「チェレン…」
放送が終わり、トウヤは一人の少年の名を呟く。
チェレン。幼馴染の少年だ。
そんな彼が、たった今放送で死亡者として名前を呼ばれてしまった。
「…正直驚いていますよ。あなたが死んで……これほど何も感じないなんて」
チェレンの死を知ってトウヤが胸に抱いたものは、驚きだった。
しかしそれは、チェレンが死んだことに対してではない。
彼の死に、何の感慨も感じない自分に対してだ。
正直、自分はもう少し情のある人間だと思っていた。
チェレンとはもう既にライバルと呼べるような関係性ではなくなってしまったが、それでも同じ町で過ごした友であるし、身近な人間が死ねばさすがに悲しみは湧いてくるだろうと、そう思っていた。
しかし、トウヤの胸に宿ったのは「死んだのか」という事実認識だけであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「まあ、死んだ人間をいつまでも気にしても仕方ありません。それよりも…」
チェレンのことをあっさりと頭の隅に追いやったトウヤは、改めて名簿を見る。
死亡者の発表がされる前にざっと目を通した時、気になる名前があったのだ。
ベルやゲーチスというどうでもいい名前を流し読みしつつ、トウヤはその名前を見つける。
「レッド…まさか、あの伝説のトレーナー?」
強いトレーナーを求めるトウヤは、他の地方のトレーナーについてもリサーチしていた。
その中で、カントー地方のマサラタウン出身のトレーナー、レッドの存在を見つけた。
幼馴染と同時に旅立ち、カントーの各地のジムを制覇する傍らで、ロケット団と呼ばれるマフィア組織を潰していき、最終的に解散に追い込んだというその経歴は、どことなく自分と重なった。
とはいえレッドについては行方が知れず、詳しいこともあまり調べられなかった。
しかしそんな情報の少ない中で、ある噂がトウヤの興味を引いた。
それは…彼のエースポケモンがピカチュウだというのだ。
その噂を聞いたとき、トウヤはまさかと思った。
伝説とまで呼ばれるトレーナーのエースが、ライチュウに進化させてないピカチュウなど、ポケモンの育成のセオリーからすればあり得なかった。
ポケモンは基本的に、進化させたほうが強いし成長の幅も大きくなる。
初心者でも分かる常識だ。
もっとも、技を覚えるのが遅くなるというデメリットがあり、特にピカチュウのような石で進化するポケモンは進化させてしまうとほとんど技を覚えないのでタイミングを見極める必要はあるが。
しかし、噂のレッドのピカチュウが技を覚えきらないほど育ってないとは思えない。
もし噂通りエースなのだとしたら、なぜレッドは進化させないのだろうか。
「進化といえば…そういえば以前ベルと話をしたことがあったな」
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それは、4番道路にてベルとバトルをした後のこと。
バトルを終えたトウヤとベルは、雑談に花を咲かせていた。
「ベルのミジュマル、フタチマルに進化したんだね。おめでとう」
「うん…ありがとう…」
バトルの中でベルのパートナー、ミジュマルが進化したことを知ったトウヤは、ベルを祝福する。
しかし、ベルの方はというと少し元気がなかった。
「どうしたの?進化して嬉しくないの?」
「そんなことはないよ…ラッコくん(ニックネーム)が成長してくれて、かっこよくなってくれたのは嬉しいよ…でも」
「でも?」
「…ねえトウヤ、君はツタージャが進化した時、寂しいって思わなかった?」
「寂しい?」
ベルの言葉にトウヤは首をかしげる。
ベルよりも先に、トウヤはツタージャをジャノビーに進化させていた。
進化をした時は、単純に嬉しさしかなかったものだが。
「あたしはね…寂しいなって、ちょっと思ったんだ。最初から一緒にいて、愛着のある子が、ある日突然姿を変えて…」
「…ごめん、よく分からないや」
「そっか…」
「…でもさ、成長するっていうのは、そういうものなんじゃないかな?」
「え?」
「ベル、僕はね、成長するってのは、変わることだって思うんだ。ポケモンも人間も…いつまでも同じじゃいられないし、子供のままじゃいられない」
「子供のままじゃ…いられない」
「だけど、どれだけ成長したってベルはベルだし、フタチマル…いや、ラッコくんはラッコくんだよ」
