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キックOFF

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キックOFF ◆MUMEIngoJ6


「……何のこと、かしら」

 僅かに息を呑んでから、藤林沙理子は淡々とした口調で返す。
 落ち着いた言葉使いとは対照的に、浮かんだ汗のせいで額に髪が張り付いていた。

「二度言わせるな。実力を偽っているのだろう」

 束ねた栗色の髪を風に靡かせ、袴姿の少女が短く告げる。
 E・シズカと名乗った彼女は、いかなる娯楽よりも戦闘を好む侍だ。
 ゆえに彼女は、沙理子の真価を見抜くことができた。
 地球外生命体『ワーム』という正体までは分からずとも、何かを隠していることくらいは読み取れたのだ。

「…………っ」

 シズカの有無を言わさぬ口調に、沙理子は歯を噛み締めた。
 隕石を確認して危険から逃れてきたつもりだったのに、今度遭遇したのもまた危険。
 まず殺し合いに乗り気でない参加者と合流する予定は、立てた端から崩れかけている。
 所持している道具の中で武器になりそうなものは、ブラストガンという電撃を放つ銃のみ。
 スカートのポケットに収めてあるが、それを使用して勝利できるだろうか。
 何せ、沙理子が強者だと知って仕掛けているのだ。
 かなりの強者であろうことは想像に難くない。
 口振りからは掴めないが、ワームであることさえも見破っている可能性もある。
 そのように思案して微動だにしない沙理子の足元に、シズカのデイパックが投げられた。

「得物がないと言うのなら、私のものをくれてやろう」

 腰に携えている刀が一振りあれば、他のものなど必要ではない。
 口に出さずとも言い切り、シズカは童子切安綱の柄に手をかけた。

(どうやら、逃がしてくれる気はなさそうね)

 シズカの動作を確認しつつ、沙理子はデイパックを開く。
 渡された支給品に期待など殆どしておらず、意識は隙を伺うことに集中させている。
 あたかも武器を欲しているかのように、デイパック内に突っ込んだ手を掻き回し――――瞳を見開いた。
 一瞬静止してから、ゆっくりと視線を下ろす。
 入っていたものをまじまじと見つめて、やはり沙理子は固まった。
 そんな反応に、シズカは口元を緩める。
 見知ったものがあったのだと判断して、刀を鞘から引き抜く。
 鬼の首を切り落としたと伝承される刀身が、暮れかけた太陽の燈色がかった光を照り返す。
 呆然としている沙理子の元へと地を蹴り、シズカは刀を縦に振るった。

「ほう……」

 吸い込まれそうな童子切安綱の刀身は、激しく回転する刃に受け止められていた。
 発破をかけるつもりの斬撃だったゆえ体重が乗ってなかったので、刀はやすやすと弾かれてしまう。
 けれども体勢を崩すことなく、シズカは深い嘆息を漏らす。
 使い勝手が悪そうな得物を扱う乱入者に、戦闘狂の血が静かに騒ぐ。

「大丈夫?」
「え、あ、うん」

 割り込んできた男の背後から、二つの声が聞こえる。
 シズカの知らぬ女性の声に、我に返った沙理子のものだ。

「キャット、少女をつれて戻ってくれ」
「シエロ!?」

 キャットと呼ばれた白服に赤マントの少女が、声を荒げた。
 金の短髪のシエロというらしい男は、シズカの方を見据えたまま振り返らない。

「そんなに大きな声を出さなくても、君が戦えるのは知っているよ。でもその子は違うだろ」
「だけど……」

 傍らにいる少女の正体になど気付かず、キャットは口篭ってしまう。
 シエロとキャットは、シズカを戦闘力のない少女に襲い掛かった思い込んでいる。
 となれば、そんな相手の近くに沙理子を放置しておくわけにはいかない。
 人質とされれば攻めあぐねるし、何より沙理子が危険である。

