【被告人:クロノ】

「くそっ……!ㅤ俺が一体、何をやったって言うんだよッ!」

ㅤこの裁判に証拠はない。敢えて提出する者がいないからだ。

【原告側:ダルケル】

「姫さんから聞いたぜ。お前が……グレイグって奴を殺して姫さんも殺そうとしていたってな!」

ㅤこの裁判に証人はいない。それと成りうる者の全員が、その命を失っているからだ。

「俺じゃねえ!ㅤグレイグを殺したのはゼルダだ!」

ㅤそれでも己の無罪を貫き通す覚悟があるのなら。

「姫さんがンなこと……するわけねえだろうがッ!」

ㅤそれでも相手の有罪を判ずる信念があるのなら。

ㅤ古来より、用いられてきた手段はただ一つ――決闘である。客観的要素によって判示することができない事例の判決を、両当事者の戦いに委ねる儀式。

ㅤこの決闘の立会人となるのは他でもない、あなたたちだ。どうか、見届けてほしい。彼らの覚悟を。彼らの信念を。


ㅤクロノが手にするのは『白き加護』の力によってその本領を発揮する太刀、白の約定。対するダルケルは、本来は両手に抱えるべき武器である鉄塊を、自慢の腕力に任せて片手で振り回す。両者ともに、攻撃力は十二分に宿している。

ㅤ同時に、彼らがもう一方の腕に備えるのは同じ世界で造られた盾。片や、物理攻撃に対する堅固さに特化した『ハイリアの盾』。片や、厄災に乗っ取られ人々の脅威と化した古代兵器との戦いに特化した『古代兵装・盾』。両者ともに、防御力もまた申し分無い。

ㅤそしてこの戦いを白熱させるのは、武具の強力さに違わぬ実力を持つ二人だ。一瞬の隙が致命傷に繋がり得る攻防一体の戦闘を、何度も何度も繰り広げる。

「俺とグレイグは、森でゼルダを助けたんだ。だというのに、アイツは……」

「姫さんを知らない奴なら騙せていたかもしれねえが、俺はそうはいかねえぜ。」

ㅤ対話については、まさに取り付く島もないという様子だ。ダルケルの中のクロノ像は、自身を騙そうとする殺人者でしかない。対立する二人の主張が食い違うのなら、信頼に値する者を無条件に信じるのはダルケルに限らず人の性だ。

ㅤそれなら、無力化した上で話を聞かせる。この上なく単純な方針をクロノは定める。生殺与奪を握った上で対話を仕掛けるのは、殺意がないことのこの上ない証明であり、一定の信頼を得られるだろう。


ㅤしかし何にせよ、どの道ダルケルに勝たないことには始まらない。そしてそれは、容易ではないとこの応酬が示している。半端な攻撃は両者の持つ盾が吸収するのだ。

「うらぁ!」

「うおっ!」

ㅤダルケルのフルスイングを回避。速さではクロノが優っている。だが、ダルケルが攻めと守りの両面で微かに優位にあるため、クロノも攻めあぐねている状態だ。

(あの盾が厄介だな……。)

ㅤクロノは思考する。守りの強固な敵はまずは守りを剥がす――強敵と戦う時の鉄則だ。かのラヴォスも、外殻を破壊せずには本体であるコアの下にはたどり着けなかった。世界は変われど、戦いの本質は得てして変わらない。

「何をボーッとしてやがる!」

「っ!」

ㅤしかし、クロノがダルケルの盾を破る方針を打ち立てるより先に、ダルケルはクロノの持つ盾の脅威を認識していた。ハイラルの盾の堅牢さを、ダルケルは知っている。その排除に乗り出すのもダルケルが一瞬、早かった。

ㅤ回避されるのも覚悟の上の大振りの一撃。しかし盾への対処の思考に追われていたクロノは回避ができず、身につけたハイラルの盾で受ける。当然、普段は盾を使わないクロノにジャストガードの技術などなく、かのハイラルの盾越しでも左腕に衝撃が走り、着実にクロノの体にダメージを蓄積させていく。

(くっ……やはり、強い……!)

ㅤ大きな体躯をしたダルケルの攻撃がただの質量の暴力であれば、ラヴォスに遠く及ばない。だがダルケルは鉄塊を時に振り下ろし、時にぶん回し、時に突く。単純な攻防を単調でなくする様々な技術を駆使してクロノの逃げ道を無くしていく。『英傑』を名乗るのは決して名ばかりではないのだと、クロノは実感する。

(それでも……負けてたまるか!)