「…ありがとう、トウヤ。そうだよね…変わることを怖がってちゃ…だめだよね」
「ちなみにトウヤ、あたしが成長したら、どんな風になってると思う?」
「え、ベルが?うーん…眼鏡をかけた知的美人、だったりして」
「えぇ!?そんなの全然想像つかないよぉ」
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「愛着、か…」
昔のことを思い出しながら、トウヤはベルがあの時言っていた「愛着」という言葉に着目した。
レッドも、愛着があってピカチュウを進化させないのだろうか。
「いや、まさか…ね」
しかしトウヤは、一瞬浮かんだその考えを切り捨てた。
伝説のトレーナーとも呼ばれる強者が、そんなセンチメンタルな理由で進化を拒むとも思えない。
そんなベルみたいな考えで進化させていないのだとしたら、興ざめもいいとこだ。
「レッドも気になりますが、彼のパートナーも気になりますね…」
未進化でエースを張るピカチュウ。
その強さがどれほどのものか、興味があった。
名簿のレッドがあのレッドなら、彼のポケモンも支給品に紛れていたりしないだろうか。
欲を言えばそのピカチュウを進化させてみたいとこだが、残念ながら手元にかみなりの石はない。
そこは妥協するしかないだろう。
「あるいは、支給品ではないのかもしれませんね」
そういってトウヤは再び名簿に目を通す。
そこにはピカチュウの名があった。
オノノクスやバイバニラ、ダイケンキが参加者ではなく支給品として配られているのに、彼らと同じポケモンでありながら名簿に名前があるのだ。
もしもこのピカチュウがレッドのピカチュウだとすると、やはり彼のピカチュウは普通のピカチュウとは違う強さを持った、他のポケモンにはないような特別な力を持った存在なのかもしれない。
「まあ、いるかどうかもはっきりしないトレーナーやポケモンについていつまでも考えていても仕方ありませんね」
そういうとトウヤは、レッドやピカチュウへの思考を打ち切った。
ともかく今は、Nの城へ向かう必要がある。
戦闘不能のバイバニラを、回復させなければならないからだ。
「N…彼ともまた戦ってみたいですね」
伝説のポケモンと共に飛び立った青年を思い出す。
自分の世界に閉じこもっていた彼は、伝説のポケモンと共に外へと旅立った。
外の世界を知った彼は、きっとまだまだ強くなるだろう。
チェレンやゲーチスにはない伸びしろを、感じるのだ。
次に会うときはもっと強くなっている…そんな確信が、トウヤにはあった。
「N…レッド。あなたたちとのバトル、楽しみにしています。どうか生きていてくださいね」
N、レッド、ピカチュウ。
強き者たちとの邂逅の可能性に、虚無に包まれた彼の心は、ほんの少し晴れていた。
【E-3/草原/一日目 朝】
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:虚無感(僅かに回復) 疲労(小) 帽子に穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、モンスターボール(バイバニラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト カラのモンスターボール カイムの剣@ドラッグ・オン・ドラグーン、 煙草@METAL GEAR SOLID 2 スーパーリング@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させる。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。
※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。
【ポケモン状態表】
【オノノクス ♀】
[状態]:HP3/5
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.トウヤに従い、バトルをする。
【バイバニラ ♂】
[状態]:ひんし、左の顔の左目失明
[特性]:アイスボディ
[持ち物]:なし
[わざ]:ふぶき、ラスターカノン、とける、ひかりのかべ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.……。
最終更新:2021年01月19日 00:07