてるのか? 暫く調べていた真野はつなぎのポケットから小さな薄い棒状の器具を取り出すと、 「鍵穴と糸のトリックとは古典的だ。探偵である私に通用するとでも?」 といって鍵穴を二、三度こじる。 途端に扉の向こうで何十本もの鞭を振るうような鋭い風切り音が鳴る。 音が止むのを待って扉を開けると壁や天井から無数の糸が垂れ下がっている。 なるほど迂闊に飛び込めば糸で切り刻まれていたってわけか。 「短絡的に真野を襲わなくて良かったというわけだ。 君にも多少の運はあったらしいな。安心した」 本気で言ってるのが恐ろしいな。 「何もないのに敵に無防備な背中晒し続けるわけないのは当然だろ? 運じゃなくてちゃんと頭使ったんだぜ。 「ところで真野さんよ。ミツコは見当たらないしここでふたりでやっちゃうかい?」 「私は構わん。と言いたいところですが、 今はあなたのような真実を蔑ろにする人は後回しだ」 そう言って階段を上り機械室への扉に向かう。 「聞き捨てならないな。俺がいつ真実を蔑ろにしたって?」 「例えば今だ」 訳知り顔で言う。 「ふむ、よしここには仕掛けはないようだ」 そして躊躇いなく扉を開く。 今度は何も起こらず真野は機械室へ消える。 当たり前に無視してくれちゃって、三つ巴で戦ってるんだって分かってるのやら。 俺はぼっちになる気はないって言ってるのに。 ……いや口には出さなかったけどさ。 「光吾くん。キミに言うべきことがある」 「ハァア?胡散臭いラーメン野郎にこのアタシがッ、 可ァ愛いミツゴ君の耳に変なこと吹き込ませると思ったァー?!死ねッ」 「やれやれしかたない。一旦けりをつけるしかないか」 機械室に入ると真野とミツコが時計の本体を挟んで対峙していた。 くっそ、いい雰囲気つくってやがる。 これ以上の脇役扱いは御免なので、 こっちに向けられた真野の背中に遠慮なく突きをぶち込む。 半ば避けられたけど左脇腹を抉ってやった。 俺を邪魔者みたいな目で見るが、主役を無視するからそうなるんだぜ? 真野は暫く時計の本体にもたれていたが急に上への階段へ駆け出す。 3段飛ばしで駆け上り鐘楼へ飛び出した俺は、 鐘の向こうへ逃げていく真野を見つけて追いかける。 だが突然、リーンゴーンと振れ始めた鐘が俺を塔の外へと弾き出す! 「馬鹿なッ、次の鐘が鳴るほどの時間は経ってないはずだ!」 ガングニルの驚愕は正しい。 だからこれはきっと人の手によるもの。そうだ真野の仕業だ。 さっき機械にもたれていた時に弄ってやがった! 今日はよく落ちる日だ。嫌になる。だけどお蔭様で対処法はばっちりだ。 俺は壁に向かって斜め下にガングニルを射出。 穂先ががっちり壁を穿つ。斜め下向きで刺されば簡単には抜けないはずだ。 俺は光のリボンに吊られて文字盤に激突。 デジャヴがほんと嫌になるが落ちて負けるよりましだ。 とはいえ文字盤より下まで落ちなかったのはラッキーだ。 壁と違って手掛かり足掛かりは十分にある。 登り始めた俺の上に鐘楼での会話が降ってくる。 「秘密は暴かれた」 風が強くて聞き取りづらいが、これは真野の声だ。 「ハアッ?秘密ゥ?」 「英語を交し合ったあの時、私には分かった。 光吾くん。キミのお姉さん達は既に亡くなっている。 今キミの中に住んでいる彼女たちはキミの心が作り出した偽者だ!」 「下劣な卑怯者!それでみっくんを動揺させる気!?」 「光吾くん。本当は分かっているんだろう? キミも探偵ならthing-the-true(真実という意味の英語)を受け入れるんだ!」 「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 それきり風が強さを増して聞き取れなくなる。。 ようやく登り終えた俺の目に映ったのは一人佇む“ケルベロス”ミツコ だった。 今、どのミツコだ?真野は? 「真野はどうした!?」 「彼なら僕が倒しました。姉ちゃんと姉さんを侮辱したから」 塔の淵のその向こうを指差して、 「ほら、そこを落ちていきましたよ。 確認するならどうぞ。襲ったりしませんから」 俺は指された場所へ移動すると、ガングニルの穂先をミツコに向けて下を覗き込む。 なるほど遥か彼方の地面には真野がひしゃげて張り付いている。 