ゲームと称した殺し合いにおいてやちよが何より優先するのは、いろはと無事に再会すること。
何も他を疎かにするという気は無い。
フェリシアとみふゆをマギウスの翼から連れ戻す、里見灯花と柊ねむを止める、何より檀黎斗や主催者をどうにかする必要だってある。
それでもやはり一番に考えてしまうのは、いろはの無事を直接会って確かめたい。
やちよの中で環いろはという存在はそれくらいに大きなものとなっている。
何も他を疎かにするという気は無い。
フェリシアとみふゆをマギウスの翼から連れ戻す、里見灯花と柊ねむを止める、何より檀黎斗や主催者をどうにかする必要だってある。
それでもやはり一番に考えてしまうのは、いろはの無事を直接会って確かめたい。
やちよの中で環いろはという存在はそれくらいに大きなものとなっている。
出会って間もない頃はなし崩し的に行動を共にするだけだった。
それが少しずつ変わっていったのは口寄せ神社のウワサでの一件からだろう。
ウワサが作り出した偽物であっても、親友を殺し急速に濁ったやちよのソウルジェムを浄化する為にグリーフシードを差し出した。
いろはだって本物の妹と会えずソウルジェムに穢れが溜まっていたのに、他者を優先し自分を二の次にする姿。
危なっかしいと、放っては置けないと思った。
それが少しずつ変わっていったのは口寄せ神社のウワサでの一件からだろう。
ウワサが作り出した偽物であっても、親友を殺し急速に濁ったやちよのソウルジェムを浄化する為にグリーフシードを差し出した。
いろはだって本物の妹と会えずソウルジェムに穢れが溜まっていたのに、他者を優先し自分を二の次にする姿。
危なっかしいと、放っては置けないと思った。
より決定的となったのは記憶ミュージアムでの出来事。
みふゆがみかづき荘を訪れた事で自分の願いによる悲劇を思い出し、あえていろは達へ突き放した態度を取った。
挙句に鶴乃達がマギウスの翼に去った状況で一方的にチーム解散を告げたのだ。
失望され、嫌悪されてもおかしくないような行動。
やちよ自身はそれで良いと思った。
自分勝手なやちよに落胆し離れて行けば、仲間である事をやめればいろは達は死なずに済む。
孤独感と罪悪感に蓋をし、仮面を被り続けた。
みふゆがみかづき荘を訪れた事で自分の願いによる悲劇を思い出し、あえていろは達へ突き放した態度を取った。
挙句に鶴乃達がマギウスの翼に去った状況で一方的にチーム解散を告げたのだ。
失望され、嫌悪されてもおかしくないような行動。
やちよ自身はそれで良いと思った。
自分勝手なやちよに落胆し離れて行けば、仲間である事をやめればいろは達は死なずに済む。
孤独感と罪悪感に蓋をし、仮面を被り続けた。
誤算だったのはいろはがそう簡単に諦めるような少女では無かったこと。
関係無い、迷惑だと何度冷たくあしらっても知った事かとばかりにしがみついて来る。
余りの頑固さにとうとうやちよの方が根負けし、感情のままに自分の願いが仲間を殺すと教えた。
願いに皆を巻き込むと考えていながら、ずっと黙っていた自分を責めて今度こそ突き放せば良い。
それでいろは達が死を免れるなら安いもの。
だというのに尚もいろはは離れずたった一人でやちよを取り込んだウワサを撃退、そればかりかやちよの抱える恐怖を真っ向から否定してみせた。
いろはのおかげでどれだけ救われたか、やちよ自身にも言葉では到底表し切れない。
関係無い、迷惑だと何度冷たくあしらっても知った事かとばかりにしがみついて来る。
余りの頑固さにとうとうやちよの方が根負けし、感情のままに自分の願いが仲間を殺すと教えた。
願いに皆を巻き込むと考えていながら、ずっと黙っていた自分を責めて今度こそ突き放せば良い。
それでいろは達が死を免れるなら安いもの。
だというのに尚もいろはは離れずたった一人でやちよを取り込んだウワサを撃退、そればかりかやちよの抱える恐怖を真っ向から否定してみせた。
いろはのおかげでどれだけ救われたか、やちよ自身にも言葉では到底表し切れない。
それ程の存在が目の前で奈落の底へと消えた絶望感は計り知れず、生きていると知った喜びも言葉では表せない。
神の用意した悪辣な遊戯の場であろうと、いろはが居るのならば足取りに力強さが宿る。
街灯一つ無い道を足早に進んで行く。
戦兎達との合流時刻まではまだ余裕があり、その間に自分がいろはを見付けるか、そうでなくとも戦兎達の方でいろはを保護していればそれはそれで構わない。
神の用意した悪辣な遊戯の場であろうと、いろはが居るのならば足取りに力強さが宿る。
街灯一つ無い道を足早に進んで行く。
戦兎達との合流時刻まではまだ余裕があり、その間に自分がいろはを見付けるか、そうでなくとも戦兎達の方でいろはを保護していればそれはそれで構わない。
「いろは……」
名前を呼んでも彼女は姿を見せてはくれない。
やちよさんと名前を呼び返してはくれない。
会いたい気持ちは際限なく膨れ上がり、自然と歩く速さも上がり出す。
放って置けば夜道にも関わらず駆け出してしまいそうなやちよを止めたのは、不意に感じた人の気配。
やちよさんと名前を呼び返してはくれない。
会いたい気持ちは際限なく膨れ上がり、自然と歩く速さも上がり出す。
放って置けば夜道にも関わらず駆け出してしまいそうなやちよを止めたのは、不意に感じた人の気配。
(っ、誰か来る?)
