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ザックスが眠りについてから数分。
僕は膝から崩れ落ちた状態のまま動けずにいた。
涙はとうに乾いていたけど、頭がぼうっとしていて、動く気力が起きない。
脳内を取り留めのない思考が流れていく。

いつまでこの場所にいるんだ。
忘れてはいけない、今は殺し合いの最中だ。
如月千早のような人殺しが、また来るかもしれない。
もし、そうなったらどうする?
寝ているザックスを頼ることはできない。
となると、僕自身がなんとかするしかない。
なんとかするって、どうやって?
人殺しも銃口を向ければ怯むはずだ。
でも、きっと恐怖で身体がすくんで撃てないだろう。
それなら、戦う以外の方法を選ばないと。

「……そうか、そうだよ」

この場から離れればいいんだ。
どこか、身を隠せる場所を探そう。
運の良いことに、このエリアは建物が多く視界は開けていない。
そのあたりの民家で息を潜めていれば、襲われる確率はぐんと減る。
少なくとも、ここでじっとしているよりはマシだと思う。
一刻も早く離れよう。
まずはリュックに荷物を入れ直さないと。
辺りには支給品の水や食料、それに銃が転がっている。
それらを無造作にリュックにしまおうとして、はたと気がついた。

「……でも、そうしたらこいつが」

僕だけならすぐにこの場を離れられる。だけど、ザックスはどうなる?
このままここに置いていけば、そのうち誰か他の参加者に見つかるかもしれない。
そうしたら、運が良ければ助かるだろうけど、運が悪ければ殺される。
死ぬかもしれないと考えると、置いていくのはためらう。
とはいえ、巨大な岩の剣を振り回す筋肉バカを、僕が担いでどこかに運ぶなんて無理だ。
だから置いていくのは仕方がない。そうするしかない。
勝手に僕のことを守ろうとして、失敗したのが悪いんだ。
僕はそんな失敗をしない。

「オレは……生き残るんだ」

自分に言い聞かせるように、僕は言葉を発した。


――――生き残って、何ができる?


そのとき、また“あの声”が聞こえた。
頭がずきずきとして、僕は思わず頭を押さえてうずくまった。
僕自身の声が、僕自身に問いかけているかのような感覚だ。


――――僕には何も出来ない。
――――ここから逃げても、すぐに殺されて終わりだ。


「う……うるさい!」

僕は反射的に、声に反発していた。
自分でも分かるほど、弱弱しい声で。


――――僕には何もない。
――――怪我人を助ける知識も、人を殺す覚悟も。


「うるさいうるさいうるさい!!!」

手のひらで耳をふさいで、声を聞くまいとする。
それでも脳内に声は響き続ける。僕には何もない、何も出来ない。何もない、何も出来ない。

「勝手なこと言いやがって……!」

ふつふつと苛立ちが湧いてくる。
そのとき、僕はデジャヴを感じた。
僕のニセモノに、僕自身を否定されたときと同じだ。
あのときも勝手なことばかり言われて、僕は感情に任せて怒鳴り散らした。


だから、同じことをすればいい。
同じように、ニセモノを否定すれば。

「オレは何も出来ない人間じゃ――」

(頼りにしてるぜ、美津雄)

瞬間。声が聞こえた気がして、思わずザックスの方を見た。
相変わらず顔面蒼白で調子が悪そうだが、その顔はどこか微笑んでいるように見えた。
これまでに何度も話しかけてきたときの表情だ。
その顔を見て、僕は唇をかんだ。


――――僕には、何も出来ない。


「そんなこと……わかってんだよ!」

口から出たのは、自分でも意外な言葉だった。

僕とザックスを比べると、その力の差は明白だった。
体力に筋力、この異常事態への適応力や咄嗟の判断力。どれをとっても雲泥の差だ。
いくら脳筋のザックスでも、僕と一緒に行動していて気づいただろう。
それになにより僕自身が、差を痛感していた。

「……でも。ザックスは頼りにしてくれた」

僕のことを劣等生扱いして見下してきた奴らとは違う。
無視をして、居場所を奪おうとしてきた奴らとも違う。
頭ごなしに僕を否定し続けた教師とも違う。

「僕を無力だと分かっていても、僕を認めてくれたんだ」

「そんなこと、初めてだ……」

「ザックス……」

「死ぬなよ、ザックス!」

僕はまた泣いていた。
そして、いつの間にか声は止んでいた。
街路樹を風が揺らす。その風は、頭痛が治まった僕の頭を、いくらか冷やしてくれた。
ザックスを見下ろす僕は、その瞬間気が付いた。