ㅤしかし、クロノもまた『英雄』と呼ばれた――否、"呼ばせた"男である。王女誘拐の冤罪をさらなる功績で塗り潰し、身分の違うマールとの結婚を大々的に認めさせるために。

ㅤ世界の脅威の排除が称号に先んじているという点で、クロノとダルケルは大きく異なっている。少なくとも、クロノは世界の敵に勝利したのだ。その経験値の差は、僅かに、されど確実に戦局に影響を与える。

「はぁっ!」

「なッ!?」

ㅤ続くダルケルの一撃が繰り出されるまでの一瞬の間を付いた一閃。古代兵器を討つために造られた盾は、遥か遠い未来の武器によって弾き飛ばされる。

「くッ……!」

ㅤ咄嗟に鉄塊をぶん回して乱れ斬りへの接続を防ぐダルケル。だが不運にも、吹き飛ばされた盾は城の周囲に張り巡らされた怨念の沼に落ち、回収が不可能となった。

「それはグレイグが使っていた盾だ。お前が使っていいものじゃない。」

「ああ。グレイグって奴から姫さんに託され、俺が受け継いだ大切な盾だ。なのに、使えなくしちまうなんてヨォ……」

ㅤ盾を先に突破したことにより、戦いの流れは間違いなくクロノの側に傾いている。

「……まったく情けねえぜ、ちくしょう。」

ㅤしかし、盾を使わないのはダルケル本来の戦闘スタイルだ。両腕で振るう鉄塊はより速度を増し、それに比例して破壊力も大きくなる。さらには、今の一撃でクロノの実力をダルケルはハッキリ認識した。生き残ってゼルダを護るために防御を優先するのではなく、刺し違えてでも倒さなくてはならないと意識をシフトした。


ㅤ両腕で鉄塊を振り回してのの攻撃――まさしく捨て身とも取れる特攻。クロノの剣術ならばカウンターを叩き込むのも不可能ではないが、リスクが高い上に、相手の勢いを利用する以上手加減ができず殺しかねない。

「サンダガ!!」

ㅤしたがって、直接の応酬を避ける選択肢を取るクロノ。ダルケルの進む先の足場に牽制のごとく雷を降らせる。それを受け、電気を通す金属を所持したままの特攻を辞めるダルケル。

(リンクのような正統派の太刀筋だけでなく、ウルボザのような搦め手まで使えるのかよ……)

ㅤダルケルはその雷から、もうこの世界でも会えなくなったかつての戦友の名が脳裏を掠める。

(ウルボザ……オマエもコイツみてーなヤツに殺されたんだよな?ㅤ俺と違って頭のいいオマエは、騙されて殺られるようなことはねえもんな。)

ㅤ許せねえ。英傑にも引けを取らないだけの実力がありながら、それを他者を傷付けるために行使する奴らが、許せねえ。その犠牲となったであろう亡き戦友を思い返し、ダルケルはさらに決意を重ねた。そして、冷静になった頭で今一度戦局を俯瞰する。

ㅤ魔法を用いて接近戦を拒絶したクロノはダルケルが雷に怯んだ隙に距離を置いている。

ㅤ逆に考えると、応戦を拒否されたということは、それが相手にとって都合が悪い証だ。刺し違えてでも倒すと決意した自分とは違い、クロノは優勝のために自分をなるべく無傷で突破したいのだろう。

ㅤそしてあの雷も、ウルボザのチカラと同質のものならば何度も何度も続けざまに撃ち続けられるようなシロモノではないはず。それならば、攻めるが吉だ。

「ゴロオオオオォッ!」

ㅤそう分析したダルケルは、再び特攻をするために急速接近する。ダルケルほどの巨躯で速度を確保するためのその手段とは――回転。その身を丸め、大地を転がって一気に前進する。

「ッ!」

ㅤカエルの舌に、ロボのロケットアーム。人間の常識を優に超えた接近手段はこれまでの仲間たちから見慣れているクロノも、その人間離れした移動方法に面食らわざるを得ない。サンダガを詠唱する間もなく、射程内への接近を許してしまう。

「がァッ!」

ㅤ元の剛腕に合わせて勢いまで 付いたその一撃を半端な攻撃で迎撃できるはずもなく、クロノが選び取った行動は再び、盾を前方に構えての防御。予定調和とばかりに振り下ろされた鉄塊は、それがハイラルの盾でなければ即座に盾ごと粉砕されていたであろう強打となってクロノを襲う。