いろはへの想いで焼けるような熱を帯びた頭は急速に冷え、接近する者をどうするかに思考が切り替わる。
現状、やちよが出会った参加者と言えば先程別れた戦兎とエボルトの二名。
片方は非常に胡散臭く信用出来ないものの、殺し合い自体には否定的。
だがこの先出会う者全員が戦兎達のように殺し合いへ否を唱えるかと言えばそんな訳は無く、他者を積極的に殺害する者も存在する筈。
今まさに近付いている者は一体どんなスタンスで動いているのか。
確かめるには直に会ってみる以外に方法は無い。
グリーフシードが無い状態での戦闘は望ましくないと言えども、危険人物を放置するのもまた望む所では無し。
並大抵の相手ならば余裕をもって倒せるだけの力はあると自負している。
現状、やちよが出会った参加者と言えば先程別れた戦兎とエボルトの二名。
片方は非常に胡散臭く信用出来ないものの、殺し合い自体には否定的。
だがこの先出会う者全員が戦兎達のように殺し合いへ否を唱えるかと言えばそんな訳は無く、他者を積極的に殺害する者も存在する筈。
今まさに近付いている者は一体どんなスタンスで動いているのか。
確かめるには直に会ってみる以外に方法は無い。
グリーフシードが無い状態での戦闘は望ましくないと言えども、危険人物を放置するのもまた望む所では無し。
並大抵の相手ならば余裕をもって倒せるだけの力はあると自負している。
「……」
それでもしかし、万が一の場合を考えておくのは無駄に非ず。
デイパックの口を開き、中からこちらを覗くソレへ一つ指示を出しておいた。
デイパックの口を開き、中からこちらを覗くソレへ一つ指示を出しておいた。
○
「ようねえちゃん、夜道を女一人で行くなんざちょいと不用心じゃねぇか?」
やちよの前に姿を見せたのは長身の男。
ディスコフロアにでもいそうな派手な衣装と、何より目を引く巨大なアフロヘアー。
奇抜な格好の男の登場には、やちよも流石に面食らう。
ディスコフロアにでもいそうな派手な衣装と、何より目を引く巨大なアフロヘアー。
奇抜な格好の男の登場には、やちよも流石に面食らう。
「折角だから俺がエスコートしてやろうか?女の扱いには自信があるんだぜ?」
「…結構よ。それより聞きたい事があるんだけど」
「…結構よ。それより聞きたい事があるんだけど」
軽薄な笑み、初対面の相手に向けるとは思えない言葉。
何より、全身を舐め回すようなじっとりした視線。
モデルをやっているくらいだ、自慢するつもりは無いが容姿とスタイルが優れている事は自覚している。
純粋な憧れのみではなく、『そういった意味』が込められた目を向けられる事も珍しくは無い。
男が自分に向ける目は間違いなく後者。
この時点でやちよの男に対する印象がどんなものかは言うまでもない。
相手の明確なスタンスは不明なれど、少なくとも戦兎のような信じても良いと思わせる男でないのは確か。
ハッキリ言って殺し合い関係なしに関わりたい人間ではない。
が、こんな男でも自分の望む情報を持っていないとは言い切れないのが困りものである。
何より、全身を舐め回すようなじっとりした視線。
モデルをやっているくらいだ、自慢するつもりは無いが容姿とスタイルが優れている事は自覚している。
純粋な憧れのみではなく、『そういった意味』が込められた目を向けられる事も珍しくは無い。
男が自分に向ける目は間違いなく後者。
この時点でやちよの男に対する印象がどんなものかは言うまでもない。
相手の明確なスタンスは不明なれど、少なくとも戦兎のような信じても良いと思わせる男でないのは確か。
ハッキリ言って殺し合い関係なしに関わりたい人間ではない。
が、こんな男でも自分の望む情報を持っていないとは言い切れないのが困りものである。
「女の子を探してるんだけど、会ってないかしら?」
名前は出さずに問い掛ける。
いろはの事を知らせてしまい、彼女に余計な被害が出たら堪ったものではない。
いろはの事を知らせてしまい、彼女に余計な被害が出たら堪ったものではない。
「いや?残念ながら俺が会った女はねえちゃんが初だ」
「そう。邪魔したわね」
「そう。邪魔したわね」
会場で女に会ったのはやちよが初めて。
ならいろはだけでなく、フェリシア達の事も知らない。
それが知れたらもう用は無い。
早々に立ち去り、他の場所でいろはがいないかを探すだけ。
足早に男の横を通りぎようとし、
ならいろはだけでなく、フェリシア達の事も知らない。
それが知れたらもう用は無い。
早々に立ち去り、他の場所でいろはがいないかを探すだけ。
足早に男の横を通りぎようとし、
「おいおい、そんなツレない態度はやめようや」
肩に手を置かれた。
服の上からでも感じるゴツゴツとした男の手。
ただ置いただけではない、なぞるようにして指が蠢く。
やちよの目が嫌悪感で鋭さを増し、されど男に怯む様子は見当たらない。
むしろ面白そうに口の端を吊り上げている。
服の上からでも感じるゴツゴツとした男の手。
ただ置いただけではない、なぞるようにして指が蠢く。
やちよの目が嫌悪感で鋭さを増し、されど男に怯む様子は見当たらない。
むしろ面白そうに口の端を吊り上げている。
「…私これでも忙しいのよ。邪魔しないで欲しいのだけれど」
「おうおう、気が強い女ってのは良いもんだ。だがなぁ…いつまでもそんな態度が続けられるような場所じゃねぇだろここは。俺に任せりゃ守ってやっても良いぜ?」
「必要無いわ、あなたの助けなんて…。いい加減に」
「おうおう、気が強い女ってのは良いもんだ。だがなぁ…いつまでもそんな態度が続けられるような場所じゃねぇだろここは。俺に任せりゃ守ってやっても良いぜ?」
「必要無いわ、あなたの助けなんて…。いい加減に」
離して、放たれる筈の言葉は口内で霧散。
やちよの左腕が跳ね上がり、指輪の形をしたソウルジェムが輝く。
魔力で形成された槍を掴むや否や、防御の構えを取った。
衝撃が、来る。
柄からやちよの細腕へと伝わる振動。
睨みつけた先には拳を突き出した男の姿があった。
やちよの左腕が跳ね上がり、指輪の形をしたソウルジェムが輝く。
魔力で形成された槍を掴むや否や、防御の構えを取った。
衝撃が、来る。
柄からやちよの細腕へと伝わる振動。
睨みつけた先には拳を突き出した男の姿があった。
「おっ、良い反応だな。それよりどっから出したんだ?その槍」
軽い口調に反して鋭い一撃だった。
防御が間に合わなければ、今頃は胃液を吐き散らしていたのは想像に難くない。
