相川ユキオ幕間その1

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dangerousss3

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ノートン卿の栄光・幕間SS

 都内には、私の写真が無数に貼られていた。
 千駄木、谷中、神保町といった古書の聖地では、賞金稼ぎどもが跋扈していることだろう。
 これも偉大なる宿命を背負った主人公のさだめか。

 ユキオの阿呆ヅラさえ私の写真の横に添付されていなければ、完璧だったが。

「俺は反省してますよ、ノートン卿」
 珍しく、ユキオは殊勝なことを口にした。
 ただしその目つきは陰惨かつ兇猛であり、内心では少しも反省などしていないことは、
 賢明なる私にはたやすく看破できた。

「なんでノートン卿の口車にのって、わざわざ都内にまで出てきちまったのか」
『人聞きの悪いことを言うな』
 口の悪いやつだ。学歴の低いやつはこれだから困る。

『私はきみに道を示したのだ。「導いた」という表現を使え、きみも編集者の端くれならば』
「表現の仕方にこだわるのは、ノートン卿のような大作家にお任せしますよ。
 ……千駄木の古本協会本部の噂を仕入れてみたんですけど、みんな血眼じゃないですか。
 古本屋を千人単位で雇ったって話です」

『よし。ちょうどいい』
 一騎当千、という私の力を証明するのに、実に都合のいい単位といえた。
 民は群れる。
 真の英雄はひとり立ち、それらを断固粉砕するのだ。

「いまさらノートン卿に文句言っても仕方ないんですけどね。
 ――見てください、これ」
 ユキオは手元のトラックボールを操作し、私を画面へと注目させた。
 そこには我々が打ち破ることになった、哀れな対戦相手の情報がディスプレイされる。

 我々がこの街について、まず転がり込んだのは、世田谷のインターネット喫茶だった。
 他に拠点らしい拠点はなく、特に、ユキオがかつての古本屋に捕捉されることは避けねばならなかった。
 このクズはほかの古本屋への営業妨害行為、ならびに傷害・暴行などで起訴されているため、
 そうした古本屋の勢力の強い土地は避ける必要があったためだ。
 英雄というのは、道化の従者によって足を引っ張られるようにできているのだから仕方がない。

「まず一人目。弓島由一。どう思いますかね」
『無理だな。ユキオが編集者ではまず勝てん』
 私は冷酷に告げた。

『まさに攻城兵器級の能力を持った魔人だ。
 この大会に参加しており、なおかつ一回戦で当たることになろうとは』
「ですよね。やっぱりこれって」
『私の主人公力が強すぎるためだろうな』
「違いますよ」
 ユキオは無礼にもうんざりした顔をした。

「いいっすか、二人目。こっちの、こいつ――ほら。倉敷 椋鳥。
 ヤバイ顔してるでしょう」
『無理だな。こちらもユキオが編集者ではまず勝てん』
 私は再び冷酷に告げた。

『城塞の天敵となる、例の戦術を使う可能性が極めて高い』
「それだけじゃなくて、似てませんかね。
 こいつのこのプロフィール、能力――」
『あんなやつの名前を口に出させるな』
 私は、私の宿敵であるオレイン卿について思いを馳せた。
 やつの編集コンセプトは『携帯する神殿』。
 人間の精神を操り、《天使》と呼ばれる存在を扱う殺戮文書。
 あのいけすかないクズ以下の冒涜的かつ邪悪――

『確かに似ていないこともない。
 この相手が、オレイン卿の精神汚染を受けていると言いたいのか?』
「もしかしたら、ですよ。いや、一人目の弓島だって。
 都合が悪すぎるぜ。千駄木古本協会が雇った、古本屋かもしれねえ」
『だとしたら、なんだ』

 私はまったく、断固として、軟弱なユキオの精神を糾弾する。
 正義は私にあり、私はこの物語の主人公だからだ。

『逃げ出すというのか? 追放者のように? こそこそと?
 恥を知れ! 私がきみに同行を許したのは、逃げ回るためではないぞ!』
「――わかってますよ。でも、小細工はします」
『策と言え。表現がよくない』
「どっちでもいいですけど。まずは、金かな。あと、コネも必要だ。
 忙しくなってきたぞ……おっと」

 ユキオは手早く画面を閉じ、シャットダウンの操作をした。
 その兇猛な目が、こちらのリクライニングシート付き個人席に近づいてくる、
 複数人の人影を認識していた。

「行きましょう。あいつらを相手にしてる暇はないし」
『よろしい。転身だ!』
「便利な表現があるよなあ」
 ユキオは感銘を受けたように呟いて、立ち上がり、私を開いた。
 乱暴な編集。
 スペルをかき集め、強引に固めるような力ずくの。

 そして、ユキオは周囲の客にも、向かってくる数名の人影――
 恐らく古本屋だろう、片手に魔導書と思しき本を持っている――にも聞こえるような、大声で怒鳴った。

「いいか! あんたらに今すぐ死なずに済む方法を教えてやる!」
 ユキオの影はうごめき、床を這い、壁を伝う。
 古本屋らしき男たちのひとりが、魔導書を開いて何かしようとしたが、遅すぎた。

「いますぐ武器を捨てて金を出せ! そして俺たちの言うとおりにしろ!」
 影が立体化し、私の攻撃が開始される。

 それにしてもユキオの言い方は人聞きが悪すぎる。
 まるで強盗か何かではないか?
 これはあくまでも徴発行為であり、我々に何もやましいことはない!

(以上)