空は、今までに起きた惨劇が嘘であるかのように穏やかだった。
雲一つなく、元の世界の様に太陽が輝いている。
いや、ガノンが蘇って瘴気に包まれた元の世界の方が悍ましい空の色をしていた。
ただ風が鳴き、知らない生き物が空を舞う姿がたびたび目に入る。
それを綺麗だと思わない。苛立たしいとも思わない。
何も思わず、ただ胸の内にある感情を放し飼いにして眺めるのみだった。
レッドがいなくなり、少し空の色が変わり、どれほど経ったのかは分からない。
飽きたという訳ではないが、空を見る気も次第に失せてきて、リーバルはつい数刻前殺した主の姿を見る。
その顔は、憑き物が落ちたかのように安らかだった。
心臓と肩に刺さっている矢を見なければ、まるで眠っているかのように見えた。
既に命を手放したゼルダの表情からは、戦っていた時の刺々しさも、この世界に呼ばれる前に見せていた不安も消えていた。
彼女は、最期の最期で解放されていた。
元の世界で長きに渡り付き纏われていたハイラルの姫としての義務から。そして、この世界で短い間だが深く心に巣くっていた誰かを殺さないといけないという義務から。
少なくともかつての英傑だったリーバルはそう解釈した。
それからすぐのことだった。
ハイラル城の方角から、強い光が放たれた。
その光は、城で戦っているクロノとダルケルの戦いによって起こされたものだと、彼自身にも容易に分かった。
そして、ダルケルは遠くまでいても見えるほど強い光を起こせる魔力を持っていない。
従って、その戦いは極めてダルケルの旗色が悪いということだ。
しかし、彼自身は助けに行かなかった。
自分達の守り手に良いように利用された仲間のことさえ、最早どうでも良かった。
この戦いが始まってから9時間と少し、彼には守れなかった者が多すぎた。
言ってしまえば、彼は疲れ切ってしまったのだ。
それからしばらくして、赤髪の青年が城の方から走ってきた。
彼は自分より、少し離れた場所にいた姫の亡骸に驚いていた。
「無駄だよ。僕が殺した。彼女はもう動かない。」
言葉をかけても、表情が読めないものから読めないものへ変わるだけだった。
自分を陥れた者への復讐心が、行き場を失ったやるせなさか。
はたまた、先程まで生きていた者が少し目を離した間に死んだことへの事実への驚愕か。
「アンタは……。」
ようやく青年は言葉を紡いだ。
「ボクはリーバル。姫を守る英傑だったリト族さ。うちの姫さんが、迷惑かけたようだね。」
「そのことはもういいんだ……アンタまで背負う必要はないさ。」
軽い言葉で気にするなと受け流される。
だがその言葉に人を励ますための明るさなどは一切含まれていなかった。
短い返答が終わると、クロノは剣を抜いた。
その僅かな動作で気付いた。
もう、この男は自分と同じで「諦めた」のだと。
否。自分と同じで「全てを」諦めたのではない。
ただ、英雄として道を貫くことを諦めただけ。
言ってしまえば、ゼルダと同じ。
悪意に振り回され、義務感に振り回され、挙句の果てに拠り所を無くし、この男もそうするしかなくなったのだろう。
だが、リーバルはまだ言わなければならないことがあった。
ここでクロノにかけなければいけない言葉は、姫が行ったことの謝罪ではない。
「僕は、君の恋人と……マールディアと共にいた。」
「……!」
「彼女はね、僕にも話してくれたよ。クロノという大切な人がきっと助けてくれるってね。」
伽藍の穴でしかなかったクロノの瞳に、一筋の輝きが宿った。
言ってどうするつもりなのかは分からない。何を目的に言うのかさえ分からない。
だが、自分がマールといたという事実だけは、この男に言っておかないとならない気がした。
それは、自分の残り数少ないやれることで、やらなければいけないことだった。
「……マールは、どうして?」
抱いても意味のないはずの恐れを抱きながら、その出来事を語る。
「仲間を庇って怪物に殺された。僕は間に合わなかった。」
「……そうか」
例え死んだとしても、全くの無駄死にではなく、誰かのために命を尽くしたと聞けば、この男にとって少しの救いになるだろうか。
最も、その時彼女によって救われた命もまた、失われたのだが。
「すまない。彼女を君の下に届けられなかったのは僕のせいだ。」
「アンタは悪くない。こんな世界じゃ、仕方ないことだ。たから、俺は好きにさせてもらうことにしたよ。」
クロノは剣を振りかぶる。
リーバルは一点の曇りもないほど輝く剣を見た時、少しだけ安心した。
思ったよりかは早かったが、もうすぐまたあの世で主に仕えることが出来るから。
無為に使い続けた時間を、ようやく終わらせることが出来るから。
別にこの男に殺されることは、さほど怖い事でもない。
既に一度死んだ以上、死とは未知の存在でもないから。
それに何より、諦め切った者が諦め切ってない者を止めようとするなど、ただの贅沢な行為でしかないから。
誰かといても何も出来ないが、一人で何もしないのも持て余すだけで。
それならば、どんな形であれ希望を抱いている者の踏み台になった方が良いと思っていた。
ゼルダを止めようとしても、状況を悪化させただけでしかなかったから、もうこの男に何かする意味はないと思っていた。
クロノは剣を掲げて一歩一歩近づいて。
そして振り下ろした。
弓を引かず、翼を広げることもなく。
ただそのトサカの付いた頭は、静かに刃を受け入れようとする。
それが永遠のように感じ、一瞬のようにも感じた。
これで自分は斬り伏せられ、目の前の男の踏み台になる。
それで終わりにするはずだった。
ただ、最後の最後でリーバルは気づいてしまった。
自分の勘の良さがここまで嫌になった時は無かった。