やちよの目がより一層の険しさを増す。
馴れ馴れしくチャラけた男から、暴力性を秘めた危険人物へと警戒度をアップ。
防御が間に合わなければ、今頃は胃液を吐き散らしていたのは想像に難くない。
やちよの目がより一層の険しさを増す。
馴れ馴れしくチャラけた男から、暴力性を秘めた危険人物へと警戒度をアップ。
「…どういうつもりかしら?」
「俺様の助けが必要無いなんてほざくからよ、テストしてやったのさ。言うだけの力があるかどうかをな」
「俺様の助けが必要無いなんてほざくからよ、テストしてやったのさ。言うだけの力があるかどうかをな」
さも当然のように言われるが、納得できる理由ではない。
魔法少女であるから、もっと言えば相手への警戒を怠らず対処が間に合うだけの実力を持っていたからこそ無傷で済んだ。
これがもし戦う術を持たない一般人だったなら、男の拳の餌食になっていただろう。
下手をすれば、いろはが男の手で傷付けられる事態だって起こり得る。
やちよの中で男を放置するという選択肢が自然と消えて行き、敵意を膨れ上がらせた。
叩きつけられる怒りに肌がピリピリ痛み、男は上等だと言わんばかりに笑う。
魔法少女であるから、もっと言えば相手への警戒を怠らず対処が間に合うだけの実力を持っていたからこそ無傷で済んだ。
これがもし戦う術を持たない一般人だったなら、男の拳の餌食になっていただろう。
下手をすれば、いろはが男の手で傷付けられる事態だって起こり得る。
やちよの中で男を放置するという選択肢が自然と消えて行き、敵意を膨れ上がらせた。
叩きつけられる怒りに肌がピリピリ痛み、男は上等だと言わんばかりに笑う。
「その気になったみたいだな?良いぜぇ、女の誘いを無視する気なんざ無いからよ」
取り出したバックルを腹部に当て、ベルトが巻き付いた。
右手には黄色くて甘い果実、バナナが描かれた錠前。
自身に支給された武器の性能が如何程かはとっくに実証済み。
右手には黄色くて甘い果実、バナナが描かれた錠前。
自身に支給された武器の性能が如何程かはとっくに実証済み。
『バナナ!』
「変身」
『ロックオン!ソイヤッ!』
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
高らかに響かせるは王が戦闘装束を纏った証。
黒地のライドウェアが全身を覆い、クラックより出現したバナナが落ちて来て展開、装甲へと変形。
騎士の鎧にも似た姿の戦士へと己が身を変え、やちよを睨み付ける。
アーマードライダーブラックバロン。
ネオ・バロンのチームリーダー、シュラが変身したライダーが此度は楽園の王の力として顕現を果たした。
黒地のライドウェアが全身を覆い、クラックより出現したバナナが落ちて来て展開、装甲へと変形。
騎士の鎧にも似た姿の戦士へと己が身を変え、やちよを睨み付ける。
アーマードライダーブラックバロン。
ネオ・バロンのチームリーダー、シュラが変身したライダーが此度は楽園の王の力として顕現を果たした。
「その姿は…」
見覚えは無い、しかし正体は察しが付く。
放送で殺された男が装着していたのと同じバックル、何より戦兎から聞かされた戦士の存在。
敵は仮面ライダーであると理解するのにそう時間は掛からなかった。
常人では太刀打ち不可能な力を振るうと言うのなら、こっちも遠慮は無しだ。
ソウルジェムから光が迸り、やちよも姿を変える。
ボディーラインを浮かび上がらせる衣装を纏い、胸部と肩に白銀の装甲、後頭部にはケープが出現。
魔法少女へ変身し、デイパックを放り投げると槍を構える。
放送で殺された男が装着していたのと同じバックル、何より戦兎から聞かされた戦士の存在。
敵は仮面ライダーであると理解するのにそう時間は掛からなかった。
常人では太刀打ち不可能な力を振るうと言うのなら、こっちも遠慮は無しだ。
ソウルジェムから光が迸り、やちよも姿を変える。
ボディーラインを浮かび上がらせる衣装を纏い、胸部と肩に白銀の装甲、後頭部にはケープが出現。
魔法少女へ変身し、デイパックを放り投げると槍を構える。
「ほう?俺の変身とは違うみたいだな。益々興味が湧いたぜ、ねえちゃんよぉ」
「生憎だけど、あなたに興味を持たれたも不愉快なだけよ」
「生憎だけど、あなたに興味を持たれたも不愉快なだけよ」
軽口には辛辣な言葉で返し、それ以上は言葉を交わす気も無い。
ハルバードを思わせる形状の槍が振るわれ、ブラックバロンもまた専用武器のバナスピアーで迎え撃った。
ハルバードを思わせる形状の槍が振るわれ、ブラックバロンもまた専用武器のバナスピアーで迎え撃った。
奇しくも武器は両名共に長得物。
リーチの差はほとんどなく、勝敗を分けるは使い手の技量と肉体スペック。
槍とバナスピアーの穂先がぶつかり金属音が発生。
互いの鼓膜を震わせる音はたった一度で終わる事なく、二度三度と連続し起こる。
間違っても得物を手放す愚行を犯さぬよう、両手に籠められた力は強い。
リーチの差はほとんどなく、勝敗を分けるは使い手の技量と肉体スペック。
槍とバナスピアーの穂先がぶつかり金属音が発生。
互いの鼓膜を震わせる音はたった一度で終わる事なく、二度三度と連続し起こる。
間違っても得物を手放す愚行を犯さぬよう、両手に籠められた力は強い。
「オラオラァ!」
ブラックバロンはバロン同様にパワー重視のアーマードライダーだ。
剛力を駆使したバナスピアーは一撃一撃が重い。
穂先部分による突きのみならず、パルプシャフトと呼ばれる先端部分を叩き付ければ強力な打撃攻撃に化す。
生半可な防御は無意味、真っ向からの粉砕を可能とする威力。
剛力を駆使したバナスピアーは一撃一撃が重い。
穂先部分による突きのみならず、パルプシャフトと呼ばれる先端部分を叩き付ければ強力な打撃攻撃に化す。
生半可な防御は無意味、真っ向からの粉砕を可能とする威力。
「っ…!」
だが迎え撃つのは神浜市でもトップクラスの実力を持つ魔法少女。
振るわれ、突き出されたバナスピアーを槍で弾き返す。
すかさずブラックバロンを狙う穂先、伝わる手応えは人体を貫いたソレとは別物。
振るわれ、突き出されたバナスピアーを槍で弾き返す。
すかさずブラックバロンを狙う穂先、伝わる手応えは人体を貫いたソレとは別物。
「なんだぁ?蚊にでも刺されたのかと思ったぜ」
胸部装甲に阻まれそれ以上は突き進めない。
見掛け倒しではなく相応の堅牢さを誇るのがアーマードライダーの装甲だ。
