3人と1匹は山岳を下り、森を抜ける。
思いのほか時間がかかった。
辺りの見晴らしがよくなる頃には、既に太陽が顔を出し始めている。
「もうすぐ放送か……。」
時計を見て魔王が呟く。
「旦那、大丈夫かニャ……。」
オトモもつられたかのように呟いた。
彼の主人であるハンターもまた、この戦いに連れてこられている。
いくら強くても、それで生き残れるという保証はどこにもない。
「不安かしら?」
シルビアがオトモに声をかける。
「うん……旦那様はとっても強いんだけど、こんな戦いに巻き込まれてしまったら、無事か分からないニャ……。」
「アタシもね、とっても仲良かったコ達と、魔王に襲われて、離れ離れになっちゃったことがあったの。」
「その時はみんニャと会えたのかニャ?」
「……うん。皆とは無事再会できたわよ。オマケに、もっと頼もしい味方も増えた。
それから皆で力を合わせて、魔王を倒したのよ。」
シルビアの話に励まされたオトモの顔は明るくなる。
(ごめんね、ベロニカちゃん)
実はシルビアはウソをついていた。
確かにあの時、自分は仲間とは再会出来たし、グレイグや他のパレード仲間という、頼れる仲間を見つけたのも事実だ。
だが、彼女、ベロニカだけは助けることが出来なかった。
しかも、自分達が無事だったのは、そのベロニカの犠牲があってのものだった。
本当はオトモの不安を拭うためにした話だが、仕方のないことだと自分に言い聞かせる。
だからこそ、新しいナカマ達は守ろう。
騎士の誓いを胸に、シルビアはそう決意した。
「アンタもさあ、イケメンなんだから、そんなにムスっとしないでよ。
あと顔色悪いわよ。ちゃんとゴハン食べてる?」
仏頂面の魔王に、サクラダが声をかける。
「余計なお世話だ。」
キサマが顔色悪くしているんだろうが、と言いたい気持ちを堪えながら答えた。
「んもう、つれないわねえ。」
サクラダを無視し、魔王は繰り返し時計を見ながら、放送の時を待ちわびる。
恐らく特に放送を待っている参加者の一人であるだろう。
放送によって、行動方針を変えることになる可能性が高い。
自分だけではない。オトモやサクラダ、シルビアの知り合いが呼ばれても行動方針に影響するはずだ。
丁度【A-2】を横断する橋に差し掛かった時、先頭を歩いていたシルビアが声を上げた。
「な、何アレ……!!」
黒い、巨大な何かが、橋を渡ろうとしていた。
魔王は小さく舌打ちした。
ここで異形の存在に会ってしまった、タイミングの悪さに。
この状況、相手が進行方向にいる以上は逃げようにも逃げられない。
仮に目的地を変えて逃げようとすれば、シルビア達の信頼度は失われることになる。
おまけに放っておけば面倒になりそうなモンスターだ。
ひょっとすると、グレン達に被害が及ぶ可能性だってある。
相手が見かけだおしの敵かどうにかして懐柔できる存在であることも期待したが、それは都合が良すぎるだろう。
「S.T.A.R.S………」
飛ばされた先でも、ネメシスのやり方は変わらない。
目につく全てを抹殺する。
「止まりなさい!!アタシ達は敵じゃないわ!!」
見た目が怪物だろうと、話し合えば分かる者もいる。
メダル女学院のモンスターが良い例だ。
そう考えたシルビアが交渉に入ろうとする。
「S.T.A.R.S………」
勿論、ネメシスにそんな交渉は通用しない。
地面を殴りつけるような動作をし、こぶし大の石を掘り出し、シルビア達に投げつける。
まともに当たれば、シルビアの体はぐちゃぐちゃになっているだろう。
「させないわ……。バギマ!!」
シルビアが放った竜巻の魔法が、石の進行方向を変え、誰もいない方向に飛ばす。
「お見事だニャ!!シルビアの旦那!!」
「すごいわね。どういった仕掛けなの?」
オトモとサクラダが、異口同音に称賛を贈る。
魔王も口にこそ出さなかったが、見たことのない風の魔法を見て驚く。
「S.T.A.R.S!!」
しかし、投石が効かないと判断したネメシスが迫り来る。
「サクラダ!!余った薪の束、貸して!!」
「え!?いいけど……。」
「ありがと。それっ!!」
シルビアは薪の束を1つネメシスに向けて投げつける。
多数の木の棒が、ネメシスに向けて飛ぶ。
(どうする?)