「……そうだ、ザックスの支給品!」

今この瞬間まで、ザックスの支給品のことを忘れていた。
僕のリュックにはなかったけど、ザックスのリュックにはあるかもしれない。
ほんの僅かな望みを抱いて、街路樹の脇に落ちていたリュックを漁る。
それなのに、中から出てきたのは古びた分厚い本だけだ。それも五冊も。

「クソッ、こんなもの、いるかよっ!」

殺し合いで本をどう扱えというのか。僕は苛立ち、地面に本を叩きつけた。
叩きつけられた勢いで本はめくれていき、やがてあるページで止まる。
そのとき僕の目は、そこに書かれていた“ある文字”に吸い寄せられた。

「こ、これって……?」

本には“回復薬”や“解毒薬”といった文字が並んでいる。
まるでゲームみたいだと思いながら、僕は半信半疑でペラペラと本をめくった。





久保美津雄という少年は、沢山のゲームをプレイしてきた。
ゲームの世界は、自分の思い通りにならない現実世界とは異なる。
レベルを上げたり、キーアイテムを手に入れたり、といった攻略方法さえ見つければ、ゲームの世界は美津雄の思い通りだ。
モンスターを蹂躙して、宝物を手に入れて、ゲーム内の住人から賞賛される。
美津雄にとってのゲームは、自尊感情を大いに満たしてくれるものだった。
逆に言えば、それだけでしかなかった。

「回復薬は……薬草と、アオキノコを粉末状にして……」

今現在、美津雄が熱心に読んでいる分厚い本は、調合書と呼ばれる書物だ。
解毒薬から大タル爆弾まで、狩りに必要なありとあらゆる道具の調合法が記されている。
ザックスのリュックから見つけたそれには、当然のように回復薬という項目も存在している。
効能はもちろん体力回復。モンスターにどんな傷を食らっても、たちどころに体力が戻る代物だ。

「この回復薬が作れれば、ザックスは……!」

それは、ハンターではない普通の人間なら一笑に付す考えだろう。
レシピがあるとはいえ、材料も何もない状態で、回復薬を作ろうとするなど。
しかし、美津雄はこの場所に来てから、既に普通ではないものに触れていた。
いきなり開始したバトルロワイアル。現実味のない銃。巨大な岩の剣を振り回す、常人離れした人間。
まるでゲームのような状況下で手にしたのは、ゲームに出てきそうな古びた書物。
そして、何にも増してザックスに死んでほしくないという思いが、美津雄を動かした。

「薬草は……繁殖力が強く、広範囲で採集できる……」

藁にも縋る思いで、美津雄は回復薬のページを読んでいた。
ゲームに没頭する若者が、何事もゲーム的に捉えて考えることを、ゲーム脳と揶揄することがある。
多くの場合、その表現は現実が見えていないことに対して否定的な意味合いで用いられるが。
この場所においては、そのゲーム脳が前向きに働いたと言える。

「クソッ!こんなの上手くいくのかよっ!」

もちろん、だからといって回復薬が即座に調合できるわけではない。
ザックスを救うという決意が、美津雄を僅かに前に動かしただけ。
しかしそれでも、その一歩は少年にとって、大きな一歩であると言えた。



【D-2/市街地(西側)/一日目 早朝】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(中)、困惑、焦燥
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1~2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して自分の力を証明する、つもりだったけど……。
1.ザックスを助けたい。
2.回復薬なんて作れるのかよ?

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:腹部に深い刺し傷、猛毒、睡眠中
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.Zzz……。
2.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
3.千早(貴音)が気がかり。

※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。


【調合書セット@MONSTER HUNTER X】
ザックス・フェアに支給された書物。
モンスターハンターシリーズで初期から存在するアイテム。
所持することで、アイテム調合の成功率を上げる効果を得られる。
「入門編・初級編・中級編・上級編・達人編」の全5冊セットで支給。
このロワではオリジナル要素として、調合で作成可能なアイテムの詳細なレシピが記載されているものとする。


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063:魔力と科学の真価 時系列順 065:ALRIGHT* ――大丈夫―― (前編)
投下順
035:輝け!月下の歌劇団☆ 久保美津雄 086:一難去って……
ザックス・フェア

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最終更新:2020年10月18日 09:09