ゆっくりけんをきわめてね! 13KB
※独自設定垂れ流し
例によって独自設定考察なお話
斬ってきた。
男は無数のゆっくりを斬ってきた。
れいむを斬った。まりさを斬った。ありすを斬った。ぱちゅりーを斬った。
数えきれないほど多くの普通種を斬り、希少種も斬ってきた。
剣の修行のためだった。
平和な現代、戦う相手などいない。。
歪とは言え人の顔をし、稚拙とは言え人の言葉を操るゆっくりは、男の求める修羅の剣の
修行に適した獲物だったのだ。
銃刀法に守られた世だ。刀を使うわけには行かない。
だが、男は道具を選ばなかった。小さなペンナイフだろうと手頃な長さの木の枝だろうと、
男の手に掛かれば刀と変わらぬ鋭さでもってゆっくりを切り裂いた。
男の剣は鋭さを増していった。低い姿勢から斬り上げる独特の斬撃は、もはや神速の域に
達していた。
だが、それはもはや人が人に対して使う剣術ではなかった。
本来、剣術は低い場所にある標的を斬るのに適さない。常に低い位置にいるゆっくりを斬
ることに特化した男の剣は、もはや剣術とは言えないものになっていた。
男は剣の腕を磨くためにゆっくりを斬るのではなく、ゆっくりを斬るために剣の腕を磨く
ようになっていた。手段と目的が入れ替わっていた。
だが、男はそれでも良かった。
楽しかった。純粋に、斬ることが楽しくてしようがなかった。
おまけにゆっくりは幾ら斬ってもすぐに湧いてくる。男が飽きることはなかった。男の充
実した剣の修行は、いつまでも続くかと思えた。
だが、ふとしたとき。男はゆっくりを斬ることに躊躇いを覚えるようになった。
「……何故だ?」
男を迷わせたもの。それは、男が最も信頼している自らの剣だった。
数多のゆっくりを斬ってきた男は、卓越した審美眼を持つようになっていた。ゆっくりを
見ただけで善良かゲスかれいぱーか、あるいは普段どんなものを食べており、巣の位置か
ら群れの規模までおおよその検討がつく域に達していた。
それなのに、斬った手応えがおかしい。
同じ種類、同じような環境にいる同じようなゆっくりを斬っても、その手応えがまるで異
なるのだ。
それは常人であれば感じ取れない微妙な差違ではあったが、男の剣は確かに「違う」と告
げていた。
自分の目で得たものと、剣の手応えが一致しない。
それは剣を極めることを志し己を磨いてきた男にとって、あまりにも受け入れがたい矛盾
だった。
悩みに悩み、思いあぐねた男は、ある小さな大学に駆け込んだ。ゆっくりについての研究
をしている――そんな噂を聞きつけて、たまたま訪れた大学だった。
だが、男が訪れたのは偶然ではなく運命だったようだ。
「あなたのような方を待っていました」
男の突然の訪問、異常な質問を聞いた大学の研究員は、そう言って男を迎え入れたのだか
ら。
ゆっくりけんをきわめてね!