ましてブラックバロンの胴体を保護するのは、通常の装甲の上から補強用フレームを追加しより強度を上げたもの。
そう簡単に破壊させてくれるような、軟な代物にあらず。
この部分を攻撃しても決定打にはならないと理解し、やちよは次の手に出る。
見掛け倒しではなく相応の堅牢さを誇るのがアーマードライダーの装甲だ。
ましてブラックバロンの胴体を保護するのは、通常の装甲の上から補強用フレームを追加しより強度を上げたもの。
そう簡単に破壊させてくれるような、軟な代物にあらず。
この部分を攻撃しても決定打にはならないと理解し、やちよは次の手に出る。
「見え見えなんだよ!」
やちよが狙ったのは装甲に覆われていない腹部。
ライドウェアもまた高い耐久性を有してはいれど、装甲部に比べたら幾分脆い。
自身の攻撃がより通りやすい箇所を狙うのは戦闘の基本。
しかしそこを狙われるだろうことはブラックバロンにも安易に予想が付いた。
ライドウェアもまた高い耐久性を有してはいれど、装甲部に比べたら幾分脆い。
自身の攻撃がより通りやすい箇所を狙うのは戦闘の基本。
しかしそこを狙われるだろうことはブラックバロンにも安易に予想が付いた。
振り下ろしたバナスピアーにより防がれ、そればかりか槍がへし折れたではないか。
使い物にならない武器へ拘るのは悪手、すぐに手放し新たな槍を生成。
敵は悠長に待ってはくれない、やちよが構え直す前に首を狙った一撃が迫る。
一直線に突き進み、柔らかな肉を貫いた感触は伝わってこない。
狙いを外すような凡ミスをしでかしたつもりはない、ならば答えは一つ。
使い物にならない武器へ拘るのは悪手、すぐに手放し新たな槍を生成。
敵は悠長に待ってはくれない、やちよが構え直す前に首を狙った一撃が迫る。
一直線に突き進み、柔らかな肉を貫いた感触は伝わってこない。
狙いを外すような凡ミスをしでかしたつもりはない、ならば答えは一つ。
「チッ!」
舌打ちと同時に右腕を背後へと振るう。
ガキンと音がし、振り返った時にはもうやちよの姿は見当たらない。
どこへ行ったと頭で考えるより先に、防御の構えを取った。
野生の暴力に晒された中で研ぎ澄まされた感覚はここでも健在。
襲い来る殺気へ体が反応し、真横からの攻撃への対処に成功。
防いだ程度で満足はしない、ちょこまか避けられる前に仕留めてやる気だ。
手首に装着されたブラックバロンの腕力強化装置によりパワーを解放。
押し返されたやちよは足をもつれさせ隙を晒してしまう。
ガキンと音がし、振り返った時にはもうやちよの姿は見当たらない。
どこへ行ったと頭で考えるより先に、防御の構えを取った。
野生の暴力に晒された中で研ぎ澄まされた感覚はここでも健在。
襲い来る殺気へ体が反応し、真横からの攻撃への対処に成功。
防いだ程度で満足はしない、ちょこまか避けられる前に仕留めてやる気だ。
手首に装着されたブラックバロンの腕力強化装置によりパワーを解放。
押し返されたやちよは足をもつれさせ隙を晒してしまう。
「もらったぜ!」
今度こそ、そう繰り出されるも結果はまたもや失敗。
不安定な体勢にも関わらずやちよは回避してみせた。
まるで地面を滑るかの如き動きにブラックバロンは目を剥く。
目を凝らすと、やちよの足元には水が纏わりついているのが見える。
不安定な体勢にも関わらずやちよは回避してみせた。
まるで地面を滑るかの如き動きにブラックバロンは目を剥く。
目を凝らすと、やちよの足元には水が纏わりついているのが見える。
固有魔法以外にもやちよは複数の派生魔法を習得している。
内の一つが水属性の魔法。
脚部に纏わせる事で敏捷力を強化、通常時よりも余裕を持っての回避を可能としたのだ。
忌々しい固有魔法に頼らずとも、やちよが取れる手は多い。
内の一つが水属性の魔法。
脚部に纏わせる事で敏捷力を強化、通常時よりも余裕を持っての回避を可能としたのだ。
忌々しい固有魔法に頼らずとも、やちよが取れる手は多い。
「はぁっ!」
一度距離を取り、敵が接近する前に急加速して槍を突き出す。
今度は一手遅れて防御も迎撃も間に合わない。
ライドウェアで覆われた腹部へ衝撃が襲い掛かり、ブラックバロンは吹き飛ばされる。
そのまま地面を転がると思いきや、どうにか受け身を取り立ち上がった。
無様に倒れるなど王としてのプライドが許さない。
即座に武器を構えるが、またしてもやちよの姿を見失った。
今度は一手遅れて防御も迎撃も間に合わない。
ライドウェアで覆われた腹部へ衝撃が襲い掛かり、ブラックバロンは吹き飛ばされる。
そのまま地面を転がると思いきや、どうにか受け身を取り立ち上がった。
無様に倒れるなど王としてのプライドが許さない。
即座に武器を構えるが、またしてもやちよの姿を見失った。
(どこにいきやがっ――)
「上か!?」
見上げたブラックバロンのカメラアイがやちよの姿を捉える。
月を背にした彼女は瑠璃色の長髪と白い肌を一層際立たせ、地上を見下ろしていた。
背後に魔力を放出、手に持つのと同じ槍を生成。
その数計十本、全てがブラックバロンへと照準を合わせている。
魔力が続く限り生成可能な武器の数に限界は無い。
自分の手で振るう以外にこういった戦法も可能なのだ。
号令のように振り下ろされる右手、展開された槍が一斉に射出された。
月を背にした彼女は瑠璃色の長髪と白い肌を一層際立たせ、地上を見下ろしていた。
背後に魔力を放出、手に持つのと同じ槍を生成。
その数計十本、全てがブラックバロンへと照準を合わせている。
魔力が続く限り生成可能な武器の数に限界は無い。
自分の手で振るう以外にこういった戦法も可能なのだ。
号令のように振り下ろされる右手、展開された槍が一斉に射出された。
『バナナオーレ!』
やちよを目にした時点でブラックバロンの行動は早い。
カッティングブレードを二回操作、ロックシードからバナスピアーへとエネルギーが充填。
両手で持ったバナスピアーには、巨大なバナナ状のエネルギーが生み出された。
本来のバロンとは違い紫色ではあるが、威力は変わらず強力。
カッティングブレードを二回操作、ロックシードからバナスピアーへとエネルギーが充填。
両手で持ったバナスピアーには、巨大なバナナ状のエネルギーが生み出された。
本来のバロンとは違い紫色ではあるが、威力は変わらず強力。
「うオラァッ!!」
力任せに薙ぎ払い、槍は一本残らず消滅。
しかし大振りな攻撃の直後というのはどうあっても隙が生まれる。
しかし大振りな攻撃の直後というのはどうあっても隙が生まれる。