さすがに死んでいるだろうけど、生きていても場外だ。 そしてこの時、真野を倒したことでミツコの能力が条件を満たし、 とある邪悪な映画があらゆる記録媒体から消滅していたのだけどそれはまた別の話。 「オーケー。あとは俺達が決着をつけるだけってことだ」 なっ! 俺はミツコに向けていたガングニルを射出。 向かって左、鐘の向こうへ回り込み避けられるが気にするな。 そのまま柄を左に振ってやると穂先がリボンに引っ張られて追撃。 「外した!」 という声と共に穂先が鐘の左から登場。とっとと引き戻して再接合。 続いて飛び出すミツコに向けて構えるが、 ミツコのすぼめられた口からキラッと光が迸る。 ガングニルを体の前で回転させて、飛んできた無数の光を打ち払うが数が多すぎる! 回転する柄の間を抜けて何かが俺の体にいくつも突き刺さる。 「くそっ」 一瞬怯んだ隙にミツコが逆向きに駆け出す。 追いながら確認すると刺さっていたのは縫い針だ。 小さい分ダメージは大した事はないが毒でも仕込まれてると厄介だな。 急いで勝負を決めようと追う速度を上げるが、剣山をマキビシのようにばら撒かれる。 軽く跳んで避けたところに網が飛んでくるのを切り裂いてさらに追うが、 距離が詰まると包丁が飛んできた。 打ち落とすのは簡単だがほんの一瞬わずかとはいえ速度が落ちるのは否めない。 「ああもう、小賢しい時間稼ぎを!」 距離を詰める度に、、 肉切り包丁、中華包丁、出刃包丁、柳刃包丁、菜切り包丁、 次から次へと飛んで来て鐘の周りを2~3周した頃、 ようやく手持ちが尽きたのか、また懲りずに網を放ってくる。 イライラしながらガングニルを振りかぶるが、 「待て、いくらなんでも単調すぎる!」 と警告。知ったことじゃないしもう間に合わない。 穂先が網をどんどん切り裂き、途中で硬い何かに邪魔される。 何だ?裂け目に目を凝らすと、網の裏に空の糸車が張り付いている! 断ち切れなかった網が絡みつくが、裂け目から強引に引き剥がす。 だがその隙にミツコが何かを一気に引いた。 その瞬間、鐘を取り巻くように十重二十重に糸の螺旋が立ち上がる! くっそ、これがやりたくてグルグル回ってやがったのか! 鐘楼中心に下がる鐘めがけて引き絞られる糸の螺旋と体の間に、 ガングニルの柄を立てて受けるが背中から鐘に叩きつけられ、 強力な締め付けで柄が体に押し付けられて、その両脇の肉が切り裂かれる。 力に耐えられなくなった糸が弾け飛び、ようやく開放される。 恐ろしいことにガングニルの柄にまで食い込んでいやがった。 そんな戦慄をする時間も禄にくれず両手に鋏を構えてミツコが襲ってくる。 左右別の鋏だが、俺にはそれが料理鋏なのか園芸鋏なのか断ち鋏なのか分からない。 分からないがどうでもいい。ようするに挟んで閉じるか突き刺すかぐらいだ。 リーチで上回るこっちが有利。まだなんとかしてみせる! 俺は鐘の下をくぐって反対側にまわりガングニルを構える。 相棒の視界は360度。どっちから来ても対応できる。 「左だ!」 の声に構えを修正。即射出! これぐらいは読まれているが、穂先をやり過ごしたミツコに柄を棍として殴りかかる。 右上から叩きつけ、逆に返して左下から石突で突く。 返した力に引っ張られ戻ってきた穂の茎がミツコの背を突く。 さすがに刺さりはしないが肉の一部を抉って跳ねた上げられた穂を再接合。 そのまま斬り下ろすが踏み込みが乱れ、穂が地面を叩く。 まずいな。ここまでの負傷の蓄積が効いてきた。いよいよ決着をいそが…… ジョギリ 今まで知ったことのない不気味な感触を受け、腹が切り割られる。 視線を下ろすと3つめの鋏が俺の腹を割っていた。 鋏を握るドス青い蔦植物の束は、ミツコのスカートの中から伸びている。 ジョギリ 左手の鋏が胸を裂く。 ジョギリ 蔦の掴む鋏が背後から首筋を断つ。 急速に力が失われ俺は膝から崩れ落ち、 ガングニルの柄にすがってかろうじて地に伏すのを耐える。 意識が遠い。 ゴギョリ 右手の鋏が柄を半ばから切り折る。 支えを失った俺は倒れ伏し、 カラン、ラン、カンと柄の片割れが地に跳ねる。 俺の右手には沈黙するガングニル。 うお、ぉぉ? 「うおおお!」 きさま 「貴様!!」 