「ゆんゆんゆ~ん♪ ちょうちょさん、かわいいれいむにゆっくりつかまってね~♪」
男が連れてこられたのは、大学の構内にある小さな庭だった。
そこでは一匹のゆっくりれいむが蝶を追って跳ねていた。
「あのゆっくりを斬れますか?」
研究員の問いに、しかし男はなにも反応しない。
答えるまでもない質問だったからだ。
研究員も男の不快を察したのだろう。
「もちろん、ただ斬るのではありません。れいむが蝶を追い、跳ねた瞬間。痛みを感じる
暇もなく縦に両断して欲しいんです。できますか?」
次の瞬間。研究員が見たのは、男の立っていたはずの場所で揺れる芝生だった。
慌ててれいむの方に目をやれば、既に全ては終わっていた。
「これでいいのか?」
研究員が慌てて駆け寄る。
男の足下には綺麗に両断されたれいむが転がっている。
二つに割れた顔は、あまりにものんきな笑顔だった。それはまさに蝶をつかまえようと跳
ね、もうじき届く瞬間を思わせるもの。自分が斬られたと意識する暇すらなく、正確に中
枢餡を切られた証拠だ。
「い、いったいどうやって……!?」
男がつまらなそうに掲げたのは、どこの街の文房具屋でも売っていそうな、ありふれた3
0センチほどの定規だった。
「普段はこんなものを使っている。まともな獲物を使わせてもらえれば、もっと綺麗に斬
ってみせよう」
研究員は目を白黒させた。
れいむの断面は研究員が見た中で、もっとも綺麗だったのだ。どこも歪なところもない美
しい直線。
研究員は感激した。
「やはり、あなたはここに来るべき人だった! 我が大学の研究によって、あなたの疑問
は晴らされることでしょう!」
そして、男はその日から大学の研究に協力することになった。
とは言っても、男のやることは変わらない。
ゆっくりを斬ることだ。それも、必ず縦に両断する。
ただ、様々な条件を課せられた。
眠っているゆっくりを斬る。あるいは、起きた瞬間に斬る。
「ゆっくりしていってね」という定型句を発する寸前に斬る。あるいは、言った直後に斬
る。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー」と言う直前に斬る。あるいは、言った直後に斬る。
交尾を始める直前に斬る。あるいは、交尾を始めた直後に斬る。
すっきりーの直前に斬る。あるいは、すっきりーの直後に斬る。
跳ねる直前に斬る。あるいは、着地した直後に斬る。
虐待で死ぬ直前に斬る。あるいは死んだ直後に斬る。
いずれの状況も、常人であれば見極めることすら難しく、ゆっくりがいくら鈍いとは言え
気づかれもせずに斬るなどできないだろう。
だが、男は難なくこなしていった。
大学によってあてがわれた模造刀もまた、男の手によくなじみ、その斬撃をより鋭く精妙
なものとしていた。
ゆっくりは自分が斬られたという自覚すらなく、その瞬間をまるで写真に撮られたように
時間を止め、真っ二つに斬られていった。
男が斬るたび、研究員はゆっくりの死体を慌ただしく回収していった。
男は次第に、なかなか結果のでない研究にはそれほど興味が無くなっていった。
ただ、今までにない様々な状況でゆっくりを斬ることを楽しんでいた。いずれ、斬ってい
くことで疑問の答えにたどりつけるのではないかと考えるようになっていた。
そんな充実した日々。
しかし、ある日突然、終わりが訪れた。
「俺が出ても意味がないんじゃないのか?」
ある日のことだった。
男は、突然に研究の発表会に招かれた。
慣れぬスーツを身につけさせられ、年輩の教授や研究への情熱に目を輝かす学生に混じっ
て席に着くのは、実に居心地の悪いものだった。
「いえ! あなたのおかげでようやく研究の成果が出たんです! 是非見ていただかない
と!」
隣に座るのは、男が大学に来たとき迎えた研究員だ。この研究員によって、男はこの発表
会に強引に参加させられたのだ。
研究の成果が出たのなら、こんな発表会ではなくすぐに男に告げるのが筋だろう。
だが、研究員曰く、こうした晴れの舞台で見るのが一番で、かつわかりやすいのだという。
男は少々呆れていたが、もう諦めてもいた。こうして会場に来てしまったし、いよいよ男
の協力した大学の研究成果発表が始められようとしていたからだ。
「ゆっくり餡子変異学説」
そんなタイトルで公演は始まった。
壇上に立つのは大学の教授のハズだが、男にはぼんやりとしか見覚えがない。
ゆっくりをいかに斬るか。そればかり考えていた男にとって、他のことはどうでもいいこ
とだ。それはこの発表会についても同じ事で、男はほとんどを聞き流しゆっくりをどう斬
ろうかとばかり考えていた。
そんな男の思考を断ち切ったのは、壇上に透明な箱に入れられたゆっくりれいむが連れて
こられてからだ。
ゆっくりに目がいき、自然に教授の声も耳に入った。
「ゆっくりはご存知の通り、餡子でできた饅頭という極めて奇妙なナマモノです。食べた
ものは餡子に変換し、苦しめれば苦しめるほど甘くなる。また、中の餡子は中枢餡と呼ば
れる核となるものや、筋肉の役割をする筋餡などがある。そういったことはわかっていま
す。しかし、そこでこの謎のナマモノへの探求を止めてしまってはいないでしょうか?
