その存在を証明せよ
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『その存在を証明せよ』
「最近、記憶がトぶんですよね。」
第四総務部事務室ーーソファに身を預け、赤い液体で満たされたアンプルを弄びながら、鳳龍は呟いた。
「仕事が終わった時とか、朝目が覚めた時とかにふと…自分が誰だか分からなくなるんです。…変な話、昔の名前なんて口走りそうになってしまうんですよ。」
貴方ならあるのでしょう?そんな経験が。
部屋の主ーー無を見やれば、彼はいつの間にか仕事の手を止め、こちらをじっと見つめていた。
「仕事が終わった時とか、朝目が覚めた時とかにふと…自分が誰だか分からなくなるんです。…変な話、昔の名前なんて口走りそうになってしまうんですよ。」
貴方ならあるのでしょう?そんな経験が。
部屋の主ーー無を見やれば、彼はいつの間にか仕事の手を止め、こちらをじっと見つめていた。
自分の身体はツギハギだ。それは鳳龍自身が一番理解している。
暁龍に拾われ、その後もたらされた様々なサイバーウェアは、正常な思考能力を、視力を、自由を鳳龍に授けてくれたが、元の身体が健常者には程遠い欠陥品では、無理をすればする程に軋轢が生じてしまうのも無理はない話で。おそらくは記憶障害もそれのしわ寄せだろうと、まるで他人事のように、ぼんやりと考えていた。
暁龍に拾われ、その後もたらされた様々なサイバーウェアは、正常な思考能力を、視力を、自由を鳳龍に授けてくれたが、元の身体が健常者には程遠い欠陥品では、無理をすればする程に軋轢が生じてしまうのも無理はない話で。おそらくは記憶障害もそれのしわ寄せだろうと、まるで他人事のように、ぼんやりと考えていた。
はぁ、とため息がひとつ。
「仕事熱心なお得意さんだから忠告してやるがよ、お前最近働きすぎなんじゃねぇか?」
「まぁ仕事以外にこれと言ってすることもないですからね」
「違ぇよ馬鹿。…あのハッカーだろ」
無意識にアンプルを弄る手が止まった。ハッカー。ブランカ・張。あの時逃がした男。
無はなおも言葉を続ける。
「分からねぇな。何故追い続ける?ありゃもう三合会の中だけで収まる話じゃねぇ。世界中の人間が血眼になって探してやがるもんだ……なぁ、何故そうまでして…ーーッ!」
一投。言葉を遮るようにしてアンプルを無めがけて放つ。咄嗟に掌で受け止めた無はこちらをギロリと睨めつけ低く唸った。
「危ねぇな馬鹿野郎。もっと丁寧に扱え。貴重なN◎VA軍秘蔵のヒルコ組織だぞ。」
「採ってきたのは私です」
「屁理屈こねんな。餓鬼かよ」
「仕事熱心なお得意さんだから忠告してやるがよ、お前最近働きすぎなんじゃねぇか?」
「まぁ仕事以外にこれと言ってすることもないですからね」
「違ぇよ馬鹿。…あのハッカーだろ」
無意識にアンプルを弄る手が止まった。ハッカー。ブランカ・張。あの時逃がした男。
無はなおも言葉を続ける。
「分からねぇな。何故追い続ける?ありゃもう三合会の中だけで収まる話じゃねぇ。世界中の人間が血眼になって探してやがるもんだ……なぁ、何故そうまでして…ーーッ!」
一投。言葉を遮るようにしてアンプルを無めがけて放つ。咄嗟に掌で受け止めた無はこちらをギロリと睨めつけ低く唸った。
「危ねぇな馬鹿野郎。もっと丁寧に扱え。貴重なN◎VA軍秘蔵のヒルコ組織だぞ。」
「採ってきたのは私です」
「屁理屈こねんな。餓鬼かよ」
しばしの睨み合い。ややあって口を開いたのは鳳龍だった。
「何故?ーそんなの単純な話ですよ。それがお仕事、だからです。それが私に求められていること。私を私たらしめる存在意義だからです。」
ーーー組織に身を賭し、その身を尽くすと誓え
今でも鮮明に思い出せる。無力な××は死に、鳳龍が鳳龍となった日。
殺すことをこそ己が存在理由としたならば、それを全うするまでのこと。
誰を欺き、敵に回そうと、何千何百人何万人を踏みつけようともそれは変わらない。変えられない。
「俺は本物なんだ」縋るような八代弦八の声を思い出す。存在意義を失うことは酷く恐ろしく思えた。
殺すことをこそ己が存在理由としたならば、それを全うするまでのこと。
誰を欺き、敵に回そうと、何千何百人何万人を踏みつけようともそれは変わらない。変えられない。
「俺は本物なんだ」縋るような八代弦八の声を思い出す。存在意義を失うことは酷く恐ろしく思えた。
「…そんな風じゃあお前、さぞ多方面から恨まれてることだろうな」
恨み、辛み、そんなもの知ったことか。
だって自分は『悪人』なのだから
だって自分は『悪人』なのだから
ーー本当に?
〝鳳龍は優しいよ〟
「さぁ?よく分かりません…踏み潰した蟻の数を覚えている人間なんていないでしょう?」
頭の隅に引っかかったその言葉は、
わざと知らないフリをした。
わざと知らないフリをした。