その他幕間その19

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dangerousss3

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合縁奇縁 その4

都内某所。
かつての核戦争よりも遙か以前に、地下に封じられた『ダンジョン』。
その内部に、三人の魔人と――無数の、生ける屍の姿あり。


「ジャカァッシャー!」

ヤクザシャウトと共に、緋色のドスを振り抜く小さな影!
魔人ヤクザにしてアキビン、夜魔口赤帽!

「ふんぬらばぁーッ!!」

股間に二メートルを超える怒張を携えた全裸の巨漢!
異形の格闘家、蛭神鎖剃!

「はっ!」

凜とした気品と、剛毅さを兼ね備えた姫騎士!
ハレルア・トップライトとその愛刀・アメノハバキリ!

三人の魔人を取り囲むは――かつての『黄金時代』の亡霊!
金舞い上がり、人舞い踊る栄華の時代を未だに生き続ける亡者!

「トレン……ディー……」
「ジュリアナー!」
「24時間戦エマスカーッ!」

バブルゾンビである!

バブル時代の繁栄を忘れられず、その崩壊を信じられぬまま骸となってなお彷徨う存在、それがバブルゾンビ!
ある者は体型のハッキリ浮き出るボディコン姿、
ある者は肩に過剰パッドを入れたスーツ、
またある者はDCブランドで上から下まで固めているのだ!
その口からは腐臭匂い立つ泡と、バブルスラングが飛び出す!

なぜこの三人が、かような異形を相手取っているのか?
それを知るには、時間を巻き戻さねばならない――!

++++++

「おどれらの手を借りたい」

ザ・キングオブトワイライト会場、その一角。
赤帽が、蛭神とハレルに協力を持ちかけたのは準決勝が終わった翌日――砂男との会話の後のことである。
――都内某所の『ダンジョン』に眠る“ある品”の回収および、ダンジョン内の脅威の排除。


「ちょっとちょっと!ここまでなんも絡みとかなかったクセに
 ここに来ていきなり手を借りたいとかムシがいいにも程があるよっ!」

異議を真っ先に挟んだのは、アメノハバキリ、通称アメちゃんであった。
刀でありながら、否、刀故なのか――そのテンションは切れ味鋭く、高い。

「大体、準決勝見てたならハレっちがどんな目に遭ったかわかってるでショ!?
 病み上がり状態でダンジョン探索だなんて、そんなムチャさせられな」
「……やる」
「そう、やる…… アレェ!?ハレっち!?」

まくしたてるアメノハバキリの言葉を遮るように、ハレルが小さく頷く。

「私も、手伝いたいもの――その『計画』」
「……まあ、ハレっちがそーいうなら、アメちゃんも協力するけどねー」

ハレルの口調から、固い決意を感じ取り――あっさりと、主の意向に従うアメノハバキリ。
その様子を、困惑しつつ見ていた蛭神が、赤帽に疑問を投げかける。

「そこの娘っこはわかるが……なんでワシにまで声をかける?
 アキビンとなっても、お主が戦闘力で不安を感じるということはなかろうに」
「ダンジョンの奥の『宝』運ぶにゃぁ、人手が要る。
 アキビンの身体じゃあ持ち運べんのでな。それに」

言葉を区切り、赤帽が不敵なヤクザスマイルを蛭神に向ける。

「おどれも、無様に負けたまま帰りとうはないじゃろ。
 武勇伝の一つくらい、土産に持って帰らんかい」
「……フン、言ってくれる」

こうして、二人(と一振り)の協力を取り付け、赤帽は『ダンジョン』へと向かった。
――栄華の時代で時を止めた、朽ち果てた理想郷へと。

++++++

「やぁっ!」

ハレルとアメノハバキリ、人刀一体の斬撃がバブルゾンビの服をはじき飛ばす!

「ブットビー!」

全裸となった女バブルゾンビは断末魔の叫びをあげて崩壊!
バブルゾンビにとってブランド衣服はアイデンティティを通り越して肉体そのもの!
故に、追い剥ぎの能力がついているアメノハバキリでもバブルゾンビを倒せるのだ!

「どらぁっしゃああぁぁっ!」

蛭神の巨大なイチモツが別のバブルゾンビを薙ぎ倒す!

「ゴジカラオトコーッ!」

巨大重機クレーンをも薙ぎ倒す程の筋肉塊による一撃!骸の身体はひとたまりもない!
渋谷系ファッションを纏ったヤンエグゾンビは壁に叩き付けられ崩壊!

「クタバリャーッ!」

赤帽のヤクザドス斬りが別のヤクザゾンビの首を刎ねた!

「ボクハ死ニマシェーン!」

ロングヘアの木訥トレンディゾンビの首が宙を舞いながら末期の言葉を吐く!
トラックにはね飛ばされたかの如く、肉体も吹き飛び壁に激突崩壊!

そんな光景が、数十回以上もリフレインする。
過去の妄執との、壮絶な百人組み手――!


……数刻後。
ダンジョンの広間には、静寂と、残滓だけが残った。

++++++

「……どうやら、辿り着いたようじゃな」

一行が辿り着いた『ダンジョン』最奥部は、明らかにこれまでとは気配が違っていた。
煌びやかさが無いにもかかわらず、どこか荘厳な美しさを感じさせる扉。
地下に押し込められ、古び、朽ちてはいるが――かつての輝きが、僅かに残されている。

ドアノブに手が届かない赤帽に代わり、ハレルがその扉を引き開く。
中に広がっていたのは――

無数のビンが並ぶ、ひんやりとした空間だった。
埃が積もったカウンターは、磨けば今にも光りそうな大理石で出来ている。

「ここは……バーか?」
「おうよ。金持ち共がこぞって酒を呑んだ、カネを呑む場所の名残よ」

蛭神の呟きに、赤帽が答える。

「カネを呑む、ですか……」
「言っておくけどハレっち、硬貨を丸呑みするとかじゃないからね?」
「わかってるってアメちゃん!」

異世界人のハレルが少しとぼけた発想をしているのを、アメノハバキリがすかさずフォローする。
そんな微笑ましい様子を気にも留めず、赤帽はビンの並ぶバックケースを眺める。

「……あった。これじゃ」

赤帽が、目当ての物を見つける。
箱に入れられ飾られたままの、未開封の酒瓶数十本――全て、同じ酒だ。
バブル時代、カネにあかせて買い集められた希少なる名酒。

「“ドン・ペリニヨン”――三十年モノ、か。
 流石にちいとばかし勿体ない気もするが――じゃからこそ、ええんじゃ」

赤帽が、一瞬唇の端で笑い――すぐに、表情を引き締める。
これを手に入れてもなお、『可能性』は――まだ、低いのだ。