「頼む、キミコたちのところへ」

 同志たちの居場所をシズカに悟られぬようぼかして、シエロは再び指示を下す。
 巨大なナイフとフォークを背負ったシエロの背中を暫し見つめて、やがてキャットは受け入れた。
 沙理子の手を握って来た道を戻ろうとして、彼女もまた振り返らずに言い放つ。

「この子をキミコに任せたら、すぐ戻ってくるわよ。
 それまでに勝手に死なないでよね。何せ、盗賊っていうのは――」
「墓守じゃない、かい? 分かっているさ」

 シエロが真紅の瞳を細めて返答すると、キャットの気配が遠ざかっていった。

「追いかけないんだね」
「いま興味があるのは、お前だからな」

 鞘に納めた童子切安綱を握って、シズカは腰を低く落とす。
 飛竜種を思わせる鋭い視線を身に受けながら、シエロは口を開く。
 人であるのだから、飛竜とは違って交渉も聞くはずだと考えた。
 とはいえ警戒を緩めることなく、回転剣を構えたままだ。

「勘違いしているようだが、私はあのノアの戯言などどうでもいい」

 予期せぬ言葉に、シエロは言葉を詰まらせた。
 シズカは、畳み掛けるように断言する。

「ただ、強者と戦えればそれでいい」
「……それをやめてくれ、ってお願いしたいんだけどね」
「ならば、まずは私を止めることだな。話はそれから、だッ」

 言い切るより早く、シズカは思い切り地を蹴った。

【一日目 夕方/B-2南部 平原】

【シエロ(男性ハンター)@MONSTER HUNTER PORTABLEシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:シエロツール@MHP、連合軍式隊長剣@wizXTH
[道具]:基本支給品、くろこしょう@DQ3
[思考]:守れる者は守る。戦うべき者とは戦う
1:E・シズカを止めたい。
2:キャットと一緒に行動。南下して城に向かいつつ、アルスという名の少年を探す
3:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒
4:殺し合いに乗るのは最後の手段にしたい
[参戦時期]:無印クリアずみ。2ndにデータを継承している(ポッケ村を知っている)可能性あり。
[備考]
※金の短髪、赤い瞳、その他外見は任せます。


【E・シズカ(侍・人間・中立)@ウィザードリィ】
【状態】健康、火傷
【装備】童子切安綱@現実
【道具】なし
【思考】
基本:強者と戦う。
1:シエロと戦闘。
2:あの少女(珠樹)と再戦したい。


 ◇ ◇ ◇


 圧倒的な才の前に完膚なきまでに敗れたネリーは、レーベの村に向かっていた。
 そこに参加者が集まっていることなど知るよしもなく、単に人がいそうだからというだけである。
 支給された『ドア』を使えば移動時間を短縮できるが、あえて足を動かす。
 ブシド・ザ・ブシエのような参加者がいると分かった以上、やたらめったらに使ってしまうワケにはいかない。
 いくら頭の足りないネリーにだって、それくらいは理解できた。

「あ、そこの人たちー!」

 もうすぐ村に入るというところで、ネリーは声を張り上げる。
 沙理子と彼女の手を引くキャットという、同じくレーベの村を目指す二人を発見したのだ。
 二人でいるのなら殺し合いには乗っていないに違いない、と短絡的に決め付けた。

「あなた……いや、なんでもないわ」

 有里公子に声をかけられた時を思い出したが、キャットは何も言わずに押し黙る。
 近付いてきたネリーを下から上へと眺めていって、切り出すことにした。
 わざわざ声をかけて自分の存在を気付かせるなんて、殺し合いに乗っているとは思えない。
 そう判断したのである。

「あの村の宿屋に、私くらいの歳のキミコって子がいるわ。
 彼女のところに、このサリコを連れて行ってあげて。キャットに任された、って言えば信用してくれるはずだから」