ㅤ盾越しにクロノを今までで最も大きな衝撃が襲うも――やはり真なる英傑が果てしない冒険の果てに掴み取るに相応しい、最強の盾だった。ダルケルの渾身の一撃の大部分が軽減されたのだ。普段は盾を使わないダルケルは、ハイラルの盾の強固さを知識として知ってこそいれど、ここまでであるとは思っていなかった。

「ちっ……!」

「いい加減に……」

ㅤ皮肉にも、ゼルダに騙されたことで手に入れた盾が、クロノを護ったこととなった。その事実にクロノは僅かに苛立ちを覚え、顔をしかめる。そんな彼の視界に映るのは、大振りの攻撃を防いだことで大きく隙が生まれたダルケルの姿。

「……しろよッ!」

「ぐおっ!」

ㅤクロノは太刀に風の刃を纏わせて薙ぎ払う。それをまともに受けたダルケルは吹き飛ばされ、ハイラル城の城門にその身を打ち付ける。

「はぁ……はぁ……」

ㅤクロノの放った『かまいたち』は、ダルケルほどの実力者を殺す威力はない。立ち上がってくることは分かっている。


「……なァ、赤髪の兄ちゃん。」

(はぁ……それでもコイツ……さすがにタフすぎんだろ……。)

ㅤクロノの想像以上に、ダルケルはその身に受けたダメージを意に介していないようだった。

「アンタ、そんなに強いのにヨォ……何で人殺しなんかに手を染めたんだ。」

ㅤしかし、クロノにとっては悪くない状況だ。まだ決着こそ付いていないが、両者ともに戦闘への疲れが見えてきた頃合――そんな状況下でようやく訪れた、僅かな対話の余地。

「俺はやってねぇ……アンタ、ゼルダの奴に騙されてんだよ。」

ㅤクロノからすれば、それは謂れの無い非難でしかない。そう言い返すのは当然であり、ダルケルもまたそれを素直に聞き入れるはずがない。

「そんなハズがねえ!」

「どうしてそう言いきれる!」

「だってヨォ……姫さんは……姫さんは……」

ㅤここで、どちらも白を主張し、泥沼化するかと思われた話し合いは、思わぬ展開を見せることとなる。続くダルケルの言葉に、ぴくりとクロノの眉が動いた。

「……逃げなかったんだ。」

ㅤゼルダの人物像なんてこの際何も関係がないはずであるのに、クロノはその続きを聞かずにはいられなかった。

「姫の責務に追われようと、心無い奴らに無才と罵られようと、逃げなかったんだ。何でだと思う?」

「……知らねぇよ。」

「……姫さんは……国の皆が……ハイラルの民が大好きだから……だから逃げなかったんだ!ㅤ周りを息巻く環境がどれだけ息苦しくても最後まで諦めずに、あの小さい背中に背負った責務を全うしたんだ!ㅤそんな姫さんが……一体、誰を殺したって言うんだオメェは!?」

ㅤダルケルのその気迫は、語る言葉に一切の謀を含まぬ真実であると物語っている。ゼルダがどれほど偉大な人物で、彼女の世界に必要な存在なのかはクロノに対して十分に伝達された。

ㅤしかし、だとしても聞くに値しない理屈だ。ゼルダがどう評価されている人物であっても、彼女がグレイグを殺し、今なお彼女のせいで自分がダルケルと殺し合っている現状を甘受できる道理は無いのだから。


「……逃げなかったら、偉いのかよ。」

ㅤそして――それとは別に、クロノは彼女の生き様を肯定してはならないのだ。それは自らの矜恃、そしてマールとの出会いに、真っ向から反する在り方だったから――

「生まれつきの運命だったら、はいそうですかと受け入れるのが美徳なのかよ……!」

ㅤダルケルにとっては、耳を貸す意義もない言葉だった。ゼルダの役目がハイラルの平和にどれだけ貢献するのか、それを果たせないことに対し、本人も周りもどれだけ痛ましく思っていたのか、それら一切を知らないクロノだからこそ言えてしまう残酷な言葉だ。

「うるせぇッ!」

ㅤだが、ダルケルには少なからず自覚があった。神獣の操作を早々に習得し、与えられた役目を充分に果たしていた自分たち英傑の存在は、少なからずゼルダを追い詰めていたと。誰が悪いというものでもない。だが、100年間、心の端にずっと引っかかっていた何かを刺激したクロノに対し、言い返さずにはいられない。

