(セーニャ…シルビア……それにベロニカ!?)

カームの街から南下し、E-2の橋を渡っている途中で、マルティナとミリーナは放送を聞くことになった。
放送が終わり、名簿を確認したマルティナは、知った名の多さに頭を抱える。
ウルノーガが関わっている時点で、予想できてはいたが…まさか死んだベロニカの名前まであるとは。
とりあえず、ロウの名前がないことには安堵した。
しかし、ベロニカの名前があるのはどういうことだろう。
部下のホメロスはともかく、ウルノーガにとっては敵である彼女を復活させる理由などないように思うが…

(グレイグ…)

唯一知っている者で呼ばれた名前が彼であることに、悲しみと同時にどこか納得を覚えていた。
彼はデルカダールの、そして勇者の盾であった。
本当は人一倍繊細なのに、自分が傷つくのを厭わない。
自分の命すら、捨てることになろうとも前に出て、盾となる。
そんな彼にとって、殺し合いという舞台は…生き残るには厳しい場所だったのだろう。

「知り合いの名前があったの?」

声をかけられ、顔をあげる。
そこにいたのは、黒衣の女性。
現在の、同行者だ。

「…そういえば、一つ訂正しておかないといけないことがあったわ」
「なにかしら?」
「私とあなたは殺しの為に同盟を組んだけれど、私の目的はとある人を守ること。だから『彼』と合流した時点で同盟は解消。それと仲間には手を出さないで」

マルティナの言葉に、黒衣の女性―ミリーナは一瞬驚いた表情となった後、なにかを考えこんだ様子で俯いた。
そして、やがて顔をあげると言った。


「一応聞くけど、もし断ったらどうなるのかしら?」
「同盟をこの場で解消して、あなたを殺すわ」
「…一つ忠告しておくわ」
「忠告?」
「あなたは、ほかの人間を殺してでもその『彼』を守りたいんでしょう?それなら…『彼』以外の仲間を例外とするべきではないわ」
「…彼らはずっと旅してきた仲間よ。彼らなら、信用できる」
「甘いわね」

マルティナの反論に、ミリーナはノータイムでピシャリと言い放つ。
彼女が言うことが分かっていたかのように。

「さっきの放送で、カエルという参加者についてマナが言ったこと、覚えてるかしら?」
「え、ええ…仲間に殺されたって言ってたかしら」
「そう…それがこの場所の現実よ」

ミリーナの言葉に、マルティナは言葉に詰まる。
確かにミリーナの言葉は一理あるのかもしれない。
だけど…それでも私は仲間を…

「仲間を信じてる、だから殺さない…とでも言いたいのかしら?」
「!?」
「その考えは甘いわ。現にあなたが殺し合いに乗っているのに、他の人はそうじゃないとどうして言えるの?」
「それは…でも……!」

分かってる。
分かってはいるのだ。
自分の考えが甘いことは。
イレブン以外の参加者は例外なく全員殺すと決めたのに、殺し合いに乗っていなかったソニックを襲ったのに、元の世界の仲間は見逃すなど、道理が通らない。
だが…仮に彼らに出会ったとして、自分に彼らを殺せるのか?

(ああそっか。信用できるとか信じてるとかじゃない…私の覚悟が足りないから、逃げてるだけなんだ)


実際に仲間に出会ったとき、殺せる気がしない。
だから信用できるとか信じてるとか、都合のいい理屈を持ち出して日和っているのだ。
これじゃあ…だめだ。

「…ごめんなさい、マルティナ」

と、そんなことを考えていると、突然ミリーナが謝ってきた。

「少しイライラしてたみたい。仲間を殺すなんてこと…そう簡単に決意できるわけないのに」
「いえ、そんなことは…」
「とりあえず、『彼』については…もしその人と出会ったときは私たちは解散。次に会った時はあなたも、その人も殺す」
「次なんてないわ。その時はその場であなたを殺す」

マルティナとミリーナとの間に、一瞬火花が飛び散り緊張が走った。
しかしすぐに緊張を解いて切り替えると、ミリーナはいった。

「他の仲間については、とりあえずあなたの中で結論が出るまで保留とするわ。ただ…なにもかも守ろうなんて、甘い考えだってことは言っておくわ」
「そういえば聞いてなかったけど、あなたは仲間や知り合いは呼ばれてないの?」
「…1人だけ、いた」
「『いた』ってことはつまり…」

放送で呼ばれた、ということだろう。
つまり、この殺し合いの舞台に彼女の知り合いはもういない。
彼女は、自分と違って殺さずにすむのだ。


そんなマルティナの考えは、しかしミリーナの次の一言で吹き飛んだ。

「ええ、死んだわ。数時間前、私に殺されてね」
「!?」
「さあ、そろそろ行きましょ」

無表情でそう言うミリーナを、マルティナは打ちのめされたような表情で見つめる。

「ま、待って!」
「どうしたの?」
「あなたは…どうして優勝を目指すの?」

気が付けば、思わずそんなことを聞いていた。
聞かずにはいられなかった。
いったい何が彼女を動かすのか。
仲間を殺してでも優勝を目指す理由はなんなのか。
マルティナの問いに、ミリーナはやはり無表情で答えた。

