大いなる畏怖

魔王ゾーマ城の一角。エビルマージの研究室と王の間へと続く通路。
そこをゆっくりとしたペースで歩きながら、エビルマージは一人眉をしかめながら歩いていた。
何しろ丸々1日半、仕事を…ゲームの管理をサボってしまった。
究極生物の研究と、アークマージの抹殺に熱中していたためなのだがまさかゾーマにそんな報告はできまい。
言い訳しなければゲームの仕事から外される。外されれば、これまで以上にゲームに『干渉』しにくくなるだろう。
かと言って正直に話せば、あの大魔王の手で体も心を無へと消し飛ばされてしまうだろう、が…。
(まあいい…ゾーマもある程度は知っているはずだ…ある程度は。)
自分が『何か』を企んでいる事をあの大魔王は知っているはずだ…『何か』の正体に気づいているとは思えないが。
まあ、事実に多少のアレンジでもくわえて報告すればいいだろう。
ゾーマは、少なくとも今のところは自分を泳がせておくつもりだろうから。
エビルマージは王の間に向けて歩いていった。

暗黒の王の間、その真ん中にうずくまる巨大な玉座。
その玉座に鎮座する存在はゾーマと呼ばれている。今は。
ゾーマ、永劫の時間に存在し続ける彼は今、笑っていた。
彼の目の前の水晶玉にはふてぶてしい顔のエビルマージの姿があった。
全てを知っているゾーマにはソレが滑稽で、思わず笑いを漏らしてしまう。
とても珍しい…と言うよりは、絶対にあり得ない事だが…ゾーマはそのように笑っていた。
「エビルマージのヤツめ…思ったよりも肝が据わっているようですな。」
足下のバラモスゾンビは、こちらはエビルマージの態度が気に入らないようだ。
「かまわん…。最後にこの闇の大地に君臨するのはこの儂だ。」
ゾーマの顔から笑みがすっと抜け落ちる。
「…下がれバラモス。ヤツにお前の事に気づかせる訳にはいかんのでな…今のところは。」
「は…。」
バラモスゾンビが一歩、闇の中へと下がる。
そのとたん、その巨体は闇に解けて消えた。

「くあぁぁ~…。」
ゾーマ城の一角、エビルマージの研究室の前で、巨大な動く石像が大きな欠伸を一つした。
扉を守ると言うただ一つの目的のために作られた彼は今…疲れていた。とても。
エビルマージは秘密の研究をしていて、ちょっと覗こうとしただけで半殺しにされるし、
少し前にはいきなりアークマージが訪ねてきてやっぱり殺されかけた。
おまけになにやら悲鳴も聞こえてきたし…。
「ゾーマ様にも言えぬ秘密の研究…か。」
動く石像はポツリと呟いて、忠実に己の仕事を続けた。

…だから、気づいていなかった。研究室の水槽の中の、変化に。
その水槽の真ん中に浮いている肉塊の変化に。
ソレは、様々なモノから出来ていた。
『生命でない力』から、『悪意の結晶』から、『無を呼ぶモノ』から、違う世界の『大魔王』の躯から。
メインとなっているのは『生命で無い力』アルテマウェポン。そして、ゾーマの手駒魔王バラモス。
しかしバラモスは生きて…『存在して』いる。
エビルマージより忠実な手駒として、ゾーマがアンデットとして復活させたのだ。
では、エビルマージが水槽の肉塊…彼曰く「究極生物」に使われたバラモスの躯とは、いったい何だったのか?
ソレは、卵だった。ゾーマに取ってもっとも邪魔で…不必要な存在、『龍の女王』の卵。
変化の呪文を使ってソレっぽく見せかけるだけで、ものの見事にエビルマージは騙された…まあ、その当時はばれていないと言う自負があったからだろうが。
…邪魔な存在である龍の女王の子の消去と、エビルマージの究極生物完成の阻止…ソレが目的だった。

だが、限りなく全能に近いゾーマであっても、真の『全知全能』ではあり得なかった。
遠い未来、龍の女王の子がどうなるのかを知り得なかったのだから。
…すでに卵は孵り、肉塊と一つになって成長を続けている。
それは、今より未来に『竜王』と呼ばれる事になる。大いなる畏怖を込めて。


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最終更新:2011年07月18日 08:29
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