よくも 「よくも、ガングニルををををををををををををををををををををををををををを」 ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを ををををををををををををををををををを!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 気付いたとき(それは実はほんの一瞬後のことだった) 俺は力を失ったはずの足で立ち上がり、ミツコの喉元に槍の穂先を突きつけていた。 射出した。首が半分千切れた。頭がぶら下がった。勝利した。槍は折れていた。 俺は勝った。 だが、決して失ってはならないものを失ったのだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「…ってはならないものを失ったのだまる」 ターン!と音高くエンターキーを叩き、黒田は満足げなため息を漏らす。 ここは黒田の部屋。机の上にはノートパソコン。 今はザ・キングオブトワイライト一回戦を終えた夜。 黒田は終わったばかりの一回戦を元にして自伝小説を書いていたのだ。 傍に立て掛けてあったガングニルがモニタを覗き低く呻く。 「ひどい。捏造だ」 「おいおい人聞きが悪いだろ。脚色だよ脚色。 読者に楽しんでもらうためのちょっとしたサービスさ」 黒田は小首を傾げ、肩をすくめて両手を広げる。 「大きな流れは変えてないだろ。 俺が上にいてふたりが下から上がってきて始まった。 ふたりがどこでどんな順番で戦かったかとか、ふたりがどんな戦い方だったかとか、 なんてとこでは嘘はないぜ?」 黒田の名誉にかけて確かにその言葉には嘘はない。 だが誤魔化しがある。ふたりのという言葉が問題だ。 あの場にいたガングニルを誤魔化せると思うのは虫がいい。 「だが君は何度かちょっかいを出しただけ。 ほとんど戦う振りをしていただけの様なものだ」 (それに私はあんなにお喋りじゃない)という私的な問題への指摘は飲み込む。 そう、黒田自身は自伝小説とやらで書かれているほどまともには戦っていなかったのだ。 「ふむふむガングニル君。それは主観によるところが大きいのではないかね? 手数は少なくても戦局への影響度は大したものだったと推量しても良いのではないかと、 私などは愚考するところであるよ」 黒田が反論するが、残念なことに目が泳いでいては説得力に欠ける。 そわそわとして腰が落ち着かない様子だ。 「いいだろう。だが最後のあれはなん… 「おっとー!」 ガングニルの台詞が黒田の大声で遮られる。 「そういえばミツコちゃんたちとお食事の約束があったんだー。 わー大変だー。遅刻しちゃうー。ゴメン、話はまた今度!」 言い捨てて、黒田は脱兎のごとく部屋を飛び出した。 明かりが消され部屋は暗闇と静寂で満たされる。 「私が折れたのは君が何でもないのに何にもない場所で転んだせいじゃないか……」 ぽつりとこぼれたガングニルの嘆きを、モニターの中のあの原稿だけが聞いていた。 } &font(17px){[[このページのトップに戻る>#atwiki-jp-bg2]]|&spanclass(backlink){[[トップページに戻る>http://www49.atwiki.jp/dangerousss3/]]}} ---- #javascript(){{ <!-- $(document).ready(function(){ $("#main").css("width","740px"); $("#menu").css("display","none"); $("#ss_area h2").css("margin-bottom","20px").css("background","none").css("border","none").css("box-shadow","none"); $(".backlink a").text("前のページに戻る"); $(".backlink").click(function(e){ e.preventDefault(); history.back(); }); }); // --> }}

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