その他幕間その12

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dangerousss3

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幕間SS~アメ×ハレル?それともハレル×アメ?~

乾燥した地面を踏みしめ、跳躍する均整のとれた足。
風一つない宙空に綺麗な流線を描き、瞬く剣閃。
広大な土地の真ん中で、二人の少女が熾烈を極める戦闘を行なっていた。

「ハレっち・・・見損なったよ。『あんなやつ』に魂を売るナンテ!」
紅色の着物を着た背の低い少女が悲しそうに言う。

「・・・それはこっちのセリフ。おかしいよ、アメ」
金髪を結い上げた少女が哀れんだ目で見つめ返す。

ここは、参謀諜刀アメちゃん+98の精神世界。アメ自身の精神の状態を表す心象世界は荒れ果てていた。
姫将軍ハレルと参謀諜刀アメは互いの思いをぶつけるように得物を振るっていた。
携えているのは木刀であったが、普段の修行とは違う真剣勝負。己の矜持を掲げる武人の仕合であった。

「私はゼーッタイ『あいつ』だけは認めないヨ!ハレっち、目を覚まして!」
「・・・多数派はこっちの方。・・・目を覚ますべきなのはアメの方だよ」

予定調和の様に木刀は交差し、弾き合い、体に届くことはない。
これは二人の実力が拮抗しているためだ。性格も、戦法も、技法も互いに知り尽くしている。
それ程までに無二のパートナーとして強く結びついていた彼女達の間に、今は亀裂が走っている。
おそらく、余程の事があったのだろう。その原因とは一体・・・?

一度距離を取った二人が木刀を構え、疾走を開始する。
それぞれの思いを口に出し、気合を入れる。

「「おいしいのは―――」」
奇しくも言葉が重なった。しかし続く言葉は決別の意を含んでいた。

「やさすいの方ダヨ!」
「・・・いろはすの方!」

――――いろはす・やさすい戦争!!!!
これは彼女達が衝突するのも仕方ない!宗教戦争や、きのこたけのこ戦争と同じく恋人や家族、親友同士ですら争いあう危険性のある火種なのだ。

「いろはすは味が濃すぎるジャン!」
やさすい派のアメが逆袈裟斬りを仕掛ける。余談だが作者はやさすい派である。アメちゃんがんばれ!
「・・・やさすいは味が薄すぎるんだよ」
いろはす派のハレルがアメの刃を受け止める。

ちなみにこの「いろはす・やさすい戦争」、少数勢力のやさすい派がムキになって突っかかっているだけのような気がするが、気にしてはいけない!きっと気のせいだ!

「・・・何より、やさすいは後味が微妙。」
「あの水を飲んだ時のようなスッキリとした後味がいいんジャンカ!日本人が備えるべき侘び寂び!おしとやかなヤマトナデシコの精神を具現化した飲み物がまさに『やさすい』ナンダヨ!」
「私・・・日本人じゃないし。」

長時間に及ぶ戦闘に、二人の身体は熱気を帯びていた。飛び散る汗。美少女の汗!!
作者的には正直「いろはす」や「やさすい」よりも美少女の汗をボトルに詰めたものが欲し―――失礼!いろはす・やさすい戦争に置いて他の飲み物の名前を挙げることは禁忌であることを失念していた。
きのこたけのこ戦争に於いてアルフォートの名を出す事と同義の愚行!
小学生同士の喧嘩に核兵器をぶち込むようなものと言えばどれだけ卑劣な行為かお分かりになるだろう。そう、小学生の喧嘩に例えられるようにこれは非常にレベルの低い争いなのだ。

しかし、どれだけ馬鹿らしい争いでもそこには譲れないものがある!!

「―――夜叉雨《やさすい》!!」
「―――色彩晴守《いろはす》!!」

己の信じるものを言霊として紡ぐことで、ついにその思いが剣技へと昇華した!
闘気が異様な密度で放たれ、視覚化する。
今、彼女達の背後には揺らめく陽炎のように、それぞれ「やさすい」と「いろはす」のパッケージが浮かび上がっていた。
・・・あれ?想像したらかなりダサい!まぁいいや!
土壇場での新奥義。唯一お互いが知り得ていない技。
故に決着が着くとすれば新技が炸裂した直後。

「ハアアアァァアァァアア!!!」
「・・・イヤアアアァァァ!!!」

信念が、狂気が、信仰が、煩悩が、凝縮され今解き放たれる―――――――――!!