その結果がどうなるか、魔王はじっと観察していた。
たかだか木材を投げつけた程度で、あの怪物を倒せるとは思えない。
木材ごとき凌ぐ手段ならいくらでもある。
だが、いくらでもあるからこそ、あの技をどう回避するかで、あの怪物の長所が分かる。
殴り飛ばせば、剛力。
躱せば反射神経と高スピード。
木材に異変が起これば、何らかの超能力を持っている。
だが、木材の行方は、魔王の斜め上を行くものだった。
薪の一本一本がネメシスを嫌うかのように、不自然な形で飛んで行ったのである。
まるで凄まじい幸運(フォーチュン)を身に着けた者が、多くの人間から投げられた石を全て回避したかのように。
ネメシスの体に埋め込まれた電磁波発生装置が、投擲物を全て跳ね返したのだ。
(シルビアのコントロールが乱れたようにも見えないし、打ち飛ばしたようにも見えない。
サイコキネシスのようなものか?)
しかし、サイコキネシスなら一度に一つの物しか動かせないし、それなら木材の一つ一つが異なる方向に飛んでいくのも納得できない。
「魔王ちゃん!!危ないわ!!」
サクラダが叫んだ時、既に長身の魔王を優に超す巨体が、近くに走り込んできていた。
戦いの最中に考え事なんてするものではない。
ネメシスの拳を、済んでの所で躱しながら、魔王はそう思う。
既にサクラダとオトモは、後ろに避難していた。
「悪い魔物ちゃんは、これでおしまいよ!!」
しかし、ネメシスが魔王に攻撃する隙を利用した、シルビアは背面に回り込んでいた。
そのまま空高くジャンプ。
ネメシスの首に青龍刀を突き刺した。
(!?)
シルビアはネメシスの筋肉の硬さに目を見張る。
刃が思ったより入らない。
タイラントがベースになった筋肉の強靭さは、並の魔物を遥かに超えていた
「ウガァ!!」
首にナイフを刺され、怒るネメシスは体を揺らし、シルビアを振り落とす。
「きゃっ!!」
空中で不安定な状態になったシルビアが地面に落ちる前に、その顔をネメシスが掴む。
シルビアは顔をゆがませ、どうにかして脱出しようとする。
「S.T.A.R.S……」
だが、そこで、ネメシスの肩から出た触手の槍が、シルビアを串刺しにしようとした。
「くっ!!このっ!!放しなさいよ!!」
その瞬間、暗い色をした爆発がネメシスの胸で起こり、シルビアは触手の犠牲になることなく、自由になる。
魔王が放った冥属性の魔法、ダークボムがネメシスを怯ませたのだ。
ネメシスがシルビアを離した瞬間、もう一発ダークボムを打ち、シルビアを怪物の両手のリーチを超える距離まで離した。
「無事か。」
「ありがと。ちょっと巻き添え食らったけど助かったわ。いいオトコね。」
「冗談は勝ってから言え。」
「ウオオオオオオ!!」
2発の爆発によって多少のダメージを受けたネメシスは、雄たけびを上げる。
躍動する筋肉が、首に刺さったままの青龍刀を吹き飛ばした。
ダークボムによって受けたダメージも、修復されようとしている。
「これは厄介だわね……リホイミでもかかっているっていうの?」
シルビアは敵の自然治癒力に苛立つ。
傷を回復し始めたネメシスは、胴回りに着いた布地から、巨大な筒のような物を取り出した。
今度の相手はラクーン市警で戦ったような、逃げるばかりではなく、抵抗もしてくる相手だと判断したネメシスは、新たな武器を用意する。
豪傑の腕輪、電磁波発生装置に次ぐ、第三の道具の名は、ソリッドバズーカ。
撃った際の衝撃が強く、相当の力がないとまともに使えないこの重火器は、ネメシスとの適合性が抜群だった。
「え?まさか、あれは……。」
シルビアは、かつてグラーゴン退治の時に使ったナギムナー村の大砲を思い出す。
同じ形状ではないが、ぞわりと背筋が冷たくなった。
「サクラダの旦那、あれは間違いなく危ない武器だニャ!!」
オトモが叫ぶも、時すでに遅し。
ドン、と爆音が響き、天空に炎の塊が放出される。
そのまま後方に待機していたサクラダ達の、更に後ろで爆発が起こった。