「ふっ…!」
ブラックバロンが気付いた時には既に、やちよは眼前へ降り立っていた。
視界に靡く瑠璃色が入り込むや否やバナスピアーを振るう。
刀身フレームへ伝わる衝撃、防いだと理解した次の傍から連続して突きが放たれる。
やちよが手にした得物は僅か一本、なのにブラックバロンには数十本の刃で同時に突かれている錯覚を覚えた。
それ程までに速い。
アーマードライダーのカメラアイを視覚センサーを以てしても、腕を引き再度伸ばす動きが完全には捉え切れない。
視界に靡く瑠璃色が入り込むや否やバナスピアーを振るう。
刀身フレームへ伝わる衝撃、防いだと理解した次の傍から連続して突きが放たれる。
やちよが手にした得物は僅か一本、なのにブラックバロンには数十本の刃で同時に突かれている錯覚を覚えた。
それ程までに速い。
アーマードライダーのカメラアイを視覚センサーを以てしても、腕を引き再度伸ばす動きが完全には捉え切れない。
ゲーム開始直後に万丈龍我と戦い、手強い輩も参加しているのは理解していたつもりだ。
だが万丈に続きやちよといった自分よりも遥かに若い、ガキと言っても良い連中がこうも強いのには流石に舌を巻く。
神浜市では最も長く魔法少女を続けている者、それがやちよだ。
7年間という歳月で経験を積み、驕る事無く己を鍛え上げた結果としてやちよはベテラン魔法少女と呼ばれるまでになった。
魔女退治に恐怖し、魔法少女になんてならなければと後悔の涙で頬を濡らした少女はもういない。
安名メルの死を切っ掛けにチームがバラバラになってからも、たった一人で魔女を退けられる力を有する。
その強さはバトルロワイアルであろうと変わらずに存在した。
だが万丈に続きやちよといった自分よりも遥かに若い、ガキと言っても良い連中がこうも強いのには流石に舌を巻く。
神浜市では最も長く魔法少女を続けている者、それがやちよだ。
7年間という歳月で経験を積み、驕る事無く己を鍛え上げた結果としてやちよはベテラン魔法少女と呼ばれるまでになった。
魔女退治に恐怖し、魔法少女になんてならなければと後悔の涙で頬を濡らした少女はもういない。
安名メルの死を切っ掛けにチームがバラバラになってからも、たった一人で魔女を退けられる力を有する。
その強さはバトルロワイアルであろうと変わらずに存在した。
「…成程なぁ。ガキと思って舐めてかかりゃどうなるか、こいつは反省しなきゃならねぇってことか」
呟かれたのは己を戒める内容。
傲慢で自信家な王には相応しくない、されど彼は一度「ガキ」というのを甘く見て痛い目に遭わされている。
敗北の記憶は苦く、しかしそれすらも糧としなくては這い上がれない。
傲慢で自信家な王には相応しくない、されど彼は一度「ガキ」というのを甘く見て痛い目に遭わされている。
敗北の記憶は苦く、しかしそれすらも糧としなくては這い上がれない。
(この男…!)
攻撃のスピードに衰えは無く、文字通りの目にも止まらぬ速さで突きを放っている。
だがやちよの浮かべる表情は険しい。
先程から繰り出している突きが一つも当たらない。
バナスピアーで防御され、そればかりか向こうも突きを放って来たではないか。
自身と同等の速さで攻撃を行い食らい付いているのだ。
仮面ライダーらしき姿に変身しているのを加味しても、やちよと真正面から渡り合えるのは恐るべき事実。
支給品の力に頼りごり押しで攻めているのではない、変身者本人も相当な実力が無ければ不可能。
最初に防いだ拳の鋭さから予想は出来た事だが、目の前の男は単なるチンピラなどではない。
軽薄なナンパ男のような言動からは想像もできない程に戦い慣れているのは確か。
元より戦闘に油断を持ち込む性質で無いとはいえ、気を抜ける相手では無いと再認識。
警戒度を更に引き上げ攻撃に勢いを増す。
だがやちよの浮かべる表情は険しい。
先程から繰り出している突きが一つも当たらない。
バナスピアーで防御され、そればかりか向こうも突きを放って来たではないか。
自身と同等の速さで攻撃を行い食らい付いているのだ。
仮面ライダーらしき姿に変身しているのを加味しても、やちよと真正面から渡り合えるのは恐るべき事実。
支給品の力に頼りごり押しで攻めているのではない、変身者本人も相当な実力が無ければ不可能。
最初に防いだ拳の鋭さから予想は出来た事だが、目の前の男は単なるチンピラなどではない。
軽薄なナンパ男のような言動からは想像もできない程に戦い慣れているのは確か。
元より戦闘に油断を持ち込む性質で無いとはいえ、気を抜ける相手では無いと再認識。
警戒度を更に引き上げ攻撃に勢いを増す。
「どうしたどうした!もっと楽しませろやねえちゃんよぉ!!」
仮面の下でパラダイスキングが浮かべるのは狂気の笑み。
お遊びでも無ければ、ルールに則ったスポーツでもない。
負ければたった一つの命が失われる正真正銘の殺し合いに高揚を抑えられない。
バナスピアーが自身の体へ到達するのは何としても阻止せねばならず、やちよは集中力を高める。
魔法少女は一般人よりも打たれ強さはあれど、アーマードライダー程に耐久力には優れていない。
敵は装甲やライドウェアである程度凌げる、反対に自分は一撃食らうだけで一気に戦いが厳しいものと化す。
ソウルジェムが無事なら死は免れると言っても、余計な傷は作らないに限る。
そう考えるだけなら楽に済むが、いざ実行へ移すとなると神経が張り詰めていく。
お遊びでも無ければ、ルールに則ったスポーツでもない。
負ければたった一つの命が失われる正真正銘の殺し合いに高揚を抑えられない。
バナスピアーが自身の体へ到達するのは何としても阻止せねばならず、やちよは集中力を高める。
魔法少女は一般人よりも打たれ強さはあれど、アーマードライダー程に耐久力には優れていない。
敵は装甲やライドウェアである程度凌げる、反対に自分は一撃食らうだけで一気に戦いが厳しいものと化す。
ソウルジェムが無事なら死は免れると言っても、余計な傷は作らないに限る。
そう考えるだけなら楽に済むが、いざ実行へ移すとなると神経が張り詰めていく。
(面倒なのに当たっちゃったわね…)
嘗て、まだ楽園の王が何者にもなれない只人だった頃。
自由な生活を求めて彼が辿り着いたのはテナガザルが支配する無人島。
楽園へ無謀にも足を踏み入れた不届き者への洗礼は、圧倒的な野生の暴力。
銃火器も無い、誰かに助けを求める事すら出来ない人間一人へ過剰とも言える地獄。