※    ※    ※


思わず眠ってしまいそうな陽気に、時折肌を掠める微風が心地良い。
当たりは見渡す限りの草原。その中心に設けられた屋根付きの休憩所のベンチに、ハレルとアメは座っていた。

「運動後の水分補給にはやさすいが一番ダネ!」
「・・・何言ってるの、アメ。いろはすが一番だよ」

などと言いつつも、くっつくように隣合って座っているあたり仲の良さが伺える。
結局、勝敗はつかなかった。
実力が伯仲している相手との長時間の戦闘は体を蝕み、疲労を蓄積させていた。新技が相手に触れる直前に、糸が切れたように二人共その場に倒れてしまったのだ。
意識はあるものの、体が動かせなかった。なんとか立ち上がれる程には回復した数十分後、二人はコレ以上の戦闘は不可能と考え、互いの健闘をたたえ握手を交わし今に至るというわけである。アメ降って地固まる!

「・・・アメはいろはす飲んだこと無いんじゃないの?」
「あるよ!かなり前でまずかった記憶しかないダケド!」
「・・・やさすいと飲み比べてみたら?ほら、私のあげるから。」
「え!?いいの!?ハレっちとの間接キスいいの!?ヤッタ―!」
「!?ちょっ・・・」
ハレルが制止するも遅く、アメはいろはすのペットボトルを取り上げて飲み始めてしまう。
「ぷはぁ!ヘヘ、いろはすもハレっちの間接キッス味だと思えばおいしいネ!」
「・・・もう。アメったら。もうっ」
ハレルは目に見えて顔を赤くしている。アメはその様子を見て調子に乗るが如く、自分のペットボトルを突きつける。
「さぁハレっちもアメちゃんの飲みかけのやさすいを飲んで!まさにキスの味がするとおもうヨ!」
「・・・わ、私はいいから。やさすいはキスの味というより唾液の味でしょ?」
「キスしたことなんて無いクセによく言うヨ!額や頬にしたことはあっても唇にしたことはないデショ?」
「・・・そういうアメは、えっと・・・キスとか経験あるの?」
「エ!?いやあ、アメちゃん現実世界じゃあ刀だし・・・人の姿で接することが出来るのはハレっちだけだし、その、ナイヨ?」

珍しく戸惑うアメ。
ハレルは未だ赤面しつつも、アメの顔を見て躊躇いがちに何かを言おうとしている。
ハレルが言葉数が少ないのはいつものことなので、アメは続きを促すように黙っていた。
すると、とんでもないことを言い出した。
「・・・・・今ここでシテみる?」
「な、エエ!?ハレっちどうしたのサ!・・・まぁ、アメちゃんはハレっち相手なら構わないケド・・・」
「なら・・・ほら、いいでしょ?私もアメとなら・・・いいから。手、どけて?」
トン、とベンチに手をつきハレルが迫る。紅潮した綺麗な顔が近づいてくる。少し荒い息が顔にかかってしまいそうな距離だ。
「だ、ダメだヨ!この手は、えーっと、魚、そう!死にそうな魚を手の中で暖めてるんだヨ!」
「・・・馬鹿なこと言ってないで。ふふ・・・アメっていざ受けに回るとあたふたするよね。かわいい」
「やっ、まだ心の準備って奴がデスネ!―――あっ!」
横に置いてあったやさすいに手が触れててしまい、中身をぶちまけてしまう。
艶やかな色彩の着物の裾に染みが広がった。

「・・・あ、アメ。ごめん」

ハレルがしていた純白のタオルで、アメの着物をゴシゴシと擦る。
自然と二人の距離が近くなる。
アメの鼻孔に、迫られていた時には冷静でなかった為に気づけなかった匂いが漂ってくる。
微かな汗と、シャンプーの甘い匂いが混在した微香。
(ハレッチの、女の子な匂い・・)
ドクンと。アメの小さな心臓が一度大きく跳ねる。
困ったように、健気に自分の和服を拭いてくれているハレルを愛おしく感じた。
(あ、そうだ!)
心の奥に生じた、いじらしい感情を持て余しながらあることを思い付く。
さっき惑わしてくれた仕返し。これならきっとハレルの慌てふためく姿が見れるだろうと。
恋慕に近い気持ちを隠しながら、頬を膨らませて茶化すように言う。