爆発といっても、先程のダークボムより数回り大きな爆発だ。
「キャーーーーッ!!イヤーーーーッ!!」
後方に下がっていたサクラダとオトモは、慌てて魔王達の方に近寄る。
(何だ……あの武器は……。)
魔王城に攻め込んできたグレンの仲間の一人、ルッカが持っていた武器に似ている。
だが、サイズも破壊力もその数倍、いや、十数倍はある。
再びネメシスがバズーカを発砲した。
一発目で使い方を学んだからか、多少角度を低めにしている。
今度は、誰かがタダではすまないだろう。
「アイスガ!!」
魔王の詠唱に合わせて、いくつもの氷塊が現れる。
バズーカの仕組みを学んだのはネメシスだけではない。
空中に氷の盾を作り、砲弾を被害の及ばない空中で爆発させる。
爆風の熱で多くの氷が融解した
残りはネメシスに襲い掛かるが、先程の木材のように、氷は明後日の方向に飛んでいく。
(やはり、どこかおかしいな……。)
最初にシルビアが投げた木材と同じだ。
自分も調子がどこか悪いわけでもないのに、何故か魔法が逸れていく。
しかし、考える暇を与えずに、ネメシスはバズーカを抱えたまま、突進してくる。
遠ざかればバズーカ、近づけば触手と拳の二段攻撃だ。
「クッ、散開するぞ!!」
魔王の合図に従って、魔王とサクラダがネメシスの右側に、シルビアとオトモが左側に避ける。
ネメシスの振り下ろした拳は誰にも当たらず、地面に穴をあけただけだった。
触手を鞭のように振り回す攻撃も空振りに終わる。
だが、次の攻撃は予想できなかった。
触手を躱し、そのまま反撃に出ようとする魔王に、その攻撃は襲い掛かった。
ネメシスはバズーカを、片手で鈍器として振り回して攻撃したのだ。
「な!?」
極めて重量のあるバズーカは、例え重火器として使えても、バットのように使うことは人間には難しい。
だが元々人間離れした怪力を持ち、それを腕力増強の魔術を秘めた腕輪に後押しされたネメシスなら可能だ。
そして重すぎて振り回すことが不可能と思われたが、一たび振り回すことが可能になればその重さは、極めて強力な武器になる。
鈍い音をたてて、ホームランのように魔王は打ち飛ばされる。
「うそ!!?」
隙を見たネメシスは、今度はサクラダに迫りくる。
「こ、来ないでちょうだい!!真っ二つにするわよ!!」
ハンマーでは間違いなく敵わないと判断したサクラダはチェーンソーを取り出し、ネメシスに向ける。
刃は鋭く早く回転する。
しかし、バズーカのスイング一発で、刃は簡単に砕ける。
「やっぱりアタシムリぃぃぃぃ!!」
慌てて逃げ出すサクラダ。
ネメシスはチェーンソーの持ち手も踏みつぶし、サクラダを殺さんとする。
「ウガァ!?」
しかし、幸運なことが起こった。
チェーンソーが踏みつぶされた時に漏れた機械油が、ネメシスの足を滑らせたこと。
仰向けになったネメシスは、さらに悪いことに、全身油まみれになった。
「今がチャンス!!」
シルビアはネメシスに近寄り、火を吹く。
彼が吐いたのはあくまで見せものの火。
超人的な生命力を持つネメシスを倒すにはとても足りない。
しかし、チェーンソーの油に引火し始める。
(なるほど、そういうことか!!)
バズーカの強打を食らった後、戦線に復帰した魔王が、追加のファイガを打つ。
氷や木材といった固体ならなぜか当たらないが、炎のような気体なら遠くから打っても躱されることはないようだ。
「ウガアアアアアアアアアアア!!」
巨体が炎に包まれる。
バズーカを投げ捨て、地面をゴロゴロと転がり、その火を消そうとする。
炎で焼かれ、着ている防護服の一部が燃焼しても、触手をさらに振り回し、もがき続ける。
だが、魔王も一撃を放つ準備は出来た。
これまでは範囲が広すぎてシルビア達を巻き添えにしたり、詠唱の間に逆に攻撃されたりする恐れがあったが、今こそ冥属性最強魔法の出番だ。
「求めずとも、消火してやろう。貴様の命の火ごとな!!