人一人の力など野生動物の群れを前にしては無に等しい。
自由な生活を求めて彼が辿り着いたのはテナガザルが支配する無人島。
楽園へ無謀にも足を踏み入れた不届き者への洗礼は、圧倒的な野生の暴力。
銃火器も無い、誰かに助けを求める事すら出来ない人間一人へ過剰とも言える地獄。
人一人の力など野生動物の群れを前にしては無に等しい。
その筈だった。
だが彼は生き延びた。
全身を引き裂かれ、噛みつかれ、幾度も嬲られた。
それでも彼が選んだのは逃げるでも屈するでもなく、抗う道。
野生の暴力を上回る暴力で島中のテナガザルを屈服させ、無人島の新たなる支配者として君臨した。
伊達や酔狂で王を名乗っているのではない。
力による支配を実現させたからこそ、男はパラダイスキングへとなったのだ。
全身を引き裂かれ、噛みつかれ、幾度も嬲られた。
それでも彼が選んだのは逃げるでも屈するでもなく、抗う道。
野生の暴力を上回る暴力で島中のテナガザルを屈服させ、無人島の新たなる支配者として君臨した。
伊達や酔狂で王を名乗っているのではない。
力による支配を実現させたからこそ、男はパラダイスキングへとなったのだ。
テナガザルとの死闘で得た力とアーマードライダーへの変身。
何よりももう一度王として全てを手に入れんとするハングリー精神。
これら三つがが合わさり、パラダイスキングはやちよ相手でも渡り合えていた。
何よりももう一度王として全てを手に入れんとするハングリー精神。
これら三つがが合わさり、パラダイスキングはやちよ相手でも渡り合えていた。
「シィッ!」
互いの得物の穂先が衝突した直後、ブラックバロンが右脚を蹴り上げる。
狙いは真上に位置するやちよの細腕、へし折れるどころか引き千切られるだろう威力。
爪先に当たったモノが砕け散る、但しソレはやちよの腕ではなく使い手を失った槍。
魔力がある限り槍の補充が幾らでも可能なのだ、手放すのに躊躇はいらない。
一度後方へと退避、新たな槍を生成し終えるのと接近したブラックバロンが得物を振り下ろしたのはほぼ同時。
両腕が跳ね上がりバナスピアーを防御、刀身フレームと刃が擦れ合いキリキリと音がした。
狙いは真上に位置するやちよの細腕、へし折れるどころか引き千切られるだろう威力。
爪先に当たったモノが砕け散る、但しソレはやちよの腕ではなく使い手を失った槍。
魔力がある限り槍の補充が幾らでも可能なのだ、手放すのに躊躇はいらない。
一度後方へと退避、新たな槍を生成し終えるのと接近したブラックバロンが得物を振り下ろしたのはほぼ同時。
両腕が跳ね上がりバナスピアーを防御、刀身フレームと刃が擦れ合いキリキリと音がした。
「なぁおい、強い王様にはそれに相応しい女がいるべきだとは思わねぇか?」
「…?何を言ってるの?」
「…?何を言ってるの?」
槍へ掛かる力は依然として重いまま、唐突な問い掛けに困惑を隠せない。
眉を顰めるやちよに気分を害した風もなく、ブラックバロンは楽し気に言う。
眉を顰めるやちよに気分を害した風もなく、ブラックバロンは楽し気に言う。
「強いし顔も良い。胸がちょいと貧しいのは残念だがそれくらいは我慢してやる。だからよ、俺様の女になれ」
「……は?」
「新しい王国を築いたら第一婦人として迎えてやる。どうだ?魅力的な提案だろ?」
「……は?」
「新しい王国を築いたら第一婦人として迎えてやる。どうだ?魅力的な提案だろ?」
何を言っているのだろうかこの男は。
こちらをおちょくりたいのか?
口説き文句にしたって、そこいらのチンピラの方がまだマトモな事を言うだろうに。
呆気に取られ、沸々と湧き上がるのは圧倒的な不快感。
返事は当然ノーだ。
こちらをおちょくりたいのか?
口説き文句にしたって、そこいらのチンピラの方がまだマトモな事を言うだろうに。
呆気に取られ、沸々と湧き上がるのは圧倒的な不快感。
返事は当然ノーだ。
「…お断りよ。馬鹿にするのも大概にして欲しいわね」
「ほぅ……。あぁ所で知ってるか?王様ってのは強欲じゃなきゃいけねぇ。欲しいと決めたらどんな手を使ってでもモノにするんだ」
「ほぅ……。あぁ所で知ってるか?王様ってのは強欲じゃなきゃいけねぇ。欲しいと決めたらどんな手を使ってでもモノにするんだ」
やちよを押し込む力が一段上がる。
このまま鍔迫り合いを続けても埒が明かない、地を蹴り背後へと跳ぶ。
前のめりになりかけるも転倒せず、やちよを追うようにしてブラックバロンが疾走。
体勢を立て直す暇も与えぬとバナスピアーを振り下ろした。
対するやちよも槍を振り上げ迎え撃つ。
両者得物を叩きつけ合い、ビリビリとした衝撃が両手へと伝わった。
このまま鍔迫り合いを続けても埒が明かない、地を蹴り背後へと跳ぶ。
前のめりになりかけるも転倒せず、やちよを追うようにしてブラックバロンが疾走。
体勢を立て直す暇も与えぬとバナスピアーを振り下ろした。
対するやちよも槍を振り上げ迎え撃つ。
両者得物を叩きつけ合い、ビリビリとした衝撃が両手へと伝わった。
「提案を蹴るって言うんなら、お前を屈服させて俺の女にすりゃ良いだけだ!」
「下衆の発想もここまで来ると感心するわ」
「下衆の発想もここまで来ると感心するわ」
○
(何をやってるんですかねあのおバカさん達は~)
木々の陰に隠れ様子を窺うタラオの顔には、隠す気も無い侮蔑が浮かんでいた。
幾度となく槍をぶつけ合う両者も、タラオからしたら単なる脳筋としか映らない。
幾度となく槍をぶつけ合う両者も、タラオからしたら単なる脳筋としか映らない。
晴れてパラダイスキングの家来として認められ、移動を開始し少し経った後。
人の気配を感じ取ったパラダイスキングはタラオに身を隠すよう命じ、自分一人で参加者と接触すると言い出した。
馬鹿正直に最初からタラオを引き連れておくより、相手に自分は一人だけと思わせておいた方が何かと都合が良いとのこと。
タラオとしても表面上は従う振りをしている為、特に反論もせず言われた通り隠れていた。
人の気配を感じ取ったパラダイスキングはタラオに身を隠すよう命じ、自分一人で参加者と接触すると言い出した。
馬鹿正直に最初からタラオを引き連れておくより、相手に自分は一人だけと思わせておいた方が何かと都合が良いとのこと。
タラオとしても表面上は従う振りをしている為、特に反論もせず言われた通り隠れていた。
(あのおじさんも王様を自称するなら、ちゃっちゃとやっつけてく~ださ~い)
戦闘に遊びでも持ち込んでいるのか、一向にパラダイスキングは相手の女を仕留められない。