 首を傾げるネリーに、シエロの元に向かわねばならない理由が告げられる。

「だったら、あたしが――」
「何があったのかは知らないけれど、そんな状態じゃ足手纏いよ」

 戦闘の疲労により痙攣している両膝を指差され、ネリーは口を濁した。
 回復しようともせずに、身体に鞭打って村を目指していたのだから当然だ。
 がっくりとうな垂れると、キャットの案に従うことにした。

「あ、あの! これを……電撃が出るみたいなので、役に立つと思います」

 踵を返そうとしたキャットを呼び止め、沙理子はブラストガンと説明書を取り出す。
 最初は断られたこのの、沙理子が助けてくれたお礼だと付け加え、やっと受け取ってもらえた。

「二人ともありがとう。じゃあ、また会いましょう」

 ブラストガンの説明書を目で追いながら、キャットはまたしても同じ道を駆ける。
 陽はもう月に取って代わられようとしていて、たなびくマントの真紅でさえ数刻の後に確認できなくなるだろう。

 ――――生きてるって、気遣いあうのと、迷惑をかけあうみたいなものだから。

 初めて会った時のシエロの言葉が、不意に脳内にフラッシュバックした。
 キャットの顎に力が篭り、歯が軋む音が口内に響く。
 まだ、こちらが気遣われて迷惑をかけただけだ。
 このまま勝手に終わられてしまうのは、なんていうか困る。
 そんな思いが膨らむが、彼女の走る速度が劇的に上がったりはしない。
 分かりきっているはずなのに、そのことがキャットにはどうにも歯痒かった。


【一日目 夕方/A-2南部 平原】

【キャット(シティシーフ女)@Romancing Sa・Ga2】
[状態]:軽度の混乱、術力消費(小)、マントなし
[装備]:サイコダガー@魔界塔士、ヒールのサンダル@ロマサガ2、555ギア@仮面ライダー555、ブラストガン@FFT
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1~3
[思考]:生存を最優先に行動
1:シエロの元へ戻り、援護。
2:シエロと一緒に行動。皇帝or信頼できる仲間のために、ノアや参加者の情報を集める
3:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒
[参戦時期]:運河要塞クリア前(皇帝に抜け道の情報を渡していない)
[備考]
※天の術法を修めています。


 ◇ ◇ ◇


 話し終えたプルフォーを、有里公子は優しくだが力強く抱き締める。
 はっきり言ってしまえば、公子には語られた内容がほぼ理解できていない。
 常識であるかのように混ざる単語がまずよく分からないし、声が震えて聞き取れない箇所だってあった。
 しかしそれでもプルフォーの苦しみは見て取れたのだ。
 だったら抱き締めるしかあるまい。誰だってそうするかはともかく、公子はそうする少女なのである。
 一しきり涙を流したプルフォーから離れて、支給されていたミネラルウォーターのボトルをを取り出す。
 コップを取り出そうと食器棚へと向かい、その途中で公子は天井に視線を流した。
 二階に上ったまま、戻ってきた宿屋の主人からは何の音沙汰もない。
 整理しなきゃいけないことが多いことは分かっていたので、一人にしておいたのだが――
 もう一時間が経過して結構経つので、何か話しかけてみるかと考えてコップを二つ手に取る。
 そしてプルフォーの元に戻り、水を注いだ時だった。
 二人の小さな来訪者が、宿屋の扉をノックしたのは。

「そんな、シエロとキャットが……!」

 少女たちから知らされた事実に、公子は目を見開いた。
 まだ別れてすぐだというのに、すでに襲われているとは予想していなかったのだ。
 彼女自身が殺し合いに乗った参加者と出会ってこなかったのもあり、どこか楽観視していたのかもしれない。
 キャットや宿屋の主人から、殺人者の話は聞いていたというのに。

「あの人からの頼みはやり遂げたし、あたしは寝させてもらうよー。
 あたしのこととか話しとかなきゃいけないとは思うし、聞きたいことだってあるけど、まずは体力を回復させなきゃ何の役にも立たないのは分かったから」