それでも、気付いた以上は言わざるを得なかった。
「………。」
リーバルは生きていた。
羽1枚欠けることなく、五体満足で。
白銀の剣はリーバルを避け、地面に刺さっていた。
「どうしたんだい!?大切な人を蘇らせるために、僕を殺すんじゃなかったのか?」
「避けたのはアンタだろうが。」
クロノの剣がリーバルに刺さる直前、翼を広げて空へ逃れた。
下からクロノがリーバルを見つめている。
「君さあ、さっき躊躇ったよね?」
その通りだった。
クロノが剣を振り上げてから降ろすまで、動きがぴたりと止まった。
それはほんの一秒あるか無いかのこと。
だが、リーバルが見抜いて躱すには十分すぎる時間だった。
「違う!!」
「違わないさ。曲がりなりにもダルケルを倒せるくらいの剣の腕なら、今の僕なんか一瞬で斬り殺せるはずだ。
『やりたいようにやるだけだ』って言ったね?スジが通って無くない?」
言葉は、さっきまでの消沈した気分が嘘であるかのようにすらすらと出た。
「あくまで自分から殺される気は無いってことか……サンダー!!」
さっきまでは澄んでいたはずの空に黒雲が集まり、雷が襲い掛かる。
だが、空を舞うリーバルにとって、金属製の武具でも付けてない限りは余裕を持って躱せる。
「その程度で僕を殺せると思った?さっきの光の魔法でも使ってみなよ。」
本当は、一思いに殺されるつもりだった。
だが、殺すか殺さないかの葛藤に悩んでいるような相手に殺されるつもりはなかった。
殺したくない気持ちが僅かでも残っているのに、殺さざるを得ないから殺すのは、ゼルダと同じだから。
「そんなものを使うまでもない。サンダガ!!」
今度はドーム状に光が広がり、辺り一面に雷が落ち続ける。
しかしジグザグに飛行を続け、降り注ぐ光の槍を全て躱していく。
「僕は君の親じゃないからね。選択を決める権利なんてないさ。けれど、そんな半端な気持ちで優勝すると思うなんて、愚の骨頂だね。」
そして、そのような気持ちの相手に命を渡すつもりだったら、ベロニカという守らねばならない相手が死んだとき、弓を引く必要はなかった。
同行者の恋人とは言え、昨日今日知り合った相手に命を託すくらいなら、英傑としてゼルダに命を渡すべきだったから。
「僕を殺すのは勝手だけど、殺した相手にウジウジ悩まれるなんて、まっぴらごめんだね。」
そのままクロノがいた場所から飛び去ろうとする。
「待ってくれ!!アンタは……!!」
走り寄ろうとするクロノを翼で拒む。
「殺そうとした相手と話をしようだなんて、随分身勝手だね。これから食べるコッコと話をしようと思ったことはあるかい?」
言葉を全て言い放つと、今度こそリーバルはクロノの下から消えた。
☆
単純な速さと、精神的な足かせ
二重の理由でリーバルを追いかけることが出来ず、クロノは立ち尽くした。
そのまま、白銀の剣を地面に叩きつける。
(俺は……まだ振り切れていねえのか……。)
ダルケルを殺したあの時、気持ちは優勝の方に向いていたはずだった。
だが、リーバルの言う通り、目の前にいた鳥人がゼルダにいいようにされた被害者だと分かると、ほんの一瞬であるが剣を振るのを躊躇ってしまった。
「シャアア!!」
そこへ、先程の雷を聞きつけたのか、紫色の魔物が現れる。
レパルダス、というクロノの知らない世界の魔物だったが、首輪を付けていないので参加者では無いとすぐに分かった。
剣を拾い、襲い掛かってきたその魔物を一刀両断にする。
だが、そのようなことをしても意味がない。
殺すならば、首輪をつけた者を殺すべきだ。
剣をヒュっと振り、付いた血を払う。
マールディアの顔を繰り返し、繰り返し思い描く。
今は亡き恋人の顔を、再び見るために。
しかしその顔が、何度思い返しても泣き顔しか脳裏に映らなかった。
出来るのだろうか。
例えルッカやロボを殺してでも、英雄どころか殺人鬼になってでも、マールを蘇らせ、思い描いていた未来を築けるのだろうか。
脳裏に浮かんだ恋人の表情と同調したのか、その頬に最後の一滴の雫が伝った。
「行くか……。」
そのままリーバルが向かった方とは別の方角へ歩き出す。
目指す先はイシの村。
恐らく人がいるであろう場所へ向けて歩き出す。
この殺し合いを止めることと、マールを取り戻すことは相反する。
だが、あらゆる人にとっての英雄であることよりも、マールにとっての英雄でありたいと気づいてしまった。
それが最後の役割だとしても、彼女が本当に望んでいないことだとしても、自分が本当にしたいことをするためにその足を動かす。
【B-3/平原/一日目 昼】
【リーバル@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、様々な感情
[装備]:アイアンボウガン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、召喚マテリア・イフリート@FINAL FANTASY Ⅶ、木の矢×2、炎の矢×7@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[思考・状況]
基本行動方針:ここではないどこかへ
※リンクが神獣ヴァ・メドーに挑む前の参戦です。
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。
※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。
※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。
最終更新:2024年10月09日 10:56