まるで宿題を後回しにして遊びに行き、後々困り果てるカツオのような考え無しだ。
いい年して王様なんて言うくらいだから、きっと頭も小学生並だと嘲笑う。
まるで宿題を後回しにして遊びに行き、後々困り果てるカツオのような考え無しだ。
いい年して王様なんて言うくらいだから、きっと頭も小学生並だと嘲笑う。
(しょうがないですね~)
使い物にならなくなったら切り捨てるが、暫くはパラダイスキングを利用すると決めた。
だったらここいらでアシストをしてやろう。
勝利に貢献し点数を稼いでおけば今後あの男を扱いやすくなる。
極めて利己的な考えで、タラオは戦場に飛び出した。
だったらここいらでアシストをしてやろう。
勝利に貢献し点数を稼いでおけば今後あの男を扱いやすくなる。
極めて利己的な考えで、タラオは戦場に飛び出した。
○
「わ~、凄いです~」
突如として聞こえて来たのは子供の声。
緊迫した殺し合いの場には不釣り合いな能天気さ。
目を見開いたやちよが見つめる先には、きゃっきゃっとはしゃぎ回る少年がいた。
緊迫した殺し合いの場には不釣り合いな能天気さ。
目を見開いたやちよが見つめる先には、きゃっきゃっとはしゃぎ回る少年がいた。
「なっ…!?」
「あ…?」
「あ…?」
驚愕と訝し気な声は少年の明るい声に掻き消される。
まるでヒーローショーを見に来たような様子。
年齢は恐らく一桁だろう、これ程までに幼い子供までもが参加させられているとは。
予想だにしなかった光景に動揺するが、そんな場合では無いと強引に思考を切り替えた。
様子からして少年は殺し合いを全く理解していない。
今はとにかく自分達から遠ざけねば巻き添えを食らうかもしれないと考え、
まるでヒーローショーを見に来たような様子。
年齢は恐らく一桁だろう、これ程までに幼い子供までもが参加させられているとは。
予想だにしなかった光景に動揺するが、そんな場合では無いと強引に思考を切り替えた。
様子からして少年は殺し合いを全く理解していない。
今はとにかく自分達から遠ざけねば巻き添えを食らうかもしれないと考え、
「余所見すんなよ!」
「くっ…!」
「くっ…!」
少年に気を取られたのが仇となった
咄嗟の防御こそ間に合ったものの、バナスピアーを叩きつけられ吹き飛ばされる。
やちよの視線が少年から外れた瞬間、ブラックバロンは彼女へ追撃せず少年と目を合わせた。
パチンと片目を閉じてアイコンタクト、右手を手刀の形にして自分の手に当てる。
少年からのメッセージだ、伝えたい内容を察したブラックバロンは少年へ近付くと小さな体を持ち上げた。
やちよが気付いた時にはもう遅い、少年にバナスピアーを突きつけ叫ぶ。
咄嗟の防御こそ間に合ったものの、バナスピアーを叩きつけられ吹き飛ばされる。
やちよの視線が少年から外れた瞬間、ブラックバロンは彼女へ追撃せず少年と目を合わせた。
パチンと片目を閉じてアイコンタクト、右手を手刀の形にして自分の手に当てる。
少年からのメッセージだ、伝えたい内容を察したブラックバロンは少年へ近付くと小さな体を持ち上げた。
やちよが気付いた時にはもう遅い、少年にバナスピアーを突きつけ叫ぶ。
「おっとそこまでだ!この状況、言わなくても分かるだろ?」
「うわ~~~ん!!助けてくださ~い!」
「うわ~~~ん!!助けてくださ~い!」
少年に駆け寄ろうとしたやちよは動きを止めざるを得ない。
ブラックバロンの言葉の通り、見れば分かるこの状況。
人質を取られてしまった。
ブラックバロンの言葉の通り、見れば分かるこの状況。
人質を取られてしまった。
こうなる可能性を何故予期しておかなかったのか。
魔女退治の時も同じだ、結界内に偶然一般人が迷い込む事だってある。
殺し合いでも他参加者との戦闘中、別の参加者が巻き込まれたっておかしくは無いだろうに。
己の迂闊さを恨んでも後の祭りだ。
魔女退治の時も同じだ、結界内に偶然一般人が迷い込む事だってある。
殺し合いでも他参加者との戦闘中、別の参加者が巻き込まれたっておかしくは無いだろうに。
己の迂闊さを恨んでも後の祭りだ。
「その子を…」
「離しなさいってか?ならまずはその変身を解けよ」
「離しなさいってか?ならまずはその変身を解けよ」
予想通りの答えが返って来た。
人質を取った相手からの要求として、武装解除は珍しい事ではない。
ブラックバロンを睨みつけたまま、無言で魔法少女の変身を解く。
青い衣装から私服へと戻り、三日月の形をしたソウルジェムも指輪へと変化した。
人質を取った相手からの要求として、武装解除は珍しい事ではない。
ブラックバロンを睨みつけたまま、無言で魔法少女の変身を解く。
青い衣装から私服へと戻り、三日月の形をしたソウルジェムも指輪へと変化した。
「おっと、その指輪もこっちに寄越せ。俺のベルトとは違うようだが、それを使って変身したんだろ?」
「……」
「……」
沈黙は肯定しているも同然。
指輪が魔法少女への変身に必要不可欠なのは本当だが、これは単なる道具ではない。
魔法少女の命そのもの、手放すなど以ての外。
幾ら何でもはい分かりましたと簡単に呑める要求ではなく、やちよもすぐには反応できない。
指輪が魔法少女への変身に必要不可欠なのは本当だが、これは単なる道具ではない。
魔法少女の命そのもの、手放すなど以ての外。
幾ら何でもはい分かりましたと簡単に呑める要求ではなく、やちよもすぐには反応できない。
「おーい、あんまり待たせんなよー?」
「うわ~~~ん!!恐いです~~~!!」
「……っ」
「うわ~~~ん!!恐いです~~~!!」
「……っ」
それもブラックバロンが穂先で少年の喉を軽く突くまでだ。
少年の泣き声がより大きくなり、やちよの焦りを加速させる。
指輪を外し暫しの躊躇を見せるも、ブラックバロンは仮面越しの目でさっさとやれと急かす。
やちよが睨み付ける視線に鋭さが増すが、きっと仮面の下は涼しい顔をしているのだろう。
顔を歪めながら指輪を地面に放ると二人の間、丁度真ん中の辺りに落ちた。
少年の泣き声がより大きくなり、やちよの焦りを加速させる。
指輪を外し暫しの躊躇を見せるも、ブラックバロンは仮面越しの目でさっさとやれと急かす。
やちよが睨み付ける視線に鋭さが増すが、きっと仮面の下は涼しい顔をしているのだろう。
顔を歪めながら指輪を地面に放ると二人の間、丁度真ん中の辺りに落ちた。
「良かったなガキ、話の分かる優しいねえちゃんでよ」