思考を停止させていないでしょうか?」
おもむろに、教授はゆっくりれいむの底部に近い皮を、中の餡子ごと引きちぎった。
「ゆぎぃぃぃぃぃ!? どぼじでごんなごどずるのぉぉぉ!?」
ちぎられた頬からは粘りけのある餡子が漏れ出る。一定以上出ると、やがてその流出は止
まる。
「今、私はゆっくりのあんよに当たる部分をちぎりました。さて、ではこちらのスライド
を見ていただきましょう」
そして、壇上のスクリーンにスライドが表示される。
スライドにはゆっくりの断面図が描かれていた。ゆっくりの断面はそれぞれ色分けされて
おり、中枢餡や筋餡といった注釈がつけられている。
「これは一般的なゆっくりの体内構造図です。私が今ひきちぎったのはこのあんよから餡
子変換器――人間で言うところの消化器に当たる部分です。この図が正しいとするなら、
餡子も漏れて、餡子変換器は重大な損傷を追ったことになります。つまり、このゆっくり
は食物の摂取に障害が出ることになります」
続いて、教授はれいむにケーキを与えた。
「ゆぐぅ……むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
初めは痛みが気になっていたようだが、すぐにケーキの甘さに酔い、れいむは元気な声を
上げる。
「御覧になりましたでしょうか? このようにれいむは問題なくケーキを食べました。障
害は発生していません」
講堂がざわめく。
ゆっくりの体内構造は複雑怪奇にして不条理。体内構造図はあくまで目安に過ぎないのは
ゆっくりの研究における常識なのだ。
だが、教授はひるまずに続ける。
「私は、ある特殊な手段によってゆっくりの様々な状態における餡子の情報を得ることが
できました」
スライドが切り替わる。
先ほどと同じく体内構造図だが、内臓に当たる器官が無く、殆どが筋餡がしめている。
「これが運動時のゆっくりです。ゆっくりがあれほど高く跳ねるためにはこれだけの筋餡
が必要になります。そして、落下時の衝撃を吸収するためにも必要です。内臓が傷つかな
いことが疑問視されていましたが、実は運動時のゆっくりには内臓がないのです」
講堂のざわめきがより強くなる。
同じように、男の心の奥のざわめきもまた強くなっていた。
教授の言っていることはまるでわからないことばかりだ。だが、自分の身体が知っている。
これが正しいことだと叫んでいる。だから、男の心はざわめく。
そして、次々とスライドは切り替わる。
男がそれらのスライドを見るのは初めてだ。だが、見覚えがある。間違いない。男の斬っ
てきたゆっくりを元にスライドは作られているのだ。この研究のために大学は男にゆっく
りを斬らせたのだ。
ゆっくりの食事時、生殖時、就寝時。
スライドはそれぞれの状態で、体内の構造がまるで違うことを示していた。
たまらず聴衆のひとりが問うた。
「おかしい! いくらゆっくりでも、そんな無茶苦茶な変化はありえない!」
対して、壇上の教授は頭を振った。
「いいえ。ゆっくりだからこそ、こんな無茶苦茶な変化があり得るのです。ありとあらゆ
る食べたものを餡子に変換する。痛めつければ痛めつけるほど甘くなる。そこから考えれ
ば当たり前のことだった」
教授は講堂にいる全ての人間を包み込むように両手を広げ、目を輝かせ叫んだ。
「ゆっくりは、状況に応じてその体内を突然変異させる――それが私の主張する、『ゆっ
くり餡子変異学説』なのです!」
ざわめきは最高潮に達した。
講堂にいるほとんどのものが納得しなかった。
跳ねるときは身体全部が筋肉になる。食べるときは身体全部が内臓になる。生殖するとき
は身体全部がそのための器官になる――そんなこと、常識的に考えて納得のいくことでは
ないのだ。
だが、男は納得した。いや、納得していた。ずっと前から身体は知っていたのだ。無数に
斬ったゆっくりの感触から、とうに答を出していたのだ。
それをようやく頭が理解することができた。
「はははははははははは!」
みながぎょっとして見た。
気づけば、男は笑い出していた。
男はおかしくてたまらなかったのだ。
――なんだ、自分が悩んでいたのは、こんなに簡単なことだったのか、と。
「どうしても行くんですか?」