 超天才であると思っていた自分が、キャットとシエロの手助けができなかった。
 そのことがネリーに、普段ろくに取らない休息を選択させる。
 階段で宿屋の主人とすれ違ったが、もはや疲労の限界であった彼女には目に入っていなかった。
 二階に到着して、そのまま一直線にベッドに飛び込む。
 消え入りそうな意識の中で、ネリーの脳に自身を助けてくれた男の姿が蘇る。
 本を託されたが、渡すべき人物を未だ見つけ出していない。
 命の恩人の頼みであるというのに不甲斐なく思うが、一度止まったからか身体が動いてくれそうもない。

(起きたら訊くから……いま、は…………)

 ――――よもや少し前に会話したキャットが求め人であろうとは露も思わず、ネリーは意識を手放した。


【ネリー(ロードナイト)@ラグナロクオンライン】
[状態]:美幼女、疲労(大)、睡眠中
[装備]:破邪の剣
[道具]:基本支給品、古代魔術書@Romancing Sa・Ga2、ドア(あと二つ)@魔界塔士Sa・Ga
[思考]
基本:もっと、もっと強くなる。
0:体力回復。1以降は後回し。
1:とりあえず頼まれたとおり「アバロンの皇帝」に反応する人を探し、古代魔術書を渡す。
2:サラシの女性(ブシエ)ともう一度戦う。


 ◇ ◇ ◇


「公子……」

 心配そうに見上げてくるプルフォーに、公子は笑顔を返す。
 みんなを守るのが私の役目だからと告げ、放置されていたコップを手渡した。

「えっと、沙理子はいる?」

 自分用であったもう片方のコップを掲げて尋ねるが、いらないようなので自ら口に運ぶ。
 冷たい水が思考をクリアにしていくような感覚を、公子は抱いた。
 先ほど口にした自分の役割を忘れてはならない。
 胸中で自らに言い聞かせ、空になったコップに水を注ぐ。

「あの、ちょっと外で落ち着かせてもらってもいいですか?」
「いいよ。でもこの宿屋から離れないで、あと何かあったら大きな声を出してね」

 扉を開閉する音が響き、室内に静寂が広がろうとする。
 二杯目のミネラルウォーターを飲み干し、公子は宿屋の主人が下りてきていたことに気付く。
 ボトルを片手に首を傾げるが、ゆっくりと首を振られてしまう。
 さすがに三杯目とまではいかず、空になった二つのコップを片付けようと公子は立ち上がる。

(四人、かあ……)

 守るべき人の数を再認識し、コップを握る力が強まっていく。
 ペルソナ使いであり戦う力を持ちながら、シエロとキャットの助太刀に行けない。
 その理由を十分に分かっていながら、公子はもどかしい思いを隠せない。
 宿屋にいる四人にシエロとキャット、どうにか全てを守れないものか。
 そんな考えばかりが、やたらと募るばかりだった。


【一日目 夕方/A-2 レーベの村・宿屋一階】

【有里公子@ペルソナ3ポータブル】
[状態]:健康
[コミュ]:Lv1・刑死者(プルフォー)、Lv1・愚者(ノア打倒の同志たち)
[装備]:ペルソナ装備済(???・数不明)
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いはしない。他の参加者と協力してノアを打倒する。あとコミュMAXゲフンゲフン
1:プルフォー、宿屋の主人、沙理子、睡眠中のネリーを守る。
2:宿屋の主人が気になる。血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒しておく。
3:イゴールさんいないかなー?
[参戦時期]:詳細不明。決戦より前、荒垣死亡後
[備考]
※コミュは絆を築いた相手との間に生まれるもので、ペルソナ合体をした場合に使います。
 だから別に使わないかも(え)。これから増えるかどうかはわかりません。
 コミュコンププレイ中なので、大分股かけてます。
※プルフォーの話を聞きましたが、だいたいしか分かっていません。


