その他幕間その18

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dangerousss3

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合縁奇縁 その3

ザ・キングオブトワイライト参加選手用ホテルの、とある一室。

一人の男が、燃え尽きたように――しかし、どこか清々しさを得たような表情のまま
ベッドに寝転がり、天井を見つめていた。

偽原 光義。
かつて、緋色の悪夢によって絶望した男。
その絶望を撒き散らさんとするも、その野望はチャラ男の王・黄樺地セニオによって挫かれた。

「……?」

ぼんやりと寝転がっていた偽原の耳に、微かなノックの音が飛び込んでくる。
気怠そうに身体を起こし、ドアを開けると――そこには、予想外の相手がいた。

「邪魔するぞ」
「……こりゃあまた、珍しい客だな」

魔人ヤクザ・夜魔口赤帽である。

「フン。憑き物が落ちたような顔しおってからに」
「……よく言われるよ。多分、これからも言われるんだろうな」

アキビンの姿でも衰えぬ眼光で、偽原を睨みながら赤帽が皮肉を口にする。
偽原も肩をすくめながら、足元のアキビンを見下ろす。

「で、何の用だ? 憎まれ口を叩きに来たわけじゃあないだろう」

「……おどれが『使わんかった』情報が欲しい」

「情報?」

「ああ。準決勝のためにおどれが用意しとった『リスト』をな」

なぜそんなものを俺が持っていると思ったのか、と言わんばかりに偽原が少し訝しげな表情を浮かべる。
赤帽はその考えも予想していたのか、更に言葉を紡ぐ。

「準決勝――おどれは、あのチャラいのを影ながら応援しとった連中をまとめて潰しとった。
 サビ付いたとはいえ魔人公安、その手の企みを見抜いて潰すんはお手の物、っちゅうわけじゃな」

「……まあな。彼らもその程度のリスクを考えていなかった訳じゃあるまいし、
 そこで恨まれるのは筋違い……と言いたいところではあるが、な」

「フン、別にワシらも責めるつもりはないわ。ヤクザはもっとエゲツないしのう!
 ……話を戻すぞ。おどれは二回戦で見せた手口の延長線で、準決勝を戦うつもりじゃった。
 本来なら――あのチャラ男の昔の友人あたりを『犠牲』にしてな」

ニヤリ、と赤帽がアキビンフェイスで不敵な笑みを浮かべる。
偽原は無表情のまま、黙って話を聞いている。

「チャラ男の友人連中は、カタギになっとる連中ばかり……ヘタしたら、ルールに抵触する。
 『大会部外者への狼藉を禁止する』っちゅうルールに。
 じゃが、参加選手じゃったら? どう転んでも『大会部外者』ではないからの。そこで、ターゲットを切り換えた。
 向こうが打倒・ファントムルージュを掲げとったんなら、向こうが悪いという言い分も立つしのう」

「やれやれ……探偵のお嬢ちゃんと戦って、探偵癖でも感染ったか?
 まあ、否定はせんよ……そんなところだ。あとは……調べたのは良いが、遠方にいる連中も多くてな。
 仕込みに時間を食って、試合をすっぽかすようなマネは避けたかったのもある。
 それに、黄樺地にとって『過去の友人』がどれだけ心を揺さぶれるかもわからなかった」

「案外、効く手やとは思うが……まあ、それはたらればの話じゃ。
 要はその『情報』が欲しいんじゃ。チャラ男やった連中の居場所、そのデータがな」

赤帽が、それまでのヤクザの顔から――真面目な表情に切り替わる。
一瞬面食らう偽原だったが、彼の答えは毅然としていた。

「生憎だが、ヤクザに個人情報を渡すわけにはいかんな。
 腐っても、魔人公安だった者としては……
 どう利用……悪用するつもりかは知らないが、答えはNOだ」

「頼む」

ぱたり、とビンが倒れる。……いや、違う。土下座だ。
泣く子も黙る魔人暴力団・夜魔口組の幹部ともあろう者が。
アキビンの身体をおして、土下座を見せたのだ。ヤクザ界における最上級の誠意の証。
遠く錆び付いていても、かつて魔人公安だった偽原には解る。
それが、どれだけ重く、心の底からの懇願なのかを。

「……わからんな。何故そこまでして、この情報に拘る?
 強請り集りのタネにするにしても、他にもっと絞れる奴はいるだろうに」

「……理由が要るなら、説明するわい。それは――」

赤帽が、口を開く。その口調は、何かの『決意』を強く感じさせるものだった。

「――――」

拘る『理由』を聞き終えた偽原は、顎に手を当てながら答えた。

「――成程。そちらの事情は分かった。
 ……だが、渡すことはどのみちできんよ。選手同士の物品のやりとりは禁止だ」

当然と言えば当然の答え――
しかし、次の偽原の言葉は意外なものだった。

「だが。独り言は別に禁止されてはいないし、
 その独り言をお前さんが聞くのも、何かにメモすることも禁止はされてない」

「……! ……すまん……!恩に、着るッ!!」

「何を謝ることがある? 俺はたまたま、使い道を無くしたリストを
 なんとはなしに読み上げるだけで、部屋にアキビンが転がってるのは偶然だ」

赤帽は土下座したまま、わなわなと震えながら――涙を堪えた。
そんな足元の様子を見ながら、偽原は最後に呟く。

「それに――お前さんらの企みとやらは、俺の最初の『償い』にもなりそうなんでな」