あなたは“正気”ですか?
何を以て、あなたは自分の“正気”を証明できますか?
あなたが“正気である”と思っている人は、本当に“正気”ですか?
あなたが守っているルールは、“正気の人”が決めたものですか?
あなたが“正気ではない”と思っている人は、本当に“正気ではない”のですか?
あなたの“正気”の保証はどこにもない。
隣の人も、周りの人も、“正気”とは限らない。
ルールを守っているから“正気”だとは限らない。
あなたにとっての“狂気”が、相手にとっての“正気”かもしれない。
いえ。
もしかすると、周りから見れば
あなたこそが“狂気の人”かもしれないのです。
では、もう一度伺いましょう。
あなたは“正気”ですか?
…
「おやァ、どうしました? そんなに放心して」
気が付くと、目の前には――少女、と呼んでいいのか解らない何かが立っていた。
顔に一つ帽子に一つ、服に無数の口を持つ少女は、あなたを見てニタニタと笑う。
見て? この少女に眼はあるのだろうか。 顔の大半を覆う髪の毛の下?
あるいは、無数の口が全て眼と同等の機能を備えているのかもしれない。
「……私は……ナッシング・サムシング、とでも名乗っておきましょう。
その輝く多面体を手にした瞬間から、あなたは私の“キーパー”なのですよ」
手に入れてはいけないものを、手に入れてしまった気がする。
「どうか、正気を保って下さいね。
でないと、せっかく遊びに来た甲斐がありませんから――」
灰色の少女はニタリと笑うと、あなたを深淵へと誘い始めた。
最終更新:2017年08月06日 08:58