【プルフォー@機動戦士ガンダムZZ】
[状態]:錯乱(やや沈静)
[装備]:NT兵用パイロットスーツ@機動戦士ガンダムZZ
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:マスター……?
1:公子を信用。
[参戦時期]:最終回、死亡後
[備考]
※殺し合いのルールと、ノアについての話を公子から聞きました。

 ◇ ◇ ◇


 宿屋の主人が導き出した結論は、宿屋であり続けるということだった。
 結局、彼にはそれしかできないのだ。
 勇者一行のような戦闘など、いまさら目指したところで不可能なのだから。
 できることは、勇者一行のように輝く意思を持つ人間のサポート。
 ただ、それだけだ。
 勇者一行を、全力でサービスをする。
 それが、宿屋なのだ。
 守られるだけの側ではいられない。だったら、サービスするしかない。
 そろそろ月が顔を出そうとしている。
 時刻にして、約十八時。
 となれば、まずサービスすべきなのは食事であろう。
 風呂は後で沸かしても支障はないが、食欲は満たされなくては行動できない。
 食料が保存されているらしいのは確認済みだ。
 調理道具も発見してある。
 井戸もまた同じく。
 火を起こすのに苦労するほど若くはない。

 宿屋の主人は腰掛けていた椅子からすっくと立ち上がり、台所へと足を運んだ。


【宿屋の主人@ドラゴンクエストⅠ】
[状態]:自身への落胆、焦り
[装備]:ギヤマンのベル@FF3
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×0~3
[思考]
基本:勇者やその仲間を救う。
1:食事を作る。
2:勇者達を探したい(ジャガン、アルス優先)が……
3:血みどろの少女(内田珠樹)、ブシド・ザ・ブシエを警戒。


 ◇ ◇ ◇


 宿屋の表に出た沙理子は俯いていて、表情を伺うことができない。
 小刻みに身体が揺れているせいで、髪が微かに震えている。


 ――――日本人的な黒い長髪ではなく、短く揃えられたオレンジ色の髪が。


 沙理子が、勢いよく首を上げた。
 いままで隠されていた彼女の表情が露になる。


 ――――プルフォーとまったく同じ顔が、口角を吊り上げていた。


 彼女もまた、プルフォーと同じクローン技術の結晶であるニュータイプパイロットなのだろうか。
 いや、断じてそうではない。
 彼女は、れっきとした地球外生命体『ワーム』である。


 ――――ただ、プルフォーの容姿と記憶を手に入れただけの話。


 ワームの真の恐怖は、その身体能力でも成虫の持つクロックアップ能力でもない。
 完璧に他人に成りすます擬態能力。
 それこそが、ワームの最大の特徴にして最凶の武器。
 容姿と記憶を奪い取り、ワームは勘付かれぬうちに人類に侵略しているのだ。
 この擬態能力があれば、一方的に情報を得ることができる。
 沙理子のようなネイティブは、本来は人類との共存を望んでいる種族。
 だが状況が状況だ。
 生き残るためならば、沙理子は躊躇なく人を手にかけるし擬態能力を悪用する。

(なかなか擬態できないのには困ったけど……やっぱり、ノアは私がワームと知ってて読んだみたいね)

 実は、沙理子はキャットやネリーと行動していた時から、擬態を試みていた。
 けれど、できなかったのである。
 本来なら数秒あれば擬態は可能だというのに、だ。
 走っていたり何か行動している時は不可能なのか、はたまたある程度長い間近くにいなければダメなのか。
 どちらかは分からないが、とりあえず簡単に擬態することは許されていないらしい。

「…………ふう」

 沙理子の体表がさざめき、再び黒髪の少女の姿に戻る。
 プルフォーの記憶から考えて、有里公子は完璧なお人よしだ。
 放っておけば死ぬようなプルフォーを助けるのだから、これは間違いないと言っていい。
 シエロとキャットといい、お人よしが何人も参加しているようだった。
 その事実に、沙理子は笑みを抑えきれない。
 さらに、そのお人よしグループに紛れ込むことができたのも僥倖だ。
 欲を言えば、戦闘力のある参加者が公子以外にいたならなおよかったが。
 しかし、もしもの時の切札は手に入れている。
 沙理子は、シズカに投げ渡されたデイパックへと視線を向ける。
 その中に入っていた道具の一つが、沙理子にとって大当たりといえる武器であった。