「いい加減その子を離して欲しいのだけれど」
「そう急かすなよ」
「いい加減その子を離して欲しいのだけれど」
「そう急かすなよ」
意外にも素直に少年を地面に降ろした。
妙にあっさりと解放し、何か違和感を感じる。
その答えはすぐさま理解する事となった。
妙にあっさりと解放し、何か違和感を感じる。
その答えはすぐさま理解する事となった。
285:呼び水となりて綻び ◆ytUSxp038U:2023/02/18(土) 15:44:03 ID:kbOl.6pI0
「さてそんじゃあ…指輪を回収して来いタラオ。向こうに転がってる支給品もな」
「はいです~♪」
「さてそんじゃあ…指輪を回収して来いタラオ。向こうに転がってる支給品もな」
「はいです~♪」
ブッラクバロンの指示に笑顔で頷く少年…タラオ。
先程までの恐怖に涙を流していたのはどこへ消えたのやら、上機嫌で指輪を拾い上げた。
表情を強張らせるやちよへチラと視線を寄越す。
無邪気と言えば聞こえは良いだろうが、やちよには酷く憎たらしい笑みにしか見えない。
先程までの恐怖に涙を流していたのはどこへ消えたのやら、上機嫌で指輪を拾い上げた。
表情を強張らせるやちよへチラと視線を寄越す。
無邪気と言えば聞こえは良いだろうが、やちよには酷く憎たらしい笑みにしか見えない。
「綺麗な指輪ですね~♪」
「……そう、グルだったのね」
「ま、そういうこった。ガキに甘いのは結構だが、もうちっと疑いを持つべきだったな」
「……そう、グルだったのね」
「ま、そういうこった。ガキに甘いのは結構だが、もうちっと疑いを持つべきだったな」
指輪を家来に回収させ、軽い足取りでブラックバロンはやちよに近付く。
ソウルジェムが手元にない以上、やちよに抗う術は無い。
意識を失う程の距離が離れてはいないとはいえ、今の状況では大した慰めにならないだろう。
殺意の籠ったやちよからの視線を意に介さず、バナスピアーを服に引っ掛ける。
間違ってもやちよ自身に傷をつけないよう加減し、そのまま振り下ろした。
ソウルジェムが手元にない以上、やちよに抗う術は無い。
意識を失う程の距離が離れてはいないとはいえ、今の状況では大した慰めにならないだろう。
殺意の籠ったやちよからの視線を意に介さず、バナスピアーを服に引っ掛ける。
間違ってもやちよ自身に傷をつけないよう加減し、そのまま振り下ろした。
「くっ…」
スカートまで切り裂かれ服の下が露わになる。
淡いブルーの下着に包まれた真っ白い素肌。
スレンダーながら魅力的な、異性のみならず同性をも魅了するだろう体。
これだけでも健全な男なら生唾を飲み込む光景だが、ブラックバロンは満足していない。
軽くバナスピアーを振るい、最後の要である下着までもを切り裂いた。
慎ましくも女性らしい膨らみと薄桃色の突起、ショーツの下に隠された秘部が男の前に晒される。
淡いブルーの下着に包まれた真っ白い素肌。
スレンダーながら魅力的な、異性のみならず同性をも魅了するだろう体。
これだけでも健全な男なら生唾を飲み込む光景だが、ブラックバロンは満足していない。
軽くバナスピアーを振るい、最後の要である下着までもを切り裂いた。
慎ましくも女性らしい膨らみと薄桃色の突起、ショーツの下に隠された秘部が男の前に晒される。
「良いねぇ」
「……最低ね」
「……最低ね」
人気モデル、七海やちよのトップシークレットを目の当たりにし口笛を吹く。
一方のやちよは堪ったものではなく、羞恥と怒りに顔を赤く染める。
剥き出しの肌は熱を帯び、夜風に当たった程度では簡単に冷えてくれない。
一方のやちよは堪ったものではなく、羞恥と怒りに顔を赤く染める。
剥き出しの肌は熱を帯び、夜風に当たった程度では簡単に冷えてくれない。
(全くあのおねえちゃんはおバカさんですね~)
二人を余所にタラオは指輪を眺めながら、やちよのデイパックへ近付く。
自分の可愛さを最大限に利用した人質作戦は大成功だ。
あっさりと騙されたやちよを口には出さず小馬鹿にする様子からは、罪悪感など微塵も感じられない。
パラダイスキングも言ったばかりではないか、もっと疑いを持つべきだったと。
騙されるような馬鹿が悪い、自分は何も悪くない。
自らの行いを正当化する様は下衆と呼ぶに相応しいものだ。
自分の可愛さを最大限に利用した人質作戦は大成功だ。
あっさりと騙されたやちよを口には出さず小馬鹿にする様子からは、罪悪感など微塵も感じられない。
パラダイスキングも言ったばかりではないか、もっと疑いを持つべきだったと。
騙されるような馬鹿が悪い、自分は何も悪くない。
自らの行いを正当化する様は下衆と呼ぶに相応しいものだ。
(それにしてもここには頭の悪い大人しかいないんですかね~?おバカさん達ばっかり相手にしてると疲れちゃうです~)
神を自称する主催者、考え無しに挑んで殺された鎧武者、いい年して王様を名乗るアフロ男、そしてあっさり騙された女。
どいつもこいつも呆れるほどの馬鹿ばかり。
参加者が皆こんな連中なら、やはり生き残るべきは自分しかいない。
他の馬鹿どもは自分という失われる事があってはならない人間の為に犠牲になるのだ。
価値の無い馬鹿の命をフグ田タラオの為に捧げるのだから、むしろ自分に感謝して欲しいものである。
どいつもこいつも呆れるほどの馬鹿ばかり。
参加者が皆こんな連中なら、やはり生き残るべきは自分しかいない。
他の馬鹿どもは自分という失われる事があってはならない人間の為に犠牲になるのだ。
価値の無い馬鹿の命をフグ田タラオの為に捧げるのだから、むしろ自分に感謝して欲しいものである。
齢3歳にして歴史上の暴君もたまげる程の傲慢さ。
邪悪な性根は檀黎斗からもゲームの盛り上げに最適と見なされたのだろう。
見る者の神経を逆撫でする笑みのまま、やちよのデイパックに手を拾おうとする。
邪悪な性根は檀黎斗からもゲームの盛り上げに最適と見なされたのだろう。
見る者の神経を逆撫でする笑みのまま、やちよのデイパックに手を拾おうとする。
それを見ているやちよは一度ため息をついた。
諦めだろうか、自らへの呆れだろうか。
どちらにしても今更手を引っ込めてやる気はブラックバロンに無い。
自分へ伸ばされる手を見つめ、
諦めだろうか、自らへの呆れだろうか。
どちらにしても今更手を引っ込めてやる気はブラックバロンに無い。
自分へ伸ばされる手を見つめ、
「保険を掛けておいて正解だったわ」
パチンとやちよが指を鳴らした直後、彼女のデイパックから何かが飛び出した。