ダークマター!!」
闇の三角形が太陽の光を、草原を、そして中心のネメシスを呑み込む。
「スタアアアアアズ!!」
闇に飲み込まれてなお、腕を伸ばし、殺すべき相手を叫ぶ。
空間が歪み、進展し、収束する。
爆音。広がる闇と対照的な白い光。
気が付けば地面にボロボロになったネメシスが転がっていた。
「魔王の旦那!!大丈夫かニャ!!」
オトモが心配して、駆け寄ってくる。
「気にするな。あの程度で死ぬほどヤワじゃない。」
確かに腹はまだ痛むが、致命傷ではない。
あの一撃が頭や胸ならまずかったが、それは幸運に感謝しよう。
「助かったわ!!アナタ、やっぱりイケメンね!!今度タダで家を建ててあげるわ!!」
サクラダも魔王の腕にしがみ付いて感謝を告げる。
「余計なお世話だ。早く行くぞ。」
「ねえ、この機械、何か分かる?」
シルビアが珍しそうに、ネメシスが投げ捨てたバズーカを手に取る。
確かにナギムナ―村の老婆が持っていた大砲に似ているが、破壊力は桁違いだった。
「んまあ!!よく見たらアッカレ砦にあったものに似てるわ!!ワイルド~。」
サクラダも同じようにその武器を見つめる。
(砦……か。)
やはり、砦などの拠点で使われる平気なのだろう。
「旦那様なら、使えるかもしれないニャ!!」
誰が持つかで、オトモが名乗りを上げる。
自分達で使えない以上は持っていても仕方がないが、誰かに奪われればまた厄介なことになりそうだから、そうしておくことにした。
敵を倒し、魔王達はハイラル城を目指す。
魔王がそれ以上に気になっていたのは放送のこと。
時計を見ると、残り5分もない。
ネメシスを倒すのに魔力を使ったのは、自分が殺人に加担していないことを証明することにもなる。
反面、これから殺人を行わなければならなくなった場合、魔力を消費した状態で始めなければならないということだ。
果たしてシルビア達を置いて逃げるべきだったか、協力して倒すべきだったか。
どちらが正しいかは、もうすぐ分かることになる。
【A-2 橋上/一日目 早朝(放送直前)】
【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、
基本行動方針:ハイラル城を目指す
1.サクラダを守る
2.ウルノーガを撃破する。
3.魔王を監視する
※魔王ウルノーガ撃破後、聖地ラムダで仲間と集まる前の参戦です。
【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康 疲労(中) MP消費(小)
[装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品 余った薪の束×2
[思考・状況]
基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。
1.悪趣味な建物があれば、改築していく。シルビアと行動する。
※依頼 羽ばたけ、サクラダ工務店 クリア後。
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/3 腹部打撲 MP1/4
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、クロノを生き返らせる……つもりなのだが……
1.グレン(カエル)も参加しているのか……?
2.シルビア……食えない男だ。
※分岐ルートで「はい」を選び、本編死亡した直後からの参戦です。
※クロノ・トリガーの他キャラの参戦を把握していません。クロノは元の世界で死んだままであるかもしれないと思っています。
【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康 疲労(小)
[装備]: 七宝のナイフ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.旦那様(男ハンター@MONSTER HUNTER X)もここにいるのかニャ?
2.他の人に着いていくよりは魔王さんに着いて行った方が安心な気がするニャ。
※人の話を聞かないタイプ
【
支給品紹介】
【ソリッドバズーカ@ファイナルファンタジー7】
ネメシスT型に支給された武器。原作ではバレットが義手に填めて使っているが、
「スTアアaaアズ……」
そして、魔王、ついでに他の者達がもうすぐわかるのは放送内容だけではない。
ネメシスは死んではいないということもだ。
それ以外の部分のダメージも著しいが、生体改造を施されたネメシスは簡単に死ぬことはない。
コートはボロボロだが、拘束が解けたことで、身体中の触手を振り回す。
追跡者の仕事が再び始まる。
【A-2 西側 /一日目 早朝(放送直前)】
【ネメシス-T型@BIOHAZARD 3】
[状態]:HP1/4 コート消失(第二形態の姿)
[装備]:電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2 豪傑の腕輪+3@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~2個)
[思考・状況] 基本行動方針:皆殺し
1.S.T.A.R.Sのメンバーが居れば最優先で殺す。
最終更新:2022年12月16日 02:46