 ――――ドレイクグリップとドレイクゼクター。

 マスクドライダーのうちの一体『ドレイク』への変身を可能とするツールだ。
 対ワームのために作られたシステムであるが、ネイティブにとっては心強い装備なのである。
 ザビー、ドレイク、サソードの三種は元よりネイティブが作らせたもの。
 ゆえに資格者でなくとも、ネイティブの命令は受け付けてしまう。
 沙理子は極力戦闘に関わるつもりはないが、万が一の場合の戦力は欲しかったところである。
 その点において、マスクドライダーシステムはこれ以上ないほど相応しい。
 排除できそうならば試みて、不可能ならばクロックアップを使用して逃げればいいのだから。
 キャットにブラストガンを渡したのも、これがあったからだ。
 同じ遠距離用武器で被っているし、試し撃ちをしてみたところブラストガンの威力はドレイクのライダーシューティングには及ばない。
 それに、ブラストガンを譲ったことで信用を得ることもできる。
 マスクドライダーシステムがある以上、安い買い物だと沙理子は見立てた。

「でも、安心はできないわね」

 殺し合いに呼び出される前のプルフォーの記憶から、ノアの言っていた『次元』の意味を理解した。
 擬態による完全記憶コピーがなければ信用できない情報だが、沙理子は真実として受け入れる。
 あれほどまでに奇妙な次元から参加者を呼び寄せたのなら、ドレイクに対抗できる参加者もいるだろう。
 とはいえ、そんな際の対応を出会う前から考えてもしようがない。
 まず取るべき行動は――――
 沙理子の脳内に浮かぶのは、手に入れたプルフォーの記憶の一部。
 殺し合いに呼び出され、公子に出会って意識を失った、さらにその後。
 扉を開けて、再び宿屋の中に入る。
 そうしてさも何も知らないかのような素振りで、怪訝そうな声をあげた。

「そういえば、この部屋何だか甘い匂いがするけれど……
 まるでー……そう、バナナケーキみたいなっ! もしかして焼いたの?」

 カップケーキをたった一つだけ焼くなんてありえない。
 だいたい殺し合いの舞台なのだから、後のことも考えて余分に焼いているはずだ。
 結構日持ちするし、残っているに決まっているっ!
 そう考えている沙理子に、一つだけ支給されたのだと告げられるまであと五秒。


【一日目 夕方/A-2 レーベの村・宿屋一階】

【藤林沙理子(サナギ体ネイティブ)@仮面ライダーカブト】
[状態]:健康、人間体
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×0~2(確認済み)、ドレイクグリップ&ドレイクゼクター@仮面ライダーカブト
[思考]
基本:殺し合いに勝ち残る。
1:このグループに溶け込む。必要になればドレイクに変身。
2:『藤林沙理子』を演じて、殺し合いに乗り気でない参加者たちに守ってもらう。
[備考]
※プルフォーに擬態可能になりました。無名ロワ53話時点のプルフォーの記憶を全て得ています。


052:デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ 投下順に読む 054:戦闘員が仲魔にしてほしそうにみている
050:ハートに巻いた包帯を僕がゆっくりほどくから 時系列順に読む 054:戦闘員が仲魔にしてほしそうにみている
041:消せる痛み、消せない痛み シエロ 065:ダブル・デート
033:戦いたい 殺したい 絶望させたい E・シズカ
041:消せる痛み、消せない痛み キャット
040:テメえの都合じゃ生きちゃいねえよ ネリー 057:Andante
041:消せる痛み、消せない痛み 有里公子
プルフォー
宿屋の主人
037:同じ星を見ている 藤林沙理子

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