「もーっ。ハレっちが迫ってくるからせっかくのやさすい少なくなったジャンカ!」
「・・・ご、ごめん。私のいろはすあげるから、許して?」

申し訳なさそうに上目遣いで許しを乞うハレル。
アメはそんなハレルを、カワイイな、と思う。
実際にこぼしてしまったのはアメなのに。ハレルは基本的に人を責めたりしない。
(ハレっちはお人好しなんだから・・・そのうち変な男に引っかかっちゃうゾ!)
ハレルが男に引っかかる様子をふと想像してしまい、慌てて首を振る。そんな事態は嫌だ。ハレルに寄ってくる虫は残らず撃ち落とそうと心の内で決意する。
そして意地悪な笑みを浮かべて言った。

「いろはすはいいからサ、ハレっちもやさすい飲んでみなよ。嫌とか言わせないよ!私の服を汚した罰ゲーム!」
「う・・・分かった」
「よーし!そう来なくっちゃネ!」
アメはガッツポーズを決めて、残量の少ないやさすいを・・・自分の口に含んだ。
「・・・え?」
てっきりペットボトルを突きつけてくるのかと思ったハレルはきょとんとする。
そして、アメはハレルの頬をそっと撫で、唇を近づけ―――――

「―――んっ」
口づけを交わした。
そのままやさすいを流し込む。うまく口渡しができずに数滴こぼれる。
ハレルの頬に触れた手が温かい。
目を閉じたままで分からないが、きっと顔を赤くしているのだろう。
やさすいを口にいれた後、少し調子に乗って舌も入れてみる。
ハレルの舌に触れると、ハレルの身体がびくっと跳ねた。
舌を絡めて幸福感に浸る。ハレルのファーストキスを奪った。それだけでアメの独占欲が満たされていく。
ハレルはされるがままだ。喜んでくれているといいな、と思う。
呼吸が苦しくなり、そっと顔を離す。名残惜しい感情を表すように、絡まった舌から唾液が糸を引き、そしてぷつんと切れた。

ごくん、と喉を上下をさせる音が聞こえた。ハレルが口に含まれたやさすいを飲み込んだ音だろう。
目を開けてハレルを見ると、爛熟したトマトの様に顔を真っ赤にして体を震わせている。
アメと目が合うと、ハレルは視線を逸らした。
「・・・あっ・・・っ・・・」
何かを言おうとして、口を開けたようだが言葉になっていない。
(―――やった!ハレっち戸惑ってる!カワイイな。カワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイ・・・!)
頭の中が「カワイイ」の四文字で埋まる。それ以外は考えられなくなって、思わず率直に聞いてしまう。

「ハレっち!アメちゃんとのキスはどうだった!?」
そんなアメを見て、ハレルはクスっと笑う。
「もうっ・・・やさすいの味を聞きたかったんじゃないの?」
アメははっとした。思わず落ち着きを失ってしまった自分を恥じる。これでは自分も結局戸惑ってしまったみたいじゃないか。実際その通りなのだけど。
(・・・だって、ハレっちが可愛いんだもん。)
心の中で呟く。なんだか返り討ちにされた気分だ。しかし、ハレルに夢中になっている自分というのも、どこか心地よかった。
平静を装ってアメは改めて尋ねる。
「ゴホン・・・で、やさすいはどうだった!?美味しいデショ!」
「・・・やっぱり微妙かな。」
「そっかぁ・・・」
その返答に、アメは少し落ち込んだ。
先程まで感じていた幸福感が少し薄れる。なんだかハレルと繋がり会えたような気がしていたのが、自意識過剰な感情に思えてきた。ただハレルはやさすいの感想を言っただけなのに、キスも「微妙」だと言われた気分になった。
「・・・でもね」
と、そこで。

ハレルはそっとアメを抱きしめた。

「・・・アメとのキスの味は甘くて柔らかくて、幸せ。やさすいはキスの味だなんて嘘。あんな素敵な味は、やさすいには出せないよ」

その言葉に、アメの心を快い微風が凪ぐ。
服を通して、ハレルの心臓の鼓動が感じられる。
ドクドクと、速い。
ハレルも自分と似たような思いをきっと感じてくれているのだ。
幸せ。幸せ。幸せ。
(・・・まったく。ハレっちはいつも無垢に、純粋に、アメちゃんを慰めてくれるんだから。)
親友であり相棒――――いや、今やそれ以上の感情を抱く相手に素直な思いを伝える。


「大好きだよ、ハレっち。」
「・・・私も、大好きだよアメ。」


アメの精神世界は、今、満開の花畑に包まれた。

【END】