「あなたと同じよ。元の世界にいる大切な『彼』を救うため。守るために戦うのよ」
「私と…同じ」

違う。
彼女は、自分とは違う。
願い自体は似ているのに、同じなのに、全然違う。
自分と違って…既に覚悟ができている。

(悔しい…)

自分と、同じ願いを持っているはずなのに。
それなのに彼女は、自分よりずっと先へと進んでいる。
それが、とても悔しい。

(私も…私だって……!)

毒を以て毒を制す。
彼女、マルティナのやろうとしていることはまさにこの言葉の通りである。

毒(ミリーナ)を以て毒(他参加者)を制す。
ミリーナという毒は、彼女の精神を蝕んでいた。


(上手く焚きつけられた、かしら)

マルティナの様子をみながら、ミリーナは考える。
彼女のスタンスが優勝ではなく、特定の参加者の守護だったのは、誤算だった。
しかも、仲間という例外を作ってしまっている。
ミリーナだって春香と出会ったときは躊躇してしまったから気持ちは分かるが、彼女には自分と同じところまで堕ちてもらわないといけない。
だから、話の流れの中で春香殺害の事や自分の目的が彼女と似ていることを漏らした。
自分と同じような目的で殺し合いに乗った者が、既に仲間殺しを実現しているという話を聞いて、焦りや対抗心を抱いてくれることを期待してだ。


(それにしても、本当に似てるわ)

マルティナの目的を知ったミリーナは、思う。
その『彼』-イレブンとの関係までは知らないが、彼女もまた大切な人を守るために戦っているのだ。
違いがあるとすれば…彼女の守るべき人はイクスと違いこの殺し合いに呼ばれているということ。
鏡の中に閉じ込められたイクスと違って、手を伸ばせば届く場所に、触れられる場所にいるのだ。

(羨ましい…な)

他の仲間はともかく、イレブンのことについては、止めるのは難しいだろうと諦めた。
大切な人を修羅の道を進んででも守ろうとするその気持ちは、痛いほどに分かるから。
だからといって、手心を加える気はないが。

(とりあえず、そのイレブンって人以外の仲間とは、遭遇したいとこね。その人たちを…マルティナに殺させる)

それは、マルティナに仲間殺しの決意を促すというのもあるが、もう一つ思惑がある。
マルティナはイレブンと出会った時点で同盟を解消すると言っていた。
しかし、実際に人を殺してしまえば、合流することに心理的抵抗を覚えるだろう。
それが仲間の命であれば、なおさらだ。
もしマルティナの方に躊躇がなかったとしても、イレブンの方が拒絶する可能性もある。
そこを、突くのだ。

それと、もう一つ。
この計画は、マルティナにも話しておく必要がある。

「あ、そうだマルティナ」
「どうしたの」
「名簿をじっくりと見て気づいたんだけど…さっき知り合いは一人って言ったけど、その知り合いの友人の名前があったの」

如月千早、星井美希、萩原雪歩、四条貴音。
いずれも、春香から同じアイドル事務所の仲間だと聞いていた。

「知り合いの知り合いってこと?それがどうしたの?」
「彼女たちはみんな戦う力を持たないはずなの。だから…彼女たちのうち一人を、人質として確保しようと思うわ」
「…あなた、考えることがエグいわね」
「勿論、戦う力を持ってなければ彼女たち以外でも構わないんだけど…彼女たちなら、私が春香の知り合いってことで、彼女たちやその同行者の油断を誘えると思うの」
「その油断を突いて、確保するってことね。分かったわ」

ミリーナの提案を、マルティナは了承する。
本音としてはこれ以上同行者を増やしたくない…とも思うのだが、ミリーナの言う通り、人質を確保しておいた方が効率はよさそうではある。
あのソニックのスピードだって、人質がいればゼロにすることが可能かもしれないのだ。
そう考えれば、悪くない。

「そろそろ行きましょう」
「ええ」

話を終えた二人は、再び橋を南下し始めた。
それぞれの大切な人を守るために。


【E-2/橋上/一日目 朝】

【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康 カイムへの若干の恐怖
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ  プロテクトメット
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す
2.春香の友人や、その他の非戦闘員の中から一人、人質を確保する。
3.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる


※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)  腹部に打撲
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1~0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間も、殺す?


※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。

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076:そして、戦いは続く(前編) 時系列順 078:チョッカクスイチョク
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058:殺意の三角形(前編) マルティナ 092:夢追い人の────(前編)
ミリーナ・ヴァイス

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最終更新:2022年06月13日 12:16