「ああ」
大学の正門前。
旅立とうとする男と、それを引き留める研究員の姿があった。
「研究はもう俺無しでもできるんだろう?」
「それはそうですが……」
「ゆっくり餡子変異学説」は、ゆっくり研究会に大きな波紋を呼んだ。それにより研究資
金の確保ができた。これからは男に斬ってもらわなくても、様々な計測器によってゆっく
りの状態を探ることができる。
その意味では確かに男の役目は終わったと言えた。
「でも! あなたがいることによって研究は認められた! あなたはこの大学にとって大
切な人だ! あなたが望めば一生暮らしていける地位だって……」
「そんなものに興味はない」
「それに! 研究が進めばこれまで謎とされていたことだってわかります! あなたは知
りたくないですか? 例えば……そうだ! なぜゆっくりが痛めつけるほど甘くなるかと
か……」
研究員の言葉に、男は笑い出した。
「おまえら学者は頭が固いな。ゆっくりを痛めつけるほど甘くなる理由? 決まってる。
群れを生き残らせるためだ」
「群れを生き残らせるため……?」
「やつらを捕食するものがいたとする。そいつが一匹目を喰らったとする。続いて二匹目
を喰うと、追われる恐怖で一匹目より甘くなっている。三匹目、四匹目とどんどん甘くな
る……やがて味の虜になって、群れを追うのを忘れる。犠牲は出るが、群れは生き残れる
って寸法さ」
男は舌なめずりして言った。
経験したことがあるのだ。山籠もりをしたとき、ゆっくりの群れを全滅させようとしたこ
とがあった。途中、空腹に負けて斬り捨てたゆっくりを口にしたとき、体験したことだっ
た。
「やはり、あなたはすごい。経験によって真理に近いところにいる。それを世に広めよう
とは思わないのですか……?」
「研究の発表で得られるのは何だ? 地位か、名誉か、それとも金か? 興味ないね。俺
はそんなことより楽しいことを知ってしまったからな」
そして、男は大学を去っていった。
男が見つけた楽しいこと。それは、この大学の研究によってハッキリと知ったゆっくりの
生態だ。
やつらは状況に応じて体内構造を変化させる。
ゆえに斬ったときの手応えが異なる。
それはつまり、様々な状態に応じた最適な斬り方があるということだ。
その探求が男の目的となった。
それは想像を絶するほど奥の深いことだろう。
男は楽しみのあまり、口元に野性的な笑みを浮かべた。それでいて、その瞳の輝きは知的
好奇心に満ちていていた。
今や、男は「剣」の者であり、「賢」の者でもあった。
男はこれからもゆっくりを斬っていく。
今まで斬ってきたゆっくりなど比較にならない数のゆっくりを斬り、より真理を究めてい
くのだが……それはまた別の物語である。
了
by触発あき
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- ↓いいやつじゃなくていいssです
すみません -- 2015-08-19 00:05:05
- 俺が見たなかで一番いいやつだな
この男はゾロの域に達している
続きを見てみたいな -- 2015-08-19 00:02:48
- この男の物語も見てみたいな -- 2012-12-13 18:10:15
- 男が格好良すぎる!!やばい、絵にしてくれ!!
↓「慣れないスーツ」=「いつも和服」だったら面白いwww -- 2011-12-25 12:41:46
- かっこいいじゃねえか、修羅!
宮本武蔵見たいのがあのまんじゅうを切ってると思うとシュールだけど -- 2011-08-15 13:35:07
- 男がかっこよすぎるわ! -- 2010-12-29 21:39:50
- 絵師様はおられるか!絵師様はおられるか!
早くこのSSに絵をつけてくれ!絶対に笑える絵ができる!w -- 2010-09-07 03:50:13
- おお!なんかかっこいいかも?
まあ、まんじゅうを切ってるだけなんだけどw -- 2010-08-27 07:48:47
- 面白い話だった
状況によって切る感覚の違いとか面白かった -- 2010-08-13 12:44:20
最終更新:2009年10月18日 13:58