「オメェが奪った命もな……生きていたかったんだ!」

ㅤダルケルはグレイグを知らない。だが、ゼルダを逃がしてクロノに一人立ち向かった騎士であるとは聞いている。そんな忠義心の塊のような彼は、この世界に別の仲間を残し退場するハメになったことが、きっと無念であったに違いない。神獣の中に取り残され、炎のカースガノンに破れ散り行くこととなった、かつての己を想起する。姫さんも、他の英傑もまだ戦っているというのに、自分だけがその戦場を去らねばならぬ屈辱。その時の想いを脳内に反芻させ、歯を食いしばったまま再びクロノに向かって走る。

『――この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって!』

ㅤそして――ダルケルの、己の屈辱と共にグレイグについて言い放った言葉は偶然にも、クロノには放送で聞いたマールの最期と重ね合わされた。ただでさえ無実の罪を被せられているこの状況下。マールの死まで、自分の所為として被せられたような心持ちにさせられて。

「――罪に汚れた口で、姫さんの生き方を否定すんじゃねえッ!」

「――ッ!ㅤ黙れええぇぇッ!」

ㅤクロノの心の奥に、今までずっと差していた黒い影が、そっと浮かび上がった。

「これ以上……俺たちの旅路を……マールの生きた証を……否定、すんなああああッ!!」

ㅤ朝の光に照らされながら、ふたつの影が交錯する。

ㅤこの時、クロノの、愛する者の喪失をこの上なく痛感しながら振るった刃は、宿る白き加護によりいっそう練磨され――




「へっ……本性、現しやがったな。」



――そしてそれ故に、ダルケルには一切通用しなかった。


『ダルケルの護り』


ㅤクロノの放った全身全霊の一撃は、ダルケルの身体にかすり傷ひとつ付けることなく弾かれた。

(なん……だ……これ……身体が……動かねえッ!)

ㅤそもそも、ダルケルに盾など必要なかったのだ。彼の身は瞬間的に、ハイラルの盾とて超える最強の鎧を纏うことができるのだから。

ㅤしかし、今の今までダルケルの心の底にはひとつの疑問があった。

――何故、クロノは命を取りに来ない?

ㅤ盾を弾いた時の一撃も、サンダガを牽制にしか用いなかった時もそうだ。クロノはダルケルの命を直接狙うような攻撃を一切仕掛けてこなかった。そのため、ダルケルの護りを使うかどうか、判断に迷わされる局面ばかりだった。

ㅤ実際に見たクロノは、ゼルダの語ったクロノの人物像とどこか一致しない。このまま戦いを続けるのは、本当に正しいのか?

ㅤそれは外れていて欲しいと願わずにはいられない直感だった。クロノが無罪であるということは、グレイグを殺したのはゼルダであるという、クロノの主張が通ることと等しい。

ㅤだが、今の一撃に込められていたのは紛うことなき殺意であった。それはある意味では待ち構えていた一撃。クロノが殺しにかかってくれるだけで、ダルケルにとってはゼルダの無罪を心から信じるに足るのだ。

ㅤそして――もはやダルケルに、クロノを皆の驚異と見なし排除することに躊躇いは無い。和解の余地を僅かに残していた決闘は今、紛うことなき殺し合いと化したのである。


『――■■。』


ㅤ反動でその場で硬直したクロノに、返しの鉄塊が叩き付けられる。重力を味方に付けた鉄の塊をまともに受けては、星の英雄たるクロノも無事では済まない。視界が大きくぐらりと揺れ動き、滲む血の色に染まっていく。


『――■■。』


ㅤダルケルの護りの反動が消えても、痛みで身体が動かない。腕の力が抜け、白の約定をその場に落としてしまう。クロノを無力化できるこの上ないタイミングであるにも関わらず――ダルケルはもはや止まれなかった。クロノの本気の殺意を認識してしまったから。ダルケルの護りを持つ自分でなければ、まず死んでいたであろう一撃――それがゼルダや、他の仲間たちに向けられるかもしれないのを黙認することはできなかった。クロノを殺す覚悟を決め、鉄塊を大きく振りかざす。


『――■■。』


ㅤ俺が何をしたんだよ――そんな気持ちは、とっくにクロノの中から消えていた。多分、こういうのよくある事なんだろ。宿命やら仇やらが誤解に始まって、最終的に後戻りできないくらいに拗れてしまうことなんて。ラヴォスの復活を巡って人類と長らく争ってきたあの魔王が。最終的にカエルと化した勇者によって討たれたあの人類の敵が。実は俺と同じように、愛する人のためにラヴォスの復活を阻止しようとしていたなんてさ、今さら誰が信じるよ?


『――■■。』


ㅤ結局、誤解の余地を大いに残した俺は英雄の器じゃなかったってことだ。そもそも英雄になりたかったのも、マールに釣り合う身分になりたかったからで、だけどもうマールはいない。幸せな夢は終わったんだ。それならもう、今さら英雄になんてならなくたっていいじゃないか。


『――■■。』


ㅤそう――これは、幾つもある物語の結末の中の、たったひとつ。


『――■罪。』


――なぁ、それでいいだろ?


『――有罪。』













「――いいわけ、ねぇだろ。」

ㅤ突如、クロノの目に光が点る。怒りや悲しみに任せて戦っていた先ほどまでとはどこか違う、吹っ切れたようにその目は澄んでいて。

ㅤその突然の変貌に驚愕するダルケルの方へと向き直り。

「悪ぃな。」

ㅤそして一言、呟いた。

「俺はもう、自由にやらせてもらうよ。」



『――シャイニング』



ㅤ辺り一面を、神々しく煌めく極光が包み込んだ。




ㅤ終わりを覚悟した瞬間、走馬灯というものがクロノの脳内を駆け巡った。



ㅤ千年祭で、マールと出会った時。今思えば、あれが全ての始まりだったんだよな。

ㅤ中世で、マールの姿が突然消えてしまった時。情けねえことに俺、パニックになっちまった。ルッカがいなかったら、何が起こったのかも分からずじまいだっただろうな。

ㅤ未来の世界で、星の滅亡の運命を変えようと、マールが言い出した時。あの時からだっけ、英雄ってもんを目指し始めたのは。マールと生きるべき世界で俺は王女誘拐の大罪人。そのくらいしねえと、誰も王家との結婚なんざ認めてくれねえよ。

ㅤそれからも、太古の世界、古代文明の世界、色々な所の記憶を垣間見て行った。楽しい記憶も悲しい記憶も、どっちが多いとかじゃねえ。どっちもたくさん入り交じっていたけどさ。

――全部、そこにはマールがいたんだ。

ㅤいつか、ロボが言ってた。走馬灯ってのは、『あの時にもどりたい』、『あの時ああしていれば』という、強い想いの現れだって。マールを失った俺は、後悔していたんだ。どうすれば、この結末を避けられていたのか、そればっかり考えていたんだ。

ㅤでも、俺は知ってるはずさ。結末なんて、過去も未来も問わず、如何様にも変えられるってことを。実際に俺、1回死んだことあるんだぜ?ㅤでも今はこうやって、ちゃんと生きてる。だからマールのことだって、まだ諦めるには早い。やれることを全部やってからじゃねえと、終わるにも終わり切れねえよ。

ㅤだから、さ。


「いいよ、掴んでやるよ。優勝者に与えられる、"願い"ってやつを。」

ㅤそれは、修羅の道だ。されど、マールと再び会える可能性が僅かにでも残された希望の道でもある。

「ぐっ……!ㅤ待て……!ㅤやっ……ぱり……オメェ……が……グレイグって……奴を……!」

ㅤその時足元では、ダルケルの護りを使う暇もなくシャイニングの閃光に焼かれたダルケルが、クロノに向けて手を伸ばしていた。

ㅤ心の奥底に潜んでいたクロノの影をその目に焼き付けたダルケルは、クロノへの誤解がもはや確信へと変わっていた。そして、僅かにでもゼルダを疑ってしまったことを恥じ、後悔した。

「ああ、俺が殺した。」

ㅤそんな様々な感情が入り交じるダルケルの想いを悟ったクロノは、吐き捨てる。今さら過去の冤罪のことなんざ、どうだっていいよ。

ㅤそれよりもコイツは俺に、俺の本当に大切なものを気付かせてくれた。

――せめて、信念だけは間違っていなかったと、そう思いながら逝ってくれ。

「ちく……しょ……」

ㅤ拾い上げた白の約定で、ダルケルの身体を両断する。自分の決意を確かめるように。時を遡ろうとも消えない罪を、己の手に刻み付けるように。

ㅤこうして、在る英雄を巡る決闘裁判は幕を閉じた。判決は、無罪。しかし、ひとつの罪がその身に刻まれることとなる。

ㅤ罪も悪も受け入れて、ある英雄の、新たな夢が始まる。

【ダルケル@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り50名】

【A-4/ハイラル城 入口一日目 午前】

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。


※ダルケルの持っていた支給品は、シャイニングにより焼失しました。

※周囲の怨念の沼の中に、古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドが落ちているかもしれません。



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069:夢の終わりし時 クロノ 103:それは最後の役目なのか
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最終更新:2021年06月20日 17:34